ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「ね。みんなは進路、どうするの?」
葵がそう尋ねてきたのは、大会が終わってしばらくした頃のことだった。
俺達桐原中学のバスケ部は男女共に地区決勝で敗れた。
男子はやばいエースを擁する志津野中というところ、女子は去年と同じ名門校――私立硯谷女学園に。割といい勝負をすることはできたので、悔しい反面、満足もしている。
昴と葵なんか地方のスポーツ誌で特集組まれてたし。『桐原中の織姫と彦星』とか。冷静に考えると遠距離恋愛を連想してアレな感じなので、マイナー雑誌なのは幸いだったかもしれない。
男女揃って公式戦無敗脱出、しかも決勝進出ということで学校側からは褒められた。
大会前後は『祝!』と書かれた垂れ幕まで用意されてちょっと恥ずかしかったくらいだ。
そんなわけで大会が終わり、まだ部活には顔を出しているものの、俺達も本格的に進路を考えなくてはならない。願書提出は先だが、志望校によって勉強の仕方も変わるわけだし。
「……そうだなあ」
ちょくちょく来ているうちに慣れ親しんだ、複合アミューズメント施設『オールグリーン』のフードコートで、だらだらとポテトなどをつまみながら。
俺は前に調べた、この地域の高校データを思い返してみる。
前世のデータがたまにザッピングするのと、女子高が範囲に入るせいでちょっと混乱したのはいい思い出。
うちはそれなりに収入があるため「私立でもいい」と言われてはいるものの、基本的に公立の方向で考えている。
主なチェック項目は学力のレベルとバスケ部の活発さ、通学距離。一応つけ加えるなら制服が可愛いかどうか、といったところか。
その上で総合的に判断するなら、
「俺は七芝だな」
俺の結論をぐったり顔の上原が先取りした。
俺達と張り合ってバテバテの状態だったが、なんとか喋れるようになったらしい。
「っ」
すると、その声に昴が反応する。
聞きたくなかった名前だから、というわけではない。前に七夕さんから聞いたことのだが、七芝高校は長谷川家に縁のあるところなのだ。
曰く、昴のお父さんが通っていた学校で、その伝説が今も残っているとか。
子供としては少々複雑だろう。ついでに言うと七芝、昴の学力だとちょっと、いやかなり厳しい程度には進学校だし。
「で、考えてた鶴見はどうよ?」
「私も七芝かなって思ってるけど、上原の後だと言いにくい」
「辛辣! っていうか言ってるし!」
悲鳴を上げる上原はなんだか嬉しそうだったので放置。
さつき達はどうなんだろうと尋ねると、あんまり遠くなくて無理なく入れて制服が可愛い学校との回答。
「それだと東高とか?」
「へー、あそこ確かに制服可愛いよな。じゃあそこにするかー」
「弊社も弊社も」
それでいいのか二人とも。いや、ネタで言ってるだけかもしれないけど。
でも、制服の可愛さなら七芝も負けてないと思う。胸元に大きなリボンのついたブレザータイプで、胸が小さいと余計平坦に見えてしまいそうなのが難点だけど。
幸い、俺も貧乳と呼ばれない程度には成長している。
「……マジか。一成に翔子もか」
「……うわ。悩む」
俺達の回答を聞いて難しい顔をする葵と昴。
何かあったのかと思えば、実は幾つかの高校から非公式の勧誘が来ているのだと教えてくれる。当然、今の段階では確定ではないしオフレコだが。
その中には七芝高校も含まれている。
「それって優遇措置があるってこと?」
「ん……一応、スポーツ特待を検討してるって話」
「え、何それすごい」
学力での特待ならまだしも、スポーツの特待なんてそうそう取れるものじゃない。
入試が免除、もしくは優遇されるなら昴でも入りやすくなるし。高校でもバスケを続けるなら願ってもない話だ。
「おめでとう二人とも。……ちょっと気が早いかもしれないけど」
「あ、あはは。ありがと」
けれど、葵達の顔は微妙に優れなかった。
何か悩んでいるのかもしれない。それも現段階では言えないか、相談して解決する問題じゃなさそうだ。
「……私は、できれば二人と同じところがいいけど」
「無茶言うのは止めときなさい。進路なんて、自分のために選ぶべきでしょ」
さらりと言ったのはロングヘアーの美少女。
祥の方を振り返り、俺は尋ねた。
「祥は、どこに?」
「硯谷を受けるつもり」
「……っ」
決勝で俺達に勝った学校。
硯谷女学園はスポーツ特化の私立だ。全寮制で、校舎を山の中に備えており、余計なものに邪魔されることなくスポーツに打ち込むことができる。
本気で取り組みたい者にとってはこれ以上ないと言っていい環境。
強いのも頷ける、というとアレだけど。
「どうして?」
「別に。私だって、なんとなくでバスケしてたわけじゃないってだけ。……後は、癪だったから」
「………」
いつの間にか、祥にとってもバスケは大切なものになっていたらしい。
癪と言ったのは未だ俺に勝てていないことか。司令塔であるポイントガードが1on1に拘る必要はないけれど、俺に勝つことが彼女の原点でもある。
後は、もしかしたら去年の夏にあった出来事。
『……ね、二人とも。良かったら再来年、硯谷に来ない?』
去年の硯谷で四番を務めていた人に偶然出会い、誘われたことがあった。
その場には祥もいた。なのに誘われたのは俺と葵の二人だった。昴もいたが、硯谷は女子校なので彼が含まれないのは当然のこと。
容姿から「根っからの体育会系じゃない」と判断されただけかもしれない。
ユニフォーム姿との印象が違うのでわからなかっただけかもしれない。それでも、祥は悔しかったに違いない。俺と葵だって、友達を軽く見られたようで悔しかった。
「連絡先、変わる時は必ず教えて」
「わかってるわよ。あんた、ほっとくとストレッチも洗顔も栄養管理もサボりそうだし」
「失礼な。私だって自分なりに頑張る」
俺達がしょうもないことを言っている間に、残る一人、諏訪もまた志望校の表明を済ませていた。
「長谷川。俺は伊戸田に行こうと思ってる」
「っ」
それは、昴達の優勝を阻んだ「ある男」が進学するであろう高校の名前だった。
☆ ☆ ☆
その後、昴と諏訪は二人だけで話す機会を設けたらしい。
彼らがどんな話をしたのか詳しくは知らない。ただ、男同士の熱いやり取りがあったらしいことは雰囲気でわかった。
多恵が得意とする腐ったフィルターをかけた上で想像するならこんな感じだろうか。
『長谷川、俺はお前とやりたい』
『っ。諏訪、それは俺だって、でもお互い、もっとやりたい奴が……っ!』
『関係ない。やりたいか、やりたくないかだ。それに、お前とだらだら友情ごっこしてても仕方ない。俺はもっと熱くなりたいんだ』
……文面だけならそっくりそのまま言っててもおかしくないな。
諏訪との話が影響したのか、それとも別の理由か。
昴は結局、進学先に七芝高校を選んだ。諏訪が進学した伊戸田商業からも推薦の話が来ていたらしいが、それを辞退して七芝のスポーツ科に特待生として進学。
筆記試験の難易度が大幅に引き下げられた結果、俺と葵が集中指導することでなんとか事なきを得た。
入ってからもスポーツ科は色々な面で優遇というか余裕を持たせてくれているようなので、気を抜かなければ大丈夫。後はバスケに集中できる良い環境だろう。
そして、葵。
彼女も進学先は七芝高校となった。そこの
――そう。彼女は特待生の話を蹴ったのだ。
この件についても詳しくは聞いていない。
葵が色々悩んでいたのは知っている。普通科受験を宣言する際も言いづらそうにしていたが、それでいて後悔はないと目が語っていたからだ。
それを踏まえればなんとなく想像はつく。
特待生で入学した場合、条件として運動部に
例えばそう、男子部のマネージャーとか。
『なんでだよ。辞めるのか、バスケ。そんな勿体ないこと――』
『それは! ……だって!』
納得しなかったのは昴だ。
彼はバスケ馬鹿だ。自分だけでなく他人がするバスケもこよなく愛している。引退後も毎日のように部活に顔を出し、頼まれても頼まれなくても後輩の指導にあたっていたあたりからもそれがわかる。
だから我慢ならなかったのだ。
荻山葵という、類稀な才能を持つ選手がバスケから離れるということが。最も良い環境でプレーしないということが才能への裏切りに思えたのだ。
そのままなら喧嘩になっていたかもしれない。
もしかするとそれで良かったのかもしれないが、俺は見えている問題を見過ごすことができなかった。
『進学のこととかも考えたらそれもありだと思う』
だから、口を挟んだ。
水をさされた二人がなんとも言えない表情で振り返ると、強いて柔らかく笑みを浮かべて。
『将来、バスケに接する方法は一つじゃないでしょ? 将来トレーナーになるとか、トレーニング機器を開発するなら、いい大学に入ることも考えておかないと』
『……なるほど、そうか。それもそうだな。すまん、葵。熱くなりすぎた』
『う、ううん。私の方こそごめん。その、ちゃんと説明できなくて』
二人の破局は回避された。
本当の理由を有耶無耶にしただけなので、いつか明かさなくてはならない時が来るかもしれないけど。その時はきっと、葵がどうすべきか判断してくれる。
彼女は俺に「ありがとう」と言ってくれた。
『翔子もごめんね。私、勝手に決めちゃって……』
『いいよ。……まあ、なに贅沢なことしてるんだこの、とは思うけど』
『う。それはその、本当にごめんなさい……』
大会が終わってからの約半年はあっという間だった。
勉強したり、バスケしたり、漫画読んだり、アニメ見たり、ゲームしたり、みんなで遊びに行ったり、なかなか会えなくなる祥からうんざりするほどお洒落談義を聞かされたり、美星姐さんから職場での愚痴や軽い相談を受けたり、七夕さんから料理を教わってみたり。
そんなことをしているうちに卒業を迎えた。
女バスの後輩達は別れを惜しみ、泣いてくれる子まで大勢いた。
先輩を教訓に「自分達は泣くまい」と思ってたけど、みんなが泣いているのを見ていると今までの思い出が甦ってきて、自然と涙が溢れた。
お互いわんわん泣くものだから何がなんだかわからなくなってしまったのもまあ、後から振り返ればいい思い出になるのではないかと思う。
『待っててくださいね!』
と、俺や葵に言ってくる子が複数いたのがちょっと気になるけど。進路のことで相談があったらいつでも呼んで欲しい、とだけ伝えておいた。
恋愛のために進学先を選ぶのはできれば避けて欲しいけど、無理強いもできない。
お互いが高校生になった時、まだどちらにも相手がいなくて、もし俺に告白してくれる子がいたのなら、その時は真剣に考えられると思う。
「それじゃあ、これで」
祥はそう言って、何でもないように去っていった。
またね、という俺達の声にはちゃんと答えてくれたし、俺からも定期的にメールするつもりなので重苦しくなる必要はないが、それにしてももう少ししんみりしてくれてもいいだろうに。
なんて、あの子もしっかり後輩達と泣いていたので、その辺りのことはわかっている。
「んじゃ翔子、ブチョー、長谷川センセーも」
「仲良くやるんだよぉ」
「……もう。さつき達はもうちょっと気分出そうよ」
まあ、わかってはいたけど。
さつきと多恵はまた、祥とは別の意味であっさりとしたものだった。
「いやいや、どうせ会うだろ。一か月もしないうちに」
「つるみん、新アニメが出揃ったらメールするからねぇ」
「あはは……」
実際、休みの日なら幾らでも会えるわけで。
友達の多い子達だからいつでもとはいかないまでも、こっちが誘わなければ向こうから電話なりメールなりが間違いなく来る。
「それだと、学校で会えなくても大して変わらないね」
「そりゃそうだ」
「友達だしねぇ」
友達、か。
こういう状況をそう呼ぶのはなんだか新鮮な気がした。男同士の場合、仲のいい相手であればあるほど、期間が開いても大丈夫という面がある。
飯でも食いに行かね? から適当に集まって「最近どうよ?」と適当に駄弁って、時間があればカラオケかゲーセンでも寄って解散なんていうのも普通だ。
だから、親しいほど会う頻度、連絡する頻度が多いというのは前世とは全然違う。
――けれど、そういうのを鬱陶しいと感じなくなっている自分がいる。
吹き抜ける風を受け、髪とスカートを自然に気にしているのに気づき、苦笑する。
「翔子、どうかした?」
「ううん、なんでもない」
葵の問いに笑顔で答え、一言付け加える。
「これからもよろしく」
一瞬の間を置いて、満面の笑みと明るい声が返ってきた。
「もちろん!」
ここでお話は一区切りとなります。ご愛読ありがとうございました。
次回からは蛇足として高校生編、原作の時間軸に突入した翔子が介入したりしなかったりする予定です。