ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「鶴見君、揉ませてくれないか」
「……先輩」
部活終わりに真剣な顔で何を言い出すのかこの人は。
島崎先輩は今日も平常運転。上級生の皆様が「またか」と流してるのが凄い。言う人が違えば普通にセクハラである。
この人だから許される台詞。
いつもならさっさと断るところなのだけれど。
「……先輩のも揉ませてくれれば」
「む?」
ちょっと仕返ししてみたくなってそう告げる。
どうだ。
先輩が目を丸くするのを見て、してやったりと笑みが浮かぶ。
「いいだろう。ほら」
「え……?」
今度は俺が目を丸くする番だった。
長身美女が笑みを浮かべ、つん、と己の双丘を突き出してくる。
決して小さくはない、形のいい胸。
揉みたいなら自分のを揉めばいいのに、と思ってしまう程度には柔らかそうで、魅力的な膨らみがちょうどいい位置に晒された。
……揉んでいいの? 本当に?
じゃなくて。
「こんなもので良ければ存分に揉むといい」
「え、あの」
「というか、その気になったのなら早く言って欲しいな。うむ、そういうことなら静かな部屋でゆっくりと『楽しむ』方がいいだろうか」
「いや、違うんです、その」
どうしてこうなった。
しどろもどろになりつつ弁解を試みる俺だが、うまく言葉になってくれない。互いに胸を揉み合う行為、そして「その先」を想像してしまったせいだ。
顔が熱い。熱は心なしか全身に広がっているような気さえする。
もしやこの人、ガチレズなのか……?
そうじゃないかとは思ってたけど、ここまでとは。
外野から「大胆」とか「まさか鶴見さんから攻めるとは」とか聞こえてくるのが怖い。
見てないで助けて欲しいんですが「あー、今度のターゲットはあの子か」なんか今凄い言葉が聞こえたんだけど。
駄目だ。
首を振って煩悩と混乱を追い出した俺は力強く叫んだ。
「ごめんなさい、やっぱりなしにしてください!」
「残念だ」
姿勢を戻した島崎先輩はにやりと笑った。
からかわれた、あるいは軽くあしらわれたと知った俺は深い敗北感に苛まれたのだった。
☆ ☆ ☆
「ね、葵。ちょっとだけ、揉ませてくれないかな?」
「……どうしたの? 何かあった?」
葵のクラスにお邪魔して、二人での昼食中。
胸の大きさの話題からそれとなくお願いしてみると、返ってきたのは心配そうな表情だった。
「大丈夫。……そう言ってくれただけで解決した」
「……どういうこと?」
「普通はノータイムでオーケーしないよね、ってこと」
別に、揉むなら大きい方が良かったわけではない。
島崎先輩がアレすぎたせいので、ブレた常識を正したかったのだ。
ついでなので先輩のエキセントリックな言動を葵に話してみる。胸を触らせてくれとか揉ませてくれとか、今日も綺麗だね、とかそういうのだ。
葵は苦笑気味に笑顔を浮かべてくれた。
「あはは。中々個性的な先輩ね……。三年生?」
「ううん、二年生」
二年生から復帰すれば会わなくて済むかも、とか思ったに違いない。
「悪い人じゃないんだよ。バスケの話してる時は真剣だし、気が緩んでるとしっかり叱ってくれるし」
「へえ。……好きになっちゃった、とか?」
葵の笑みが意地悪な感じに変わる。
気心の知れた仲だ。からかわれてることはすぐわかった。
「うん。優しくて格好良くて――大好きな先輩だよ」
「えっ」
「手取り足取り、色んなこと教えてくれるの。耳元で囁かれたりするとドキドキしちゃうんだよ」
「嘘……」
すぐわかったので悪ノリしてみたところ、うまい具合に引っかかってくれた。
ちなみに、周りには男子もいるので小声である。
「翔子。あのね……その。もしかしてマジだったの?」
恐る恐る聞いてくる葵がなんだか可愛い。
「あはは、そんなわけないよ」
「だ、だよね」
微笑んで首を振ると、向かいに座る幼馴染はほっと息を吐いた。
「変な言い方するからびっくりするじゃない」
「ごめんごめん。……先輩としては尊敬してるし、バスケのことは教えてもらってるけど、そういうのじゃないよ」
今のところは。
と、付け加えるかどうか迷って、俺は付け加えないことを選んだ。
きっと、言っても仕方ないことだろう。
男であるという意識を消しきれないでいる俺と、女子が好きな島崎先輩。
普通に考えれば相性は申し分ないはずで、誘いを断る理由などないのではないか……なんて。
「ところで、同好会の方はどう?」
「ぼちぼちかな。やっぱ人数少ないのがネック。一成は人数合わせみたいなもんだし。……あんたももっと顔出しなさいよ」
「うん。次の活動はいつだっけ?」
「えーっと……」
余計な考えを断ち切って。
別の話題へと移りながら、俺は幼馴染の笑顔を眺めていた。
☆ ☆ ☆
『なあ翔子、ちょっちバイト頼まれてくれない?』
美星姐さんから電話が入ったのは金曜日の夜のことだった。
確か、慧心女バス組+男子小学生一名+男子高校生のコーチ(昴)という混成チームは今日から合宿だったはずだ。
昨日、愛莉ちゃんからも聞いたので間違いない。女バスには胸の大きい子がいないのでブラの枚数がわからないと相談のメールが来たのだ。二泊三日で運動付きとなると確かに悩みどころで、しばらく考えた後で「六枚あれば多分大丈夫」と返信した。
朝練、昼練と運動が複数回にわたる場合はまた悩ましいんだけど。
「バイトって、どんなことですか?」
『大したことじゃないよ。明日の夕飯、作ってくれないかと思って。……七人分』
「なるほど」
人数を聞いて理解した俺は二つ返事で了承した。
材料費込みで五千円、というバイト代が美味しかったのもあるけど、女バスのコーチを昴に押し付けてしまった負い目もある。
俺がオーケーしなかったらピザでも頼むつもりらしいので、栄養バランスを考えても手料理の方がいいだろう。
「でも、こういうのってみんなで作るものじゃ」
『にゃはは。それがさ、あいつら大失敗しやがって』
追加された男子と、女子の元気のいい子が大喧嘩したらしい。
カレー粉爆弾と小麦粉爆弾が炸裂した結果、カレーの予定が肉入り野菜炒めに変更。それはそれで美味しそうではあるけど、合宿の定番がお流れになったのは残念だろう。
にしても、喧嘩とは。
大丈夫なのか尋ねれば、姐さんからは問題ないとの返答。
ことあるごとに喧嘩している二人らしく、突発的に決定的な決裂が生まれたわけではない。むしろ気兼ねなく言い合った方が仲直りできるかも、と。
――昴と葵みたいな感じかな?
俺がいる時は不思議と喧嘩が少なかったけど、それでも言い合いになることは結構あった。
二人だけだと日常茶飯事のようで、多少手が出ても保護者勢が「いつものこと」というスタンスだったくらいである。
なお、基本的に手を出すのは葵の方だったけど、それは余談。
だとすると、二人の関係が将来恋に変わったりする可能性もなきにしもあらずかもしれない。
「そういうことなら。……あ、私、合宿所の場所がわからないんですが」
『それは迎えに行くから心配ないよん』
「ありがとうございます。じゃあ、スーパーで落ち合えれば」
『りょーかい』
それから、なんで姐さんが事の顛末に詳しいのか。
これは単純で、昴達をこっそり見守っているからだった。もちろ勤務外で残業代も出ない。そこまでするなら一緒に遊べばいいのに、教師としてそれはできないという。
これだから、この人には頭が上がらない。
適当に見えるけど、実は絶対譲れない一線をしっかりと持っている。
彼女にとって教師は「なんとなく」で選んだ仕事ではない。
誰よりも真摯に子供達と向き合おうとしている。
憧れてしまうのも仕方ないだろう。
と、いうわけで。
土曜日。
部活を終えた俺は家に戻って着替えをし、ちょっとした調理器具や調味料などを調達した後、スーパーで食材の仕入れを行った。
何を作るべきかは難問だった。
定番のカレーやシチューは騒動を蒸し返すことになりかねない。ピザやグラタン、ドリアはあったかいうちに食べるべきだけど、作るにも温め直すにも時間的な手間がかかりすぎる。
お好み焼き辺りを作る端から食べてもらうという案も、姐さん情報で土曜の昼に先取りされたことが発覚。加えて言えば、女バスメンバーに有名お好み焼き店の娘がいるらしい。ということは粉もの全般を避けた方が無難だろう。
麺類は伸びやすいから却下。
「……うん、サンドイッチにしよう」
お米はこういう時、量の調節がしづらいし。
ベーコンやレタス、卵など色んなものを少しずつ買えばバリエーション豊かになってお得感もある。後は唐揚げとコーンスープあたりでいいだろう。火が使える子が複数いるみたいだし、スープくらいなら温め直してもらうこともできるはず。
どうせならあれもこれも、と欲張ったらお金があんまり余らなかったけど、まあそれはそれ。
「結構買ったなー。サンドイッチ?」
「はい。美星姐さんの分も作りましょうか?」
「ありがと。でも、余ったらでいいよ」
駐車場で美星姐さんと合流して合宿所へ。
そこのキッチンを使わせてもらう予定で、となると必然的に女バスのみんなと対面するわけで、愛莉ちゃんとは既に会っているとはいえ若干緊張気味だったが。
「あー、そのことなんだけど、あいつら出かけてて今いないんだよね」
「あ、そうなんですね」
「夕飯まで帰らねーっぽい。っていうか、あの感じだと時間オーバーした挙句『ご飯どうしようか』ってなると思う」
「じゃあ、結構余裕かな?」
せっかくなので「小人さん作戦」を実施することに。
もし早めに帰ってきてしまっても、その時はその時。美星姐さんに頼まれてご飯を作りに来たと言えばスムーズに歓迎してもらえるはず。
と、ちょっとせこいことを考えつつ、姐さんが持っていた合鍵で侵入。
キッチンもそこそこちゃんとしていたので、問題ないことが確認できた。
「何か手伝う?」
「怖いので大丈夫です」
「へえ? 私のことわかってるじゃん、さすが翔子」
「いばらないでください……」
姐さんにはしばらく待機してもらいつつ、手早く調理。
パンの耳をひたすら切り落とすのが案外大変だった。これ捨てるのももったいないし、どうせ油使うんだから揚げてデザート代わりにしてしまおう。
耳を落とした食パンの表面にマーガリンを塗り、カリカリ気味に焼いたベーコンやスクランブルエッグ、レタスやきゅうり、チーズにシーチキンマヨ等々の具材を載せた後で四等分する。三角も捨てがたいけど、小学生が多いなら小さめで数を用意した方がいいと思った。
並行して唐揚げと揚げたパンの耳、コーンスープも完成。
テーブルにずらっと並べた後、テントを作るような感じでラップをかける。キッチンにスープがあるよ、というメッセージも忘れずに。
「これだけあれば足りますよね?」
「足りると思うけど、いまいちわかんねーから全部置いてこっか」
「食べ盛りの男子もいますしね」
今のところ、昴達が戻ってくる様子はない。
ならば小人さんはさっさと退散するとしよう。
「翔子。お礼にハンバーガー奢ってやるよ」
「いいんですか?」
「にゃはは。見てたら私もパン食べたくなった」
姐さんの車で近くのハンバーガーショップへ行き、ドライブスルーを利用。
店内で食べなかったのは昴達の監視、もとい見守りのためだ。脱衣所とかの危険スペース以外にカメラを設置し、ネット経由で見られるようにしてあるらしい。ハイテクだが、何かあった時駆け付けるには近くに居なければいけない。
バーガーやポテト、ドリンクで腹ごしらえをしているうちに昴達も帰ってきて、何者か(俺)が用意した料理を見て驚きの声を上げる。
声はやがて歓声に変わり、賑やかな夕食が始まる。
その辺りで、俺は美星姐さんのモニターを後ろから覗くのを止めた。
「もう見ねーの?」
「はい。この子達の顔を見るのは会った時にしたいですし。後は声だけで」
「そっか。それもいーかもね」
果たして、俺が会う機会がそうそうあるかはともかく。
自分の作った料理に「美味しい」と声が上がるのはたまらない。独特の喜びと興奮があって、料理人も悪くないかも、なんて思ってしまった。
先に食べ始めたので、俺達の方が食べ終えるのは早くて。
向こうが食べ終わると何か動きがあるかもしれない、ということで、俺は姐さんの車で家の近くまで送ってもらった。
「じゃ、さんきゅーね」
「はい。姐さんも、ちゃんと寝てくださいね」
なお、それから数時間後。
姐さんから「昴、夜這い、女子小学生の部屋」というメールが入ることとなり、俺は一緒に居なかったことを後悔するのだが、それはまた別のお話。
昴本人の弁明によると「とある子のパンツを偶然拾ってしまったため、こっそり返そうとした」ということで、まあその、一応、ギリギリで事件性はなかったのだけれど。
昴、それ、身内じゃなかったらアウト判定だから。
と、強く思った夜であった。