ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子と初めてのブラ

 さあ、どうやって攻めてくる?

 

 葵と一、二歩の距離を置いて並んだ俺は、昴の出方をじっと窺う。

 何度目かのバスケ中。

 今は昴の攻め番だ。俺と変わらない身長の彼は、落ち着いた表情でボールをバウンドさせている。俺と葵のディフェンスをかいくぐってゴールできれば昴の勝ち。ボールが俺達に渡れば俺達の勝ち。どっちが勝ってもオフェンスが入れ替えになる。

 

 二対一。 

 普通ならディフェンスが有利。しかし、昴や葵はかなりの率で突破してくる。特に遊び始めたばかりの頃は大変だった。二人とも当然のように「俺が昴達と面識ないこと」を利用してきた。俺と昴(もしくは葵)の間にただ突っ込むだけで、俺がまごついて隙を作るというやつだ。

 数の多い方が有利だとは限らないと知った六年生の春である。

 もちろん、突破方法は他にもある。どうしてそんなに引き出しがあるのかと思うくらいで、俺は新しい手法を目にする度に驚いている。

 

「………」

「………」

 

 ちらりと葵にアイコンタクト。すると彼女はこくんと頷く。

 仲良くなったお陰で多少は連携できるようになった。未だに目線だけでは「行け」なのか「私が行く」なのかそれ以外なのかわからないが、今回は幸い「私が行く」だったらしい。

 

「やっ!」

 

 前進した葵が昴に攻めかかる。

 

「そう簡単には行かないぜ」

 

 感心してしまうような速さだったが、昴の方も負けてはいない。

 葵がボールに手を伸ばせばすかさず逆方向に逃れようとする。踏みとどまっての追撃にも動じず、半歩下がって体勢を立て直した。そこから幼馴染同士、目線と身体を使ったフェイント合戦。遠目で追っていなければ、自分があそこで対峙していれば、確実に幻惑されていたと思う。

 いや、あんまりぼうっと見ている場合でもないんだけど。

 正直、昴と葵の一騎打ちになってしまうと割って入りづらい。まだまだ実力が足りない俺では逆に邪魔になってしまう。

 なので、

 

「……っ! ……!?」

「ここから先は通さないからなっ!」

 

 一瞬、葵が右に意識を傾けすぎた隙をついて。

 左から突破してきた昴を、俺は満を持して迎え撃った。

 

「わざとか!」

「あたり!」

 

 楽しそうな声で葵が笑った。

 敢えて隙を見せ、突破されたタイミングで俺が妨害に入る。前後からの挟み撃ちなら仲間割れになりにくいし、何より、突破できた瞬間に妨害されるのは辛い。

 罠を悟った昴が身体を強張らせ、次いで背後の葵へと意識を向ける。

 正直、隙だらけだった。

 

「よっ……!」

 

 ぱん、と、軽い音と共に。

 俺は昴の手からバスケットボールを奪い取った。

 

 

 

 

 

「くそ、やられた」

「じゃあ、次は翔子の番ね」

「う、ああ、うん」

 

 基本的に、次の攻め役はボールを手に入れた人間がやる。

 つまりこの場合は俺なんだけど……。

 スタート位置でボールをバウンドさせながら、俺は「どうしたものか」と悩む。昴達はいいだろうけど、俺に一対二は荷が重い。

 あれだ。昴達は敵側に昴と葵が揃わないからズルい。

 ともあれ。

 

 ――やっぱアレしかないかなあ。

 

 最近凝っているとある攻め方を試してみることにする。

 敢えて遊びに来ない日を作って自主練までした必殺技。ただし、鋭意開発中。完成にはほど遠いが、ゴールにやや近い位置にあるこのスタート位置からならなんとかなるかもしれない。

 

「っ!」

 

 俺は、ドリブルで真正面から突っ込む()()()()()

 流石の反射で昴達が動く。息ぴったりのダブルマークで阻もうとしてくる彼らをよそに、俺はすぐに立ち止まると動きのベクトルを上に向けた。

 ジャンプ。

 両手でしっかりボールを固定しながらゴールを見据え、投げる。

 

「う、やっぱ高いな……!」

「でもそうそう入んないでしょこんなの……!」

 

 葵が言った通り。

 放物線を描いたボールは惜しくも、ゴールの淵に当たって跳ね返った。

 ジャンプしていた俺にリバウンドが取れるはずもなく、ボールはあっけなく葵の手に渡ったのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「鶴見のアレ、面白いけどめっちゃ大変だと思うぞ」

 

 空が暗くなり始めた頃。

 今日のバスケを切り上げたところで、昴が言った。

 

「あー。俺も練習しててそれは思った」

 

 ジャンプシュート。

 その利点は打点が高くなること。地面からのシュートだとカットされやすいが、ジャンプすれば単純にその分、ディフェンス側の指が届きにくくなる。

 ただ、なんていうか、疲れる。

 ついでにジャンプしたせいで精度は下がる。ただでさえシュートの成功率が低い俺がそんなことをすれば、入る率がヤバイ。

 さっきのスリーポイント気味のシュートなら猶更。もはやただ放っただけに近い。

 

「中学からはゴールが高くなるから気をつけないと」

「……そうすると余計に決まらないな」

 

 俺はため息をついた。

 

「俺の長所を生かせる戦法かと思ったんだけど」

「あー。翔子、足長いもんね」

 

 葵が俺の足を見て頷く。

 美脚などと言えるのかどうか。ついでに言われても嬉しくないが、俺は足が長い。その分、ジャンプ力もあるというのが、バスケをするようになって知ったことだ。

 

「身長伸びそうで羨ましい。ちょっと分けて欲しいくらい」

「ちょ、くすぐったいからやめろ」

 

 足を撫でる葵の手から身をよじって逃げていると、俺はふと、彼女への用事を思い出した。

 

「そうだ、葵。……ちょっと相談があるんだけど」

「相談? うん、いいけど」

 

 手を止めて頷く葵。

 ほら話せ、と言いたげな彼女に、俺は困り顔を作った。

 

「あー、いや。ちょっと二人だけで話したいというか」

「待った。バスケの話だったら俺も聞きたいぞ」

「いや。仲間外れにするみたいであれだけど、バスケ関係ない話なんだよ」

「じゃあ、漫画かゲームの話か?」

「だったら美星姐さんに相談する」

 

 葵は電子ゲームにあまり興味がない。漫画は読むが、少年漫画については昴の影響なので範囲は狭い。対して美星姐さんはどっちも尊敬したくなるくらいに詳しい。

 

「わかった」

 

 自分に関係ない話らしい、と知った昴は少ししょんぼりした様子ながらも頷いてくれた。

 

「じゃあ翔子、帰りでいい?」

「ああ。……あ、でも、七夕さんにも相談した方が良かったりするかも」

「本当に珍しいわね……」

 

 言いながら庭の片付けをする。

 すると、ちょうどよく、家の中から七夕さんが顔を出した。

 

「翔子ちゃん、今日はお夕飯食べていく?」

「いえ、今日は帰ります。でも……その」

「七夕さん、翔子が相談あるらしいですよ。……多分、私達じゃないと駄目なやつで」

 

 葵は本当に察しがいい。

 うん。そうなのだ。

 甚だ不本意だけど、今回のは女性にしか相談できない悩みなのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「翔子!」

 

 次の土曜日。午後二時。

 駅前にある百貨店の入り口近くで、俺は葵、それから七夕さんと合流した。

 葵はブラウスにスカートと、珍しく可愛い系の服。七夕さんは大学生くらいに見えてしまいそうな清楚系のコーディネートだった。

 さすが、二人はちゃんと女の子してるなあ、と感心してしまう。

 俺はできるだけ無地に近いTシャツにショートパンツ。これから行くところで男の格好だと浮く。でも女装はしたくないので、極力ユニセックスな感じにしてみた。

 

「……ふふ」

「あは」

「な、なんだよ」

 

 なのに、葵と七夕さんは顔を見合わせてにっこりと笑う。

 

「別に。ただ、翔子は可愛いなあ、って思っただけ」

「なっ」

 

 解せぬ。

 解せないが、多少はそういうのも飲み下さないといけないのだろう。

 肉体的には、女の子なわけだし。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「……はい」

 

 連れていかれる子牛のような心境で頷く俺。

 昴を除け者にしてまでやってきたのだから、ここで逃げるわけにはいかない。

 

 ――ちゃんと、ブラを買って帰らなくては。

 

 そう。俺が葵や七夕さんに相談したのは下着のことだ。

 最近、胸の膨らみが無視できなくなってきた。

 まだ大丈夫、まだ大丈夫と自分に言い聞かせ、ブラをつけたらどうかという母の提案もスルーしていた。パンツはまだ形が違うだけと言い訳できるか、ブラとなるとハードルが高い。

 ただ、運動している時に擦れて痛い。

 あのジャンプシュートの時もそうだ。痛みが無かったら入っていた……かどうかはさておき、シュート時に若干集中できなかったのは確か。なので、恥を忍んで相談してみた。

 

『ブラ? そういえばつけてなかったけど……付けたことないの? 全然?』

『葵ちゃん、そういう言い方はだめよう。翔子ちゃんだって不安なんだから』

 

 二人は俺の相談にちゃんと乗ってくれた。

 ちょっと親には話しにくかったので、こういう相手がいるのは本当にありがたい。

 

『葵はもうつけてるんだ?』

『気づいてなかったの? あんたはそういうとこ本当に……うん、つけてるわよ。翔子って男っぽいから変な感じするけど』

 

 室内だったのでシャツを捲って見せてもらうと、葵には結構わかりやすい膨らみがあった。

 ちょっとエロい。

 まあ、女の子なんだからブラくらいつけていて当然だ。というか、将来的にはかなり大きくなるんじゃない

か。

 

 葵がつけていたブラは淡いブルーのもの。

 色気は薄い。ロリコンじゃないので欲情はしないが――十二分に可愛いらしい。

 

『……つけなきゃいけないのはわかってるけど、その、どう選べばいいのか』

 

 絞り出すように言うと、真っ先に反応したのは七夕さんだった。

 

『まかせて。一緒に行ってあげるから、ちゃんと選びましょう。ね?』

 

 と、いうわけで。

 今度時間がある時に買いに行こうという話になった。さすがに日曜だと昴が拗ねるので、土曜の半日授業の後、自宅でご飯を食べてからに決定。

 この日が来なければいいと思ったりもしたが、当然、時が止まったりするはずもなく。

 俺は葵や七夕さんと一緒に衣料品売り場を歩いている。

 

「とりあえず、このあたりかしら」

「う、色が眩しい……」

 

 立ち止まったのは子供服売り場の一角。

 近くに男児服のコーナーもあるので場違いではない。色合いだって淡いものが中心だ。しかし、ピンクやブルーやグリーンなどカラフルな感じは女子っぽい。

 

 男の服は暗めの色が多いからなあ……。

 

 逃げたい。今なら逮捕されることはないが、前世の感覚的にここは苦手だ。

 

「やっぱり俺、もうちょっと我慢……」

「お客様、何かお探しですか?」

「ひっ」

 

 驚いたせいで変な声が出た。

 振り返ると、制服に身を包んだ女性が笑顔で立っている。子供が来るのは普通だからか、俺を見ても表情は変わらない不審そうな顔にはならない。

 

「はい。この子に初めてのブラを見立ててあげたいんですけど……」

「まあ、そうなんですね」

 

 七夕さんの声にあっさり頷いた彼女はしゃがんで俺に目線を合わせてくる。

 

「胸、擦れて痛くなったりしますか?」

「は、はい」

「なるほど。ちょっと触らせてくださいね」

「っ」

 

 くすぐったさに身体が跳ねた。

 

「うん、確かに膨らんできてますね。そろそろブラをつけた方がいいと思います。でも、初めてですから、できるだけシャツに近い形のものをご案内しましょうか?」

「あっ、お願いします……!」

 

 願ってもない申し出に勢いよく答えた。この店員さんはいい人に違いないと急に安心してしまう。

 そうだ。上につける下着っていっても色々ある。子供用なら特にそういう需要も多いはずで、何もブラの形をしたものに拘らなくてもいい。

 第一、シャツだって肌着だ。素材的に肌に優しいのとかあるのかも。

 わくわくしながら向かうと、コーナーには実際、比較的シャツに近い形状のものがあった。

 

「このあたりのお品物はいかがでしょうか?」

 

 あった、のだが。

 

「わあ、可愛い。どうかしら、翔子ちゃん」

「……え、ええっと」

 

 俺はつい絶句してしまった。

 並んでいたのは、ブラのように胸だけホールドするタイプではなく、へそのあたりまで布があるタイプ。確かに若干気楽ではあるのだが、形状としてはキャミソールに近い。七夕さんが「可愛い」と評したように、女の子らしさからは逃げきれていない。

 

 ――特にその、胸元にリボンとかつけなくていいから。

 

 カップ部分のデザインや布のひらひら感も可愛らしい。

 

「こういうデザインでしたら、透けて見えてもブラジャーっぽさは少ないですから、お友達にからかわれたりする心配も少ないかと思います。いかがでしょう?」

「……あー」

 

 どうしよう。

 フリーズした俺は曖昧な呻き声を漏らした。

 

 

 

 

 紆余曲折の末。

 

「ありがとうございましたー」

 

 買い物袋を抱えて店を出る。

 買ってしまった。衣類なので軽いはずなのに、なんだか袋が重たく感じる。

 

「無事に決まってよかったぁ」

「買っただけじゃなくてちゃんと使いなさいよ」

「ああ、それは必ず」

 

 頷いて約束する。

 多大な犠牲を払ったのだから、ちゃんと活用しないと勿体ない。

 

「翔子、試着のときすごい挙動不審だったもんね」

「うるさい。あれは普通に恥ずかしいだろ。カーテンで隠れてても店の中なんだぞ」

「うふふ。お洋服を買うだけなら裸にはならないものね」

「はい。……時間取らせちゃった上に、貰っちゃてすみません」

「気にしないで。いつも昴くんと遊んでもらってるお礼だから」

 

 結局、俺が買ったのはキャミソールタイプが二着とブラタイプが二着だった。一着だと洗濯に困るし、運動用にはブラの方がいい、と言われたからだ。

 これだけ買うとそこそこの値段になる。

 軍資金は両親から貰った、貰わざるをえなかったのでお小遣いは無事だが、出費を心配してくれたのか、七夕さんがスニーカーをプレゼントしてくれた。

 度重なるバスケで靴が痛んでいるのを知っていたのだ。

 自分で買いますと言ったのだが、お礼と言われてしまうと弱い。代わりに昴達の誕生日にプレゼントして返そう。

 

 ふと、空を見上げる。

 

 照りつける日差しは強い。

 そろそろ、季節は夏に差し掛かろうとしている。

 

「そういえば、翔子ってプールの授業は」

「言うな」

 

 俺の扱い方を覚えてきた葵はくすくす笑って「ごめん」と謝ってくれた。

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