ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子と三年目の大会

「……話って、なに?」

 

 地区予選の二日前。

 最後の練習を終えた後、俺は祥から屋上へ連れ出された。

 

「どうしても、言っておきたいこと」

「………」

 

 祥の表情はいつになく硬かった。

 普段から澄ましているか仏頂面かではあるけど、そういうのではなく、言いにくいことを強いて言おうとしている感じだった。

 風で髪が乱れるのを気にしていないあたりからも余裕のなさが窺える。

 

 こんなタイミングで言うことだ。大事なことなのだろう。

 明後日の大会に出られないとか言われたらぶん殴ってやるけど。

 

「……六年生の時、カズ君との試合が駄目になったの、覚えてるでしょ?」

「うん」

 

 短く答える。

 祥は頷き、ほんの少しの間を置いてから言った。

 

「あの時、あんたのスニーカーを切ったのは――私」

 

 風が吹き抜け、他の音の一切が消えた。

 俺は深く深呼吸し、目を閉じて開いた。

 

「うん。それで?」

「……え?」

「そんなの、あの時から知ってるよ。前に謝ってもらったし」

 

 ぽかんと口を開けた祥を見て苦笑する。

 そんなことだろうと思わなかったわけではないが、今更そんな話をしてくるとは。

 

 状況証拠からして犯人は祥以外ありえない。

 それまで徹底して被害をコントロールしていたのに、あのタイミングでそれを破った。ならば諏訪絡みと考えるのが自然。二学期に俺がカースト上位に行った後、過剰に俺を敵視したり、逆に怯える子もいなかった。

 だから俺は、祥が犯人だとずっと思っていた。

 

 それに以前、祥は俺に「あのスニーカーと同じもの」を持ってきたことがあった。

 露骨にがっかりしてて鬱陶しかったから。

 そんな口実をつけていて、あれは自分がやったとは言わなかったけど、彼女なりの罪滅ぼしだろうとは察しがついていた。

 まあ、犯人でもない人からそんなもの貰えないって突っ返したから、祥が自分で履いてたけど。

 謝罪の意と、反省してるという気持ちは受け取っている。

 

「それに、今、友達が減る方が嫌だ」

「……あんたは」

 

 祥は俯き、唇を噛み、握った拳を震わせる。

 

「怒りなさいよ。怒ればいいでしょ、そこは」

 

 泣いているようだった。

 鼻声で、重苦しく吐きだす彼女に、俺は答える。

 

「勘違いしないで」

「……え?」

 

 俺は微笑み、それから足を踏み出した。

 呆気に取られている祥の真正面で立ち止まり、彼女の首筋に軽く触れる。

 ぴくりと身体が震えたが無視。

 

「私はもう恨んでない。でも、七夕さんの気持ちを踏みにじったのは絶対に許さない」

「っ」

「そっちの件は本人に直接許してもらって。あの件はそれで本当におしまい」

 

 長いような短いような間を置いて。

 

「……わかった」

 

 返答が俺の耳にかろうじて届いた。

 後日、祥は昴を通して七夕さんに連絡を取り、彼女に謝りに行ったらしい。はっきりとは教えてくれなかったが、七夕さんが「とってもいいお友達ね」と嬉しそうに言っていた。

 繋ぎ役になった昴は「一体何だったんだ」と首を傾げていたが、昴はそれでいいと思う。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 奇しくも、初戦の相手は去年と同じだった。

 優勝候補の一角。

 先輩達が敗れた相手であり、一筋縄でいかないのは間違いない。逆に言うと、ここで勝てれば道が一気に開けてくれる。

 負けられない一戦。

 司令塔である祥が提案した作戦は、リスクを伴う大胆なもの。

 

「行ってきなさい」

「ん、行ってくる」

「まずは任せて。できるだけ点、取ってくるから」

「ブチョー、格好いいとこ期待してるぜ!」

「つるみんも頑張るんだよぉ!」

 

 祥、さつき、多恵らの()()()()()()()()、コートに立つ俺と葵。

 さりげなく相手チームの様子を見れば、さほど訝しんでいる様子はない。……うん、やっぱり大して警戒されてない。三年を控えに置いて二年生を使っていることに「変だな」と思っている程度。

 桐原みたいな弱小校のデータを詳しく収集していないだろう、という読みと作戦は当たりだ。

 

 二度目以降の練習試合、桐原女バスはそれぞれ違う布陣で臨み、そこそこ接戦で勝利している。

 一度目の練習試合に注目していない限りは「うちの部のベストメンバーがどんな構成か」把握しきれない可能性が高い、と踏んだわけだ。

 危うい賭けだが、それによって再び、テンポ調整による混乱作戦が日の目を見る。

 

「……高い」

「そっちこそ」

 

 さすが強い学校、向こうのセンターは俺と変わらない身長だった。もしかしたら俺より若干高いかもしれない。ジャンプボールは接戦となったが、ジャンプ力の差で俺が勝利。

 ただし、狙いを定めるまではいかず、ボールは葵ではなくポイントカード役の同級生へ。

 

 頼んだ。

 そんな声にならない声が伝わったか、彼女はぐっと頷いてドリブルを開始。

 自分での進軍には拘らず、さりとてエースの葵に頼ろうとはせず、マークが激しくなる直前に余裕のある仲間へボールを送ってみせる。

 みんなも同じようにパスを回し、少しずつ着実に侵攻し、最後はパスを貰った葵がそつのないシュートで先制点。

 

 返しの攻撃は止めようと思っていたが、敵もさるもの。

 ポイントガードがボールを手にするやいなや、素早いパス回しで一気に進軍。マークを絞らせない見事なチームワークを披露して同点に追いついてくる。

 まるで、俺達のやったことを一段上の技術で繰り返されたようだった。

 

「やっぱ強いなあ」

 

 呟いた葵の表情は「やっぱり楽しい」と告げていた。

 

 ――七夕さんや葵のお母さんが応援する中。

 

 緩いパスからボールを手にした葵はさっきと一転、マークに来た相手選手を華麗なフェイントでかわし、速攻のレイアップでゴールを揺らした。

 いつもの勝ちパターン。

 とはいえ舞い上がらず、仲間に声をかけながら自軍コートへ戻っていく。相手チームはそれを見ながら、何やら小声で言葉を交わしていた。

 戦術の調整。

 チームプレイから押し込むようにして得点した彼女達は、さっきまでよりも葵に対する警戒レベルを上げてきた。他のメンバーも下手ではないが、火力の大半はエースによるものと踏んだのだろう。まったくもって正解である。

 俺やみんなも奮戦したものの、必ずしも点には結び付かず。

 警戒される中、葵が無理やりにゴールを揺らしたりするも、向こうが点を取るペースの方が早い。第一クォーターが終わった時には四点の差がついていた。

 

「お疲れ様。……やっぱり強い?」

「うん。やっててヒリヒリする感じ」

「対応が早い。当たり前のことが当たり前のように上手いって感じ」

 

 観戦していた祥は俺達の感想を聞いて「なるほどね」と頷く。

 

「じゃあきっと、こっちが交代したら向こうもしてくるでしょうね」

 

 果たして、第二クォーターはその通りになった。

 選手交代。三年生のフォワードがさつきとチェンジ。向こうはセンターを変えてきた。交代要員でも十分に対応可能と見られたか。悲しい話だが、直後にそのセンターはパスからのシュート、リングに当たって落ちたボールをリバウンドから決めてみせた。

 ここで交代。俺とガードの二年生が抜け、代わりに多恵とあの子がコートへ。

 ちょっと不安そうな顔をする後輩に笑顔で「大丈夫」と告げると、彼女はぐっと頷いてくれた。

 

 こちらの攻撃で葵が二点を獲得。

 再び点差が四点になったところで選手交代が完了する。最初に出ていたメンバーが全て外れ、控えの五人が出る形。

 向こうもスタミナ温存のためか、何人かを交代。

 

「さて。ゾノとショージがどこまでやってくれるかしら」

「似たようなカードがなければきついんじゃないかな」

 

 果たして、急激なリズム変化が成った。

 

「ほいゾノ!」

「オッケーショージ!」

 

 何の裏付けもなく勘だけでフェイントを先読みし、何の前触れもなくキラーパスを通し、ことあるごとに上がる姦しい声がチーム全体の士気を上げる。

 

「問題児二人。調子に乗らない」

「「すいません先生」」

「誰が先生よ」

 

 二人のやりすぎを諫めるのは司令塔である祥の役目。

 場を俯瞰する能力とさつき達との付き合いの長さが相手チームよりも早く深く状況を察知、無軌道すぎる動きによってできる穴を塞ぎ、逆に鋭い部分を更に強調してみせる。

 やってることは的確にパスを出し、いるべきところに移動し、かけるべき声をかけているだけなのだが――逆に言うとそれができているというのが凄い。その動きには確実に、ポイントガードとして天性の才能を持つ長谷川昴のエッセンスが含まれている。

 点が詰まる。

 二点差になり、同点。

 

 しかしそこが限界だった。

 さつき達の動きに対応しきれない残り二人が「埋めきれない穴」と見透かされた。二番手同士のセンター対決は拮抗していたが、向こうの正センターが復帰すると一気に分が悪くなる。

 特殊なムーブに目が慣れてきたのもあるだろう。

 普通に、卒なく、最も適切な対処がなされ――再び二点差に。

 

 その二点が取り戻せない。

 四点に逆戻りしなかったのはみんなの執念と言うしかない。ギリギリのところで祥のパスカットが成功し、第二クォーターが終了。

 試合時間の四分の一とはいえ、激しく動いたメンバーはみんな荒い息を吐いていた。

 

「鳳さん、どう?」

「ギリギリ。でも予定通りに」

「了解」

 

 第三クォーターは再びの選手交代。

 俺と葵を含めた四人が戻り、祥以外の四人には下がってもらう。最終クォーターに向けてスタミナを回復してもらいつつ、ここで仕上げの下準備をする。

 

「翔子!」

「……んっ」

 

 パスを受けてのスリーポイント。

 残念ながらリングに弾かれたが、相手チームが一瞬「ヤバい」という顔をしたのは確認した。見せ札一枚、この試合で決めるチャンスがあるかは状況次第だけど、警戒すべき項目を増やした。

 リバウンドは向こうのセンターが取ったが、そこに俺も追いすがる。

 

 邪魔、という目にどうも、と目で微笑む。

 

 気迫は柳のように受け流す。

 足はしっかりと根を張り、それでいてすぐに動ける柔軟性は忘れず。相手のフェイントを見誤らないよう、意識を静かに集中。

 全体を見るのは苦手だが、狭い範囲の観察眼ならそこそこあるつもりだ。

 俺は身長があるものの、体格的にはそう恵まれている方ではない。細身故のパワー不足は応用力で補ってやる。昴いわくヨーロピアンスタイルのセンター、だったか。

 別にそっちに拘る気もないけれど。

 

「っ!」

「……ん」

 

 痺れを切らせた相手が強引に抜きに来た。

 無理に追わず抜かせてやる。俺の陰から葵が迫っていたからだ。虚をついてボールをスティールした彼女はそのままシュート、同点に追いつく。

 二人で視線を交わし、ぱん、と手のひらを打ち合わせた。

 

「くっ!」

 

 僅かな焦りが生まれる。

 短期的にはいい影響が出たのか、相手チームはそこから連続で攻撃を成功。一時的にまた点差が縮まるも、再びの葵の攻撃で失策をやらかした。

 俺はスリーポイント以外大したことないと思ったのか、センターで守りにかかったのだ。

 

 ――でも、葵にはあれがある。

 

 ふ、と口元を歪め、葵が跳んだ。

 背の高い相手と対峙した際の切り札、後ろ跳びのジャンプシュートが、見た目以上の威力を伴ってゴールに吸い込まれた。

 

「嘘でしょ」

 

 残念ながら嘘ではない。

 ついでに言うと葵以外の火力だって馬鹿にはできない。相手のフォワードのシュートをブロックした俺は仲間とパスを回しながら進撃、ゴール前でボールを受け取る。

 立ち塞がるのは相手センター。

 センターにはセンターを、は正しいけど、何も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ちょ、本家よりやばいんじゃ」

「それはないです」

 

 背丈とジャンプ力でそう見えてるだけで、キレは本家の方がずっと上だ。

 

「でもまあ、どんどん行きますね」

 

 にっこり笑ってみせると、相手はぽかんとした表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 小技、奇策を用いて差を埋めた結果、第四クォーターへは同点のままもつれ込んだ。

 さつきと多恵がコートに戻ったのは第三クォーターが終わる直前。彼女達の真価が露わになったのは第四クォーター開始直後だった。

 

「ショージ、パス!」

「ゾノ、パス! ……と見せかけて葵ちん!」

「ありがと! ……と見せかけて翔子!」

「ん、受け取った」

 

 ちょうどいいところに居たので、一拍間を置いてからスリーポイント。

 運よく今度はゴールに吸い込まれた。外れたら相手コート内で奪い返すつもりだったけど、上手くいってくれて良かった。

 

「……マジ?」

「あれ、二人だけじゃないんだ」

 

 残念ながら、俺達は仲良し五人組なのである。

 まあ、纏めて「馬鹿共」で済まされる方が多いけど。主に諏訪から。上原のポニテ軍団呼ばわりの方がまだマシである。

 ともあれ、もう向こうに対策している時間はない。

 祥がランダムとしか思えない基準で送ったボールが、これまたランダムにしか見えないだろうパスワークの末、ちょうどいいところで誰かがシュートする。

 

 どうせまたパスだろ、とか気を抜いている相手は葵のカモでしかない。

 俺がスリーポイントラインにいると警戒してくれるので、そのままドリブルしてジャンプシュートしてみたり。長谷川家で三人でやっていた名残からポストプレー役を葵と一時チェンジしてみたり。

 ノリにノっている時のさつきと多恵はもう誰にも止められない。

 

 相手もなりふり構わず全力で守り、攻めてきて、最後は総力戦。

 最後まで気を抜けない戦いの中――気づけば同点のまま残り十秒。

 

「翔子!」

 

 祥から回ってきたボール。

 ほんの一瞬だけ迷い、俺はすぐさまそれを構えた。

 

「させ――」

「かかった」

「え……?」

 

 性格が悪いのは重々承知だが。

 シュートに見せかけたパスは見事に通り――我らがエースにして俺の親友、俺がバスケを始めることになったきっかけの一人。

 荻山葵があらためてシュートフォームを作る。

 

 止められるわけがない。

 

 これでいい。

 最後の一瞬は、全ての始まりである彼女のためにこそあるべきだ。

 白いネットが揺れ、その直後、試合終了のブザーが鳴った。

 

 頭が真っ白のまま走り出した俺は、葵を抱きしめてから己の大胆すぎる行動に気づいたのだった。

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