ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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4th stage 翔子、小学生と合宿に行く(1)

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【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)

【家庭環境】

 母は女流棋士、父はホビー雑誌の編集者

【夏休みの目標】

 得意技に更なる磨きをかける

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「試合、させてあげられないかな」

 

 葵から切り出されたのは、彼女と愛莉ちゃん達との試合が終わって数日後のことだった。

 試合。

 バスケを──いや、あらゆるスポーツをやるにあたって、やはり一番気合いが入るシーンだろう。目に見える形で成果が現れるし、仲間との団結も深まる。

 何より、勝った快感と負けた悔しさは格別だ。

 

「そうだね。でも……」

 

 現状、愛莉ちゃん達は大会に出られない。

 ミニバスの大会は十人入れ替えで行われる。だから、部員が足りないあの子達にはそもそも資格がない。

 葵もそれに頷いて。

 

「うん。だからね、練習試合」

「なるほど。でも、ツテがあるかな……」

 

 慧心女バスは真帆ちゃんが発足させた新しい部活。顧問の美星姐さんも含めてコネクションは皆無。

 男バス経由という手はあるけど、顧問と犬猿の仲らしいので無理。

 いや、学校側から協力するよう指示させれば……? 駄目か、実績も何もない部費食い虫のためにそこまでする理由がない。

 と。

 

「あれ、知らない? ショージの親戚に硯谷の教師がいるらしいんだけど」

「……初耳」

「……何で翔子が知らないのよ」

「いつも馬鹿な話しかしてないせい、かな」

 

 多恵と話すときは殆どが趣味の話。

 そういうことが話題に出るのは、何かの拍子に話の流れが向いた時だけだ。

 

「でも、そういうことなら話が早いね」

「ん。一回、昴にも話を通してみる。多分、二つ返事でオッケーだろうけど」

「だろうね」

 

 案の定、昴からはオーケーが出たようで。

 数日後、葵は多恵から「作戦成功だよぉ」とのメールを俺に見せてくれた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……どうしようかなあ」

 

 というわけで組まれた、硯谷初等部との練習試合。

 どうやら向こうから快諾され――練習試合というか交流のための親善試合、それも三泊四日での合同練習込みとなったらしい。

 これには試合好きの真帆ちゃんをはじめ、女バス全員が飛び跳ねんばかりの喜びようだったとか。

 やりとりを続けている愛莉ちゃんからは直接喜びの声も聞いた。

 

 日程は夏休みに入ってすぐの土曜日から。

 美星姐さんがマイクロバスを借り、それで一緒に向かう手筈となっている。

 

 で、そんな中、俺に生じた悩みというのが。

 

「行きたい」

 

 練習試合、もとい合宿には葵も参加を表明している。

 となると慧心女バスと昴だけのイベントではなくなるわけで、俺も一応顔見知りだし、行ってもいいのではないだろうか。

 別に葵や愛莉ちゃん達と寝泊まりしていかがわしいことを――などという思ってはいないが。

 合宿、みんなで一緒にあれこれするイベントって正直大好きなのだ。

 

 幸い部活の合宿とは被っていない。

 家族と遊びに行ったり帰省するメンバーもいるため、夏休み中は普段より練習を休みやすい。むしろ全部出たら「暇なの?」と揶揄されかねないくらいだ。

 

 愛莉ちゃんからも「一緒に行きませんかっ?」と誘われた。

 二つ返事でオーケーしてしまいたいくらいだったのだけれど。

 

「……昴に聞いてみようかな」

 

 しばらく悩んだ末、俺は昴の番号をコール。

 

『もしもし?』

「あ、昴? 時間大丈夫? ……ちょっと、相談があるんだけど」

 

 電話に出た幼馴染におずおずと、合宿に行ってもいいか尋ねた。

 結果は、拍子抜けするほどあっさりと。

 

『そんなことか。……もちろん大歓迎だ。愛莉達も喜ぶだろ』

「……いいの?」

『悪いわけあるか。翔子がいてくれると俺も助かる』

「……そっか」

 

 えへへ、と、安堵の吐息と共に声がこぼれた。

 続けて言われたのが「ポイントガード以外の視点からアドバイスが欲しい」だったあたりが本当に昴らしいけど、だからこそ本気でオーケーしてくれたのがわかる。

 

「うん。じゃあ、私もお邪魔するね」

『お邪魔なもんか。……夏早々、楽しくなりそうだな』

 

 聞きようによっては甘い言葉と共に通話が切れる。

 俺の口元は隠しようもなく笑みを浮かべていた。

 

 の、だけれど。

 

 

 

 

 

 テストが終わってしばらく経ったある日、ちょっとした懸念が発生した。

 

「そっか、じゃあ最近は肌荒れ気味なんだ」

『まあね。最低限のケアはしてるけど、疲れて寝ちゃう時もあるし』

「さすが、硯谷の練習はきつそうだなあ。……それなら今は私の方がお洒落してるかも?」

『馬鹿言いなさい。あんたとは年季が違う』

 

 別の学校に進学した親友――鳳祥と電話で女子トークをしていた時のことである。

 

「そういえば、夏休みに硯谷に行くことになったんだ」

『は? なにそれ?』

「えっとね」

 

 かいつまんで事情を話すと、祥は息を吐いて言った。

 

『なるほどね。……でもそれ、本当に大丈夫?』

「大丈夫って?」

『冷静に考えなさい。()()御庄寺多恵の仕事よ? 故意か過失かはわからないけど、無駄なサプライズが仕掛けられてる可能性大じゃない』

「……あー」

 

 確かに、多恵とさつきは大の悪戯好きである。

 加えて、ノリで生きているところがあるため、大事なことを伝え忘れていることも多い。

 前にプールへ行った時なんて、服の下に水着をつけて来た挙句、着替えの下着を忘れてきた。パンツ貸してと言われたのは後にも先にもあの時だけだ。

 

「……ちょっと不安になってきた」

『……でしょうね。ちゃんと確認しておきなさい。こっちも心当たりに聞いてみるから』

 

 持つべきものは親友。

 桐原女バスが誇るポイントガードは女子校に行っても抜け目なく冷静だった。

 

 俺は祥との電話を終えるとすぐさま多恵の番号をコール。

 こういうのはすぐやらないと有耶無耶になるに決まっている。そして案の定、思ってもいなかった事実が発覚することになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「え、野宿?」

『そうだよぉ。言ってなかったけ?』

「うん、聞いてない」

 

 スピーカーから聞こえてきた声はいつも通りほわほわしていた。

 小学校からの親友に悪意がないのは明らかで、だからこそ脱力してしまった。

 

「つまり、多恵が連絡を取ったのは硯谷初等部の先生じゃなくて――その妹さん、なんだ」

『うん』

 

 やけにあっさり話が進んだと思ったら、そういう裏があったらしい。

 多恵自身が連絡先を知っていたのは現在高校二年生の妹の方で、彼女を経由して教員の方に話が行った。合宿及び練習試合を快諾したのも妹の方で、姉とは一度も話していない。

 また、姉――つまり教員の方から「宿泊施設等々は貸与できない」との話があったこと、その話が多恵で止まっていたことも発覚した。

 合宿については「慧心さんがキャンプするなら」という条件で了承が出たものらしい。

 

「じゃあ、私達あんまり歓迎されてない?」

『大歓迎だったよぉ。マナマナってば「うち山奥だから、なかなか相手が見つからなくて」って大喜びだったしぃ』

 

 それは嬉しいんだけど、先生の方が問題。

 

「というか、マナマナって?」

『野火止麻奈佳。バスケやってるらしいけど、つるみん知ってる?』

「……知ってる」

 

 緑の悪魔が関係なくて何よりだ。

 野火止麻奈佳。その名前は硯谷女学園において唯一、祥以外で面識ある人物のものだ。

 

 ――忘れもしない一昨年の夏。

 

 俺と葵へ「硯谷に来ないか」と誘いをかけ、結果的に祥を引き抜いた人物。

 当時の硯谷中等部において女バスのエースを務めていた女性だ。

 

『マナマナ、今、足怪我してるらしくてぇ』

「へ?」

『暇だから小学生のコーチみたいなことしてるんだって』

「待って。急に情報量が多い」

 

 後でネット検索したら、大手掲示板サイトでそれっぽい記事が見つかった。

 さすがに小学生のコーチ云々は出てこなかったけど、あの人が活動を休止しているのは本当らしい。

 

 まさか、昴みたいなことしてる人がこんな身近にいるとは。

 まあ、彼女の場合は同性を教えているのでアウトになりようがないけど。

 

「ありがとう、多恵。後はこっちで調整してみる」

 

 俺は多恵にお礼を言って電話を切――ろうとしたところで今期アニメの話題を振られ、小一時間ほど多恵と雑談を繰り広げたのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 そんなこんなで合宿当日。

 

「このたびの件、感謝いたします。るーみんさま」

「いえ、もともと気づいたのは私の友達ですから」

 

 美星姐さんが手配したマイクロバスの前で、俺は久井奈さんから頭を下げられていた。

 今日の彼女はメイド服ではなくジャケットとパンツというカジュアルな格好。山の中にある硯谷へ赴くにはさすがに不適当という判断らしい。

 見たところ、ブランドは全て『ForM』というところの品。レディースもメンズも手広く扱うファッションブランドで、高すぎず安すぎず質のいいものを提供している。俺も何度か購入したことがあるし、祥も普段使いにお薦めとしているところだ。

 って、それはともかく。

 

 ――どうして久井奈さんがいて、俺に頭を下げているのか。

 

 あれから昴経由で愛莉ちゃん達に相談した結果「楽しそう」とキャンプは快く受け入れられた。

 お嬢様である真帆ちゃんや大人しい愛莉ちゃんも難色を示すことはなく、ほっとした俺だったのだが、ここで声を上げた人物がいた。

 

 真帆付きのメイドである久井奈さんだ。

 

 真帆さまが野宿なんて心配でなりません、とのこと。

 野宿といってもテントを使ったキャンプだし、保護者役に美星姐さんもついてきてくれる。そこまで心配することはないと思うのだけれど、真帆ちゃんへの愛が不安を掻き立てるらしい。

 ご両親がオーケーを出してくれていたため、旅行禁止などにはならなかったものの。

 どうしてもキャンプするなら道具一式を三沢家から貸し出す、また管理者として自分もついていくと言ってきかなかった。

 

 まあ、久井奈さんなら俺達としても異存はない。

 真帆ちゃんはちょっと窮屈そうだったけど決して嫌っているわけではなく、むしろ大好きなようで最終的に了承。美星姐さんも「そのぶん私が楽できる」とあっさりオーケーした。

 で、おかげで事前に気づけたと、俺が久井奈さんに感謝されてしまった。

 

「私も久井奈さんとご一緒できて嬉しいです」

 

 もとはといえば祥の手柄。

 あまり頭を下げられるのは困るので話を逸らそうとすると、久井奈さんが半眼になった。

 

「……感謝はいたしますが、くれぐれも変なことはなさらぬよう」

「そういうことは誓ってしません」

 

 逆に俺が土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。

 と、頭の上からくすくすと楽しそうな声が響いた。

 

「冗談です」

「……良かったです。嫌われちゃったんじゃないかと」

「いえ、そのようなことは決して」

 

 笑顔の久井奈さんからネガティブな印象は窺えない。

 大人の女性ゆえに本心を隠すのも上手かろうが、俺としてはもう誠心誠意、清い行動を心がけるしかない。好みのタイプの女性にドキドキしてること自体は本当なのだし。

 

 ――さて、忘れ物はないだろうか。

 

 山歩きも考えて厳選した荷物はバスに積み込み済み。

 久井奈さんが持ってきたキャンプ道具も同様に積み込まれている。三沢家の車で運び何人かで積み込んでいたけど、かなり最新式のモデルらしくサイズと重量はかなり抑えられている。俺や葵、昴が手伝えば運搬は十分に可能だろう。

 昴達はもうバスに乗り込んでいる。

 漏れ聞こえてきた声からすると智花ちゃんから朝ご飯を受け取ったり、同行を伝えていなかったらしい葵とひと悶着あったり、どこに座るかでわいわい話をしていた模様。

 

 考えてみると、昴視点ではハーレムである。

 

 とはいえ美星姐さんは血縁。俺には興味ないだろうし、愛莉ちゃん達は小学生。

 久井奈さんとくっつくのは真帆ちゃん相手に気まずすぎるから、実質、選択肢は葵一人である。どこを見ても女子ばかりの中、劣情を向けていいのは葵だけ。これはかなりチャンスじゃないか。

 もし、いいタイミングがあるのなら積極的に二人の仲を後押ししていく所存である。

 

 さっさとくっついてくれないと俺達も困る。

 

 俺やさつき、多恵、上原がどれだけ焚きつけても紳士的な対応を崩さない昴、恋愛となるとヘタレる葵だけど、にっちもさっちもいかない状況になれば進展するはず。

 と。

 

「おーい二人とも。そろそろ出発しようぜー」

「はーい」

「今参ります」

 

 久井奈さんと目配せし、マイクロバスに乗り込む。

 

「翔子さんっ。わたしの隣でいいですか?」

「うん、ありがとう愛莉ちゃん」

 

 隣を空けておいてくれた愛莉ちゃんに微笑み、頷く。

 ちなみに久井奈さんは保護者ということでドライバー――美星姐さんのすぐ傍に座した。葵は紗季ちゃんの隣、昴の隣には智花ちゃんがいる。

 

 むう。案外、あの子が伏兵だったりするのか……。

 

 などと、複雑な思いを抱きつつ、動き出したバスの中で、俺はみんなとの歓談に移るのだった。

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