ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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「3rd stage 長谷川コーチ、小学生に泳ぎを教える(4)」の後あたりからの分岐になります。


ending02.長谷川昴

「翔子、俺と付き合ってくれないか」

「うん、いいよ。どこに行くの?」

 

 ある日の昼休み。

 珍しく昴がクラスに来たと思ったら、神妙な顔で付き合ってくれと言ってきた。

 周りにいた子達がきゃーと騒ぐ中、俺は「早まったか」と思う。

 昴がわざわざ改まって言ってくる件だ。ただの買い物では済まないかもしれない。どこか遠出? 愛莉ちゃん達関連だとしたら、一人じゃ行きにくい学校に敵情視察とかだろうか。

 そうなるとスケジュールを確認しないで「うん」と言ったのはまずった。

 

「いや、そうじゃない。この顔がそんな頼みに見えるか」

「見えるけど……ごめん、どういう話?」

 

 と、思ったら、そもそもお出かけじゃないと来た。

 じゃあなんだろう。

 こいつに限ってまさか交際の申し込みじゃないだろうし――。

 

「俺の彼女になってくれ」

「は?」

「きゃーーっ!?」

 

 なん、だと……?

 まさか外野の歓声が冷やかしじゃなくて真実だったとは。

 でもまた、なんで。

 葵じゃなくて俺に告白して来るんですか、長谷川さん。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「いや、だってこんなの葵に言ったら殴られるだろ絶対」

「なるほど。それはそうかもしれませんね」

「その点、翔子なら事情を話せばわかってくれるし。ミホ姉とも仲いいからちょうどいいだろ」

「うふふ。長谷川君は頭がいいんですね」

 

 聞いてみればなんのことはない、よくある(?)偽装彼女のような話だった。

 久しぶりにお父さん――長谷川銀河さんという、昴にはあんまり似てない大柄長身の人だ――から連絡があったらしいのだけれど、その時に「高校生にもなって彼女一人いない」という話になったらしい。

 別にいいだろそんなの、っていうか大人気ないこと言うなよ……みたいに返したら「お前だってオトナゲ生えてないだろ」とか言われて「彼女くらいその気になればすぐできるわ!」と啖呵を切ってしまったとか。

 

 その上、銀河さんから連絡があったことが美星姐さんに伝わって。

 伝聞だったから大して詳しくなかったはずの情報から的確に全貌を把握され、からかわれ、彼女作れるならすぐ見せてみなと挑発された。

 その時には一晩経って冷静になっていた昴ももう一回ブチ切れてしまい、今に至る。

 

「ミホ姉はなんか智花や愛莉の名前出してたけど、さすがにあの子達に頼むのは気が引けるし」

「さすがは長谷川君です」

 

 駅からの道を長谷川家に向かって歩きながら、俺はくすくすと笑みを零した。

 

「なあ、っていうか俺なにか悪いことしたか……? 怒ってるんだよな?」

「え? 私と長谷川君はただのクラスメートですから、普通の対応だと思いますけど」

「頼む翔子、見捨てないでくれ……っ! お前から葵にバレたら最悪のパターンだ!」

「もうちょっと本音を隠せばーか」

 

 駄目だこいつと思いながらデコピンをお見舞い。

 ぐわっ! とか言いながら額を押さえてくれるあたり昴も付き合いがいい。これでもうちょっと女子の気持ちに敏感だったらいいのに。

 

 しかしこれ、どうするべきか。

 

 俺も小学生と交際はまずいと思うけど、美星姐さんが薦めたってことは「そういうこと」だろう。

 少なくとも智花ちゃんと愛莉ちゃんはそういう面があるに違いない。

 三人も候補がいるのに、それを全部避けて俺に交際を申し込むとか、刺されたいんだろうか。

 

「もう……ごめんなさい、態度が良くなかったよね」

 

 俺はため息を吐いて口調を戻す。

 

「それで? 私は彼女のフリでいいの? それとも継続的にお付き合いする話?」

「それはもちろんフリで構わない」

 

 昴はきりっとした顔で答えてくれるんだけど、

 

「そう上手くいくかなあ……」

「というと?」

「この手の話って、すぐにフリだってバレて失敗するか、引くに引けなくなって泥沼になるのがパターンなの。だって、共通の知り合いに彼女だって紹介するんだし」

「う、それは確かに」

「だから、フリだとしても、ある程度続ける覚悟はいるんじゃないかな」

 

 その覚悟がないなら「無理でしたすいません」って謝った方がいい。

 だって嘘なんだから、つき通すよりはバラした方がスマートなのは当然だ。

 とか言ってるうちにだんだん長谷川家が近づいてきている。

 

「なあ、翔子は嫌じゃないのか? 俺なんかと付き合うことになっても」

「私? 私個人としては平気だよ。昴となら、本当に付き合う話でも」

 

 俺が問題にしているのは、どうせ付き合うなら他の子にしてあげて欲しいという一点だけ。

 

「……そっか。お前、昔から俺のこと好きだって言ってたもんな」

「待って昴。なんでそこだけ的確に覚えてるの!?」

 

 葵から毎年チョコ貰ってたこととかを思い出して欲しい。

 そりゃ俺も一緒にあげてたけど……そのせいで印象が薄れてるとかじゃない、よな?

 まあともかく、考えてもいい案が浮かばないので。

 

「美星姐さんも待ってるんでしょ? とにかく一度言ってみよっか。それで嘘つけって言われるならそれはそれで楽に収まるし」

「そうだな。……頼むぞ翔子」

「ん。よろしくね昴」

 

 でも恋人同士らしくするにはどうしたらいいだろう。

 互いに名前で呼び合うって、もうとっくにやってるんだな、俺達。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……昴。お前なんでよりによって翔子なんだよ」

「やっぱり美星姐さんもそう思いますよね」

「翔子、お前がそっちに付かないでくれ」

 

 俺を彼女だと紹介した昴は、即座に姐さんの胡乱気な瞳に射貫かれた。

 全くもってその通りな指摘に俺はついうんうんと頷いてしまった。

 そうしたら昴からは恨みがましく見られてしまったけど。

 

「私は、他にいい人がいると思うって言ったんですよ。それなのに昴が……」

「言っただろ。お前じゃないと駄目なんだって」

 

 言われたけども。似たようなニュアンスのことは、割とさっき。

 昴、わかってるのかなあ……それもう嘘をつき通すパターンなんだけど。

 腹をくくるしかない、か。

 俺が心中で息を吐いて気持ちを切り替えたところで、七夕さんがきらきらした目で話に割って入ってきた。

 

「翔子ちゃんがすばるくんとお付き合いしてくれるのっ?」

「はい。不束者ですがよろしくお願いします、お義母様」

 

 椅子の上ながら深々と頭を下げると、七夕さんは「まあまあ」と微笑む。

 

「お義母様なんて……。翔子ちゃんの呼びやすい言い方でいいのよ?」

「じゃあ、今まで通り七夕さんでいいですか?」

「もちろんよお。……うふふ。これからは色々教えてあげるわね。あ、でも、翔子ちゃんにはあんまり教えることもないかしら」

「そんなことありません。七夕さんのお料理、もっと教えて欲しいです」

「本当? じゃあ張り切っちゃおうかしら」

 

 七夕さんと話しているとほんわかする。

 料理はもともと教わっていたので、その延長上という感じで気負わなくていいのも嬉しい。

 二人してにこにこ会話していると、昴と美星姐さんが黄昏な雰囲気を出しながら言い合うのが聞こえた。

 

「母さんと翔子って本当仲良いよなあ……」

「おねーちゃんと仲悪い奴って殆どいないでしょ。ま、翔子とは特別仲良いよ。もともと家族みたいなもんだし」

「お前も姉さんと言われるしな」

「あれは字が違うだろ。お前らが結婚すれば実際姉みたいなもんだけど」

「な、結婚ってお前な……!」

「あれ、昴ったら結婚しないつもりなの? やることだけやってポイ捨てとか、おねーちゃんそんな子に育てた覚えないんだけど」

「こっちもお前に育てられた覚えは……」

「へえ、面白くもなんともない安牌連れてきておいてその言い草?」

 

 なんか火花散ってる気がするけど気づかないフリをしておく。

 さすがに七夕さんの前では喧嘩しないだろうし。

 

「ってゆーか翔子。()()()()()()()?」

 

 と、不意に美星姐さんが尋ねてきた。

 

「……みんなには私から話します。わかってくれるかはわかりませんけど、私が言わないといけないことでしょうから」

「そ。お前がそれでいいならいいけど」

「大丈夫です。それに、葵が異議を唱えてくれるなら、もうワンチャンスあると思いますし」

 

 言って俺は苦笑する。

 昴が「何の話だ?」と尋ねてきたけど、こっちの話だとはぐらかした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 果たして衝突は起こらなかった。

 葵も智花ちゃんや愛莉ちゃんも、私が「昴と付き合うことになった」と告げても、目に見えて反発してくることがなかったのだ。

 この泥棒猫とか言われたり、最悪「中に誰もいませんよ」される覚悟をしていたんだけど。

 

 小学生組はまだわかる。

 昴に恋していたとしても、きっとそれは淡い恋心。自分よりも相応しい相手――例えば同い年の女子高生が相手に選ばれたのなら「仕方ないよね」と諦めがつくだろう。

 しばらくは傷となって残るかもしれないけど、トラウマになるほどじゃない。

 好きな人と結ばれた相手を敵とみなしたりもしないと思う。

 

 でも、葵は?

 小学校か、下手したらもっと前から好きだった相手。

 私自身、葵が昴を好きなことは知っているし、葵の恋路をむしろ積極的に応援してきた。そんな相手に「奪われて」平静でいる方がおかしいだろう。

 なのに、葵は動かなかった。

 ぶっちゃけかなり挑発した自信がある。それでも葵は怒らなかった。最初に告げた時点でこの世の終わりのような顔をした癖に、無理矢理笑顔を作って「おめでとう」と言った。

 

 ……葵のいくじなし。

 

 そんなだから俺なんかに奪われるのだ。

 ただ本気で告白するだけで「勝てる」のに、いつまでもうじうじしている。誰よりも恋に身を焦がしているのに、恋が「勝負」だということをわかっていない。

 元男の俺が言うことではないけれど。

 

「すばるー!」

 

 だから、俺は身を引くことを断念した。

 昴が提案した嘘の関係はなし崩しに本当の関係となり、俺は名実ともに長谷川昴の彼女となった。

 彼の手伝いをしたいからと女バスをすっぱり辞め、同好会へ積極的に参加。慧心の練習にもたまに顔を出すようになった。

 慧心女バスのみんなからの反応はまちまち。

 

 真帆ちゃんは当初こそ「すばるんは渡さねー!」と息巻いていたものの、昴が普通に練習に来ることがわかると落ち着いた。

 ひなたちゃんは特に前と変わらず。

 愛莉ちゃんは前より距離を置きつつも徐々に「親しいお姉さん」として俺に接してくれるようになっている。

 智花ちゃんからはあからさまに敵視されているものの、方向性がバスケ対決に向いているので「恋敵」というよりは「ライバル」という感じ。

 取り付く島がないのは意外にも紗季ちゃん。みんなのために怒っているという体で、実際のところは彼女自身、昴に惹かれていたのだろう。

 

 でも、俺にはもうこれっぽっちも身を引く気はない。

 切っ掛けがアホみたいなものであろうと、昴の恋人という一つきりの枠を獲得してしまった以上、下手な態度は許されない。

 俺は全身全霊をもって昴の彼女を全うする。

 自分で言うのもなんだが、「普通科の鶴見翔子さん」は「性欲をそそられない」という欠点を除けば割と優良物件だ。

 男を立てる心づもりもあるし、家事もそこそこできる。

 付き合うようになってからは昴に手製のお弁当を毎日用意している。

 

「翔子……。弁当はありがたいけど直接持ってこなくても」

「あ……。そうだよね、ごめんなさい。友達と食べたい時もあるよね。今度から朝のうちに渡すようにするから」

「いいのいいの鶴見さん! 長谷川君のは照れ隠しだから!」

「おうよ。おい長谷川、こんないい彼女にそんな言い草はないだろ?」

 

 ついでに一緒に食べていると、だいたい誰かが寄ってくるのでいつも賑やかだ。

 ちなみに弁当の中身は俺と昴でだいぶ違う内容になっている。

 俺は美容と健康を維持しなければいけないけど、昴の方は育ちざかり。肉や魚を食べないと元気が出ないだろうし、量多め味濃いめ揚げ物推奨となっている。

 そういう料理の方が上手なんじゃ? という評価が生まれつつあるのは納得いかないけど。

 

 ――葵とは「微妙にぎくしゃく」した関係が続いている。

 

 微妙にというのが曲者で、無理に解消することもできないし決定的な破綻も訪れていない。

 俺が同好会に出るようになって葵が代わりにレアキャラになり、高校で会っても挨拶をする程度。こればかりは時間が解決するしかないと思っている。

 

 今のところ、昴とは身体の関係とかはなく。

 

 けれど、昴が拒絶してこない限り、いずれは結婚したいと思っている。

 俺みたいな半端者を貰ってくれる男なんてそうそういないだろうし、俺にとっても長谷川昴は得難い男性なのである。

 だから。

 これからの人生、鶴見翔子は長谷川昴と生きていく。

 

 もうすぐ夏。

 果たして、今年の夏はどういう夏になるのだろうか――。

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