ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「葵。合宿中に昴ともっと仲良くなろう」
「な、なによ急に」
顔を洗って髪を簡単にまとめただけの、ちょっとラフな朝の葵が上ずった声を出す。
合宿二日目。到着翌日の朝のことである。
昨夜の麻奈佳先輩との話は本当に雑談で終わった。
また勧誘でもされるのかと思いきやそんなこともなく、互いの身の上とかバスケのこととかを取り留めもなく話しただけ。
なお、恋バナの類は殆どなかったことを付け加えておく。
いい意味で飾らない、気さくないい人だった。女子にモテて困るというので「そうでしょうね」みたいな反応をしたら、祥から「あんたが言うわけ?」とジト目で見られた。
お陰で先輩からは「仲間だ!」と親近感を持たれる結果に。
朝ご飯は簡単におにぎりと味噌汁、炒めたウインナーという献立に。
現在進行中の調理は実働を愛莉ちゃん達、指導を久井奈さんにお任せして、俺は葵を森の中に引っ張ってきた。
「……一学期も終わったのに進展無いって言うからでしょ」
俺の隣には仏頂面の祥もいる。
部活はいいのかと聞けば、自主参加なので休んでも問題ないとのこと。
「……二人してゾノとショージみたいなこと言って」
と、俺達の提案を受けた葵は表情を硬くし、軽く俯く。
ふん、と祥が肩を竦めた。
「面白半分で言ってるわけじゃないわよ」
「そうそう。昴だって、いつまでもフリーとは限らないんだし」
「う」
これには葵も小さく呻く。
「で、でも。あんなバスケ馬鹿に出会いなんてそうそう……」
「そう言ってた結果があれよね」
ちらりと横目で木立の隙間を覗く祥。
そこには、わいわいと朝ご飯を作る小学生達と――ハラハラと見守る久井奈さんの姿。
「小学生に手を出すとか犯罪じゃない!」
「手を出したら犯罪だけど、出さなきゃ純愛だからセーフよ」
「昴にその気がなくても、愛莉ちゃん達の方はわからないしね」
「え。まさか……」
はっとする葵。
「自分達の好きなスポーツを優しく教えてくれる年上のお兄さん……好きになってもおかしくないと思わない?」
「そ、それは……まあ」
実際、昨夜のお風呂での反応は怪しかった。
葵は自分のことでそれどころじゃなかったかもだけど、昴に彼女がいないと聞いてみんなほっとしていたのだ。
幼い憧れ、で果たして済んでいるかどうか。
「というわけで、少し思い切りが必要かなって」
「いや。むしろこの際だから大分思い切りなさい」
せっかく祥も協力してくれてるわけだし。
「そういうことで」
「決まりでいいわね」
「ちょ、待……っ、私はまだやるとは……っ!」
張本人がまだ抵抗していたけれど、俺達は有無を言わさず押し切った。
☆ ☆ ☆
【mission1.さりげなく密着作戦】
「やっぱり、基本は距離を近づけることじゃないかな」
「いや、それって物理的な距離の話じゃないでしょ!?」
「物理的距離が大事に決まってるでしょ」
というわけで。
祥には隠れて見守ってもらいつつ、朝ご飯中に作戦決行。
――さりげなく昴に近づき、密着して座れ。
内容としてはただこれだけ。
多少不審に思われるかもしれないけど「何か?」という顔で惚けてしまえば誤魔化せる範囲。一度気にしてしまえば昴といえどもドキドキするはず。
それでも葵は恥ずかしいのか、うー、と言いながらキャンプ場に戻って、出来上がったご飯を紗季ちゃんから受け取る。
ちらちらと昴を見て、顔を真っ赤にしながら「よし!」とそっちに歩いていく。
傍から観察してると明らかに挙動不審だけど。
「……可愛いなあ、葵」
「翔子さんっ、どうしたんですか?」
と、愛莉ちゃんが俺の分のご飯を持って寄ってきてくれた。
微笑んで首を振り、答える。
「ううん、なんでもないよ。ありがとう。……食べよっか」
「あっ……はいっ!」
座るように促せば、愛莉ちゃんは元気よく答えて腰を下ろしてくれた。
ぴたりと、肩が触れ合うような距離。
「……えへへ」
視線を向ければ、照れたような笑顔が返ってくる。
可愛い。
男同士なら「暑い。離れろ」で終わるところだけど、そんなことは全く気にならない。食事中でなければ頭を撫でてあげたいくらいだった。
綺麗な三角形じゃないおにぎりも塩がきいてて美味しい。
昼間は運動しっぱなしだろうからちゃんと食べておかないと。
――と、いけない。葵は。
いた。ちゃんと昴の隣だ。
ちょうど腰を下ろすところで、このくらい? もっと? と何度か首を傾げた末、昴のズボンの裾をお尻で踏みそうなくらい近づいて、
「……何やってんだお前」
「っ。べ、別になんでもねーわよ!」
あ、立ち上がった。
「そうか。いや、何でもないならいいんだが」
「え、ええ。だから、さっさと食べましょ……朝ご飯」
座り直した。
さっきより指一本分くらいだけ遠い位置。でも十分近い。快挙だ。
恥ずかしさでぷるぷる震える葵も、心なしか嬉しそうな気が――。
「なあ、やっぱおかしいぞお前」
「な、何がよ?」
あ。
「いや、だって挙動不審だし。こんなくっついて座る必要ないだろ。スペース空いてるし。第一夏だから暑苦し」
「誰が暑苦しいってこの大馬鹿!」
「ぶっ……!?」
挑発(本人は素)に乗った葵の鉄拳が炸裂、見事に昴をノックアウトした。
☆ ☆ ☆
【mission2.意味深アピール作戦】
「……うう、勇気出して損した」
「ごめん葵。でも、さっきのは昴にも問題があるかなあ……」
「あいつの鈍感も筋金入りね。なら、はっきり意識させるしかないんじゃない?」
次の発案は祥。
「え、それ本当にやるの……?」
「踏み込まなきゃあの朴念仁には太刀打ちできないでしょ」
「う。それは、そうだけど……」
朝ご飯が終わり、練習場所の体育館へ向かっている最中に決行。
まずは俺が小学生組を引きつける。
「真帆ちゃん達のバスケ、やっと本格的に見られるなあ」
「るーみんは昨日居なかったもんね。あたしの凄さ、ちゃんと見といてよ!」
「自慢するほどのものじゃないでしょ。真帆相手なら、私だって」
ちょっと大きめに言えば真帆ちゃんが反応し、紗季ちゃんが追随。
後はひなたちゃん、愛莉ちゃん、智花ちゃんも自然と寄ってきてくれる。
「おー、おねーちゃん。ひなのことも見てください」
「わ、私もっ、センターのこと教えて欲しいです……っ!」
「私は、その、できたらまた対戦したいですけど……難しいですよね」
引きつけ成功。
軽く葵に目配せしつつ、みんなに答える。
「あはは。うん、もちろん。みんなのことちゃんと見てるよ。……でも、私がプレーするタイミングは、なかなか難しいかな」
そして、肝心の葵は。
またも赤い顔のまま、おずおずと昴に近寄って。
「ねえ、昴。あんたって魚は何が好きだっけ」
「魚? 何でまた急に」
「いいから答えなさい」
んー、と、宙に視線を彷徨わせる昴。
「なんだろ。赤身よりは白身魚の方が好きかな。鱈とか」
「へ、へー。じゃあ、さ」
かすかに声を震わせながら、葵はさりげなく指を唇へ。
ぷるんとした柔らかそうなそれを昴へ示しつつ、あくまで「考えてます」と言い訳して。
「キス……とかはどう?」
よし! と声が出そうになった。
羞恥で染まった顔が良い味を出している。あれなら誰だって葵とのキスを想像するはず。
実際、昴も一瞬だけど言葉を詰まらせた。
「っ。ああ、鱚な。あれも美味いよな。天ぷらとか。母さんがたまに作ってくれる」
「そうなんだ。七夕さんの天ぷらならきっと美味しいよね」
ほっとしたのか、葵はそのまま昴と魚談義を始めた。
「おー。キス? キスってどうやって天ぷらにするの?」
「駄目だなーひな。ちゅーしたところで油にどぼーん! だろ!」
「違うから。キスじゃなくて鱚ね」
「長谷川さんは白身魚の天ぷらが好き……」
「わたし、天ぷらはあんまり作ったことないなあ。危ないからお母さんが一緒の時だけ……翔子さんは、どうですか?」
「うん。お母さんが好きだから、たまに作ってあげるよ。でも、油で揚げるから食べ過ぎに注意だよね」
☆ ☆ ☆
【mission3.危機感アピール作戦】
「少しは意識したみたいね。……もう一押しすれば効果大なんじゃない?」
「さっきので葵のことは意識しただろうから、次は恋愛自体に注目かな?」
「まだやるの? ありがたいけど恥ずかしい……」
「大丈夫。次は葵、何もしなくてもいいから」
最後の作戦は体育館に着いてからになった。
キーパーソンは、ここまで隠れてついてきていた祥。
「相変わらずみたいね、長谷川」
「鳳か。久しぶり、そっちこそ元気そうで何よりだ」
ようやく姿を見せた彼女は何食わぬ顔で挨拶をする。
俺や葵を抜かして名指しだったことには気づかず返事をする昴――よし、上手くいった。
そうやって昴の知り合いだと意識させれば、
「えー、またすばるんの知り合い!?」
「長年バスケットボールをやっていらしたのだからおかしくはないけど……また、綺麗な女性ね」
子供達が食いつかないはずがない。
祥は子供好きではないものの、ここは友好アピールのために笑顔でしゃがみこむ。
「初めまして。鳳祥といいます。……長谷川とはただの知り合いだから、安心してね」
「……あ。じゃ、じゃあ、彼女さんじゃないんですね」
「あはは。俺なんかと恋人同士じゃ鳳が可哀そ――」
「違うわ。私、彼氏いるし」
「なん、だと?」
ざわっ。
フォローしようとした昴をさらりとスルーし、祥は爆弾を投下。
真帆ちゃんが頭上に「!」を浮かべ、ひなたちゃんが「おー」と声を上げ、紗季ちゃんが瞬きを繰り返し、愛莉ちゃんが口元に手を当て、智花ちゃんがぽかんと口を開ける。
うん、みんな上手い具合に驚いてくれた。
「お前の性格に付いてこれる男だと……奇特だな」
「どういう意味か言って見なさい長谷川」
「そのままの意味に決まってるだろ」
昴もびっくりしたようで、割とひどい台詞を祥に吐いている。
この二人、スタイルが似ているせいかお互いに容赦がない。
「お生憎様。バスケのことしか考えない誰かさんと違って、私は流行にも敏感なの」
「くっ……!?」
つん、とすまして言った祥を見て呻く昴。
――これが三つ目の作戦。
高校生なら恋愛なんて普通だと実例でアピール。
しかもそれが知り合いとくれば、無駄な焦りを覚えずにはいられない。
自分もと少しでも思ったのなら、身近な女子に目が向くはずだ。
「え。祥、ついこの前『男になんか興味ない』って言ってなかった?」
そう。
大前提が不慮の事故で崩れなければ。
「なんでバラすんですか麻奈佳先輩!」
「え? なに? 言っちゃダメだったの?」
顔に「?」マークを浮かべて首を傾げたのは、練習のために待っていた麻奈佳先輩だった。
☆ ☆ ☆
そうして。
葵と昴をくっつけよう作戦は三つとも大した成果を残せず、俺達は無駄な徒労感を残したまま初等部への合宿へと参加することになった。
昨日顔を出せなかった俺はみんなに軽く挨拶し、慧心女バスと一緒に五年生以下の練習に参加。
まず思ったことは、みんな上手い。
さすが硯谷。小学生なら経験値にさほど差はつかないだろうに、小学生時代の俺より上手いと思える。運動に自信がある、あるいは好きな子しか入らないだろうから当然といえば当然だけど。
でも、慧心女バスも負けていない。
むしろ本格始動が今年の四月でよくぞここまで、というくらい様になっている。もちろん、基礎がそこそこ形になっているというだけで磨く余地はいくらでもあるけど、愛莉ちゃん達の中に眠る才能を感じずにはいられなかった。
加えて、葵との対決で見せたチームワーク。
智花ちゃんの存在も考えれば、お世辞抜きで二軍レベルの扱いは勿体ない。
パス出しなどのお手伝いをし、たまに声をかけたりしつつ、ちらりと六年生+レギュラー側を窺えば、麻奈佳先輩や野火止先生を中心に時折こちらを窺っているのがわかった。
――ほらほら、この子達は放っておけるほどつまらないチームですか?
なんていう風に、昴や葵と一緒に内心煽り。
昼食(学食を利用できた。全寮制だからか普通に営業中である)を挟んだ午後の練習からは、個人的なアドバイスを少しずつ増やしていく。
もちろん、最初は愛莉ちゃん達に対して。
でも、そうしていると硯谷の子達からも質問が来るようになった。特に俺と葵。もちろん快く答え、昔やっていた練習で「やってみたい!」と言われるものがあれば教えてあげる。
練習メニューは硯谷から提示されていたわけだけど、これは「合同」練習なわけで。
そっちは勝手に五年生とやってくれと言うなら律義にお仕着せされる謂われもない。ここは俺達のやり方で和気藹々とやらせてもらう。
向こうが痺れを切らすのはいつごろになるだろうか。