ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
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【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)
【夏休みの思い出マイベスト】
初の試合中ダンクシュート
(ただしミニバスゴールにて)
【楽しみにしてる二学期の学校行事】
学園祭のミスコンに葵を放り込むこと
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「このぱんつ。どうしておしりのところ、ひもになってるの?」
「うーん……その方がグッと来るからかな?」
夏祭りから一夜明けた日曜日。
私は、とある高級ランジェリーショップにやってきていた。
しかも、スーパーやデパートの中じゃなくて単独で店を構えてるところ。お洒落したい年頃の女子高生とはいえ、ちょっと気後れしてしまう上品さが店内には漂っている。
パンツスーツ姿の店員さん達も綺麗で格好良くて、プロの風格がある。
お客さんに良い下着を届けたいという気持ちが品物だけでなく全体から感じられる、そんな店内で。
無垢な表情で尋ねてきたのはひなたちゃん。
彼女の手には派手な紫色のTバック。ひなたちゃん自身はもちろん、私でさえ穿きこなすことは至難の業と思われる、まさに大人の女性のための夜の下着。
隣に立っている紗季ちゃんも困り顔をしていて、聞かれたけどわからなかったのが見て取れる。
二人に目線を合わせながら、私は首を傾げて答えた。
と。
同行していた幼馴染――現在、もう一人の幼馴染と交際中のバスケ少女が、顔を真っ赤に染めて私に耳打ちしてきた。
「ちょ……っ!? あんた小さい子に何教えてるのよっ!?」
「そう言われても、たぶん変に隠す方が良くないし」
「だからって言い方ってもんがあるでしょうがっ!?」
うん、それはもちろん承知している。
私は葵に目配せすると、視線をひなたちゃん達に戻す。
「グッと来る? それって、どういう意味ですか?」
「……説明する前に、ひとつだけ約束してもらってもいいかな?」
「おー、おやくそく?」
「うん。これから説明することにも関係あるんだけど……こういう下着は大人の人が穿くものなの。だから、もっと大きくなるまで穿いたりしないこと。いいかな?」
意味ありげに溜めを作って言うと、紗季ちゃんがごくりと息を呑んだ。
二人は顔を見合わせ、同時にこくりと頷く。
いい子達だ。
もちろん、私を信頼してくれてるからこそだろうけど。ならばその信頼には答えなければ。
「えっとね。グッと来るっていうのは、男の人が喜ぶってこと」
「おー? じゃあ、おにーちゃんもよろこぶ?」
「かもね。でも、喜んでもらうにはただ見せるんじゃだめなの。二人っきりで、実際に身に着けてるところを見て貰わなくちゃ駄目」
「っ。それって……!」
紗季ちゃんは気づいたみたいだ。
葵と同じように真っ赤になった彼女は、しゅんとすまなそうに肩を落とし――耳をエルフのごとくぴんと立てた。それはそれとしてちゃんと聞くらしい。
ひなたちゃんは首を傾げて、
「ぱんつ、はいてるところをおにーちゃんにみせるの?」
「そう。……昴っていうか、恋人とか旦那様にだけどね」
昴をその相手にしたいっていうならアレだけど。
「学校でも更衣室は男女別でしょ? 女の子の裸とか下着姿はね、男の子にはなるべく見せちゃいけないの。大切な『たった一人』にだけ特別に見せるもの。そういう時に着けるのが、この下着」
わかってくれただろうか。
笑顔のままひなたちゃんを見つめると、こくんと頷いてくれる。
葵が感心したようにこっちを見ている。
といっても、大したことを言ったわけじゃない。言わなくても存在している常識を話しただけ。男としての経験を女の目線で翻訳したから実感は籠もってるかもだけど。
「わかった。ひなには、まだはやい。もっと大きくなってからにする」
「良かった。ありがとう、ひなたちゃん」
「でもおねーちゃん。どうしてひものおぱんつだとグッとくるの?」
「ちょっ、ひな!」
「もちろん人によって好みもあるんだけど、女の子の裸って綺麗なものなの。だから飾りが少ない方が、男の子には喜ばれるんだよ」
「翔子! 感心した傍から何教えてんの!」
で。
やりすぎた私とひなたちゃんは、それぞれ葵と紗季ちゃんから怒られたのだった。
ごめんなさいと頭を下げた私は葵を手で示して、
「こんな風に、私達でもまだ早い下着だから、くれぐれも大きくなってからね」
これには二人とも神妙に頷いてくれた。
あったところに戻してくると言って離れていくひなたちゃん達を見送ると、葵がため息をひとつ。
「……なんか、どっと疲れたわ」
「ごめんごめん。でも、葵ならギリギリ着ける権利あるんじゃない、あれ?」
「あんなの無理に決まってるでしょ馬鹿じゃないの!?」
ごもっとも。
「昴はもっと清楚系の方が好きだろうしね。もしくはシックに黒かな」
「黒……っ!? それだって私には早いと思うんですけど……っ」
後半になるにつれて小声になった葵は、それでも一応は物色する気になったのか、ふらふらとコーナーを移動していった。
さて、他のみんなはどうしているだろう。
説明が遅くなったけど、お店に来たのは私と葵、それから慧心女バスの面々だ。
切っ掛けは真帆ちゃんが昴に「夏祭りの埋め合わせを」と言いだしたこと。ランジェリーショップが選ばれたのは単に下着を見たかったからだろう。
とはいえ昴に女性下着は荷が重い。断固拒否された結果、葵に白羽の矢が立った。
私は単なる付き添いだ。
こういう時でないとこんなお店には来られないので、ほくほくしながら楽しんでいる。
真帆ちゃんはお嬢様だけあって慣れてるのか、色んな下着をとっかえひっかえしてる模様。
愛莉ちゃんは店員さんに下着のつけ方をレクチャーされて、前向きにブラと向き合う気になれたみたいだ。
智花ちゃんは……神妙な顔をしてブラを手に試着室に行くのが見えた。私としては成長次第でいいと思うんだけど、好きな人がいる子にとっては死活問題か。
と。
不意に、後ろからかすかな香水の匂い。
「うふふ、先程の演説、とても素晴らしかったですわ……!」
「わっ……。え、えっと、ありがとうございます」
いつの間にか、肩が触れ合いそうな距離に店員さんが立っていた。
気持ちのいい笑顔で私に囁きかけてくる彼女は、小首を傾げて。
「ですが、お客様はお選びになられないのですか? 試着もできますので、どうぞお気軽に」
「あ、そうですね。でも……あはは、なかなか普段使いにするには上等すぎるというか」
「でしたら、女として気合を入れたい時用に一着いかがですか? 恋人とのひと時以外でもお仕事や受験などの際、良い下着を身に着けると良い結果が出る、という方もいらっしゃいます。お客様でしたら少し背伸びした下着もきっとお似合いに……ええ、白や黒もいいですが、上品な青なども」
丁寧ながらぐいぐい来る彼女に圧され、私は幾つかを試着した末――ワンセットお買い上げしてしまった。
まあ、品質は間違いなく良いし、買ったことに後悔はない。真帆ちゃんのお父さんから浴衣を貰ったところだし、その分と考えれば納得いく出費だ。自分へのご褒美として持っておいて、ここぞという時につけよう。
でもあの店員さん、もしかしてそっちの気があるのかな……?
愛莉ちゃんに下着のアドバイスしてたのもあの人だった気がするんだけど。もしそっちの趣味ならあそこはきっと天職だろう。ただまあ、私みたいに同じ性癖の人もいるわけで、誘惑してると取られそうな言動はできれば控えてもらいたい。
近づかれる度にドキドキしてどうしようかと思ったじゃないか。
それはまあ、あのお店にはそうそう行かないだろうし、良いとして。
その日はそのままみんなでケーキバイキングに行った。
ちょっとした嫁いびりなのか、葵がしこたまケーキを勧められているのを微笑ましく見守りながら――私は、スマホに一通のメールを受信した。
その内容を読み、思わず口元が緩む。
すぐさま新規メール作成を選ぶと、私は昴に短いメールを送った。
『元橋田中のセンターの子が同好会に入りたいって言ってるんだけど、どう? 昴の連絡先教えても平気?』
返事は、すぐに来た。
☆ ☆ ☆
香椎万里は、私に同好会の話を聞いてから色々考えたらしい。
バレー部は続けながらもバスケのこと、愛莉ちゃんのことなどが彼の頭に浮かんでは消えていった。そして次第に、やっぱりバスケがしたいと思うようになった。
兄妹仲も少しずつだけど改善に向けて努力した。
都度、私に相談の電話やメールを寄越しながら――おはようやお帰りの挨拶を「できるだけ穏やかに」してみたり、ぎこちなくてもいいから笑顔を浮かべてみたり、バスケットボールを抱えて自主練に出てみたり。
もちろん最初は成果が出なかったけど、それでもめげず。
やがて、ぽつぽつとだけど愛莉ちゃんとも話せるようになった。
ここまででつい最近の話だというから、なかなか苦労したのだろう。
でも、そこまで来たら妹とバスケの話がしたいと思うのが当然というもの。
正規のバレー部を蹴ってでも同好会に入ろうと決意する最後の鍵は、やっぱり妹の愛莉ちゃんだったというわけである。
私に届いたメールは昴との繋ぎになって欲しいというもの。
昴ももちろん快諾し、二日後の火曜日に会おうという話になった。
――で。
直接、それとは関係ないんだけど。
私は彼に対する内心の呼称を「万里」から「香椎くん」に改めた。
むしろ過去の私はなんで気安く呼んでたのか。男子相手に呼び捨てはまずいだろう。幼馴染の昴はあくまで例外。内心とはいえ上原は最初から上原だった。
ナンパ男の上原と真っすぐな香椎くんを比べるのはあれだけど、完全に女子を自認してしまった今の私にはちょっと、万里呼びは恥ずかしい。
「来てくれてありがとうな、香椎」
「万里でいいって。それに、俺がその気になったのは鶴見と……何より愛莉のお陰だ」
久しぶりに会った香椎くんは相変わらず背が高くて、気のいい男の子だった。
何故か目が合った途端、恥ずかしそうに目を逸らした彼を昴と葵の待つ『オールグリーン』のフードコートに案内した私は、みんなの繋ぎ役を果たした。
幸い昴と香椎くんはすぐに打ち解けた。
「愛莉からお前の話は何度も聞いた。教え方や愛莉に言ったことを聞けば、お前がバスケに本気だってことはすぐに分かった。愛莉に邪な気持ちがないってことも、まあ」
「そ、そうか。いや良かった! 男がコーチなんて兄貴からしたら気が気じゃないだろうし」
「もちろん、愛莉に変な気を起こしたらすぐに叩き潰すが」
「しないって! 大切な教え子にそんなことできるか!」
昴の台詞の三割くらいは怖いからだっただろうけど。
愛莉ちゃん達が大切という気持ちにも嘘はない。それを伝えると、香椎くんも「ああ」と頷いてくれた。
彼は身じろぎする度に椅子が軋むのを気にしながら笑って、
「でも、両手に花を邪魔して良かったのか? 特に彼女の荻山さんには悪いだろ」
「か、彼女……っ!」
たった一言で葵はオーバーヒート。
早く慣れた方がいいと思うけど、夏休み中に付き合い始めたせいで、あらためて彼女として自己紹介する機会ってあまりなかったもんね。
代わりに昴が答えて、
「確かに葵とは付き合ってるけど、こいつも俺もバスケには真摯に向き合いたいんだ。いちゃついて『なあなあ』のプレーなんかしたらそれこそ喧嘩になるって」
「……そうか。いいな、そういう関係」
しみじみと頷いて目を細める香椎くん。
「か、香椎くんもバスケプレーヤーの彼女作ってみたら?」
「いや、そう簡単にできたら苦労しないって。女子からは『身長差ありすぎて彼氏としては無理』ってからかわれてるしな」
「あー、そっか」
相槌を打った葵がちらりと私の方を見てくる。
つられた香椎くんと昴も遅れて視線を向けてきて、無駄に大人気っぽい雰囲気に。あ、香椎くんが目を逸らした。えっと、
でも、名前呼びを意識した途端にそれはちょっと恥ずかしい。
「あ、香椎くん。女バスに百八十超えてる先輩がいるよ」
レズだけど。
注意事項は伏せて伝えたものの、何故か引きつった笑みで辞退された。
「いや、遠慮しとく。そういうのは急いでどうこうするもんでもないしな」
「うん、そうかもね」
付き合うなら本当に好きな人とが一番だと私も思う。
「ところで香椎……万里。この後って時間あるか?」
「時間? ああ、大丈夫だけど何かあるのか?」
「実はこの後、慧心女バスのみんなと会うことになっててさ」
その中には当然、愛莉ちゃんも含まれている。
「みんな対高校生で五対五の変則ゲームをしようって話があるんだ。本番は今日じゃないけど、上のコートの下見をしようと思って」
「なるほどな。俺も出ていいのか?」
「ああ。愛莉とわだかまりがなくなったなら、是非」
逆に高校生は人数が余ってしまいそうな勢いだ。
昴に葵に香椎くんにさつきと多恵、それから私。上原は忙しいから除くとしても六人いる。私が審判するのが無難だけど、そうするとさつき達が「無理にやんなくてもいいし」とか言って不参加を表明しそうな気配。
念のため、昴の知り合いらしい男子小学生にも声をかけるかという案も出ている。
そんな話をしているうちに、向こうから慣れ親しんだ声が聞こえてきた。
大きな香椎くんに驚く声に、兄を呼ぶ愛莉ちゃんの声が重なる。
はてさて、兄妹の対面、それから愛莉ちゃんのセンターとしての成長はどうなるだろうか。