ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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3rd stage 長谷川コーチ、小学生に泳ぎを教える(3)

「なにやつだー! あのおっぱいおねーちゃんの仲間かー!?」

「おー。きれいなおねーさん。おにーちゃんのお友達?」

 

 久井奈さんが案内してくれたのは三沢家のプライベートプールではなく、家族専用のテニスコート――にどん! と設置されたバスケットゴールの下だった。

 見知った人物が一人と、これが初対面になる人物が四人。

 他に三沢家のメイドさんが何人か待機しているのを除けば、それがここにいる全員だった。

 

 俺を見てすぐさま声を上げたのは、いかにも元気そうな女の子。

 さらさらしたロングの髪をツインテールに纏め、幼さの残る声と共に俺をきっと睨みつけてくる。すると彼女の目鼻立ちや肌が驚くほど綺麗なのに気づく。

 直感的に、この子が三沢家の愛娘だろうと思った。

 言動はやんちゃ娘のそれであるものの、容姿や仕草にそこはかとなく上品さがある。

 六年生までのびのびと、やんちゃに育ってこれたこと自体が育ちのいい証かも。

 

 次いで駆け寄ってきたのは、小学生達の中でもひときわ小さな女の子。

 あどけない顔立ちと舌足らずな声。

 長い髪はふわふわで、先のお嬢様とは別の意味で顔立ちが整っている。お人形さんみたい、とはこの子にこそ相応しい言葉だろう。

 愛莉ちゃん達の後輩が参加している――わけではないはず。

 六年生だとすると色んな意味でびっくりだけど、合宿の時の中継映像でちらっと見た覚えもある。間違いなく慧心女バスの一員だ。

 

「えっと……三沢真帆ちゃんと、袴田ひなたちゃんかな?」

 

 美星姐さんと愛莉ちゃんからの情報を思い出しつつ、該当しそうな名前を口にする。

 と、俺を警戒していた真帆ちゃん(推定)はぽかんと首を傾げた。

 

「ほえ? あたしたちの名前、なんで知ってるの?」

 

 可愛い。

 一瞬、段取りも忘れて和んだ。俺を睨んでる時も大した迫力はなかったけど、そういう素の表情になると「動」の魅力がぐっと引き立つ。

 自然とこぼれた微笑みをそのまま用い、彼女達に目線を合わせながら告げる。

 

「初めまして、鶴見翔子です。……そこにいる長谷川昴の幼馴染、かな」

 

 なので、先の問いかけは二人とも正解。

 

「真帆、そいつは敵じゃないから大丈夫だ」

 

 ちょうどいいタイミングで昴がフォローしてくれる。

 それでみんなの緊張も解れたようで、残りの二人もゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 

 片方は、ダイバーが使うのに似たゴーグルを付けた利発そうな女の子。

 水泳用ではなくバスケ用だとすると、視力が低めなのだろうか。真帆ちゃんを「しょうがないなあ」といった風に一瞥したのも含め、役割を色で表すなら「青」という印象。

 微笑と共に一礼する仕草も丁寧で、自分が同い年の頃とは大違いだと思った。

 

「初めまして。慧心女学園初等部六年、女子バスケットボール部の永塚紗季です。……愛莉から、何度かお話は聞いています」

「そうなんだ。それは、ちょっと恥ずかしいな」

 

 愛莉ちゃんなら変な噂を流したりはしてないと思うけど。

 

「大きい……。あ、あの。湊智花です。よろしくお願いします……」

 

 最後に、大人しそうな大和撫子といった感じの子が進み出た。

 初対面の相手に緊張している姿が初々しい。髪がロングでないのが残念だけど、結構好みのタイプだ。あと三年、四年もすれば凛とした美人さんに育つだろう。

 愛莉ちゃんの話だと、この子が唯一のバスケ経験者――つまり、美星姐さんから聞いた訳ありの転校生。

 だとすれば、俺を見て「大きい」と言ったのはそっち方面の意味か。

 

「よろしくね、智花ちゃん。できたら一緒にバスケ、してみたいな」

「っ。は、はいっ。是非お願いします」

 

 バスケの誘いにぱっと表情が輝く。

 やっぱり。

 昴からも、バスケ好きで「コートの中だと性格が変わる」子がいると聞いた覚えがある。この子がそうだとは信じられないけど、この反応ならそうなのだろう。

 

「バスケ? おねーちゃんもバスケするのっ?」

「あのねえ真帆、長谷川さんが『助っ人が来る』って言ったでしょうが」

「おー。バスケ。ひなね、ひなもバスケ、するよ?」

「あ、あのっ、鶴見……さんは、やっぱりセンター、なんですか?」

「わ」

 

 ちょっとぼんやりしていたら四つの声が殺到してきた。

 やっぱり小学生はパワフルだなあ、と妙なところで感心しつつ、一瞬聞こえてきた内容を吟味して。

 

 うん、とりあえず智花ちゃんの質問に答えよう。

 

「うん。中学ではセンターやってたよ。それで助っ人に来たの」

「へー、センターってことはアイリーンと一緒か!」

 

 と、真帆ちゃん。

 アイリーン? と思ったところで昴が「あだ名だよ」と教えてくれた。なるほど。愛莉ちゃんの身長とプロポーションをハリウッド女優っぽい名前で表現しているのか。

 この子、実は頭がいいのでは。

 

「じゃあ、真帆ちゃん。私にも何かつけてくれないかな?」

「あ」

 

 ちょっとわくわくしながらお願いすると、真帆ちゃんの隣にいた紗季ちゃんが口を開けた。

 

「あの、鶴見さん。それはちょっと止め」

「おっけー! んー、どういうのがいっかなー」

「……駄目ね」

 

 額を抑えて首を振る紗季ちゃん。

 あれ、もしかして「アイリーン」が奇跡の出来だったり……?

 

「ちなみに他のみんなのはどんな感じなの?」

「私は単にサキって呼ばれてます。真帆とは昔からの付き合いなので」

「おー。ひなはね、ひなだよ」

「わ、私は『もっかん』です。ちょっと恥ずかしいですけど……」

 

 捻ってるのは愛莉ちゃんだけだった!

 

「はは、ちなみに俺は『すばるん』だ」

「真帆ちゃん、多恵と仲良くなれそうだね」

 

 既に俺には「つるみん」というあだ名があるので、できれば別系統を所望したいところだけど。

 しばらく悩んだ真帆ちゃんはぱっと顔を輝かせると言った。

 

「よし! じゃあ、おねーちゃんはショコタンで!」

「待って。ワンモアプリーズ」

「ショコタンってショタコンっぽいよな」

「うるさいロリコン」

「なっ……ちょっと待て、それは言っちゃいけないだろ!」

 

 と、挨拶程度のはずがすったもんだあって。

 結局、俺のあだ名は「るーみん」に決まったことだけを伝えておこうと思う。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 みんなで話していると進まないので、真帆ちゃんと紗季ちゃん、ひなたちゃんには先に練習に戻ってもらった。

 

 智花ちゃんだけ残ったのはバスケ経験者だから。

 決して好みで贔屓したわけではないはずだけど、そういえば、ミウラスポーツで見かけたのも智花ちゃんだった。単に専門的なグッズを見に来ていたからか、それとも、昴のお気に入りだったりするのか。

 

「それでお前、なにしに来たんだ?」

「えっ……? 昴さんが呼んでくださったのでは……?」

 

 開口一番、昴の問いかけに智花ちゃんが不思議そうな顔。

 俺は苦笑して説明する。

 

「ううん、ごめんね。どっちかというと、私が押しかけた感じなの」

「どっかから聞きつけてな。……って、一人しかいないけど」

「あの人、ですね……」

 

 ぎゅっと、左の手首を右手で包む智花ちゃん。

 

「……うん、そういうこと。でも、昴の言った通り助っ人のつもりだよ」

「ん……具体的には?」

「もちろん、センターのことはセンターに、だよ」

 

 微笑むと、二人にはそれだけで伝わったようだった。

 理解、それと同時に諦めに似た感情が昴達の顔に浮かぶ。

 

 ――愛莉ちゃんは自分の身長にコンプレックスがある。

 

 それは周知の事実であり、仲間内では「どうにもならないもの」として扱われている。

 だからこそ昴は最初のコーチ、練習場所をかけた男バスとの試合で「スモールフォワード作戦」を発動させたし、二度目のコーチ、球技大会での作戦に苦心した。

 センターで成功したからコンプレックスが消えました、とはいかなかったということだ。

 

 でも。

 

「背の高いセンターがいないと、葵には勝てない」

「っ」

「もし、葵を止められるとしたら愛莉ちゃんしかいない。止められなければ、試合には勝てない」

「待て、翔子。お前、智花達のバスケを知らないだろ」

 

 息を呑んだ智花ちゃんを見て、昴が制止に入る。

 私は彼に頷きつつも言葉を続けた。

 

「知らないよ。でも、関係ない。……例えば、智花ちゃんがいくら上手くても、一対一で葵に勝てるはずがない」

「それ、は」

「言いすぎだ。智花の気持ちも考えろ」

 

 真摯な瞳が俺を見据える。

 俺は眉を寄せてもう一度笑った。

 

「ごめん。でも、それは当然だよ。小学六年生と高校一年生――四年の差があるんだから。才能だけで埋められるほど、この差は小さくない」

 

 荻山葵は凄い。

 それだけは絶対に、誰が相手だろうと譲るつもりはない。

 

「わかってます。でも……っ!」

 

 きっ、と、顔を上げる智花ちゃん。

 昴と身長の変わらない「同性」を相手に引く気はない、といった風情。

 彼女の負けん気の強さの一端を垣間見た。

 

「うん。もちろん、()()()()()()()()()()()()。だからこそ、五人全員が協力しないと――勝てない」

「っ」

 

 智花ちゃんが唇を引き結んだ。

 気持ちが理屈に追いついていかない、そんな表情。

 この子、意外と葵に似てるのかもしれない。

 

 ちらりと昴を見れば、彼は何かを考えるように黙っていた。

 

 話し合いが実用的なところに踏み込まないまま、俺達の間に沈黙が下りると。

 

「あの……っ。私にも、教えてくださいっ。どうしたら、いいか」

「愛莉っ!!」

 

 久井奈さんに連れられる形で、この場にいなかった最後のメンバー――愛莉ちゃんが足を少々ふらつかせながら、それでも決意を込めた表情で、こちらに歩み寄ってきた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 昴と智花ちゃんにも練習に戻ってもらった。

 後は二人だけでいいと説得してなんとか納得してもらい、コートの半分――ゴールの一方を背に愛莉ちゃんと向かいあう。

 そっと彼女の顔色を窺うと、もう大丈夫そうに見える。

 

 愛莉ちゃんは一度、体調不良で屋内に戻っていたらしい。

 水泳の練習に続く葵の襲来でストレスが限界突破したのだろう。お医者さんを呼んで診てもらった(!)ところ、特に風邪などの症状は見受けられなかった。

 しばらく休んだら回復したのでコートに戻ってきた、ということだ。

 この辺りは久井奈さんが気を利かせてくれたところも大きい。

 

 とはいえ、あの人が子供に無理をさせるとは思えないので、愛莉ちゃんがもう大丈夫なのは間違いないはず。

 

「翔子さん……私」

「愛莉ちゃん。葵に、勝ちたい?」

 

 それでも、愛莉ちゃんは声を震わせていた。

 無理もない。

 俺とそんなに身長が変わらないとはいえ、彼女はまだ小学生なのだ。見た目ほど心身が出来上がっているわけではない。

 

「勝って、昴とこれからもバスケがしたい?」

「……したいです……っ!」

 

 だから、返ってきた答えはやっとの思いで絞り出したものだったはずだ。

 心優しく仲間思いで、争いごとの嫌いな子。

 真っ向から誰かと敵対するなんて怖くて仕方ないだろう。

 

 でも、愛莉ちゃんの目は俺を見ていた。

 

 涙で潤み、時折揺らいではいたけれど、逸らされることはなかった。

 俺は頷き、プレッシャーはここまでだと微笑みかける。

 

「それなら、今回だけ――明日の試合だけでもいいから、センター頑張ってみよう? 葵の攻撃は愛莉ちゃんじゃないと止められない。……逆に言うと、愛莉ちゃんが葵を少しでも邪魔できれば、智花ちゃん達が凄く楽になる」

「私が、みんなを」

「そうだよ。センターはみんなを支えるポジション。大きいからじゃなくて、みんなのことが大好きな愛莉ちゃんだから、センターは愛莉ちゃんしかいないと思う」

 

 メールで、電話で、時には顔を合わせて。

 みんなのことを話してくれる時、俺は自然と胸に温かな気持ちを抱いていた。

 それは愛莉ちゃんがみんなのことを愛しているからだ。

 

 率先して前に出なくてもいい。

 いつもはみんなの後ろにいてもいい。ただ、大事なところで必ずみんなのことを助けてくれる。それだって立派なセンターの資質だ。

 攻撃はいったんみんなに任せよう。

 今回考えるべきは最大の敵――荻山葵を一度でもいい、邪魔してみせること。

 

「どう、かな?」

「やります。……やらせて、ください」

 

 良かった。

 俺は内心、へたり込みたくなるのを感じながら、足を奮い立たせて微笑む。

 

「ありがとう。……じゃあ、練習してみよっか」

「はい。あの、私は何をすれば……?」

 

 おずおずと尋ねてきた愛莉ちゃんに俺は答えた。

 

「私のシュートと同時にジャンプする練習、だよ」

「……え?」

 

 それを聞いた彼女はぽかん、と口を開けた。

 それだけ? と思うだろう。でも、それだけでいい。それだけだって、ほんの数時間しかない練習時間ではこなしきれない。

 そのことは、練習を始めればすぐに伝わった。

 

 お昼を食べ損ねた俺は久井奈さんお手製のおにぎり(涙が出そうなくらい美味しかった)を休憩中に詰め込み、少しでも愛莉ちゃんに心得を伝えた。

 愛莉ちゃんも頑張ってついてきてくれ――もう終わり? と思ってしまうくらい早く日が落ちて解散になった。

 

 あまりにも短すぎる練習で不安そうだったけれど、愛莉ちゃんは俺の「頑張って」という月並みな言葉に「はい」と頷いてくれた。

 そして彼女は、彼女達は、翌日の決戦を迎えたのだった。

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