ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
あれから何年が過ぎただろう。
七芝高校を卒業した私――鶴見翔子はそこそこいい私立大学に進学し、教育学部で四年間学んだ後、桐原中に国語教師として就職した。
実は硯谷からも声がかかったのだけれど、それは辞退。
主な理由は、中等部バスケ部顧問の座を麻奈佳先輩が持っていってしまったからだ。
仕方ないので七芝でバスケ部顧問に就任し、先輩と教え子を通して争うことにした。むしろそれはとても燃える展開で、これで良かったのではないかと思っている。
正直、学校という職場はブラックすぎて泣けるけど。
毎日はすごく充実している。
苦楽を共にできるパートナーも、幸いなことに見つかったから。
「ただいまー」
「お帰りなさい、翔子」
都心から程よく遠いところにある地方都市の一角。
閑静な住宅街に佇むマンションが、私と『彼女』の家だ。
「いつもごめんね、祥」
エプロン姿で出迎えてくれたパートナーにキスをし、眉を下げて微笑むと、祥は笑顔で首を振ってくれる。
「いいわよそんなの。先に帰った方が晩御飯を作るルールでしょ」
「公平なルールだと思ったんだけどね……」
大体、祥の方が先に帰っているパターンである。
美星姐さんは割と余裕そうだったけど、ぶっちゃけアレは小学校の終業時間が早い&部活の監督に顔出してないせいだった。
勤務先が中学校かつ一年目から部活顧問を引き受けてしまった私には当てはまらない。
っと。
順番が前後してしまったけど、私はあれからあらためて祥と付き合い始めた。
随分都合のいい話ではあるのだけれど、葵に振られたことを報告したところ、祥の方からもう一度告白してくれたのである。
『あんた、これでフリーなのよね? なら、私と付き合いなさい』
前回振られた件については、それはそれ。
チャンスが来たのだから告白し直さないわけないと断言された時は、豪胆すぎて心から尊敬した。それからもちろん、そこまでして私を好いてくれたことへの感謝も。
『はい。……私で良ければ、喜んで』
そうして、私達は恋人同士になった。
祥と付き合い始めたとみんなに話した時はさすがに大騒ぎになったけど、幸い徹底的な拒否反応を示されることはなかった。戸惑っていた人も最終的には納得してくれた。近しい人ほどすんなりと受け入れてくれたような気がする。
結局、祥が硯谷から転校することはなかった。
私達は遠距離恋愛ながら別れることもなく、むしろ熱の籠もった交際を続けた。暇な時間にはラインや電話で話をし、月一回ひねり出せるかどうかの予定が合うタイミングでデートもした。
大学は同じところを選んだ。
今のマンションと賃貸契約を結んでルームシェア。互いの両親から仕送りを貰いつつアルバイトでお金をやりくりした。就職してからはお給料だけでなんとかかんとか生活費を工面できている。
「今日のご飯はなんだろう……?」
「塩麹につけた鶏肉を焼いてみたわ。あとは雑穀ご飯と根菜のお味噌汁ね」
「わ。美味しそう」
テーブルの上に並べられた料理はまだ湯気を立てていた。
盛りつけや彩も意識されていていかにも美味しそうだ。
健康を意識しつつ、美味しそうなものはとりあえず試してみる。
私も祥も相変わらず女子力とか気にしまくってるので、どっちが料理をしてもだいたいそんな感じになる。疲れてる時は「生姜って身体にいいよね」とか言いながら豚の生姜焼き作ったりするけど。
目ざとい祥がハマってるということは、塩麹ブームがもうちょっとで来るか。
前世で「ふーん」と聞き流していた流行だが、こうして消費する側になってみると結構楽しい。ただ、このあいだ調子に乗って「タピオカ屋を始めないか」と祥に言った時は「正気?」みたいな反応をされた。多分凄い儲かるのに。
まあ、今の仕事を辞めるかと言われるとアレなんだけど。
「先にお風呂入っちゃう?」
「ううん。ご飯食べてからゆっくり入ろうかな」
「ん」
素っ気ない返事だけど、顔を見ると嬉しそうにしていた。
やっぱりご飯はあったかいうちに食べてこそ。
私はスーツの上着を脱ぎ、鞄を部屋に置いてから食卓についた。二人で向かいあっていただきますをする。一日の終わりを感じてほっとする瞬間だ。
「祥は、仕事順調?」
「……どうかしら。あの業界って実務能力以上にセンスが問われたりするから」
「そういうのは難しいよね。教師だって最重要はコミュ力だし」
祥は大学卒業後、ファッション業界への就職を決意。
色んな会社や事務所を受けた末、なんと『ForM』に就職した。もちろんコネではなく実力で。今はティーンズ向けの下着づくりに携わっているらしい。
どうせやるなら好きなことを仕事にしたい。
きっぱりと進路を決めて実現させ、毎日頑張っている祥は本当に格好いい。
アイドルとは違うけれど、キラキラと輝いていると思う。
「祥の関わった下着を、私の教え子が着けたりするんだよね」
「……そうね。そうなったら、嬉しい」
恥ずかしいのか、祥の頬はほんのり赤く染まっていた。
可愛い。
ちょっといじめてみたくなるけど、そうすると大体倍で返ってくるので我慢。
と。
「私達の子供に、ってできないのが残念だけど」
「祥……」
私達は女同士だ。
お互いの両親には必死に話して了承をもらっているけど、女同士では子供が作れないのはどうしようもない事実。そういえばiPS細胞で、なんて都合のいい話は現実にない。
どうしても子供が欲しいなら養子という形になる。
もちろん、そうなったら我が子として愛して育てるつもりだけど、それでも、その子は私達が愛し合ってできた子ではない。
自分達なりに納得して選んだ道だけど、やっぱり子供が欲しくなることはある。
例えば、幼馴染の子を抱かせてもらった時とか。
あれから葵とは仲直りした。
彼女とは今でも親友を続けている。あの時のことを思いだすと今でも切なくなるけど、恋心はさっさと手放した。昴とラブラブな姿を間近な見せられたし、何より祥というパートナーを見つけられたから。
二人の第一子は可愛い女の子。
『紫(ゆかり)』という名前を聞かされた時は「実子だから大丈夫だよね?」と今更ロリコン疑惑を再燃させてしまったりした。でもそのくらい可愛いのだ。昴もロリコンもとい親馬鹿ぶりを発揮し、主に美星姐さんがその被害を受けている。
「祥は、後悔してる?」
「してるわけないでしょ」
即答だった。
祥は苦笑し、それから慈愛の籠もった笑みを浮かべた。
「私は好きな人と一緒になれた。結婚はできないけど、あんたが私だけを愛してくれてるだけで幸せすぎるくらい。むしろ心配なのは、あんたの気持ち」
「私?」
「私に付き合わせちゃったんじゃないか、ってこと」
は? 馬鹿かこいつは。
何年かぶりに男口調が出そうなほどいらっとした。
「怒るよ、祥」
「……翔子」
「私は後悔なんかしてない。ううん、これからも絶対後悔しない。私は祥を愛してるし、今が凄く幸せ」
「……ん」
私の言葉に、祥は噛みしめるようにして頷いた。
「ごめんなさい。……でも、聞いてよかった」
「ちょっと」
「だって、凄く嬉しかったから」
愛しい人の瞳からは涙が溢れていた。
あーもう、何で嬉しいとか言いながら泣くのか。私までもらい泣きしてきてしまうじゃないか。ご飯の味がわからなくなるどころか、食欲自体がなくなりかねない。
ちゃんと片付けておかないとお風呂にもベッドにも入れないというのに。
幸い殆ど食べ終えていたので頑張って片づける。祥も同じように残ったご飯を口に放り込んで、しっかり咀嚼した後で玄米茶を啜った。
ふう、と同時に息を吐いて。
「あんたのせいで変な気分になっちゃったじゃない」
「ちょっと待った。絶対祥のせいだと思うんだけど」
むっとして睨み返す。
すると、祥の目が完全に笑っていたので、私まで吹き出してしまった。
「……お風呂、後にしようかな」
呟くように言うと、祥がぱっと表情を明るくする。
わかりやすい。
硯谷に入って棘が抜けた感があったこの子は、付き合いだしてからは更に変わった。今までの態度が嘘だったみたいに可愛くなったのだ。まあ、私以外、特に男子相手だと前と大して変わらなかったけど。
積極的にキスを求めてきたり、手を繋いできたり。
ふと拍子に「好き」とか言われるとこっちまで赤面してしまう。
あんまり積極的なので、他の子に目移りしないのかと尋ねれば「他の女を好きになるわけない」との答え。
嬉しかった。その後に「でもついつい目が行っちゃうくらいは仕方ないわよね」と続かなければもっと嬉しかった。
まあ、それこそお互い様なので、デートに行くとお互いにちょっとした嫉妬をしてしまうこともある。
「それじゃ、洗い物してから」
「後でいいわよそんなの」
これである。
まったく、効率やら女子力やらはどこにいったのか。
さっさと立ち上がって駆け寄ってくると、ブラウスの袖を掴んだ祥に――私は、不意打ちのキスを見舞ってやった。
おまけ(余談)
祥と翔子の名前は、サグ先生作品キャラに軍艦と同じ名前の子がいる(香椎と鹿島とか、ひなた=日向とか)ところから。
・鳳祥:祥鳳
・鶴見翔子:翔鶴
個人的に祥は目つきの鋭い祥鳳(艦これ)のイメージ。
翔子の方の外見は翔鶴姉かというとうーん……? となります。
諏訪は適当です(ぇ