ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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6th stage 翔子は小学生と夏祭りに行く(3)

「ちょっとだけならいいじゃん。ね? 飯なら奢ってあげるし」

「すみません、人を待ってるので」

 

 半端に染めた髪に安物のアクセサリー、耳にはピアス。

 同い年か少し年上くらいの男性――もとい()()は軽薄な笑みを浮かべて手を広げた。

 他にもお客さんがいるというのに、ファミレスの店内をぐるりと見まわして。

 

「いつ来るの? 来ないっしょ。暇な時間過ごすくらいなら俺と遊んだ方が良くない?」

「あはは、ごめんなさい。私、そういうの苦手で……」

「ああ、うん! そうだよね! わかるよ、俺も最初はなかなか女の子と話せなかったし! でも、こういうのって慣れだからさ! 俺が君を一人前にしてあげるから安心して……」

「あの」

「あ?」

 

 ピアス野郎は顔を顰めて声の方を見た。

 んだよ邪魔すんじゃねえよぶっ飛ばすぞ、とでも思ってるんだろうけど。

 

「その子は俺の連れです。放して頂けませんか?」

「……ちっ」

 

 舌打ち一つ。

 くるりと踵を返してピアス野郎は去っていく。

 私はほっと息を吐いてお礼を言った。

 

「ありがとう。助かっちゃった」

「気にするなって。そっちこそ災難だったな」

 

 そこにいたのは昴と、それから後ろに葵。

 穏やかにご退場願った昴と対照的に殺気を放っていた葵はふっと笑って、

 

「それだけ着飾ってればナンパもされるわよ。……やっほ、翔子」

「葵、()()()()。あはは、ちょっとフォーマルな場にお呼ばれしちゃって」

 

 あれから初の顔合わせ。

 お互いぎこちなさはあるものの、なんとか普通っぽく話せたと思う。

 そのあたりの事情を知らない(はずの)昴は首を傾げて、

 

「フォーマルな場って……国会議員と会食とか? なわけないか」

「ないない。将棋の名人くらいならワンチャンあるけど。とりあえず注文しちゃおうか」

 

 それぞれに注文を終えたところで説明する。

 ちなみに私は和風パスタのサラダセット、葵はチキングリルのご飯セット、昴は目玉焼きハンバーグでパンのセットだった。

 

「智香ちゃんのご両親かあ……それは緊張するかも」

「にしても、そんな話になってたんだな。智香達、遠慮しないで言ってくれればいいのに」

 

 いや、昴、それはなかなか言えないよ……。

 

「夏祭りの上に花火大会だからね」

「? どういうことだ?」

「だって、そんなロマンチックなシチュエーションなら彼女と一緒に行きたいのが普通じゃない?」

「なっ」

 

 途端、赤面&硬直する葵。

 幸い硬直は数秒で解けたものの、

 

「な、ななな……っ、恋人とかっ。そりゃ、私と昴は恋人……だけど。恋人……えへへ」

「はいはいご馳走様。あ、遅くなったけどおめでとう昴。葵とはもう話してたんだけど」

「あ、ああ。さんきゅ、翔子。……そうか、夏祭りとか花火大会なんて漫画でもよく出てくるもんな。デートとかどうすりゃいいのかイマイチわからなかったんだが」

 

 つんつん指をつき合わせてしまらない顔をする葵と、うっすら顔が赤い程度で軽く受け流す昴。

 うん、さすがの温度差である。

 とはいえ、昴ものほほんと構えていたわけではなく、彼なりにデート先とか検討していた様子。リア充爆発しろ。

 

 ……でも、良かった。

 

 この様子なら放っておいてもゴールインするだろう。

 だからって放っておくつもりはないし、七夕さんとか美星姐さんとかがこぞって世話を焼いてくれるはず。

 これからはさつき達と「まだ結婚しないの?」ってからかえばいいってことだ。

 

「よし。せっかくだから俺達も行こうぜ、葵」

「ふえっ。そ、それって……二人っきりで、だよね?」

「ああ。嫌なら誰か誘ってみるけど」

「……ううん。嫌な、わけないじゃない。嬉しい」

 

 これ、私お邪魔だったかな?

 

「それでね、もいっこ相談なんだけど」

「お、おう」

「っ。う、うん。どうしたの?」

「実はね……」

 

 慧心女バスの練習についても相談してみる。

 

「昴、もちろん続けるんでしょ?」

「もちろん。智花にも言ったけど、むしろ辞めるわけがない。みんなの指導は俺にとってかけがえのない時間なんだから」

「だと思った。……葵は、どうする?」

「え? 私?」

「うん。ほら、昴はこれからも週三で指導に行くわけでしょ? 一緒にいようと思ったら……ね?」

「ああ、そうか。来いよ葵。みんなも歓迎だろうし」

 

 うーん、それはどうだろう。

 はっきり説明するのも難しいので、私は曖昧な笑顔を浮かべてしまう。

 

 ――好きな人との時間に、その人の彼女が割り込んできた。

 

 知らない仲じゃない、むしろ親しい相手とはいえ、歓迎できるだろうか。

 さっきの調子でいちゃいちゃされたら「失せろ馬鹿」くらい思っても不思議はない。

 

 幸いなのか、葵には私の懸念が伝わったようだった。

 彼女は私とよく似た笑みを浮かべて首を傾げる。

 

「いや、止めとくわ。邪魔しちゃ悪いし」

「邪魔なもんか。俺だけじゃ五人を見切れない時もあるし、フォワードからの意見だって」

 

 言い募ろうとした昴を葵は遮って、

 

「手伝いが必要なら翔子に頼みなさいよ。そういう話なんだし」

「いいの?」

「いいも悪いも。……あんたなら、絶対大丈夫って信じられるし」

「……あはは。ありがとう」

 

 うん。それは間違いなく大丈夫。

 葵のいない間に昴のことを落とすなんて百パーセントありえない。

 逆だったら自信ないけど。

 

「それじゃあ、ちょっとお邪魔してみようかな」

「部活は大丈夫か?」

「ほら。進学考えたらいつまで続けるのって話もあるし。コーチ的なことと同好会くらいにしておいた方が何かとやりやすいかなって」

 

 昴は「なるほどな」と頷いてくれたけど、もちろん本当の理由は違う。

 葵は少なくとも一年生の間、女バスに入らないだろう。

 二年生からどうするかはわからないけど、マネージャーと選手の兼任という線が濃いと思う。そうなった時、私がどれだけ力になれるかという話。

 

 葵にとっては昴=バスケだ。

 はっきり聞いたわけじゃないけど、昴に勝ち越すことが葵の第一だと思う。

 だとすれば。葵にとって女バスでの立ち位置はそんなに問題じゃない。というか、葵なら私がいてもいなくても、やりたいならやりたいって突進していくはず。

 なら、むしろ私がやるべきは「試合における葵の相棒」じゃなくて「選手・荻山葵のサポーター」かもしれない。

 男子部が困らないようにマネージャーやるとか、そっちの方が私に合っているかもしれないと思った。

 

 それが私のバスケットボール。

 後悔するつもりは微塵もない。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 とりあえず夏休みの間にお試しで、と、私はみんなの練習にお邪魔することにした。

 思い立ったが吉日ではないけれど。

 智花ちゃんのお宅に訪問して、昴達と話をした翌日がちょうど練習再開日である。

 

 ――過密スケジュールすぎじゃない?

 

 部活行ってアニメ見て漫画読んで料理して掃除して洗濯して、合間に服買いに行ったくらいの私からしたら驚き……実は私も大概だ、これ。

 ともあれ。

 昴と校門前で待ち合わせた私は、警備員さんに紹介してもらった後で体育館へ向かった。

 

「待たせんなよすばるんー! 来ないかと思っただろ!」

「こら真帆、まだ時間前じゃない。……ようこそ、長谷川さん」

「おー。おにーちゃん、おねーちゃんといっしょ」

「長谷川さんも、翔子さんも、いらっしゃいませ!」

「えへへ。昴さん、翔子さん。今日はよろしくお願いします」

 

 入った途端の大歓声。

 女の子とはいえ、やっぱり小さい子のパワーってすごい。

 昴は慣れた様子で笑顔を浮かべてるけど。こいつ、保父さんとか向いてるんじゃないだろうか。

 

 ひとしきり挨拶した後は着替えの時間。

 

 昴は男子更衣室で一人、私は女子更衣室でみんなと着替えることになる。

 邪魔しちゃ悪いかと思って隅っこの方を借りてみたけど、気を遣ってくれたのか愛莉ちゃんが寄ってきてくれた。お礼を籠めて微笑むと、可愛らしい笑みが返ってくる。

 

「翔子さんがいてくれると、わたし、なんだか安心できます」

「あはは。コーチとしては頼りないと思うけど、お手柔らかにお願いします」

 

 愛莉ちゃんと視線を交わし合った後、そっと一言。

 

「といっても私はお手伝いだから安心してね。……紗季ちゃん」

「べ、別に心配なんかしてません」

「サキは大人だなー。あたしはちょっと心配だったぜ。すばるんをるーみんが取っちゃわないか」

「おー? おねーちゃん、泥棒猫?」

「ひなた、猫さんはいないと思うよ……?」

 

 どこからそんな言葉聞いてきたひなたちゃん。

 小学生って昼ドラの時間に帰れたりしたっけ……?

 

「取らないから安心して」

「だよね! むしろアイリーンが取られちゃいそうだし!」

「ふええっ!? ま、真帆ちゃん、変なこと言わないでよおっ!」

「うーん、愛莉ちゃんには怖いお兄さんがいるから一筋縄では……」

「翔子さんも乗らないでくださいっ!」

 

 なんて言いながら着替えを終えて戻ったら、とっくに着替えていた昴に「仲良しだな」って言われた。

 それはつまり精神的に同レベルということか。

 うん、ちょっと否定できないのが困る。

 

 練習の方は宣言通り、お手伝いレベルでの参加になった。

 

 まずは昴のやり方を見せてもらわないと、ということで、口は出さずに手を動かす感じ。

 サポーターが一人だとやりづらい練習もあったようで昴もほくほく顔だった。

 

 結構ハードな基礎練をこなした後はミニゲームで締め、という王道の構成。

 それでいて練習内容や練習量はみんなの技量や体力をしっかり見極めた上で定められているようで、さすが理論派と言わざるを得ない。

 ならば感覚派、経験重視の私としてはそっち方面から攻めるべき。

 昴がミニゲームに参加せず観察に回るということだったので、ありがたく愛莉ちゃんと対決させてもらった。私と真帆ちゃん、紗季ちゃんのチームに愛莉ちゃんと智花ちゃん、ひなたちゃんのチーム。

 

 練習ながら、なかなか白熱した試合になった。

 時間が短めだからか、いきなりトップギアで攻めてくる智花ちゃん。私が彼女をマークすると愛莉ちゃんの「高さ」を止められる人がいなくなってしまう。指示出しをお任せした紗季ちゃんは二律背反に悩んだ末、真帆ちゃんの瞬発力を頼りに智花ちゃんを止めにかかった。紗季ちゃん自身はフリー気味に構えつつ、時には真帆ちゃんのフォローに入り、時にはひなたちゃんがスリーでシュートしないよう抑える。

 攻めではポイントゲッターとして頼られた私が愛莉ちゃん、智花ちゃんのダブルマークを受けた。

 こうなるとさすがに突破しづらいため、パスワークでゴールを狙う形となる。真帆ちゃんと紗季ちゃんが点を決めると私ばかりを押さえてもいられなくなるため、その隙を狙って私にスイッチする。

 真帆ちゃんが「やって」とせがむのでダンクも決めた。……一回だけ。

 結果的には私達が勝利した。

 

「みんなお疲れ様。翔子もさんきゅ。いいデータが取れた」

「ありがと。……そうだね、センター同士の対決とかは今までできなかっただろうし」

 

 これまでのミニゲームだと昴と智花ちゃんが分かれる形だったらしい。

 後のメンバーはバラバラだったみたいだけど、その時と比べるとポジションのマッチ率はかなりいいはず。

 

「ごめんね愛莉、ひなた。もうちょっと点を入れられてれば」

「ううん、私こそ、翔子さんにマークされると全然突破できなくて……」

「ともか、気にしないで。ひなも次はもっとシュート入れる」

 

 しょんぼりしている愛莉ちゃん達だけど、センター同士で抑え合う構図はきちんとできていた。高校生の私が気を入れて挑まないと危なくて仕方ない智花ちゃんも小学生として規格外に過ぎる。意識の外に置いた時のひなたちゃんは本当に変なところからひょっこり現れるから困る。

 

「やっぱかっこいーなーダンクシュート! あたしもできるようになるかな?」

「その身長じゃ無理でしょ。……それより、勝ったけどミスが多かったわ。トモが向こうに回るとやっぱり怖いっていうのと、愛莉と鶴見さんの動き方を同じだって勝手に思っちゃってた」

 

 こっちのチームは向上心の塊のような真帆ちゃんと、冷静な紗季ちゃん。

 特に紗季ちゃんの分析には舌を巻く。

 ちらりと昴を見れば「どーだ俺の弟子は」みたいな顔をしていた。まあ、そう言いたくなる気持ちもわかる。

 

「よし! じゃあ、あんまり時間ないけど反省会しようか。今回は翔子が入ったからいつもと勝手が違っただろ」

 

 そして、反省会をして終了。

 

 ――正直、楽しかった。

 

 また来てもいいかな? と尋ねたら、賛成四の消極的賛成一を貰ったので、次もお邪魔することにした。

 あ、真帆ちゃんに一つ「お願い」するのを忘れてた。

 後でメールを送っておこう。了承が得られたら本人にも別途連絡かな。

 

 夏祭り、なんだかんだ言って楽しみだ。

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