ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
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(前略)
メッシュの膝丈ソックスを装備した香椎愛莉さんは、(中略)小学生の女子としてはこの高さは稀有だろう。幼馴染である鶴見翔子でさえ、今の身長に到達するのに中学三年間を要している。
【原作一巻より ささやかな影響】
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「……でも、実際勝てるのかなあ」
昴に委ねた、美星姐さんの教え子達の行方。
関わりのないまま日々を過ごしながらも、やっぱり気にはなってしまうわけで。
コーチが始まって一週間ほど経った月曜の夜、俺はベッドの上でぼんやりとそんなことを思った。
男子と女子の戦力差は大きい。
俺は彼ら彼女らがどんな子達なのか詳しく知らないが、男子は少なくとも十人以上いる。選手交代なしのルールにするとしても、層の厚さはチームの完成度に直結する。
まして、女子は一人以外素人らしい。
つけいる隙があるとすれば真剣度の差。対男子用の作戦をあらかじめ用意し、相手が舐めてかかっているうちに点を稼げれば、あるいは。
昴ならやってくれるかもしれない。
いや、彼ならきっと突破口を見つけ出す。桐原中男子バスケ部を率いていた時も、今ある手札を最大限に活かすバスケをしていたのだ。
まあ、こうやって「自分ならどうするか」を考えてしまっているあたり、ちょっともったいなかったかな、という気持ちもあるけれど。
「……ん?」
そこへ、スマホが着信音を響かせた。
手に取ってみれば『長谷川昴』の名前。ちょうど彼のことを考えていたところで電話だった。
「もしもし、昴?」
『こんばんは、翔子。今大丈夫か?』
「こんばんは。うん、大丈夫だよ」
それで? と先を促すと、昴はおもむろに話を切り出してきた。
『なあ、背が高いのがコンプレックスな子に自信を持たせるにはどうしたらいいと思う?』
「ああ……愛莉ちゃんのことだよね? 美星姐さんにも聞かれたなあ」
『愛莉に会ったことあるのか?』
「ううん、姐さんから話だけ」
一度そこで言葉を切って、続ける。
「……私に言えるのは同じことかな。背が高いことが何かの役に立てば、変われるんじゃないかと思う」
美星姐さんにもそう答えた。
高身長がコンプレックスなバスケ女子自体が意外な存在。加えて、俺と愛莉ちゃんだと条件が色々違いすぎる。同じ年の頃はまだ大して大きくなかったし、身長がバスケに役立つことを知っていたし、男と並ぶのはむしろ望むところだった。
なので、意見の元は前世の知識。
胸の大きい女の子が出てくるエロ漫画が根拠だって言ったらドン引きだろうけど、あながち間違ってはいないはず。
『自信持って試合に出てもらうのは、試合で活躍すればいいってことか……。矛盾してるな』
「そうだね」
電話の向こうで昴が残念そうに息を吐くのがわかった。
「ごめんね、力になれなくて」
『いや。相談できる奴がいるだけ有難い。ミホ姉から「葵には言うなよ」って釘刺されたし』
「あはは。小学生の女の子にバスケ教えてる、なんて言えないよね」
そんなこと言ったら二重三重の意味でやばい。
小学生に本気で嫉妬したりはしないと思うけど、それでも葵にとって昴に近づく女は少ない方がいいだろう。
と、昴がしばらく黙って、
『……なあ、翔子は止めろって言わないのか?』
「コーチのこと?」
『ああ。……普通に考えたらおかしいだろ。部活があんな理由で休止になったのに、女子小学生のコーチなんて』
「まあ、勘違いされそうな話ではあるよね」
そんな気がなくても、そういう風に見られかねない。
そういうものだと思って見れば何でもそう見えてしまうもので、例えば、昴が教えている愛莉ちゃん達自身が「長谷川さんはいい人です」って言っても「そうやっていい人ぶって騙しているのか」となりかねない。
「でも、やましいことがないなら堂々としてればいいと思うよ」
『……いいのか?』
昴のコーチが、ではなく、俺のスタンスが「それでいいのか」という意味だろう。
「うん。だって、そもそもこの話って美星姐さんが持ってきたんでしょ? 慧心女バスの顧問からの依頼なんだから、もし何かあっても責任持つのは姐さんだよ」
上にどこまで話したかは謎だが、それでも「七芝高校男子バスケ部所属の一年生」をコーチにしたまま放置するなら、それは慧心学園運営側の判断と同義。
保護者や七芝側から抗議が入ったとして、すいませんと謝れば「問題があった」と認めることになるのだから、慧心側が昴の味方をしてくれる可能性はそれなりに高いはずだ。
「昴は毅然としてればいいよ。……もし変なことするつもりなら別だけど」
『するわけないだろ、そんなこと』
「だよね」
同い年の女子に指導する時ですらそういう雰囲気ゼロだったし。
桐原女バスの後輩達も「長谷川先輩には頼みやすい」と言っていたのを思い出してくすりと笑った。
『……ありがとな、翔子』
「私は何もしてないよ。頑張るのは昴と、バスケ部のみんなでしょ?」
『ん。そう、かもな』
なんか「そういうことにしといてやるよ」というニュアンスを感じた。
なんとなく気に入らないので言い返そうとしたら、その前に「じゃあ、また」と電話を切られてしまった。ふう、と息を吐いて腕をベッドの上へ。
本当に、昴には頑張って欲しい。
俺の心情としては、できれば慧心女バスに勝って欲しい。
男バスの言い分は割と筋が通っているし、理解してあげたい面もある。だけど、大会に出る気がないから程度が低いなんていう態度は気に食わない。
勝つことではなく楽しむことに全力なバスケがあったっていいじゃないか。
先に練習場所の使用権を得たのが女バスなのだから、強引に奪うのはお門違いだ――と、曲がりなりにも女子である俺としては思うのだ。
とはいえ、俺にできるのはちょっとした手伝いくらい。
後はだた祈るしかないのだが。
☆ ☆ ☆
昴からのオファーで出番が来たのは決戦二日前、祝日の金曜日だった。
部活の休日練習を終えた俺はバスと徒歩を使い、とある河原沿いの公園を訪れた。そこにはもう、昴の手引きを受けた待ち合わせ相手の姿があった。
可愛らしい制服に身を包んだ、背の高い女の子の姿。
まだあどけなさを残す大人しそうな顔立ちと、既に俺と大して変わらない驚くような身長の高さがアンバランスであり、魅力的にも映る。
初めて会うけど間違いない、聞いていた印象通りの子だ。
向こうにも俺の特徴は伝わっていたらしく、近くに寄る前に立ち上がって頭を下げてくれた。
「
「は、初めましてっ。その、香椎愛莉です」
初対面の年上に緊張しながらも挨拶を返してくれる彼女。
その視線が俺の頭あたり――身長に行っていることに気づき、俺は微笑んだ。
「突然、昴が無理言ってごめんね。どこか場所移そうか? お茶とケーキくらいならご馳走しちゃうけど」
「い、いえ、そんなっ! ここで大丈夫です」
愛莉ちゃんが見たのは、それまで彼女が座っていたベンチ。
俺は頷いてそれに答える。下手に店に入ると長話が前提になってしまうし、逆に緊張させてしまうかもしれない。それならと、自販機で飲み物だけ買うことにした。
遠慮しないで、と言ったところ、愛莉ちゃんのオーダーはまさかのお汁粉。値段が安いわけでもないし喉が渇きそうなのに何故、と思ったら「小豆が好きなんです」と恥ずかしそうに教えてくれた。そういえば「大きい」と「小さい」に強く反応するんだったか。
「そうなんだ。そういえば、お汁粉ってなかなか飲む機会ないよね。美味しいんだけど」
「は、はいっ。美味しいですよねっ」
ちょっと食い気味に同意された。
緊張してるけど怖がられてはいない様子。こういう時、同性は便利だ。男だったら幾ら穏やかに話しかけようと警戒からは免れない。
並んで腰を下ろし、自分用の紅茶に軽く口をつける。
美味しい。運動した後だから身体が水分を欲していたし、さっぱりしてるから飲みやすい。
さて。
愛莉ちゃんも自分の練習が終わった後。
見かけによらず小学生となれば門限も早いはずであり、あまりのんびりもしていられない。
打ち解ける間を取りたいところではあるものの、早速、昴からの依頼を果たすことにする。
「あのね、愛莉ちゃん」
「は、はいっ」
「あはは。そんなに硬くならなくて大丈夫だよ。難しい話はしないし。私もね、昴に言われて来た感じだから、何を話そうってあんまり考えてないの」
「あ……」
苦笑を浮かべて見せると、愛莉ちゃんの表情が緩む。
引っ込み思案な子らしいけど、それでも同性、かつ自分と似た属性を持つ俺にならある程度、心を許してくれるのではないか。そんな昴の予想は正しかったらしい。
愛莉ちゃんは一口飲んだお汁粉の缶を両手で包み込んだまま、おずおずと言った。
「あの、なんてお呼びしたらいいですか?」
「愛莉ちゃんが呼びやすいようにしてくれていいよ。昴には翔子って呼ばれてるし、つるみんとか呼んでくる友達もいるし」
「じゃ、じゃあ、あの、翔子さんっ」
「うん」
「翔子さんも、その、バスケ、してるんですよね?」
「やってるよ。小学六年生からだから……始めて四年になるのかな」
長いな、と、あらためて思い目を細める。
そういえば、愛莉ちゃん達とだいたい同じくらいに始めたことになるのか。そういう意味でも親近感を持ってくれるかもしれない。
「その頃から、身長、大きかったんですか?」
視線がそっと俺に向けられる。
ずっと年下の子の目線が殆ど同じというのは、やっぱりちょっと不思議な気分だ。
「ううん。えっとね、私はバスケ始めたくらいから急に伸び始めたの。だから、小学校の頃はそんなに大きくなかったかな」
「そう、なんですね」
ちょっとがっかりしたのか、愛莉ちゃんの表情が曇る。
「……背が高いの、嫌?」
「………。はい、嫌、です」
「そっか」
自分もそうだった、とは言えないけど、理解はできた。
「背が高いと大変だよね。服とか、下着とか。みんなからも見られるし」
「そ、そうなんです!」
ぱっ、と、愛莉ちゃんが目を輝かせた。
「わたし、好きで大きくなったわけじゃないのに『デカ女』とか言われて……悲しくて」
「それは酷いな。男の子はすぐそういうこと言うんだよね」
「はい。だから、男の子も怖くて……お兄ちゃんも」
お兄さんがいるのか。
あれ、そういえば、うちの学校に「香椎」姓の一年生がいたような。昴と同じスポーツ科で、バスケ部に入った結果、一瞬であぶれた男子。
背が高く、今はバレーに転向していたはず。
同じ苗字。背が高くて、バスケットボールに繋がりがある。今度、ちょっと確認してみよう。
俺はそのまましばらく、愛莉ちゃんと「高身長あるある談義」で盛り上がった。
状況こそ違えど共感できるところがあるとわかると、愛莉ちゃんはだんだん心を許してくれて、可愛らしい笑顔を見せてくれるようになった。
「翔子さんは格好いいです……。わたしも、そんな風になれたら」
「焦らなくていいと思うよ。背を低くするのは難しいと思うけど、うまい付き合い方を探すことはできると思う。身長のこと、気にせず付き合ってくれる友達もいるでしょ?」
そう言うと、愛莉ちゃんはこくん、と頷いてくれた。
大切な宝物について話すような表情で。
「はい、います。大好きな、お友達」
「それなら大丈夫。愛莉ちゃんは素敵な女性になれるよ。私が保証する」
「……えへへ」
笑顔になった彼女は物凄く可愛かった。
ついつい頭を撫でてしまい、嫌がられないかと心配したけれど、愛莉ちゃんは嬉しそうに目を細めただけだった。
せっかくなのでさらさらの髪をしばし堪能。
やっぱり子供の髪は何もしなくても良質だ。年齢と共に衰えていくものなので手入れは必要だと、あらためて認識してみたり。
「あの、翔子さんの部活はどんな感じなんですかっ?」
「うん、えっとね――」
そうして話題はバスケの話に。
「私が入った高校のバスケ部はそこそこ強いところでね。私より大きい先輩なんかもいるんだよ。
「センター……やっぱり、大きい人は」
「うん。一番背の高い子がセンターをやることが、やっぱり多いかな」
任務完了。
俺は心の中で密かに呟いた。昴からの頼みとはなんのことはない、愛莉ちゃんに会って、とある情報を伝えるというだけのこと。
いわく、センターの役割はぼかした上で、それが高身長用のポジションだと印象づけろ。
何言ってるんだこいつは、と最初は思った。
その後、意図を明かされた時は爆笑すると同時に呆れた。というのも、昴は愛莉ちゃんがバスケ初心者なのを利用し、とある仕掛けを考えたのだ。
背の高い人=センターは知っているが、センターが何をする役割か知らない子に嘘を教え、
長期的に考えればあまりいい策とは言えないけれど。
短期間で愛莉ちゃんを「使う」にはこれ以上ない作戦。それにこの方法なら、試合で活躍することで自信をつけてもらう例の考えも活かせるかもしれない。
今は錯覚かもしれない。
でも、コートの中なら高い身長が役に立つと知ってくれれば。
家に帰らなければならない時間になり、名残惜しそうにする愛莉ちゃんと連絡先を交換した俺は、色々な意味合いを籠めて「またね」と微笑んだのだった。