ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「なにやつだー! あのおっぱいおねーちゃんの仲間かー!?」
「おー。きれいなおねーさん。おにーちゃんのお友達?」
久井奈さんが案内してくれたのは三沢家のプライベートプールではなく、家族専用のテニスコート――にどん! と設置されたバスケットゴールの下だった。
見知った人物が一人と、これが初対面になる人物が四人。
他に三沢家のメイドさんが何人か待機しているのを除けば、それがここにいる全員だった。
俺を見てすぐさま声を上げたのは、いかにも元気そうな女の子。
さらさらしたロングの髪をツインテールに纏め、幼さの残る声と共に俺をきっと睨みつけてくる。すると彼女の目鼻立ちや肌が驚くほど綺麗なのに気づく。
直感的に、この子が三沢家の愛娘だろうと思った。
言動はやんちゃ娘のそれであるものの、容姿や仕草にそこはかとなく上品さがある。
六年生までのびのびと、やんちゃに育ってこれたこと自体が育ちのいい証かも。
次いで駆け寄ってきたのは、小学生達の中でもひときわ小さな女の子。
あどけない顔立ちと舌足らずな声。
長い髪はふわふわで、先のお嬢様とは別の意味で顔立ちが整っている。お人形さんみたい、とはこの子にこそ相応しい言葉だろう。
愛莉ちゃん達の後輩が参加している――わけではないはず。
六年生だとすると色んな意味でびっくりだけど、合宿の時の中継映像でちらっと見た覚えもある。間違いなく慧心女バスの一員だ。
「えっと……三沢真帆ちゃんと、袴田ひなたちゃんかな?」
美星姐さんと愛莉ちゃんからの情報を思い出しつつ、該当しそうな名前を口にする。
と、俺を警戒していた真帆ちゃん(推定)はぽかんと首を傾げた。
「ほえ? あたしたちの名前、なんで知ってるの?」
可愛い。
一瞬、段取りも忘れて和んだ。俺を睨んでる時も大した迫力はなかったけど、そういう素の表情になると「動」の魅力がぐっと引き立つ。
自然とこぼれた微笑みをそのまま用い、彼女達に目線を合わせながら告げる。
「初めまして、鶴見翔子です。……そこにいる長谷川昴の幼馴染、かな」
なので、先の問いかけは二人とも正解。
「真帆、そいつは敵じゃないから大丈夫だ」
ちょうどいいタイミングで昴がフォローしてくれる。
それでみんなの緊張も解れたようで、残りの二人もゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
片方は、ダイバーが使うのに似たゴーグルを付けた利発そうな女の子。
水泳用ではなくバスケ用だとすると、視力が低めなのだろうか。真帆ちゃんを「しょうがないなあ」といった風に一瞥したのも含め、役割を色で表すなら「青」という印象。
微笑と共に一礼する仕草も丁寧で、自分が同い年の頃とは大違いだと思った。
「初めまして。慧心女学園初等部六年、女子バスケットボール部の永塚紗季です。……愛莉から、何度かお話は聞いています」
「そうなんだ。それは、ちょっと恥ずかしいな」
愛莉ちゃんなら変な噂を流したりはしてないと思うけど。
「大きい……。あ、あの。湊智花です。よろしくお願いします……」
最後に、大人しそうな大和撫子といった感じの子が進み出た。
初対面の相手に緊張している姿が初々しい。髪がロングでないのが残念だけど、結構好みのタイプだ。あと三年、四年もすれば凛とした美人さんに育つだろう。
愛莉ちゃんの話だと、この子が唯一のバスケ経験者――つまり、美星姐さんから聞いた訳ありの転校生。
だとすれば、俺を見て「大きい」と言ったのはそっち方面の意味か。
「よろしくね、智花ちゃん。できたら一緒にバスケ、してみたいな」
「っ。は、はいっ。是非お願いします」
バスケの誘いにぱっと表情が輝く。
やっぱり。
昴からも、バスケ好きで「コートの中だと性格が変わる」子がいると聞いた覚えがある。この子がそうだとは信じられないけど、この反応ならそうなのだろう。
「バスケ? おねーちゃんもバスケするのっ?」
「あのねえ真帆、長谷川さんが『助っ人が来る』って言ったでしょうが」
「おー。バスケ。ひなね、ひなもバスケ、するよ?」
「あ、あのっ、鶴見……さんは、やっぱりセンター、なんですか?」
「わ」
ちょっとぼんやりしていたら四つの声が殺到してきた。
やっぱり小学生はパワフルだなあ、と妙なところで感心しつつ、一瞬聞こえてきた内容を吟味して。
うん、とりあえず智花ちゃんの質問に答えよう。
「うん。中学ではセンターやってたよ。それで助っ人に来たの」
「へー、センターってことはアイリーンと一緒か!」
と、真帆ちゃん。
アイリーン? と思ったところで昴が「あだ名だよ」と教えてくれた。なるほど。愛莉ちゃんの身長とプロポーションをハリウッド女優っぽい名前で表現しているのか。
この子、実は頭がいいのでは。
「じゃあ、真帆ちゃん。私にも何かつけてくれないかな?」
「あ」
ちょっとわくわくしながらお願いすると、真帆ちゃんの隣にいた紗季ちゃんが口を開けた。
「あの、鶴見さん。それはちょっと止め」
「おっけー! んー、どういうのがいっかなー」
「……駄目ね」
額を抑えて首を振る紗季ちゃん。
あれ、もしかして「アイリーン」が奇跡の出来だったり……?
「ちなみに他のみんなのはどんな感じなの?」
「私は単にサキって呼ばれてます。真帆とは昔からの付き合いなので」
「おー。ひなはね、ひなだよ」
「わ、私は『もっかん』です。ちょっと恥ずかしいですけど……」
捻ってるのは愛莉ちゃんだけだった!
「はは、ちなみに俺は『すばるん』だ」
「真帆ちゃん、多恵と仲良くなれそうだね」
既に俺には「つるみん」というあだ名があるので、できれば別系統を所望したいところだけど。
しばらく悩んだ真帆ちゃんはぱっと顔を輝かせると言った。
「よし! じゃあ、おねーちゃんはショコタンで!」
「待って。ワンモアプリーズ」
「ショコタンってショタコンっぽいよな」
「うるさいロリコン」
「なっ……ちょっと待て、それは言っちゃいけないだろ!」
と、挨拶程度のはずがすったもんだあって。
結局、俺のあだ名は「るーみん」に決まったことだけを伝えておこうと思う。
☆ ☆ ☆
みんなで話していると進まないので、真帆ちゃんと紗季ちゃん、ひなたちゃんには先に練習に戻ってもらった。
智花ちゃんだけ残ったのはバスケ経験者だから。
決して好みで贔屓したわけではないはずだけど、そういえば、ミウラスポーツで見かけたのも智花ちゃんだった。単に専門的なグッズを見に来ていたからか、それとも、昴のお気に入りだったりするのか。
「それでお前、なにしに来たんだ?」
「えっ……? 昴さんが呼んでくださったのでは……?」
開口一番、昴の問いかけに智花ちゃんが不思議そうな顔。
俺は苦笑して説明する。
「ううん、ごめんね。どっちかというと、私が押しかけた感じなの」
「どっかから聞きつけてな。……って、一人しかいないけど」
「あの人、ですね……」
ぎゅっと、左の手首を右手で包む智花ちゃん。
「……うん、そういうこと。でも、昴の言った通り助っ人のつもりだよ」
「ん……具体的には?」
「もちろん、センターのことはセンターに、だよ」
微笑むと、二人にはそれだけで伝わったようだった。
理解、それと同時に諦めに似た感情が昴達の顔に浮かぶ。
――愛莉ちゃんは自分の身長にコンプレックスがある。
それは周知の事実であり、仲間内では「どうにもならないもの」として扱われている。
だからこそ昴は最初のコーチ、練習場所をかけた男バスとの試合で「スモールフォワード作戦」を発動させたし、二度目のコーチ、球技大会での作戦に苦心した。
センターで成功したからコンプレックスが消えました、とはいかなかったということだ。
でも。
「背の高いセンターがいないと、葵には勝てない」
「っ」
「もし、葵を止められるとしたら愛莉ちゃんしかいない。止められなければ、試合には勝てない」
「待て、翔子。お前、智花達のバスケを知らないだろ」
息を呑んだ智花ちゃんを見て、昴が制止に入る。
私は彼に頷きつつも言葉を続けた。
「知らないよ。でも、関係ない。……例えば、智花ちゃんがいくら上手くても、一対一で葵に勝てるはずがない」
「それ、は」
「言いすぎだ。智花の気持ちも考えろ」
真摯な瞳が俺を見据える。
俺は眉を寄せてもう一度笑った。
「ごめん。でも、それは当然だよ。小学六年生と高校一年生――四年の差があるんだから。才能だけで埋められるほど、この差は小さくない」
荻山葵は凄い。
それだけは絶対に、誰が相手だろうと譲るつもりはない。
「わかってます。でも……っ!」
きっ、と、顔を上げる智花ちゃん。
昴と身長の変わらない「同性」を相手に引く気はない、といった風情。
彼女の負けん気の強さの一端を垣間見た。
「うん。もちろん、
「っ」
智花ちゃんが唇を引き結んだ。
気持ちが理屈に追いついていかない、そんな表情。
この子、意外と葵に似てるのかもしれない。
ちらりと昴を見れば、彼は何かを考えるように黙っていた。
話し合いが実用的なところに踏み込まないまま、俺達の間に沈黙が下りると。
「あの……っ。私にも、教えてくださいっ。どうしたら、いいか」
「愛莉っ!!」
久井奈さんに連れられる形で、この場にいなかった最後のメンバー――愛莉ちゃんが足を少々ふらつかせながら、それでも決意を込めた表情で、こちらに歩み寄ってきた。
☆ ☆ ☆
昴と智花ちゃんにも練習に戻ってもらった。
後は二人だけでいいと説得してなんとか納得してもらい、コートの半分――ゴールの一方を背に愛莉ちゃんと向かいあう。
そっと彼女の顔色を窺うと、もう大丈夫そうに見える。
愛莉ちゃんは一度、体調不良で屋内に戻っていたらしい。
水泳の練習に続く葵の襲来でストレスが限界突破したのだろう。お医者さんを呼んで診てもらった(!)ところ、特に風邪などの症状は見受けられなかった。
しばらく休んだら回復したのでコートに戻ってきた、ということだ。
この辺りは久井奈さんが気を利かせてくれたところも大きい。
とはいえ、あの人が子供に無理をさせるとは思えないので、愛莉ちゃんがもう大丈夫なのは間違いないはず。
「翔子さん……私」
「愛莉ちゃん。葵に、勝ちたい?」
それでも、愛莉ちゃんは声を震わせていた。
無理もない。
俺とそんなに身長が変わらないとはいえ、彼女はまだ小学生なのだ。見た目ほど心身が出来上がっているわけではない。
「勝って、昴とこれからもバスケがしたい?」
「……したいです……っ!」
だから、返ってきた答えはやっとの思いで絞り出したものだったはずだ。
心優しく仲間思いで、争いごとの嫌いな子。
真っ向から誰かと敵対するなんて怖くて仕方ないだろう。
でも、愛莉ちゃんの目は俺を見ていた。
涙で潤み、時折揺らいではいたけれど、逸らされることはなかった。
俺は頷き、プレッシャーはここまでだと微笑みかける。
「それなら、今回だけ――明日の試合だけでもいいから、センター頑張ってみよう? 葵の攻撃は愛莉ちゃんじゃないと止められない。……逆に言うと、愛莉ちゃんが葵を少しでも邪魔できれば、智花ちゃん達が凄く楽になる」
「私が、みんなを」
「そうだよ。センターはみんなを支えるポジション。大きいからじゃなくて、みんなのことが大好きな愛莉ちゃんだから、センターは愛莉ちゃんしかいないと思う」
メールで、電話で、時には顔を合わせて。
みんなのことを話してくれる時、俺は自然と胸に温かな気持ちを抱いていた。
それは愛莉ちゃんがみんなのことを愛しているからだ。
率先して前に出なくてもいい。
いつもはみんなの後ろにいてもいい。ただ、大事なところで必ずみんなのことを助けてくれる。それだって立派なセンターの資質だ。
攻撃はいったんみんなに任せよう。
今回考えるべきは最大の敵――荻山葵を一度でもいい、邪魔してみせること。
「どう、かな?」
「やります。……やらせて、ください」
良かった。
俺は内心、へたり込みたくなるのを感じながら、足を奮い立たせて微笑む。
「ありがとう。……じゃあ、練習してみよっか」
「はい。あの、私は何をすれば……?」
おずおずと尋ねてきた愛莉ちゃんに俺は答えた。
「私のシュートと同時にジャンプする練習、だよ」
「……え?」
それを聞いた彼女はぽかん、と口を開けた。
それだけ? と思うだろう。でも、それだけでいい。それだけだって、ほんの数時間しかない練習時間ではこなしきれない。
そのことは、練習を始めればすぐに伝わった。
お昼を食べ損ねた俺は久井奈さんお手製のおにぎり(涙が出そうなくらい美味しかった)を休憩中に詰め込み、少しでも愛莉ちゃんに心得を伝えた。
愛莉ちゃんも頑張ってついてきてくれ――もう終わり? と思ってしまうくらい早く日が落ちて解散になった。
あまりにも短すぎる練習で不安そうだったけれど、愛莉ちゃんは俺の「頑張って」という月並みな言葉に「はい」と頷いてくれた。
そして彼女は、彼女達は、翌日の決戦を迎えたのだった。