ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
私もそれで知りました(目逸らし
総合アミューズメント施設『オールグリーン』の屋上にはハーフサイズのバスケコートがある。
利用料さえ払えば誰でも使えるので近隣のバスケ愛好者が結構利用している。交流の輪が広がる一方、広さの関係から譲り合いの精神が必要になる。
また、基本的に予約は行っていない。
例の交流試合で使えるかは管理者さんと相談が必要だったんだけど……。
「文句があるなら勝負してあげるからアタシらに勝ってみなさいっ!」
「あったまきた! すばるん! こらしめちゃおーぜ!」
コートは二人の中学生女子によって占拠されていた。
挑発的な言動で、主に真帆ちゃんをヒートアップさせるツインテール系女子・四ツ谷奈那ちゃん。
隣でぼーっと成り行きを見ている背が高い(愛莉ちゃんほどじゃないけど)片目が隠れてる系女子・尾高眞弓ちゃん。
隣の県からバスケの武者修行に来ているらしく、道場破りのごとく同世代以下を相手に喧嘩を吹っ掛け勝利しては必要以上に勝ち誇る、そんなことを繰り返して利用者を追い返しまくっていた模様。
初めは理性的に話し合おうとした私達(主に昴)に対しても同じ態度。
こうなったら仕方ないと、勝負を受けて立つことに。
となれば問題は誰が出るか。奈那ちゃんたちは中一だそうなので、帯に短したすきに長し。高校生組が出るといじめにしかならないし、智花ちゃんたちだと一年分の経験差が重くのしかかる。
ただまあ一歳差なら、慧心女バスのエースに登場願うのが最もスマートだろう。
「智花。俺たちの――みんなの代表になってくれるか?」
「………はい。みんなが私を推薦してくださるのなら、全力で戦います」
これで、一人は決定。
奈那ちゃんは見るからにフォワードなので、もう一人の眞弓ちゃんを想定した戦力が欲しい。彼女の身長と肩幅の広さからすると――たぶんセンター。
話の流れがそういう風になり、視線が一人に集まりかける。
年上相手を彼女にお願いするのは酷だと思うけど。
「愛莉ちゃん。……どうかな? 智花ちゃんと一緒にプレーしてみない?」
「わ、わたし……ですか?」
多分、私が言うべきことだろう。
そう思って尋ねると、愛莉ちゃんはびくっと小さく身を震わせた。
瞳の奥には不安がある。
「うん。たぶん、真っすぐ勝負をするなら愛莉ちゃんが一番向いてると思うの。……センターの戦い方を知ってるから」
「で、でも、わたしなんかで大丈夫かな……って」
怖いのは仕方ない。
眞弓ちゃんの方は案外話せばわかってくれそうだけど、奈那ちゃんは悪い意味で元気いっぱいの子だ。
心優しい愛莉ちゃんとは相性の悪いタイプ。
でも、ここは愛莉ちゃんに出て欲しい。
背中で香椎くんがうずうずしてるのを感じる。
彼も妹に激励したいのだろう。でも、加減を間違えて泣かせちゃわないか怖がってる。
だから私が。
「大丈夫だよ、愛莉ちゃん」
「翔子さん……?」
微笑んで、愛莉ちゃんの髪にそっと手を乗せる。
「愛莉ちゃんなら大丈夫。練習をいっぱい頑張ってたし……それに、自分で言うのもなんだけど、あの子たち、私よりは上手くないはずだから」
「あっ……」
才能があるとは思ってないけど、さすがに中一に負けるような鍛え方はしていない。
超小学生級の智花ちゃんや男子高校生の昴、それから女子高生でセンター経験のある私とプレーしている愛莉ちゃんなら、十分対抗できる。
「アイリーン」
「愛莉」
「あいり」
「愛莉」
「……うん」
誰も「頑張れ」とは言わなかった。
押し付けることはせず、ただ、そっと背中を押してあげる。
やがて、愛莉ちゃんはこくんと頷いた。
「はいっ。みんなに、翔子さんに教えてもらったこと……精一杯やってみますっ!」
「……ありがとう」
決意をこめた表情を見て思わず涙腺が緩んだ。
そのまま抱きしめたくなっちゃったけど、このあとには勝負が待っている。
ぐっと我慢して、奈那ちゃんたちに向き直ると。
「翔子? あんた、翔子っていうわけ?」
「え? うん、そうだけど」
どこかで会ったことあったっけ?
三歳差だから部活絡みじゃないはず。あー、男子気取ってた時期に喧嘩したとかだと覚えてないかも。下手すると向こうも男の子みたいだった可能性あるし。
謝った方がいいかな? と思った矢先、奈那ちゃんからずばっ! と指を突き付けられた。
「はっ。鶴見翔子。どんなヤツかと思ってたけど、ガキに試合任せて見学してるようなチキンじゃん」
「……ん?」
なんか、思ったのと話が違う?
「会ったのは初めてだけど、話だけ聞いてたってこと?」
「は? そう言わなかった? 馬鹿なの? 頭も悪いの?」
「……誰から?」
ぶん殴ってやろうかこの小娘。
ついぷっつんしそうになったのを堪えて尋ねると、奈那ちゃんは何故か胸を張って答えた。
「奈那の愛しのダーリン、カズ君からよ!」
「………、あー」
諏訪。あの野郎。
顔を合わせなくなってもなお、私に嫌がらせをしてくるとは。
っていうか、彼女ができたのは知ってたけど中学一年生って。
奈那ちゃんって正直性格良くないと思うんだけど、こういう威勢のいい子が好きだったのか。
「何も言えないの? やっぱりチキンね。いいから勝負しなさいよ
「………」
「ひっ」
答えの代わりに満面の笑みを浮かべたら、何故か香椎くんが悲鳴を上げた。
振り返った私に、葵は苦笑して。
ぽん、と、私の肩を叩いてから智花ちゃんたちに告げた。
「ごめんねみんな。ここは私達にやらせてくれる? ……礼儀知らずの子達に一般常識ってものを教えてあげたいから」
誰からも反対意見は出なかった。
というか小学生たちですら呆れ気味。
彼女たちの呆れの対象が奈那ちゃんなのか私なのかはちょっと、考えたくはなかったけど。
「翔子。腕、まさか鈍ってないわよね?」
「……もちろん。葵こそ、女子とやるの久しぶりじゃない?」
こんな形で葵とのプレーが実現するなんて、ちょっとラッキーかもしれない。
☆ ☆ ☆
今日は驚くことの連続だ。
鶴見・荻山ペアのプレーを眺めながら、香椎万里はしみじみと思った。
待ちに待った長谷川昴との顔合わせ。
最初に驚いたのは翔子の変化。
ダイエットしたとか胸が大きくなったとか化粧が変わったとかではない。女性らしい雰囲気がぐっと増した。以前から顔立ちがいいとは思っていたが、一学期に顔を合わせた時はあまり性別を感じない相手だった。
そのせいか、異性が得意でない万里はつい挙動不審になってしまった。
昴が葵と付き合い始めていたことにも驚いたが、より驚いたのは翔子と妹の仲の良さと、それから今まで見たことのなかった翔子の顔。
夜叉姫を思わせるプレッシャーと、コートでの振る舞い。
――『桐原中の織姫の伴星』。
昴のことを知るために地方のスポーツ雑誌を読み返した万里は、華やかな異名で呼ばれるエース・荻山葵の支えた一人の少女の記述を見つけた。
小さな雑誌の小さな記事の、ごくごく短い文。
荻山の相方である鶴見、と。
書かれていたそれが真実であったことを、彼は今になって知った。
ジャンプボールに固執した四ツ谷・尾高ペアは、譲ると言われていた先攻をあっさり奪われた。
狙い違わず飛んだボールを葵が受け取ると、そのまま得点。
リズムを作られる前にさっさと先制してしまうのは彼女の――否、彼女らの十八番。
焦った奈那のドリブルは、目ざとい葵にスティールしてくれと言っているようなもの。
翔子のドリブル、パスから攻め上った葵は眞弓に阻まれるも、これを得意のフェイダウェイシュートで回避、得点を重ねた。
ここで奈那は眞弓による攻めを選択。
しかし、身長でも技術でも上を行く翔子に眞弓は歯が立たない。あっさりと進路を塞がれた挙句、無駄に時間を浪費し、ようやく奈那にパスを出したと思ったら葵にカットされてしまう。
高校生側の三ゴール目。
奈那が選んだのは二人がかりで葵をマークという暴挙だった。
ここまでの得点は全部葵のもの。
翔子が読み通り「葵がいないと何もできないでくのぼう」であったのならアリな選択だったかもしれない。翔子がフリーで打ったシュートが外れてからボールを拾いに行けばいいのだから。
だが、翔子は当たり前のようにゴールへ向かい、当たり前のようにシュートを決めた。
「なんでよ!」
そう言われても、全部手のひらの上だったのだから当然だろう。
葵に攻めを任せ、その速さと積極性を印象付ける。目が慣れてきた頃に他メンバーにシュートを打たせて得点を奪い、相手に疑心暗鬼を煽る。
次々に新しいパターンを織り込んで想定外の行動をし続けるのも十八番。
パターンが割れてきたところで、葵が実は「慎重な攻めもできる」ことを明かして更に得点。
極めつけは。
「眞弓! あんたデカイんだから、なんとかフォワード抑えてなさい! あたしがこのデカブツ潰すから!」
「了解。頑張る」
眞弓にマークされた葵は敢えてスピードを落とし、翔子たちからセンターを分断。その意味を理解していない奈那は歯を剥き出しにして翔子に攻めかかり、簡単なフェイントに引っかかってかわされる。
得点。
以後、奈那はもう「自分が翔子を潰す」ことしか考えていないようだった。
自分たちの攻め番をあっさり潰され、翔子を阻みにかかってはいなされる。
レイアップ、ジャンプシュート、フェイダウェイ、スリーポイント気味のロングシュート。
得点の仕方さえ手を変え品を変え、わざと引き出しの数を見せつけていく翔子。
基本的にはごく当たり前のことしかしていない。
常套手段を丁寧にやるだけ。そこに緩急がつくから手に負えなくなる。静止状態でのドリブルから無の境地を作り出したかと思えば急発進したり、何を思ったのかふっと笑った直後に動き出すとか、マッチ相手とにらめっこを始めるなんて奇策も取る。
一緒に観戦していた昴や妹の友達が「あいつみたいだな」とか「あれ、私の……」とか呟いていたあたり、誰かの得意技を真似ているのだろう。
漫画によくいるコピーキャラとか、そういう話じゃない。
他の選手から影響を受けるなんて誰でもあることだ。ただ、多くの人の技を実際に吸収して「自分なりに使う」ことができる奴は意外に少ない。
万里は自分の技しか使えないタイプだ。
「器用だよな、あいつ。自分じゃ才能がないとか言ってるけど……凄い奴のことを凄いって認めて、近づこうと努力できるのって立派な才能だろ」
「……そう、だな」
「うん。翔子さん、本当に凄い……っ」
「あはは。愛莉は、もしかしたらあんまり真似しない方がいいかもしれないけど。翔子の個人技って、言っちゃえばずっと必殺技を使ってるようなものだから」
簡単には真似できないし、消耗も激しい。
「必殺技! すっげー! よっし、今度あたし教えてもらお!」
「あー……」
しまった、と、昴が頭を抱えた時、規定された試合時間を超過した。
完全試合。
本来なら女子中学生相手にすることではないのだろうが――相手に一点も入れさせず、翔子と葵は勝利してみせたのだった。
☆ ☆ ☆
うん、やりすぎた。
途中まで「絶対泣かす」しか考えてなかったから規定路線なんだけど、なんか私めっきり格下専門になってる気がする。
さすがに圧勝しだしてからはだんだん冷静になったんだけど、せっかくだからとそのまま続けてしまった。
で、泣かすことができたかというと。
「う、うわああああんっ!?」
叫びだしながら走って行ってしまったので、はっきり確認することはできなかった。
なお眞弓ちゃんは後から小走りに追いかけていった。
「お疲れ、翔子。気は晴れた?」
「うん。……ありがとう、葵」
「気にしないの。私もイラっとしたし」
二人で手を打ち合わせると、みんなが寄ってきて声をかけてくれた。
――これでもう来ないでくれるといいんだけど。
交流会で使わせてくださいとは言いづらい気分になった。
予約して借り切るっていうのはああいうことだぞ、って言われた感じというか。なのでみんなで相談して、交流会は真帆ちゃんのお宅を使わせてもらうことに。
いつもそこで練習している(なんとも贅沢だ)真帆ちゃん的にはちょっとご不満ではあったものの、迷惑をかけるよりはと納得してくれた。
奈那ちゃんたちのせいで他の利用者さんもいなかったので、騒いだお詫びも兼ねてしばらく遊んでいくことに。
香椎くんと愛莉ちゃんのぎこちない交流とか、何故か真帆ちゃんから必殺技の伝授をせがまれたりとか、試合にあてられた智花ちゃんがいつもより張り切っていたりとか、そんな微笑ましいやり取りをしばらく続けて。
「いたぁあ!」
果たして。
奈那ちゃんは再びやってきた。眞弓ちゃんと、それから――高校生組、特に昴と香椎くんにとっては悪夢といってもいい顔を引きつれて。
悪夢。
去年、昴と香椎くんの所属していたバスケ部に勝って全国への進出を阻んだ仇敵――須賀竜一が帽子の下から私達を睨みつけて、
ごつん、と、奈那ちゃんに拳骨を食らわせた。