ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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高校生with小学生
1st stage 長谷川コーチ就任(1)


【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)

【生年月日】6/1

【血液型】O

【クラス】七芝高校1年5組

【所属】七芝高校女子バスケットボール部

【学業】優

 

 

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 鶴見翔子、十五歳。

 小学六年生のふとした出会いから始まったバスケ生活もはや数年、あっという間に高校生になりました。

 

 進学先は七芝高校。

 同じ学校には昴(スポーツ科)、葵(普通科)、上原(特進)などが進んでいる。特進にするか普通科にするかは大分迷ったものの、やっぱりバスケもやりたい、ということで普通科を選んだ。

 葵と別のクラスになってしまったのは残念だったけど、休み時間などに幾らでも会えるのでよしとする。

 

 新しい制服は胸元の大きなリボンが印象的なブレザータイプ。

 指定ブラウスは袖口が波型になっている可愛いデザインで、似合うか少々心配だったものの、なんとか着こなせていると思う。

 中二の途中まで縛っていた髪は下ろしてストレートに。

 スカート丈は大人しめの高さをキープ、タイツを履いて日焼け対策。バスケ中は、母からプレゼントされた組紐で髪を纏めることにした。

 高校生なので化粧はほぼ必要ない。リップクリームや日焼け止めを使うくらいで十分。

 百七十に到達した身長もプレーヤーとしては嬉しいところ。服のサイズの問題があるので、高くなりすぎるのも困りものだけど。

 

「本当、化けたよな」

 

 上原には失礼なことを言われたが、これが努力の成果だ。

 俺がなんと言おうと「鶴見翔子」は女子である。

 ならばいっそ、俺好みの女の子を作り上げてしまおう、というのが二度目のイメチェンのコンセプトだ。ロングヘアーの清楚系。男どもの反応はどうでもいいが、女子からのアドバイスは素直に参考として取り入れながら、どうにかこうにか形になった。

 

「鶴見さんってモテないんだね、意外」

「うん。私、びっくりするくらいモテないんだよ」

 

 高校で新しく知り合った子からしみじみと言われたこともあった。

 実際、俺の男受けは微妙だ。昴なんかに「可愛いか」と尋ねれば「可愛い」と返ってくるのだが、恋愛的な意味では上原が言った通り「燃えない」らしい。

 目が慣れるまでは普通に可愛いらしく、入学して三日間くらいは男子から結構声をかけられたが、一週間も経つ頃にはぱったりと無くなった。

 

 部活は、予定通りバスケ部に入るつもりだ。

 葵と一緒に部活見学に行ったところ、七芝のバスケ部はかなり本格的だった。進学校とはいえ部活動にも力を入れており、中堅くらいの実績があるらしい。

 高校ともなるとさすがにレベルも高い。

 中三の時はいいところまで行った俺達だが、二年生や三年生の先輩は赤子の手をひねるようにあしらってくれる。まだまだ学ぶべきところがあることがわかり、また、もう一度部活ができるのだという実感に胸が高鳴った。

 

 昨日から仮入部が始まり、今日が二日目。

 出すことは決定している入部届をいつ出そうか考えながら授業をこなして――俺は、葵は、そして昴は、その時を迎えたのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「あー、勉強きついー」

「帰ろー。あ、鶴見さんは今日もバスケ部?」

「うん、またね」

 

 声をかけてくれた子に笑顔で答える。

 胸の前あたりで小さく手を振る独特の所作も、繰り返しているうちにだんだん慣れてきた。

 葵との挨拶は大きく手を挙げる感じのが多いけど、文科系や帰宅部の子はこういう可愛い仕草を自然にやってくる。

 

 ――よし、と。

 

 荷物を入れた鞄を持ち上げ、教室を出る。

 葵の教室を覗くと、彼女も支度を終えたところだった。

 

「葵、部活行こ」

「うん」

 

 頷き、葵が小走りに合流する。

 と、彼女は俺の顔を見て苦笑した。

 

「?」

「や、私より翔子の方が気合入ってるなって」

「だって、部活楽しいんだもん」

 

 自然と人の輪の中に入れる「部活」というシステムが俺の性には合っている。

 先輩達も優しいし、高校でもバスケを続けたい。

 正式入部してからの練習がどれだけきつくなるか戦々恐々としつつ。

 

「あはは、それは私も同感。中学の時も凄く楽し――」

「聞いたか、バスケ部の話」

 

 不意に、その情報は俺達の耳に入り込んできた。

 野球か何かやっていそうな男子二人が何事かを話している。バスケ部、というフレーズについ振り返ると、葵も立ち止まって彼らの方へと意識を向けた。

 男子が話しているからには、確率的には女子部ではないのだろうけど。

 

「緊急で部員全員、部室で待機だってよ」

「何かあったのか?」

「わかんね。けど、何か問題起こしたっぽい」

「―――」

 

 時が止まったような気がした。

 

 緊急招集。

 部室待機。

 問題発生。

 

 新しい生活が始まった、このタイミングで?

 ()()長谷川昴が仮入部している男子バスケ部が?

 

「葵」

「行こう、翔子」

「……ん」

 

 微笑んで頷き、揃って駆け出す。

 どこにと尋ねる必要はなかった。昴のいるスポーツ科へ。今ならまだ、部室に向かう前の少年と話すことができるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 幸い、昴は教室の前で捕まえられた。

 ()()()()は彼の元にも届いたようで、彼は困惑や不安でいっぱいの顔をしていた。

 

「とにかく行ってくる」

「う、うん」

 

 俺達は見送ることしかできなかった。

 初めて来たスポーツ科はバタバタしているように見える。男子バスケ部の噂が影響しているのだろうか。

 

「……部活、行こっか」

「………。そうね、そうしましょう」

 

 男子部で何かあったとはいえ、女子部は普通に活動するはず。

 話が終わるのを男子部の部室前で待つ――なんてことも不可能ではないものの、そうしてどうなるというものでもない。

 むしろ、きっと邪魔になるだけだ。

 

 お互い黙ったまま部活へ向かい、活動に参加。

 けれど、女子部もどこか落ち着かない様子だった。練習に身が入らないまま、昨日よりも早い時間に終了が告げられる。

 みんな気になっていたのだろう。

 もしかしたら男子部に彼氏のいる人なんかもいたかもしれない。制服に着替えている間に誰かが情報を持ってきて、聞こえるように告げる。

 

「……休部だって」

「え。……どれくらい?」

「それが、一年間」

「嘘」

 

 隣で葵が呟く。

 親友の顔は見たことがないくらい蒼白になっていた。

 

 ――詳細はこうだ。

 

 七芝高校男子バスケ部のキャプテン、水崎新の不純異性交遊が明らかになった。

 相手は()()()()()()()。しかも顧問の愛娘。かなり激しく思い合っていたらしく、両親の説得も聞かず駆け落ち寸前まで行った挙句、水崎キャプテンは自主退学。

 男子バスケ部は一年間の活動休止を言い渡された。

 

「……ロリコンとか信じられない」

「水崎君、爽やかで格好いいと思ってたのに」

 

 俺としても「マジかよ」という気分だった。

 同性愛ならまだしもロリとかアウトに決まってるだろアホか……って、そういう問題でもないんだけど、これは正直、ヤバすぎる。

 

 一年間。

 

 学校という場において、このブランクは致命的すぎる。

 三年生は最後の年を棒に振り、二年生は一つ下の指導ができないまま最上級生を迎えるしかなく、一年生はやりたかったバスケができず路頭に迷う。

 普通に考えれば大半が辞めるか、別の部に移るだろう。

 少なくとも今年の一年生は大幅に減る。残るのは「どうしてもバスケがやりたい!」という連中だけだ。

 

 そして。

 

 どうしてもバスケに拘るようなタイプにとっても、一年間の休止は痛すぎる。

 ましてやあの昴なら。

 

「あの、先輩。男子部の人達はまだ部室にいますか?」

「え? ううん、もうみんな帰っちゃってたけど……」

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

 不思議そうにしながらも答えてくれた先輩にお礼を言い、内心ため息を吐く。

 駄目か。

 できれば昴と合流して様子を見たかったけど、無理みたいだ。

 となると、俺にできるのは。

 

「葵。飲み物でも買って、どこか座ろう」

「……ん」

 

 今にも泣き出しそうな親友を少しでも落ち着かせることだろう。

 

 

 

 

 

 

 自販機でレモンティーとミルクティーを買い、屋外に設置されたベンチへ座る。

 ペットボトルを二本とも差し出すと、葵は無言のままレモンティーの方を手に取った。

 

「……私、悪いことしちゃったのかな」

 

 誰に言うでもなく葵が呟く。

 

「別の方法で昴を追いかけたい、なんて。それで特待蹴ったから」

「違うよ。葵のせいじゃない」

 

 確かに、葵にはこれ以上ないくらい辛い仕打ちだけど。

 だからって、これが天罰であるはずがない。

 

 葵はペットボトルを開けようともしないまま抱きしめる。

 

「翔子。私、どうしたらいいのかな」

「………」

 

 問われた内容に俺は一瞬、言葉を失った。

 今の状況は葵にとっても辛い。

 女バスに入って腕を磨くか、それとも昴のいる男バスにマネージャーとして入るか。二つの選択肢のうち一つが選択不可能となり、もう一方も昴を差し置いての選択となる。

 昴なら「羨ましい」と思っても、裏切りなどとは考えないだろうけど。

 

「……まずは葵が落ち着くこと、かな」

「私、が?」

 

 俺は微笑を浮かべて葵に頷く。

 

「うん。昴も落ち込んでるだろうから、葵が励ましてあげないと。それなのに、葵が落ち込んでたら始まらないでしょ?」

「でも、どうやって」

「バスケの楽しみ方は一つじゃない。でしょ?」

 

 部活に入るのも一つ。マネージャーになるのも一つ。クラブチームに入るという選択肢もあるし、草野球のような形を取ることだってできる。

 第三の選択肢を見つければいい、と、暗に告げると、葵は噛みしめるようにして頷いた。

 

「……そっか」

 

 上を見上げると、雲に覆われた空が目に入った。

 一雨来そうだ。

 早く帰った方がよさそうだけど、今の葵には時間が必要だ。ミルクティーをちびちびと口にしながらしばらく待っていると、親友がようやく顔を上げてくれる。

 

「ありがと、翔子」

「大丈夫?」

「うん」

 

 弱々しく微笑んだ彼女は「後は家で落ち込む」と言った。

 俺達はペットボトルの中身を飲み干すと、専用のダストボックスに投げた。葵のは入り、俺のは入らなかった。さすが葵、抜群のコントロールである。

 俺もジャンプしたら入れられただろうか。無理か。

 

「翔子がいてくれて良かったわ」

「葵なら一人でも立ち直ってたよ」

 

 でも、少しくらい回復を助けられていたらいいと思う。

 

 葵と一緒に電車に乗り、最寄り駅に着いて。

 互いの道の方向で別れてから立ち止まり、高校入学祝いに買ってもらった新しいやつ――スマートフォンを取り出した。

 コールするのは昴の番号、ではなく自宅の長谷川家。

 

『はいもしもし――あ、翔子ちゃん。こんにちは』

 

 電話口で穏やかな声を発したのは予想通り七夕さんだった。

 

「お忙しい時間にすみません。七夕さん、昴は帰ってきてますか?」

『うん。帰ってきてるけど……すばるくん、なんだか辛いことがあったみたいで、ご飯もいらないってお部屋に閉じこもってるの』

「……やっぱり」

『やっぱりって、翔子ちゃん、何か知ってるの?』

 

 俺は迷いつつも、七夕さんに七芝高校男バスの活動休止を伝えた。

 伝聞だということを明言した上で知っている限りの顛末を話すと、さすがの七夕さんもショックを受けたようで「そんな……」と息を漏らした。

 昴の七芝進学は七夕さん達の希望でもあったと聞いている。

 難しいかもしれないけど、あまり気に病まないで欲しいと思う。

 

 ――昴も、やっぱり落ち込んでる。

 

 最終的に発破をかけるのは葵であるべきだけど、俺も彼を放ってはおけない。

 

「七夕さん。これからお邪魔してもいいですか? ……昴をバスケに誘いたいんです」

『あ……うんっ、もちろん。お夕飯、三人分用意しておくねっ』

「あ、ご飯まではご迷惑ですし……」

 

 一応辞退してみたものの、夕食の誘いは断り切れなかった。

 今日は両親共に仕事で帰ってこられないはずだから、まあ、ラインでも流しておけば問題ないか。

 

「ボールは、昴の家にあるはずだから……」

 

 ここからだと少し歩かないといけない。

 俺は小走りに長谷川家を目指した。

 

 

 

 

 

 

 玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐに七夕さんが出迎えてくれた。

 空は少しずつ暗くなり始めている。

 

「こんばんは、翔子ちゃん。来てくれてありがとう」

「こんばんは、七夕さん。……その、昴はまだ?」

「うん。やっぱりお部屋、開けてくれないの」

 

 育ち盛りの男子が食事を抜くとかただ事ではない。

 

「上がっても、いいですか?」

「もちろんよお」

 

 俺達のやり取りは昴に聞こえているだろうか。

 俺ははやる気持ちを抑えながら靴を脱ぎ、ゆっくりと二階への階段を上がった。

 閉ざされた昴の部屋の前に立つと、軽くノックする。

 

「……ああもう、だから夕飯はいいって」

 

 感情を押し殺したような声。

 昴の悲しみ、苛立ちを強く感じながら、俺は口を開く。

 

「ね、昴。ちょっとでいいからバスケしようよ」

「……翔子?」

 

 ドアの向こうから聞こえる声に、かすかな戸惑いの色が混じった。




オリジナルキャライメージ
(女子のみ、ランダム生成ツールを使用。下段はNovelAI製)
〇鶴見祥子
【挿絵表示】

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〇鳳祥
【挿絵表示】

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