ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
次回は原作六巻のお話となります。
「なー翔子。前にした約束、果たしてくんね?」
「あはは……。あの約束、まだ覚えてたんですね」
美星姐さんから真剣に詰め寄られたのは大学四年の時だった。
私は高校卒業後の進路に慧心学園大学部を選んだ。
近い地域の学校という縁か、指定校の枠があったのでそれを利用した形だ。学部は当初の予定通りに教育学部を選び、そろそろ就活を始めないとというところ。
小中学校の免許は両方取れるようにしたから色々候補はあるものの、さて第一志望をどこにしたものかと考えていたそんな時である。
姐さんの家に呼び出されたかと思うといきなり切り出された。
私が遊びに来ること自体はよくある。
というか、大学に入ってからは自発的に来ることも呼びつけられることも増えていた。この人、放っておくとロクな食事しないし。定期的に訪れてはご飯を作ったり、簡単に温められるおかずなんかを冷蔵庫に入れておいたり、掃除洗濯をしたりしていた。
お前は私のお母さんか、なんて言いつつ、姐さんもノリノリだったし。
なんなら実のお母さんと鉢合わせして一緒に料理したことさえあった。
で。
どうせまた大した話じゃないんだろうなーと思っていた私は、思わぬ要件に目を瞬いたのだった。
「まだ焦るには早くないですか?」
「もう三十路が見えてるだろ。おかーさんもおねーちゃんも焦り始めちゃってんの」
「いい人、いないんですか?」
「いたように見えるか?」
「……見えませんね」
週二くらいで通ってる私が言うんだから間違いない。
美星姐さん、休みの日はサバゲーに行ってるか家でゲームしてるか、さもなければ智花ちゃん達か昴達と会いに出かけてばかりで全然男っ気がない。
これはやはり、無理やりにでも香椎君とくっつけておくべきだったのかもしれない。
――と。
件の約束について触れるのを忘れてた。
特筆するほどの大事な約束じゃなかったんだけど、いつだったか「どうしても貰い手がなかったら私がお嫁に行きますよ」みたいな話をしたことがあった。
姐さんの方も冗談めかして「おー頼むわー」なんて言ってて、蒸し返されることもなくそれっきりで。
私も言われるまですっかり忘れていた。
「昴がとっつかまってくれれば良かったんですけど」
「あいつは葵がとっ捕まえて子供までできそうな雰囲気じゃん」
「香椎君も多恵とラブラブですしね……」
あの二人に関してはいつの間にかそういうことになっていた。
どっちかというとお似合いなのはさつきの方じゃ? とも思ったんだけど、多恵の奥ゆかしさにやられたとかそんな妄言を語られた。
まあ、若干ギャルっぽいさつきと腐女子の多恵なら後者の方が奥ゆかしいかもだけど。
「で、私ですか?」
「おかーさん達も、もう翔子ちゃんでいいからって言ってるわけ。嫌?」
そこまで追い詰められてたんだ……。
現状既に通い妻みたいなものだし、七夕さんとは仲良しだし、お母さんにも顔が知れてるけど。可愛いだろう次女の相手が女の子でいいと決断するとは。
私は苦笑して首を振った。
「私で良ければ喜んで」
「やった! 翔子ならそう言ってくれると思ってた! 付き合った子と全然長続きしてなかったし……」
「うっ」
痛いところを突いてくる。
葵に振られた後、特に大学に入ってからは色んな子と付き合った。でもどういうわけか一、二か月とかでみんな逃げて行ってしまう。
いわく「愛が重い」「この先ついていける自信がない」「好きだけど疲れちゃった」などなど。
もう駄目だと思って男の子に走って、こっちは比較的長続きしたんだけど、私が世話するようになってから急にモテ始めて他の子に持っていかれた。
しばらく恋はいいかなー、と思いつつ、社会人百合とかいう絶望的に困難な道に途方に暮れていた。
イーグルジャンプに就職する道を模索しなかったのが失敗だったか。
「わ、私のことはいいじゃないですか。……私は仕方なく! 仕方なく! 美星姐さんのピンチを救ってあげるんです!」
「お前、そういうところ図太くなったよな……」
「このくらい割り切らないと季節ごとに失恋なんてやってられないんですよ……」
遠い目をすると姐さんはため息をついた。
「私が悪かった。だから機嫌を直してくれる?」
「……あはは、ごめんなさい。言いすぎました」
私は苦笑して答え、それから首を傾げた。
「でも、女同士じゃ結婚できませんよ? 籍を入れるわけにもいきませんし、式も挙げられません。具体的には何をすればいいんでしょう?」
これには姐さんも「あー」と呻いた。
「ま、ご飯作ってくれたり掃除洗濯してくれれば十分じゃね? 後はできるだけ一緒にいるとか」
「見事に今までと変わりませんね……」
「じゃーいっそ同棲する? 家賃とか光熱費も節約できるし」
「いいですね。でもそれなら、私が今住んでるマンションの方がいいかもしれません。広いですし、セキュリティもしっかりしてますから」
「私が移るのかよ……。途端に面倒臭くなってきたんだけど」
「私が手伝いますから」
私は「愛が重い」と言われるくらいには嫉妬深い。
美星姐さんがこんな安アパートで暮らしていては、いつ悪い人の毒牙にかかるか気が気でない。まあ、ここ数年でこの人を襲ったのってロリコンかつショタコンの羽多野先生だけだけど。
「そういえば羽多野先生じゃ駄目なんですか?」
「お前は私に死ねって言ってるのか。……お、そーだ翔子。結婚しなくても苗字を揃える方法があるよ」
「? それって……」
姐さん、ううん、美星さんは頷いて。
「そ。お前さ、いっそのことうちの子になっちゃえよ」
悪戯を思いついた子供のような顔でそう告げたのだった。
☆ ☆ ☆
美星さんと添い遂げると報告すると、各所が騒然となった。
昴と葵からは「正気か」と三回くらい確認されたし、香椎君ですら「勇者だな」みたいな反応をくれた。七夕さんは嬉し泣きをし、昴のお父さんですら私に「ありがとう」と何度も何度も言ってくれた。
同性愛に関しては「だって翔子だし」でスルー。
それはまあ、何人もの女の子と付き合ってきた以上、バレてないわけがないんだけど。
養子縁組の件も割とすんなりご両親から受け入れられた。
誤算だったのは、私が篁家に入るのではなく、美星さんが鶴見家に入るのを提案されたこと。一人娘を奪ってしまうのは心苦しいというのが理由だ。
七夕さんが銀河さんに嫁いでいるんだから条件は一緒だと思うんだけど。
美星さんのご両親はこれを譲らなかった。私の両親としても、向こうから来てくれるなら拒む理由はない。もしかしたらお互いにお互いの逃げ道を潰しにかかろうとする裏の思惑があった可能性もなきにしもあらず。
就活が本格的に始まったり、美星さんの引っ越しを手伝ったりしているうちに手続きは進んだ。
そして無事、私達は同じ苗字となった。
ささやかなお祝いの会が身内だけで開かれ、そこでウェディングドレスとタキシードを着た。
男装をしたのも久しぶりだ。
ドレスよりスーツの方が似合うと言われたのは、まあ、お酒の席だったので根には持たないでおく。
美星さんにご執心だった羽多野先生は意外にも祝福してくれた。
私なら絶対嫉妬するのに、と思ったら、私が女同士に慣らしてくれればワンちゃんあるかも? と思っているらしい。
生憎だけど他の人に渡すつもりは毛頭ない。
結婚ほどさらっと解消できる関係でもないし、私は何度も言う通り嫉妬深いのだ。
「やー、このマンションは楽でいいな。広いし綺麗だし、翔子が掃除してくれるし」
「テレビやパソコン置いても余裕ですもんね」
引っ越し作業を嫌がっていた美星さんも、一度越してくると手のひらをくるりと返した。
表札には鶴見性で私と彼女の名前を列記。
名目としては姉妹で共同生活を送っているという体だ。法的にも姉妹なので間違ってはいないし、そのうちやって来るだろう下種な勘繰りは無視する方向。
「でも、私が仕事始めたら空いてる時間も減っちゃうんですよね」
「気にすんな。そしたら私は」
「家事、手伝ってくれます?」
「いんや。飯をカップ麺で済ませる」
駄目だこの人。
「部活の顧問しながら家事かあ」
「にゃはは。やりたいって言ったのは翔子だろ。できるところまで頑張ってみな」
「うー。まあ、そうですね」
私は第一志望を慧心初等部に定め、見事内定を得た。
美星さんは女バスの顧問を私に引き継ぐつもりで、遊ぶ時間が増えると大喜びしている。まったく、女泣かせの『旦那様』である。
毎日うきうきしながら家事をしている私にも問題があるけど。
ご飯を作るにしても、食べてくれる人がいると張り合いが出る。美星さんはいつも「うまいうまい」と言って食べてくれるし、聞けば味付けの希望も言ってくれるから作り甲斐もある。
――専業主婦も良かったかなあ。
とはいえ、お金はあって困るものじゃない。
私立なのでだいぶマシではあるものの、教師のお給料はそこまで高くないわけだし。
ふっと思い立って養子を取ったりすることも考えると貯金が欲しかった。
「ところで翔子、今日の晩御飯はなに?」
「ふふっ。今日は親子丼です」
「お、いいじゃん。あ、でも三つ葉とか載っけなくていいからな」
「えー、あった方が綺麗なんですよ」
何の気まぐれか、美星さんが台所に来て私の料理を覗き込んでくる。
肩越しとはいかないので横に立つ格好。
多分、私達を見て恋人同士と思う人は殆どいないだろう。よくて姉妹、下手すると母娘に見られかねない。ちなみに美星さんが娘で。
「翔子って裸エプロンとか似合いそうだよな」
「今度してみましょうか?」
「いいよ。別にそういう趣味はないし」
お前に逃げられても困る、という呟きが聞こえた。
「逃げませんよ、私は」
「それでもだよ。翔子といるのはなんだかんだ楽しいから」
「もう。そういうこと言ってるとキスしますよ?」
「別にキスくらいで今更動じねーよ」
そこまで言うならと、私は包丁を置いて振り返った。
身長差のために一回屈んでから唇を重ねる。
数秒の後に離れると、大人で格好良くて、そのくせ童心を忘れない美星さんがほんのりと頬を染めていた。
「押し倒したいです」
「待った。そういうのは別にいらないから」
「私、逃げちゃいますよ?」
「さっきと言ってることが違うじゃない。……わかった。じゃあ卒業祝いってことで。それまでお預け」
「わかりましたっ」
ついつい声が弾んでしまった。
あの美星さんから許可が出たのだ。卒業までにまだ数か月あるけど、私達の先は長いんだから焦らずに行かないと。
「愛してます、美星さん」
「はいはい。お前、そういうところじゃね? 愛が重いって言われるの」
「う。痛いところを……」
料理を再開しながら私は苦笑した。
「美星さんこそ、あんまり私を誘惑しないでくださいね。我慢できなくなっちゃいますから」
「しないっての。私は翔子が傍にいてくれればそれでいーの」
だからそういうところなんですって。
仕方ないからもう一回キスをさせてもらった。もう何度もキスしてるけど、美星さんの唇は柔らかくて温かくて、いつもながらドキドキしてしまった。