ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子と夏の到来

「……いよいよ、かあ」

 

 会場へ向かうバスに揺られながら、俺はぼんやりと呟いた。

 あの一件以来、傍にいる頻度の上がった後輩が微笑み、それから困ったように眉を寄せる。

 

「大会が終わったら、先輩達は引退なんですよね」

「しばらくはお邪魔しに行くけどね。私達の先輩達もそうだったし」

 

 月日は流れ、三年目の夏が近づいている。

 今、向かっているのは練習試合の会場となる相手校だが――その目的は、地区予選に向けてチームの仕上がり具合を確認することだ。

 夏はもう始まっている。そう言っても過言ではない。

 

「翔子。昨夜はちゃんと寝られた?」

「ぐっすり。新しく仕入れたハーブティーのお陰かも」

「何よそれ。どこのメーカー?」

 

 葵の問いに答えていると、それまでメモに目を落としていた祥が顔を上げる。

 

「祥。作戦はいいの?」

「こんなの、ただの復習に決まってるでしょ。見直してるのはお守り代わり。……だから、私が落ち着くために教えなさい」

 

 って言っても、超有名な国内メーカーである。

 名前を答えれば「なんだ」と落胆される。

 

「日本で一番親しまれてるメーカーの定番が悪いわけないと思わない?」

「ハンバーガーとコーラが世界一の食事になりそうな理論ね」

「ハンバーガー、美味しいでしょ。……カロリー高いけど」

「そのカロリーと栄養が問題なのよ。わかってきたじゃない」

 

 祥と言い合いを始めると、他の部員達は「またか」という顔で苦笑し、自分達の話に戻っていく。

 でも、案外みんな耳をそばだてているようで、俺達が持論を展開してしばらく経つと部内にプチブームが起こっていたりする。

 ちなみに、周囲からの賛同は拘り派の祥よりコスパ派の俺の方に若干分がある。

 だから何だと言われると困るし、こういうのはプラシーボも馬鹿にできないので、結局好きなの使うのがいいんだと思うが。

 

「二人とも、ほどほどにしときなよぉ」

「翔子も祥も、今日バスケしに来たってわかってるのか?」

「「さつきと多恵に言われるとは思わなかった」」

「「何おう!?」」

 

 宥めてくれたさつき達につい言い返すと二人が憤り、無駄に騒がしいことになった。

 おかしい。

 まだ本番ではないとはいえ、最上級生になっての試合。

 もうちょっと感傷的な雰囲気になると思ったんだけど。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 俺達の代が主導する新入生勧誘は良くもなく悪くもなく、七人の新入生を迎える形で終わった。

 部活紹介で矢面に立ったのは男子部と女子部の部長である昴と葵……に加えて、何故か助手扱いされた俺の計三人。2on1形式でのデモンストレーションは葵も昴も割と本気出していて、長谷川家での特訓と変わらないんじゃないかと訝しんだ。

 が、本気も本気のプレーは見てる方としても面白かったらしく、なかなかに好評。

 そこそこの人数が体験入部に来てくれるという結果に繋がることとなった。

 

 体験入部に関しては葵と祥、それから俺の三人で意見交換を行った末――さつきと多恵は当然のように丸投げだった――特に奇をてらったことはしない、と決めた。

 俺達は、自分達の代で桐原女バスの負の伝統を壊すつもりでいる。

 だから、弱い部を強くしようなどという策は必要ない。単にありのままの部の姿を示そうと思った。なので、先輩方が作り上げたレクチャーのメソッドはそのまま踏襲、恒例となった体験入部最後の試合は両チームともに先輩後輩入り乱れてのミニゲームとなった。

 一年生を地区予選の戦力としては数えていない――というと残酷なようだけど。

 俺達が新入生に期待したのは、俺達の姿をしっかりと目に刻んでもらうこと。弱い部だとかそんな固定観念は最初からすっ飛ばして、バスケを楽しんでもらうことだった。

 

 そしてもちろん、後輩達の指導にかまけて鍛錬を怠ったつもりもない。

 自主トレ、葵とのマンツーマンでのトレーニング、昴も交えた三人での特訓、いつものメンツを集めての男女合同練習まで、これでもかというくらいバスケ三昧だった。

 お陰で結局、テストでは上原の牙城を崩すことができなかったが……まあ、学年上位はキープし続けられたので別にいい。

 腕は上がっているはず。

 後はもう、行けるところまで突き進む、それしか残されていなかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「じゃ、行こっか」

「うん」

「ええ」

「おうよ」

「はいな」

 

 体育館の端で五人、プラス他の部員達も含めて円陣を組む。

 

「桐原ファイトー、オー!」

 

 恥ずかしい掛け声とか言ってはいけない。

 慣れれば慣れるもので、こういうのはフレーズがどうこうではなく、みんなと一緒に同じことをするのが重要。俺としても欠かせないプロセスになっている。

 

 ……一人で最初に言う葵ほどは恥ずかしくないし。

 

 ともあれ。

 練習試合におけるスタメンは手加減も様子見もないベストメンバーとなった。

 

・ポイントガード   :鳳祥

・シューティングガード:御庄寺多恵

・スモールフォワード :荻山葵

・パワーフォワード  :柿園さつき

・センター      :鶴見翔子

 

 相手も経歴としては大差ない、バスケ弱小校。

 これといって高い選手のいない、入ってきた人材でやりくりしているタイプの学校だった。

 

「よろしくお願いします!」

 

 互いに挨拶を交わして試合開始。

 

「……え。大きい」

「ありがとうございます」

 

 対峙した相手センターに微笑み――直後のジャンプボールを難なくゲット。

 俺の現時点での身長は百六十九。できれば七十の大台を超えたかったが、男である昴とほぼ同じ高さを得られたのだから贅沢は言えない。

 少なくとも、強豪が相手でなければ十分に競り勝てる。

 

 弾いたボールは葵へ。

 直後、更に速さを増した疾風がコートを駆け抜けた。

 

「よし、まずは一本!」

 

 危なげもなくネットを揺らした葵が、絶句する相手校をよそに声を上げる。

 応援してくれている部員達からは歓声が上がり、コート内の俺達も笑みを浮かべた。

 

「なー祥。今日は思いっきりやっていいんだろ?」

「いいわよ。好きなだけ暴れなさい」

 

 悪役かよ、と言いたくなるようなさつきと祥のやり取りだが。

 歓声を上げたさつき、それから触発された多恵がにわかに勢いを増す。暴れるというより「はしゃぐ」といった趣ではあるものの、二人のそれはチームの攻撃力を引き上げる。

 

「ゾノぉ!」

「からのー……ショージ!」

 

 息のあったパスワーク。

 無軌道と形容すべき二人の動きが見事に相手チームを撹乱、なんでそこ、というようなタイミングでパスを挟み、隙が生まれれば容赦なくシュートが飛ぶ。

 得点率自体は高くないものの、見た目の派手さというか「わけのわからなさ」のお陰で注目が集まり、相手に対処を強要した。

 そして、マークを切り離せないという意識はエース・荻山葵への警戒を引き下げてくれる。

 

「しまった!?」

 

 向こうのポイントガードが気づいた時には、得点差は十点にまで広がっていた。

 

「大丈夫、まだ第一クォーターなんだから!」

 

 その判断は正しい。

 だが、俺達だってここで攻め手を止めるつもりはない。

 むしろ、ここからが本番だと思っていた。

 

「……翔子!」

 

 ボールを握ったポイントガード――祥が俺へとパスを出す。

 ここまで地味な戦いに終始していた俺は、向こうの印象から外れないであろう基本通りのドリブルで進攻した。当然、向こうのセンターが阻みに来るが。

 警戒はしているものの、意識が葵やさつき、多恵へのパスに向いている。

 

 隙だらけだ。

 俺はオーソドックスなフェイントから彼女を抜き、レイアップでゴールを奪う。

 

「嘘……!?」

 

 嘘も何も、本当の話だ。

 とはいえ、相手にしてみたら悪夢でしかないだろう。自分達と大してレベルの変わらない、弱小校だと思っていたチームが次々にエース級の選手を繰り出してくるのだから。

 向こうが慣れる前に次を出すいやらしい戦術はうちのポイントガードが考えたもの。

 気取っていて嫌味なところのある少女だが、学力とは違う頭の良さは天下一品――稀代のバスケ馬鹿こと長谷川昴の入れ知恵により進化したその才能は、バスケ歴の短さを補って余りある。

 

 俺の得点後、彼女自身がシュートで点を決めたことで、その事実は白日に晒される。

 

「どこから崩せばいいのよ……!?」

 

 どこからも崩せないに決まってるだろ。

 と、いい気になりたいくらい、上手い具合にハマっていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 第二クォーターに入ってすぐ、俺達は選手交代を連発した。

 メインメンバーを下げ、残りの五人――三年生と二年生で構成された控えの子達をコートに出す。リズムが崩れないよう一人か二人ずつ。

 かといって、交代した子達が主力の代わりかといえばそうではなく。

 

「急に、普通に……っ!?」

 

 普通、というのは腕の良し悪しの話ではなく、攻め方の話。

 一線級の実力を持つ葵、攻め手の読めないさつきと多恵、抜け目なく目を光らせる祥はそれぞれ強烈な個性を持っている。緩衝材のような役目の俺はともかく、プレイスタイルも独特で、噛み合わなければ破綻する可能性も秘めている。

 で、それを防ぐため、相手の目が慣れないうちに選手交代。

 他の子達はスタンダードなバスケットボールを学んでいるので、急激なリズムの変化に相手は戸惑う。

 

 当然、向こうも選手交代は可能なわけだが、同じ撹乱策ができるかといえば……。

 

「……勝てる?」

 

 控えに下がった俺は誰かが呟くのを聞いた。

 もちろん。だって、勝つために戦っているのだから。

 

 

 

 

 

 しかし、相手も黙ってやられてはくれない。

 第二クォーターの終盤あたりから点差が徐々に縮まり始めたのだ。最初の五人が全員下がって普通のバスケが展開され、やがて気づいたのだろう。

 普通のバスケなら普通に対処できる、と。

 混乱が収まればやることは単純。レギュラーをふんだんに用いて桐原の布陣を切り崩しに来た。第一クォーターで稼いだ分がまだまだ残っているとはいえ、このペースだと試合が終わる頃には十分逆転が可能。

 

「……頃合いかしらね」

 

 祥はこの練習試合を実験のために用いている。

 どういう作戦がどう機能するか、仲間内だけだとどうしても把握しきれないところを見定める手筈だ。その少女は第三クォーター早々に選手交代を打診。

 前クォーターとは別の順序で、最初の五人がコートへと戻っていく。

 

 向こうのチームに緊張が走る。

 

 彼女達も思い出したのだ。リズムチェンジには逆も存在するのだと。

 スタンダードなバスケに慣れた目で、果たして耐えられるか。

 

「本当は一気に交代した方が効果的なんでしょうけど」

 

 祥の呟き。

 敢えて一人、二人ずつ選手交代したのは、多くの部員に経験を積ませるため。

 バスケは一人でやるスポーツじゃない。

 スタミナの枯渇だってある以上、層の厚さ、控え選手の練度は重要になってくる。それに、今年だけじゃなくて来年も勝って欲しいから。

 

「さあ、一気に行こう!」

 

 葵の号令。

 

 ハイスピードかつテクニカルなアタックが次々とゴールを揺らす。

 姉妹のように息の合った撹乱戦術(天然)が攻めはもちろん、守りにおいても相手のペースを崩す。

 弱いところを的確に察知し、遠慮なく突いてみせる悪辣な指揮が勢いに拍車をかけて。

 押せ押せのうちは大した仕事がないものの、俺が駄目押しとばかりに財布の紐を締め――入ってくる得点だけでなく出ていく得点さえもコントロール。

 

 そして。

 我が桐原中女子バスケ部は、練習試合とはいえ、相手校に大差をつけて勝つという快挙を成し遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 試合の後、みんなは笑顔だった。

 俺達が一年生の時とは大違いだ。もちろん反省点は色々あるし、そこはちゃんと振り返るけれど、それはそれとして祝勝会を開くことになった。

 練習試合で大袈裟だが、祝勝会といってもみんなでご飯を食べるだけ。

 

 最初は一人が「美味しいお好み焼き屋さんがある」というのでそこになりかけたものの、人気店なので大人数は難しいということでファミレスへ。

 次の練習試合、および本番に向けて英気を養った。

 

「はあ、チキングリル美味しい」

「あはは。翔子最近、鶏肉多いよね」

「鶏肉は女子の味方だからね」

「ふうん。私は気にしたことないなあ。ハンバーグ美味しいし」

「ハンバーグにチーズ乗せとか反則じゃないかな……?」

「じゃあちょっと交換する? はい」

「え、直はちょっと恥ずかし……ま、いいか。あーん」

 

 葵に食べさせてもらったハンバーグは凄く美味しかった。

 まあ、牛肉もたまになら問題ないだろうし。チーズは乳製品だから身体にいいし。俺にはカロリーゼロ理論は使いこなせないのでその分、運動は必要だけど。

 女子の身体がだらしなく崩れてるのとか、たとえ自分のでもなるべく見たくない。

 

「む。……あの、翔子先輩。私の目玉焼きハンバーグもどうですか?」

「う。じゃ、じゃあもらおうかな。卵も身体にいいし」

 

 祥がサラダ食べながら「この軟弱者が」って目で見てきてたけど、目玉焼きハンバーグもやっぱり美味しかった。

 そんな風に英気を養い、俺達は次の戦いに臨む。

 

 おそらく本番は、今日ほどスムーズな戦いにはならないだろうと思いながら。

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