ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
『るーみん! 明日あたしんちに集合ね!』
真帆ちゃんからそんなメールが届いたのは、夏休みが中盤に差し掛かった木曜日のことだった。
私はスマホの画面を何度か見返してから首を傾げる。
「……明日かあ」
随分急だけど、何かあったのだろうか。
確か、慧心女バスの練習再開するのは三日後のはず。
じゃあ昴関連じゃないのかと考えて、
「あ」
思い至った。
むしろ何で真っ先に思いつかなかったのかって感じだけど、多分、このメールは十中八九、昴が葵と付き合いだしたことによるものだろう。
葵からは電話で勝利報告を貰っている。
嬉しさが抑えきれないといった彼女に、私は心から「おめでとう」を言った。葵は「ごめん」とも言ってくれたけど、謝る必要なんてどこにもない。葵が本懐を遂げられたなら、私にとってもそれが一番の幸せなんだから。
でも。
このことで恋が破れてしまったのは私一人ではない。
愛莉ちゃんと智花ちゃん、もしかしたら紗季ちゃんと真帆ちゃんとひなたちゃんも、昴に恋をしていたかもしれないのである。
情報の出所は智花ちゃんだろう。
彼女は毎日、昴のところへ通っていると聞いた覚えがある。
『そういえば俺、葵と付き合い始めたんだよ』
あの朴念仁が何の気なしに報告したとすれば、それはもう衝撃だっただろう。
あっという間に慧心女バス全員に伝わり、昴達に最も近い高校生ということで私が呼ばれた、といったところか。
それは、もう。
「行くしかないかな」
呟いた時、スマホに着信。
発信者は『久井奈聖』。
『もしもし。るーみんさまでしょうか?』
「はい。ご無沙汰しています、久井奈さん」
『いいえ。キャンプの際はお手伝い誠にありがとうございました。……それで、真帆さまからのメールはもうご覧になられましたでしょうか』
どうやら、主人の様子を見て連絡してきてくれたようだった。
それとなく聞き出してくれた事情も予想した通り。
「ありがとうございます、久井奈さん。明日、必ず行きますから」
私は久井奈さんにお礼を言うと、訪問を約束する。
『お願いいたします。……お茶会のセッティングはまた後日いたしましょう』
「あはは、そうですね」
真帆ちゃん達の練習が再開後、半休を取った久井奈さんとお茶の予定だった。
恋愛の愚痴を聞いてもらうつもりだったんだけど、この分だとそっちはグダグダになりそうである。
☆ ☆ ☆
「るーみん! あおいっちとすばるんが付き合いだしたってどういうこと!?」
三沢家の応接間には、真帆ちゃんほか慧心女バスのみんなが勢ぞろいしていた。
お茶の準備をしてくれる久井奈さんにお礼を言う間もなく、私は真帆ちゃんを先頭としたみんなに詰め寄られてしまう。
年齢差があるとはいえ、五人がかりと結構な迫力。
「み、みんな落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかー! すばるん取られちゃったんだから!」
「鶴見さん、知っていることがあったら教えてください。トモと愛莉のためにも」
五人のうち、最も憤慨しているのが真帆ちゃん。
ヒートアップはしてるけど、私を責める雰囲気ではない。智花ちゃんから断片的な話だけ聞いて居ても立っても居られないといった感じか。
真帆ちゃんをフォローする紗季ちゃんは一見冷静そうだけど、表情がいつもより暗く思える。
表面を取り繕っているだけで内心穏やかじゃないと思った方が良さそう。
紗季ちゃんから名指しされた愛莉ちゃんと智花ちゃんはただただ不安そう。
手をぎゅっと握って私を見上げてくる姿を見てすぐさま抱きしめてあげたくなるけど、今はその時じゃないのでぐっと我慢。
残ったひなたちゃんは見た感じいつも通り。
「おー。おねーちゃんとおにーちゃん、恋人同士になった?」
「うん、そう。昴と葵は恋人になったの」
隠すことはできない。
私はひなたちゃんの質問に頷いて答えた。
――愛莉ちゃん達に動揺が広がる。
あらかじめ聞いていても、確定情報になると再び意識してしまうのだろう。
「どうしてですか? トモも愛莉もショックを受けて――」
「葵が昴のことを好きだったからだよ、小さい頃からずっと」
子供向けの説明なんて私にはわからない。
だから、私に言えることをそのまま伝えるしかなかった。
「ずっと想い続けて、やっとの思いで告白して、OKを貰ったの」
尋ねてきた紗季ちゃんの目を見て言う。
葵が昴を想っていたのは小学校か、その前か。愛莉ちゃん達の歳からあと最低四年は片思いを続けていることになる。
愛莉ちゃんが拳を解いて、か細い声で呟く。
「……そんなに長く……」
「うん。だから、葵を責めないであげて欲しいの。好きな人に好きって言うのは、いけないことじゃないでしょ?」
「……はぅ」
智花ちゃんが息を吐く。
理屈は理解してくれたみたいだ。聡い子だ、と思う。あれから唯一、昴に直接会っているせいもあるのかもしれないけれど。
あの昴が、一度OKした告白に思い悩むとは思えない。
と。
「でも、すばるんはあたしたちのコーチだ! あおいっちに取られるのは許せねー!」
あー、それがあったか。
それで一度、葵は真帆ちゃん達と対立している。
コーチを取られると思ったら必死になるのもわかる。
でも。
「取られないと思うよ?」
「……ほえ?」
気勢を削がれて口を開ける真帆ちゃん。
「彼女ができたくらいじゃ、昴はみんなのこと放り出さないよ。むしろ、練習再開が楽しみだとか葵に言ってひっぱたかれてるんじゃない?」
「そうなの、トモ?」
「う、うん。昴さんはいつも通りで、どんな練習にしようか楽しそうにしてらっしゃったけど……」
「おー、おにーちゃん、今まで通り?」
「うん。一応昴にも聞いてみて欲しいけど、大丈夫だと思うよ」
にっこり微笑むと、ひなたちゃんは安心したように笑顔を見せてくれる。
この子を見てると和む。
「で、でも! 長谷川さんのことを好きな子なら他にもいます!」
必死に反論してきたのは、紗季ちゃん。
私には彼女が友達の話をしているようで、実際には「友達の話」をしているように見えた。
苦笑を浮かべ、できるだけ優しく尋ねる。
「それは、みんなに了解を取らないと付き合っちゃ駄目ってこと?」
「っ、それは」
昴のことを好きな子みんなにOKを貰わないと付き合えない。
紗季ちゃんの言いたいことは極論、そういうことになってしまう。
もしそうなら、昴はきっと葵とは付き合わない。
代わりに――昴が愛莉ちゃん達とバスケで繋がっている限り、その中の一人と付き合うこともないだろう。みんなを平等に見てあげたいから、とかなんとか言って。
「確かに、前もって話をする方が良いと思うよ。もしかしたら、葵はそうすべきだったかもしれない。私は葵が悪いとは思わないけど、みんなが許せないっていうなら仕方ない」
葵と喧嘩でもなんでもすればいい。
最終的にどうするかを決める権利は私にはない。
「怒ってもいいよ。でも、昴を責めるのだけはやめて」
「長谷川さん、を?」
「そう。昴は悪くない。だって知らないんだから。他に、好きって思ってくれてる子がいることを」
「!」
昴は知らない。
愛莉ちゃんや智花ちゃん、紗季ちゃんが自分に恋愛感情を寄せていることを。
知らないものは考慮しようがない。
「恋って、そういうものなんだよ。告白して、OK貰わなくちゃ叶わない。告白してもOKが貰えるかなんてわからない。それでも必死に勇気を振り絞って告白するの」
何で私より先に、なんて言いがかりでしかない。
後から言ったって負け犬の遠吠え。
じゃあなんで告白しなかったの? という話だ。
それをこの子達に言うのは酷だろうけど。
「……私もね、好きな人に告白したの」
「え……?」
声を上げたのは紗季ちゃん。
でも、他の子達も目を丸くしてこっちを見ていた。
「でも、振られちゃった。好きな人がいるからって」
「……翔子さん」
「その人は無事に好きな人と付き合い始めた。恋人を奪うのはマナー違反だから、私はもう諦めちゃった」
「いいの?」
真帆ちゃんの純真な瞳が私を見つめてくる。
「いいよ。……でも、もしみんなが昴のことを今でも好きなら、諦めなくてもいいんだよ。昴達がこのまま結婚までいくかなんて誰にもわからない。昴がフリーになるまで、マナー違反にならない程度にアプローチしていくのだって、立派な決断だと思う」
「………」
みんなが黙り込んでしまった。
ちょっと言いすぎたかもしれない。特に「別れるまで待てばいいじゃん」なんて、お前が言うかとしか言いようがない。
でも、少しでも伝わってくれればいい。
私は沈黙を和らげるように明るい声を出した。
「ごめんね、変なこと言って。もしかしたら昴も葵に構ってばかりで手を抜くかもしれないし、何か困ったことがあったら私が協力するから――」
「おねーちゃん、ほんとう?」
「え」
差し込まれたひなたちゃんの声に、硬直する。
無垢すぎる視線に射貫かれていた。
可愛い。
いや、そうじゃなくて。
「うん、もちろん。私にできることならなんでも……」
「じゃ、じゃあ翔子さん! お願いがあるんです!」
「お願い? なんだろう」
「それは……」
勢い込んだ愛莉ちゃんは、私の問いかけに視線を逸らす。
いや、隣にいた智花ちゃんにバトンタッチしただけか。
すっ、と、静かに進み出た大和撫子が私を見上げて「お願い」を告げる。
「あの、私達と一緒に、夏祭に行ってくれませんか……!?」
それは意外な、けれど微笑ましいお願いだった。
☆ ☆ ☆
智花ちゃんが口にした夏祭りのことは私も知っていた。
一週間後の土曜日。
近くの神社を中心に開催されているもので、何年か前から花火大会が開催されて賑わっている。女流棋士である母さんが毎年、地元のおじさんやおじいさん相手に将棋を指しに行っていて、その関係から私も足を運んだことがある。
そういえば、昴達と行ったことはない。
母さんが浴衣着せようとしてくるし、いつの間にかお年寄りから顔を覚えられて「鶴見さんとのこお嬢さん」扱いをされるしで気恥ずかしかったからだ。
でも、智花ちゃん達となら気楽に楽しめるかもしれない。
私は、二つ返事でこれを了承した。
みんなも、このタイミングで昴に「夏祭りに行きませんか?」とは言いづらかったらしく、それはもう喜んでくれた。
特に真帆ちゃんは大張り切りで、
「ねーねー、るーみんの分も浴衣、おとーさんに頼んであげよっか?」
なんて言ってくれた。
浴衣なら家にもあるし、安いものでもないから遠慮しようと思ったんだけど、結構ぐいぐい来られて結局お言葉に甘えてしまった。
久井奈さんによれば、愛莉ちゃん達は代価として服のモデルを引き受けているらしい。
真帆ちゃんがお父さんに私の写真(硯谷に行ったときのもの)を見せたところ、是非一緒に連れてきなさいと言われたんだそうな。
背の高い素人女性でメンズも着こなせそうだと。
社内用の見本写真らしいので、それくらいなら……と、ありがたく引き受けさせてもらうことに。
「なんか、私の方が得しちゃってるような気が」
「お気になさらないでください。真帆のお父さんは激甘ですから、真帆が頼めば大抵のことはしてくれます」
「なるほど……」
昴交際ショックから立ち直った紗季ちゃんがくすりと笑って教えてくれる。
「でもごめんね、私じゃ昴みたいにエスコートはできないだろうけど」
「うふふ。るーみんさまが男性役をなさるという手もございますよ?」
給仕が一段落した久井奈さんが楽しそうに囁いてくる。
それはそれで楽しそうだけど、
「それだと浴衣が着られないんですよね……」
母さんが聞いたら狂喜乱舞しそうな悩みを浮かべてみる。
そこへ、智花ちゃんが「あの」と口を開いて。
「実は、もう一つお願いがあるんです」
「うん。どんなこと?」
むしろこれで少しはつり合いが取れると快く頷く。
「はい。実は、父が保護者の方を必ずつけろと言っていて……」
事前に一度連れてこいと言っているらしい。
久井奈さんにお願いする手はもちろんあるけど、それは久井奈さん当人としても「従者がでしゃばるのは……」とできれば遠慮したいところらしい。
そういうことならと頷いて、
「それじゃあ、お父さんのご都合がいい日を聞いてみてくれる?」
「いいんですか? その、父は茶道の家元で、結構厳格な人で……」
なるほど。
言いにくそうにしていたのはそれが原因か。そうなると女子が行っても不安だと言われてしまう可能性が……と、待った。
「茶道の先生……? 智花ちゃんの苗字って『湊』だったよね?」
「は、はい。お父さんは湊忍といいますけど……」
「私、会ったことある」
「え?」
智花ちゃんが目を丸くして首を傾げた。
※原作との相違点はだいたいつるみんのせいです