ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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5th stage コーチと葵は小学生と海へ行った

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【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)

【今年の自由研究】

 恋についての考察

(恥ずかしかったのか後半ほど字が震えている)

【はじめての水着】

 淡いブルーの上下(の上だけ捨てた)

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 合宿から帰ってきて一週間と少しが過ぎた。

 

 八月上旬。

 

 「もう」と言うべきか「まだ」と言うべきか微妙なこのタイミングで、昴は「また」慧心女バスのみんなとお泊まりに行っている。

 今度は海だ。

 真帆ちゃんの家が保有している別荘を借りるとかで、今度は五泊六日。練習と遊びを兼ねた長旅だ。よく親御さんの許可が出たと思う。まあ、美星姐さんと久井奈さんも一緒なので心配はないだろうけど。

 

「……はあ」

 

 ラインの画面を表示すれば、みんなから送られてきた旅先での写真がずらり。

 色とりどりの水着に身を包んだ愛莉ちゃん達の姿や、何故か砂に埋められている昴、海の中を走って逃げ回る昴に、昴を追いかけまわす五人プラス葵の姿、などなど。

 そう。

 海には葵も同行している。

 今回の旅は慧心女バスと昴達だけ。昴や葵が練習する暇も割とあるので、同好会の合宿も兼ねている感じだ。

 まあ上原は予備校の勉強合宿で不参加なんだけど。

 

 ――行かなかったのは俺だけ。

 

 そう考えると、みんなへの申し訳なさと居心地の悪さを覚えてしまう。

 行かなかったのは私的な都合だ。

 部活を休みすぎるのも問題だし、棋士と編集者という忙しい両親に代わって家の掃除なんかもしないといけない。……というのが建前で。

 そんな気になれなかったというのが正直なところ。

 

 残念、なんて言って葵は笑ってくれたけど。

 彼女の顔を思い出す度に胸が痛くなる。

 

 余計なモヤモヤを吹き飛ばすように、ここ数日は部活や個人練習に邁進していた。

 集中していないと余計なことを考えてしまうからだ。

 お陰で先輩方からは「上達した」と褒められたり、プレーにムラがありすぎだと注意されたりしている。

 それもこれも。

 

「祥のせいだ」

 

 俺はもう一度息を吐き、ベッドに寝ころんだままあの時のことを思い返した。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「どうして?」

 

 祥に好きだと言われて、口をついて出たのはそんな言葉だった。

 酷い言い方。

 受け取り方によっては死刑宣告にもなりかねない。

 

 でも、あの時の俺にはそう言うしかなかった。

 

 全く想像していなかった。

 彼女は、彼のことが好きなんだと思っていたから。

 祥は寂しそうに笑って答えた。

 

「言った通りよ。……私が本当に好きなのは、カズ君じゃなくてあんただったってこと」

 

 嘘だ。

 言いかけた言葉をぐっと飲み込む。

 

「……いつから?」

「わからない。気づいたのはつい最近。カズ君から珍しく電話が来た時」

 

 その時、彼女ができたと知らされたのだろう。

 

「俺を追っても無駄だ、って言われた」

「追う……?」

「カズ君がどこまでわかってたのかは知らない。でも、私はカズ君を追いかけられなくなった」

 

 物理的な話ではない。

 精神面での支え、あるいは逃げ道を祥は失った。

 

 ――諏訪が好きだと言っていた自分。

 

 諏訪が彼女を作ったことで、捨てなければならなくなった。

 

「……それで気づいたの。私が好きな人は別にいたんだって」

 

 柔らかくて甘い笑み。

 こんなにも大人っぽい笑顔を、彼女は諏訪に一度でも向けただろうか。

 向けていればきっと、一発で堕とせていただろうに。

 

「どうして」

 

 俺はもう一度尋ねた。

 

「私、祥に好きになってもらえるようなこと、何もしてない」

 

 俺は、祥からたくさんのものを奪った。

 昔、彼女が俺に突っかかってきたのは嫉妬のせいだ。諏訪が俺にばかり突っかかるのが気に食わなくて八つ当たりしていた。

 そんな彼女を俺は叩き潰した。

 潰して放置して丸くなるまで待った。手ずから丸めてすらいない。そのくせ丸くなった彼女を拾い上げて可愛いと愛玩したのだから最低だ。

 大半が自業自得だったとしても、祥の人生が俺のせいで狂ったのは間違いない。

 

「馬鹿」

 

 しかし、祥は首を振って否定した。

 

「私は『今の私』をあんたに貰ったの」

「………」

 

 何も言えなかった。理解できなかったからだ。

 そんな俺を彼女は愛おしさそうに見つめる。

 

「私は嫌な奴だった。……今でも性格良いとは思わないけど、小学校の頃の私は自分を良く見せるために人を貶めるのが当たり前だった。あのままだったら変わらなかった。変われなかった。上っ面の友達と上っ面の関係を引っ張って、ただのクズに成長してたと思う」

「そんなこと」

「ある。私、あの藍田でも見てるとぶん殴りたくなってくるし」

 

 未有ちゃんか。

 あの子はそんなにひどくないと思うけど――って、それじゃ何のフォローにもなってないというか、祥の言ったことを肯定している。

 ひたむきにバスケをしている未有ちゃんと違って、祥には目指すものがなかった。

 アイドルになりたかった。

 昔、そう聞いたことはあったけど、なら当時の祥がひたむきにレッスンしていたかといえば……。

 

「そんな私をあんたが変えた。変えてくれた。最初はあんたに勝ちたかっただけ。そのためにバスケ始めて、続けて、気づいたら止められなくなってた」

「楽しかった、から?」

「そうね。あんたと、あんたたちとバスケするのが」

 

 なら、俺と同じだ。

 仲間がいたから始められた。続けられた。それは特別なことじゃない。

 誰だって最初はそんなものだ。

 

「ううん、私にとってはあんたは特別だった」

「っ」

「ライバルで、目標で――憧れだったの」

「私なんか」

「なんかじゃない。鶴見翔子は永遠に()()()()

 

 最強。

 そんなもの、目指したこともなかった。

 

 ――俺にとっての最強は。

 

 よぎったイメージを目を閉じて打ち消す。

 

「結局、三年かけて一回も勝てなかった。藍田との試合を見て今も敵わないと思った。そんな格好いいやつが私の全部を許してくれて、友達になろうと言ってくれた。そんなの、好きになるに決まってる」

「女同士なのに」

「関係ない。好きなっちゃったんだから仕方ない。それに、硯谷(ここ)にいたら同性愛なんて珍しくない」

「尊敬と恋愛は違う」

「私はあんたを自分だけのものにしたい。キスだってしたいし、その先だって」

 

 とくん、と胸が高鳴る。

 もともと祥は美少女だ。

 まがりなりにもアイドルを志してしまうような子が、俺にありのままを晒している。

 

「遠距離恋愛」

「じゃあ転校しましょうか。……張り合う理由も無くなったし」

 

 理由というのが何かはわからなかったけれど。

 

「……っ」

 

 俺は唇を噛んだ。

 反論ができない。

 言い訳できない。

 胸に置かれた祥の手がしなやかに曲線を作って。

 

()()。返事を頂戴」

「………」

「それとも、勇気が持てない?」

 

 一歩ずつ、彼女が近づいてくる中。

 俺は震える唇を必死に持ち上げた。

 

「ううん」

「………」

「ごめんなさい。……私には好きな人がいるから、あなたの気持ちには答えられません」

 

 脳内で百回考えてもオーケーすることができなかった。

 祥が嫌いなわけじゃない。

 ただ、譲れない想いがあっただけだ。

 

 ――いつから?

 

 わからない。

 きっと、昨日今日の話じゃないことだけは確かだけれど。

 

「そっか」

 

 小さく頷いた祥は、後ろに一歩足を踏み出して。

 呼び止める声にも応じないまま、木立の奥へ消えていった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 あれから祥には会っていない。

 でも、硯谷から帰る直前に来た『またね』のメッセージに俺は『うん』と返した。

 だからきっと、また会える。

 

 その時には親友として。

 

 振っておいて虫のいい話だけど、俺は親友を失いたくない。

 祥もきっとそう思ってくれている。

 だけど。

 

「うううううううう……っ!!」

 

 ベッドをごろごろと転げまわる。

 俺は一週間経っても気持ちを消化しきれていなかった。

 話の直後なんて恐ろしく情緒不安定だった。最初に顔を合わせたのが久井奈さんじゃなかったらどうなっていたかわからない。あの夜は久井奈さんに抱きしめられながら何時間も涙を流した。一つじゃ不便だからと三つのテントを用意していたのが良かった。

 

 ――気持ちを持て余している理由は二つ。

 

 一つは祥の想いがとても深かったこと。

 一つは自分の想いから目を逸らせなくなってしまったこと。

 

「……はあ」

 

 部活で消費した体力を更に削ってもなお、眠気が湧いてこない。

 目を閉じれば後から後からたった一人の顔が、名前が、声が、触れた感触が、匂いが甦ってきて俺の心を満たしていく。

 途方もない幸せ。

 温かくて甘くてふわふわしたこの気持ちはなるほど、スイーツに例えられるのも納得だ。

 その人に告白することを考えた途端、生のゴーヤをブラックコーヒーで流し込んでいるような気分になるのだけれど。

 やるしかない。

 告白しないという選択肢はもはやない。

 どのみち、こんな状態じゃ今まで通りでいられない。

 

 一つは祥のため。

 一つは自分自身のため。

 

 もらった勇気を胸に、溢れる思いを形にしてぶつけるしかない。

 ここしばらく何度も悩み、その度に出してきた結論を再度思う。

 

「うん」

 

 昴達が旅行から帰ってきたら決着をつける。

 告白が百パーセント――決裂に終わるとわかっていたとしても。

 恋する乙女はきっと、止まってはいけない生き物なのだ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「もう凄かったの! ひなたちゃんとかげつちゃんのマラソン対決! ううん、二人だけじゃない。真帆ちゃんと早稀ちゃんの自転車レースもそうだし、愛莉ちゃんと智花ちゃんの水泳も! みんなバスケもすっごく上手くなったし、翔子も驚くと思う!」

 

 みんなが帰ってくる日の昼過ぎに「会いたい」とメールと送った。

 夕方には着くからそれからならと言ってくれた彼女と待ち合わせ場所を相談し、夕食時のファミレスへやってきた。

 少々日に焼けた荻山葵は遊び足りないとばかりにはしゃいでいて、ファミレスのハンバーグセットを「久井奈さんの料理と比べたら落ちちゃうよね」などと言いながらあっさり平らげてみせた。土産話の方も止まらず、追加で注文したパフェもそろそろ無くなりそうだ。

 なんでも、今回の海行きでも色々あったらしい。

 前日の夜にひなたちゃんが昴のところに家出してきたり、朝になって妹さんが迎えに来たり、別荘に行ったら行ったで竹中君という男の子(球技大会の時の合宿に来た子だ)がひなたちゃんの妹さんと一緒に乗り込んできたり、姉妹喧嘩(?)の末にチーム制のトライアスロンで勝負したり。

 

 お土産のクッキー(どこのSAでも似たようなのを売ってそうなやつ)はありがたく頂き、俺は葵が聞かせてくれる思い出に笑顔で相槌を打ち続けた。

 

「……あ、ごめん。私ばっかりしゃべっちゃって」

「ううん」

 

 話が止まったのはパフェが無くなり、ホットカフェオレで一息ついてから。

 俺はふるふると首を振って告げた。

 

「私の話は最後でいいから」

「何よそれ、気になる」

 

 じっと見てくる葵からさりげなく目を逸らして、

 

「ここじゃちょっと。静かなところがいいんだけど」

「じゃ、場所を移しましょ」

 

 よほど気になるのか、葵はあっさりと席を立った。

 何杯もおかわりしたドリンクバーのせいか、それともストレスのせいか胃が痛くなり始めていた俺はこれを快諾。初めて会った公園へ誘った。

 バスケットゴールの下にはさすがに誰もいなかった。

 常夜灯に照らされたアスファルトの上で立ち止まって、彼女を見る。

 

 ――幼馴染は笑顔だった。

 

 数え切れないほど見てきた顔。

 何度見ても飽きることのなかった顔。

 じっと見つめて、

 

「翔子? 今日、なんか変だよ?」

「……ん。ちょっとね」

 

 あなたに、どうしても言わないといけないことがあるから。

 声に出さずに言うと、それが伝わったのか。

 葵は俺から少し離れたところに立って表情を戻した。

 

「話、って?」

「うん」

 

 俺は微笑みを作った。

 こんな時に笑えるのが不思議だったけど、もしかしたら当たり前なのかもしれない。

 好きな人に好きだと伝えることが、悲しいことのわけないのだから。

 

「私ね、葵にずっと言えなかったことがあるの」

「ずっと?」

「そう、ずっと」

 

 高校で同じ部活に入れないとわかってから。

 中学で県大会優勝してから。

 副部長になれないとわかった時から。

 もしかしたら、初めて会った時から。

 

 男子を好きになるのなんて無理だったのだ。

 既に心奪われていたのだから。

 そう、たった一人の女の子に。

 

「荻山葵さん」

 

 幼馴染だとか親友だとかで誤魔化していたけど。

 本当は、俺はあなたの全てが。

 

「好きです。私と付き合ってください」

 

 どれだけ言葉を尽くしても足りないと思った。

 だから、逆に限界まで言葉を削った。

 

 ――頭は下げなかった。

 

 前を向いたまま反応を待って。

 俺は見た。

 葵の瞳が見開かれ、揺らいで、そこに哀しみが生まれるのを。

 形のいい唇がゆっくりと開かれるのを。

 

「ごめん」

 

 そして、何千とシミュレートした通りの結末が訪れた。

 

「私、翔子とは付き合えない」

 

 俺は、初めて失恋する気持ちを知った。

 

 ――やっぱり、祥は強いよ。

 

 心の中で呟いて、もう一度笑顔を作る。

 

「うん。……わかった。ありがとう」

 

 くるりと。

 

 踵を返して歩き出すと、後ろで「あ……」という声がした。

 聞こえるか聞こえないかの声。

 俺は聞こえていないふりをした。

 

 公園を出て自宅に辿り着くまで、葵が俺を追いかけてくることはなかった。

 酒を飲んで赤くなった母さんが駒入れを抱えて「指そう」と迫ってくるのを「ごめん」とスルーし、自室に着くと鍵をかけた。

 鞄を落として。

 薄く施した化粧も、汗ばんだ肌も、本当はやらないといけないストレッチもスキンケアも全部放り出して、ベッドへ身を投げ出すと枕に顔を埋めた。

 

「……う、ああ」

 

 一度溢れ出した涙は止められなかった。

 一晩中泣き続けた。

 恋心と化粧が涙によって押し流されて小さくなって、それでも涙は止まらなくて、自分の中のプライドとか矜持とかが流されていくような感覚があって。

 濡れすぎて使い物にならなくなった枕を投げ捨て、無理矢理布団に包まって。

 

 明け方頃、ようやく眠りにつくことができた。

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