ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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葵の告白が失敗したif分岐です。


ending03.荻山葵

 告白した私があっさり玉砕してから。

 初めて葵に会ったのは、数日後のことだった。

 

「……翔子」

「葵」

 

 部活に出たり、朝のランニングをしたり。

 夏休みとはいえ私は毎日のように外出している。告白した次の日こそ練習を休んだものの、その翌日からはずる休みしていない。

 なので、葵と会ったのも偶然だった。

 コンビニ袋を下げた幼馴染は「ちょっとそこまで」といったラフな格好をしていた。でも、私を見るなりバツの悪そうな顔になったのは別の理由だろう。

 

 一方の私はといえば。

 にっこり笑って、積極的に彼女へと歩み寄った。

 ぴくっと、震える葵。

 ちょっとだけ傷ついた。

 

 でも、顔には出さないで頭を下げる。

 あまり大袈裟にすると葵が恥ずかしいだろうから、軽く。ほんの一秒だけ。

 

「この前はごめんなさい。勝手なこと言って困らせて」

「ううん。私の方こそ、ごめん」

 

 いやらしい意味がないとわかってもらえたのか、葵はしゅんとした表情になる。

 

「ううん。葵は悪くない。悪いのは私」

「そんなわけない。私が考え無しだったから……」

「じゃあ、仲直りしてくれる?」

 

 ちょっと虫がいいかもしれないけど、葵の人の良さを利用して右手を差し出す。

 付き合えないなら友達辞めます、なんてできない。

 葵とはこれからも友達でいたい。

 

「……うん」

 

 葵は、私の手を握ってくれた。

 告白してきた同性愛者の手を握るのは、きっと勇気がいっただろう。

 でも、これから時間をかけて、私が諦めたことを伝えたい。

 

 そして聞きたい。

 

「昴とは、上手くいった?」

 

 きっと、葵は昴に告白したはずだ。

 私がそうだったように、近しい人からの告白というのはそういう力を持っている。

 告白したなら成功したはずだ。

 

 昴に一番近い女子は葵で、二番目は私。

 私の知る限り、昴に想いを寄せる「年頃の女の子」はたった一人しかいない。

 荻山葵が本気で告白すれば、昴が断る理由なんてあるはずがない。

 

 だから、私は葵の勝利を確信していた。

 もしかしたら、そこには「私が玉砕したんだから」という思いがあったのかもしれない。

 気づいていなかった。

 葵の目に、まるで泣きはらしたような隈ができていることに。

 

「ううん」

 

 空気が、凍った。

 

「え?」

「駄目だったの! 昴と喧嘩して! 付き合えないって!!」

「嘘」

「嘘じゃ、ない……っ!」

 

 きっと、本当はギリギリの状態だったのだろう。

 葵は()()抱きつくと、縋るように顔を埋めてきた。大好きな匂い。役得……なのかもしれないけど、そんなことを考えている余裕はなかった。

 私は葵の身体を抱き留めながら慌てて言う。

 

「葵。どこか場所変えよう?」

 

 幼馴染は私の服を掴んだまま泣き声を上げている。

 泣かせたのは私なので、誰かに見られても誤解はされないだろうけど。

 

「と、とにかく行くよ……!」

 

 半ば強引に持ち上げて、近くにある葵の家に連れて行った。

 チャイムを鳴らして葵のお母さんに入れてもらう。

 お姫様抱っこされた葵が私にしがみついているのを見て、お母さんは相当びっくりしたようだったけど、しばらくして状況を察したのか「葵をお願いね」と言ってくれた。

 自宅かつ、お母さんが下にいるなら葵も安心だろう。

 

 私に襲われても悲鳴を上げれば助けが来る。

 襲う側(仮)が心配することじゃないかもだけど。

 

 クッションを敷いて二人で座ったら、しばらくして泣き止んでくれた。

 ここ数日で何度泣いたのか。

 ゴミ箱にはティッシュが山を作っていて、葵の目は真っ赤になっていた。

 

「葵。昴はなんて言って断ったの?」

「……それは」

 

 ぽつぽつと、葵は私に語ってくれた。

 

 ――告白に際し、葵は言葉が足りないと思ったらしい。

 

 昴は葵の気持ちに気付いていない。

 好きだと言おうが愛してると言おうが通じない可能性がある。バスケのことだと勝手に勘違いされないように手を打つべきだと考えた。

 それに、伝わったとしても信じてもらえるかどうかはわからない。

 だから、恋心の来歴からしっかりと語って聞かせた。

 

 葵にとってのバスケが昴そのものだったこと。

 葵の目標とは昴に生涯成績で勝ち越すことであり、それ以外は二の次であると。

 

 ぶっちゃけこの時点で告白だと思うんだけど、昴は一筋縄ではいかなかった。

 

『女バスに入らなかったのってそれが理由だったのか?』

 

 そうだと答えた。

 休部になって打ちひしがれている昴を見ていられなくて、何かしたくなったのだと。

 昴は葵にありがとうを告げた上で、言った。

 

『今からでも入れよ、女バス』

 

 話が食い違い始めていた。

 葵は恋愛の話に戻そうとする。しかし昴も引かない。彼にとっても荻山葵というプレーヤーの進退は重要なもの。「それはいいから」と言われたところで納得はできない。

 気づけば言い合いに発展していた。

 

『わかってよ! 私はあんたとバスケするのが一番大事なの!』

『だからって部活はできるだろ!?』 

『なんでそんなことばっかり言うの!? 私がそんなに邪魔なわけ!?』

 

 引くに引けなくなった葵は最悪の形で言ってしまった。

 

『あんたのことが好きなの! 恋してるの! だからあんたの傍は離れない! 男バスが復活するまでは同好会にいる!!』

『……っ!? っ、勝手にしろ……!』

 

 昴は目を瞠りつつも吐き捨てるように言ったらしい。

 

『だけどな、葵。……俺はお前とは付き合えない』

『え……?』

『俺はバスケを二番目にはしたくないし、お前がそんなこと言うなんて思ってなかった』

 

 第三者である私にはわかる。

 二人は単にボタンを掛け違ってしまっただけだ。

 

 葵にとってバスケと恋はイコール。

 昴にとってバスケと恋はイコール()()()()()()()。相手がプレーヤーでもそうでなくても、恋を昇華してバスケに生かそうと考える。恋をバスケの領域と結び付ける、あるいは引っ張り上げる考え方。

 主体がバスケで恋がサブ。

 

 葵の話だと昴が好きだからバスケを好きになったと聞こえる。

 恋がメインでバスケがサブ。

 昴はこう思ったんじゃないだろうか。好きな男がバスケじゃなくて別のもの、例えばロックバンドに心血を注いでいたらそっちをやるのかと。

 お前にとってのバスケはそんなものじゃないだろうと。

 バスケが好きすぎるからこそ、葵が大切な相手だからこそ、許せなくなった。

 

 言葉が足りなかった。

 タイミングも悪かった。相手を思いやるだけの冷静さがお互いに欠けてしまっていた。

 

 昴は「恋愛のせいで」バスケが滞るのを嫌がるだろう。

 きっと、アスリートとしてスポーツには真摯でいたいと()()()()なる。

 幼馴染としては仲直りできるだろうけど。

 しばらく、そう。数年くらいは告白すら聞いてもらえないかもしれない。

 

「……私のせいだ」

 

 何が葵のことが好きだ。

 何が葵の告白は成功するはず、だ。

 

 ――単に、葵を苦しめただけだったじゃないか。

 

 あんな告白しなければ良かった。

 ううん。

 そもそも私がいなければ、二人はもっと簡単にくっついていたのかもしれない。

 

 涙がこみ上げてくる。

 罪滅ぼしにできることすら思いつかない。

 

「違う……! 翔子のせいじゃない!」

 

 葵はそう言ってくれた。

 

「きっかけを作ったのは私だよ。……葵が告白すれば絶対大丈夫だって思ってた」

「でも、翔子のお陰で私は昴に告白できた!」

「失敗するなら、タイミングは今じゃなかったんだよ。私のせいで――」

 

 ぱん、と。

 乾いた音が響いたのと、頬の痛みを結び付けるのに数秒かかった。

 

 ごめん、と。

 

 葵は呟いて、私を抱きしめてくれる。

 

「……辛かったよね、翔子」

「―――」

「昴に告白してみてわかったの。告白するのにどれだけ勇気がいるかって。……それにね、成功すると思ってたのは私も。言えばオーケーしてくれると思っても辛いんだから、()()()()()()()()()()()()()()()はもっと辛かったでしょ」

「それは」

「辛かったよね」

「……うん」

 

 有無を言わせぬ口調に、私は渋々そう答えた。

 

「どうして、告白したの?」

「祥が背中を押してくれたから」

「鳳さんが?」

「うん。だから、私は葵に告白できた。もうこれ以上、曖昧なままにしておきたくないって思ったの」

 

 私一人だったら告白なんてできなかった。

 

「どうして、そこまでしてくれたの?」

「……葵が好きだから」

 

 大層な理由なんてない。

 結局のところは私が我慢できなくなっただけだ。

 

「私は葵が好き。……葵の言い方で言うなら、私のバスケは葵を支えること」

 

 七芝で女バスに入ったのだって、葵がいつでも入れるようしたかったのが理由の一つ。

 告白だって失敗して構わなかった。

 それで葵の踏ん切りがつくなら、と思った。

 

 見ているものの違う私達。

 難儀な恋をしてしまったものだ。

 

 葵が瞬きをして私を見つめる。

 

「翔子は、それで良かったの?」

「いいも何も、私にとってはそれがバスケなんだよ。好きじゃなかったらやってない」

「……そっか」

 

 葵は頷き、腕に力を籠めた。

 彼女の顔が見えなくなる。

 

「私と同じだ」

「違うよ」

 

 葵は昴に勝ち越したい。

 私は葵に幸せになって欲しい。

 

「同じだよ。……私と同じ。そっか、そうだったんだ」

「葵?」

「翔子。ありがとう。今までずっと」

「……葵?」

「もう、頑張らなくていいよ」

「っ」

 

 胸を衝撃が貫いた。

 

 ――お別れ?

 

 もう会いたくないってことだろう。

 でも、仕方ない。

 告白した時点でそれくらは覚悟して、

 

「あの告白、今からOKしてもいい?」

「……え?」

 

 何言ってるのこの子。

 身を離して葵の顔を見ると、彼女は笑顔だった。

 

「もう顔も見たくないんじゃ?」

「何言ってるの。私が、翔子のこと嫌いになるわけないでしょ」

「でも、頑張らなくっていいって」

「だから、こういうこと」

 

 またもぎゅっと抱きしめられる。

 

()()()()()はあげられないけど、私の恋をあげる」

「……いい、の?」

「いいよ。翔子こそいいの? 私、あんたの恋とバスケ、両方欲しいって言ってるんだよ? ……昴に告白したばっかりなのに」

 

 そんなの、答えは決まっていた。

 

「いいよ。……私、葵のこと大好きだから」

「馬鹿」

 

 泣きながら笑い合って。

 私達は初めてのキスをした。

 

 柔らかくて、しょっぱくて――ほんのりと甘い恋の味がした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 夏休み明け。

 葵は七芝女バスへ遅まきながら入部届を提出した。

 

 ――ただし、同好会のある日はそっち優先という条件で、だ。

 

 新人が偉そうにと言われかねないところだけど。

 許してもらえたのは、ひとえに葵の実力と熱意のお陰。それから葵にご執心だった島崎先輩のフォローしてくれた効果がちょっと。

 ついでに私も同じ条件にしてもらった。

 

 遊ぶために部活を休むわけではない。

 むしろ、もっと自分を高めるために、私達はこの道を選んだ。

 

 幸い、葵と昴はすぐに仲直りした。

 昴も馬鹿じゃない。

 根が爽やかな彼は一晩経って頭が冷えたようで、葵と謝り合って例の件を水に流した。葵が「もう言わない」ときっぱり言い切ったのも大きかったかもしれない。

 本当にもう言わないかどうか。

 それは時間が経つのを待つしかないけれど、私としてはなんとか「言わせない」所存。

 

 そのためならなんだってする。

 

 お弁当を毎日作ってもいい。

 ラノベや漫画を断てと言われれば断つし、人前で恥ずかしいことをしろと言うのならする。

 

 代わりに、気持ちを我慢するのを止めた。

 二人っきりの時はとことん甘えることにした。

 耳元で好きだと囁き、何もないのににこにこ笑顔を向ける。

 葵は照れくさそうにしつつも嫌だとは言ってこない。

 

 あんまり公にしない方がいいかと、今のところみんなには黙ってるけど。

 上原やさつき、多恵にはさっさとバレている感じがする。

 

 ――そのうち、ちゃんと言おう。

 

 葵とそう約束しつつも。

 並んで登校しながらこっそり、人目を避けて手を繋いでみたり。

 そういうのが凄く楽しかったりする自分がいた。

 

 大好きだよ、葵。

 

 だから全力で、葵の心を奪ってみせるから。

 一生かけて。

 覚悟して、くれるよね?

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