ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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7th stage 翔子は昴と小学生の試練に立ち会う(3)

「気が変わったぜ。お望み通り遊んでやるよ」

 

 それこそ牙を剥いた竜のような、圧倒的な威圧感。

 去年、県で優勝した志津野中学でエースを張っていた男――須賀竜一が、挑発的に昴を睨みつける。

 

 最初はこうではなかった。

 

 須賀は当初、私の予想を裏切って()()()()()()()()。奈那ちゃん(従姉妹らしい)が迷惑をかけたことを、一人のスポーツマン、あるいは保護者代行として礼儀正しく。

 でも、それは。

 私が、そして香椎くんが彼の名を呼んだところで止まってしまった。

 

 あらためて私達を認めた彼は、雰囲気を一変。

 

『ふん。久しぶりだな、長谷川昴。それに香椎。俺と同じ学校を避けた挙句にドロップアウトとか、ざまあねえな』

 

 恐らく、こっちが彼の素なのだろう。

 人としての礼儀は通すが、プレーヤーとしてはどこまでも利己的で高慢で、威圧的。

 

 須賀は謝罪を取りやめ、奈那ちゃんが求める通り昴達に挑んできた。

 避けてはいけない勝負ではない。

 元はといえば奈那ちゃんたちに非があるわけだし、野試合で真の決着はつかない。バスケットボールはコートで、チームで、五対五でやった時に本当の勝ち負けが決まる。

 

 でも、やっぱり昴達は逃げなかった。

 彼らはすぐには答えず互いを見た。それは「受けるか逃げるか」ではなく「どっちが出るか」という無言の相談だった。

 何しろ向こうは一人だけど、こっちには恨みのある者が二人いる。

 と。

 

「別に順番でもいいぜ。お前ら二人とも叩き潰してやる」

「ううん、いっぺんに勝負よ! アタシと眞弓とリューであんたたちみんなやっつけてやるんだから!」

 

 不敵に笑った須賀に続いて、眞弓ちゃんが自信満々に胸を張る。

 

「……あ? 何言ってんだ奈那」

「アタシがコート取り返しに来たんだもん! アタシたちも一緒にバスケする!」

「アホか!」

 

 そもそも、ここはみんなのコートなんだけど……。

 私達そっちのけでぎゃーぎゃー言い始める奈那ちゃんと須賀。眞弓ちゃんが全然動じずないどころか微動だにしていないのがすごい。

 で、根負けしたのは須賀の方。

 

「……くそ。あの野郎、手前の女の躾くらいちゃんとしとけよ」

「うん、ほんとに」

「あん?」

 

 怪訝そうに須賀が振り返る。

 しまった、あまりにも同感すぎてつい頷いてしまった。

 目が合う。

 

「ああ、お前が『鶴見翔子』か。……はん、なるほどな」

 

 薄く笑った須賀がじろじろと上から下まで私を見てくる。

 なんだろう。

 あの野郎……もとい、諏訪はいったい何を話したのか。絶対ろくなことじゃないとは思うけど。

 ちょっと寒気がする。

 

「聞いてたよりずっといい女じゃねえか。()()より()()()がいいとかどこに目ぇ付けてんだ」

「ちょっとリュー、そいつ見かけによらず性格悪いんだからね!」

「お前が言うんじゃねえよ。……おい鶴見。お前、長谷川と付き合ってんのか?」

「まさか。昴の彼女はこっちの葵」

 

 いきなり振られて、葵がちょっとだけ動揺した。

 

「そーか。……ならお前、俺の女になれよ。いい夢見させてやるぜ?」

「なっ」

「はっ?」

「えっ」

「えっ……!?」

 

 幾つもの驚きの声が重なった。

 ちなみに私としては「……はあ?」といった感じ。

 何言ってるのこいつ、という気持ちを隠しもせずに目を細めて。

 

「ごめんなさい。ワンマンプレーのバスケは嫌いなの」

「はっ。いい子ちゃんが。処女だろお前」

「うん、そうだけど、それが?」

 

 笑顔で見返してやると、何故か面白そうに唇の端が吊り上がった。

 

「お前を落として帰ったら、あのいけすかねえ野郎の泣きっ面が拝めるかもな」

「「「いや、ないない」」」

 

 思わずハモった私と葵、昴であった。

 なんか、どうでもいい方向に話が飛んじゃったけど。

 勝負は3on3ということで確定したらしい。

 また中途半端な人数ではあるものの、これ以上は向こうが増やせないし、眞弓ちゃん一人だけ除け者にするのも可哀想だ。

 昴はぐっと頷いて、私達を振り返った。

 

「万里に葵、翔子も。……ここは、俺に任せてくれないか」

 

 須賀には決勝で負けた借りがある。

 香椎くんも同じ気持ちなのは百も承知だが、有利な条件で挑んでも完全には溜飲を下げられない。

 だから、自分に託して欲しいと。

 

 深く頭を下げて、頼んできた。

 これにはまず葵が、次に香椎くんが、そして私が答えた。

 

「そう言うと思った。私はいいわよ。好きにしなさい」

「俺は負けたつっても初戦だったからな。……今回はお前に譲ってやる」

「私も。頑張ってね、昴」

 

 若干、昴が涙ぐむのがわかった。

 

「ありがとう、みんな」

 

 そこまで決まると、昴は一緒に戦うパートナーを指名した。

 高校生組を使わない以上は愛莉ちゃんたちにプレーしてもらうことになる。

 不利な条件だけど、それが望みだ。

 

 果たして、選ばれたのは智花ちゃんと愛莉ちゃんだった。

 

 最もオーソドックスな選択肢。

 私も、戦うならこの二人がいいと思う。智花ちゃんたちも気負いを感じた様子ながら昴に頷いて、共闘を表明してくれた。

 審判を買って出たのは万里。

 

 そして、因縁のミニゲームが始まった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「ま、こんなもんだ」

「きゃはは、勝負はアタシたちの圧勝ね! てことでこれから夏休み明けまで、コートはアタシたちで仕切らせてもらうわよん!」

 

 結果は、昴たちの負けだった。

 総合力で負けていたとは正直思わない。

 

 女性陣に関して言えば、智花ちゃんが奈那ちゃんを圧倒する局面もあった。

 愛莉ちゃんだってパフォーマンスを発揮しきれれば眞弓ちゃんと十分渡り合えたと思う。

 ただ、流れと噛み合わせが悪かった。

 眞弓ちゃんの何を考えているかわからない雰囲気、物怖じせずセオリー通りに突っ込んでくる胆力が愛莉ちゃんを威圧し、縮こまらせてしまう。

 智花ちゃんは突破口になりえたけど、勝負を焦った昴がキラーパスを出し――これに失敗。パスを取れない恐怖を植え付けられた智花ちゃんまで本調子ではなくなってしまった。

 

 そして肝心のエース、昴と須賀のマッチアップが絶望的。

 

 須賀の得意技はジャブステップ。

 足踏みでフェイントをかける、言ってしまえば初歩のテクニックなんだけど、これが抜群に上手いのだ。殺気と表現していいレベルのプレッシャーがフェイントをフェイントと思わせない。これを破った者は未だに一人もいないらしい。

 これを昴は一度も止められなかった。

 焦ってパスミスしたのはこれが原因でもある。

 

 点差は開くばかりだった。

 

 失望したのか、須賀は途中で1on1を持ちかけてきた。

 昴はこれを承諾し、手も足も出なかった。

 

 悠然と去っていく従兄弟たちプラスワンを、私達は見送るしかできなかった。

 

「おい鶴見。ちょっとは考えが変わったか」

「……変わらないよ。須賀くんのバスケはつまらない」

「はっ。そうかよ。ま、会いたくなったら連絡して来いよ」

 

 連絡先のメモを投げて寄越された。

 破って捨てようかとも思ったけど、一応貰っておく。

 何かの役に立つかもしれない。

 例えば、再戦とか。

 

「ねえ、須賀くん。……もしかして割と本気で口説いてたの?」

「いい女だって言っただろうが。やりてえとは思ってるよ」

 

 つくづく下品な男である。

 ちょっと、いや、かなり好みには合わない。女の子じゃなきゃ絶対やだとか言うつもりはないけど、付き合うならまだ、奈那ちゃんの方が百倍可愛げがあると思う。

 あの須賀がバスケ以外に興味あったというのは面白い発見だと思いつつ。

 

 彼らが去った後の私達は重苦しい雰囲気に包まれた。

 

 一番落ち込んでいたのは昴。

 愛莉ちゃんと智花ちゃんも、申し訳なさから表情が暗い。

 負けるのは初めてではない。

 硯谷での経験があるとはいえ、自分達()()()()()()コーチまでもが敗北したという事実は、コートに出ていなかった真帆ちゃんたちの言葉も詰まらせた。

 

 なんて声をかけていいかわからない。

 

 上っ面の励ましじゃ伝わらないことは、なんとなくわかる。

 昴へ真っ先に声をかけ、突き放したのは葵だった。

 

「――みんな、今日はもう帰ろ」

 

 彼女は今日の負けを昴のせいと断じ、彼を「一人にしてあげて欲しい」とみんなに頼んだ。

 最も昴を良く知る「恋人」の言葉に、香椎くんも頷いて。

 

 みんなは渋々ながら昴を置いて、その場を後にしたのだった。

 

「葵。この後、用事があるんじゃなかった?」

 

 私が言ったのは、家まで半分くらいの道のりを歩いた時。

 今日はできるだけみんなを送っていきたい。

 愛莉ちゃんは香椎くんと一緒に帰れるとしても、他のみんなの家の近くまでは。

 

 葵も同じだったのか、初めは首を傾げた。

 

「え? 私も一緒に――」

 

 言った途中で思うところがあったらしい。

 言葉を止めた幼馴染に視線で伝える。

 

 昴を突き放したのは、一番長い幼馴染にしかできないこと。

 でも、彼女としての葵は別の選択をしてもいいんじゃないかって。

 

「……ん。そうだった。翔子、ここで別れてもいい?」

「もちろん。行ってらっしゃい」

 

 微苦笑を浮かべた葵に手を振り、後のことをお願いする。

 

「ふう……」

 

 葵が離れていった後、私はぽつりと呟いた。

 

「負けちゃったね」

「……はい」

 

 悔しそうに智花ちゃんが答えてくれる。

 愛莉ちゃんがか細い声で間を繋いで、

 

「わたし、明日、長谷川さんとどんな顔して会えばいいんでしょう……」

「普通でいいと思うよ」

「普通に、ですか?」

「うん。昴はきっと、ちゃんと立ち直ってくる。だから普通にしてあげよう。変に申し訳ないなんて思っちゃうと、逆に昴が気にしちゃうかも」

 

 男はプライドのせいで素直になれない。

 女は悔しいときわんわん泣けるし、みんなと悔しいって言い合っても許されるところがある。そういう意味では、ちょっと気楽かもしれない。

 

「もし、昴がウジウジ愛莉ちゃんたちのせいにしようとしたら、一発ひっぱたいてあげるから安心して」

 

 悪戯っぽく微笑むと、香椎くんがぷっと吹き出した。

 

「それは困るな。俺も一発ぶん殴るから、鶴見までやるとやりすぎになるかもしれん」

「あー。葵も殴るだろうから確実にやりすぎだね」

 

 私たちがそのまま笑い合っていると、みんな少しは気分が変わったらしい。

 

「でもくやしーよなー。もっかんとアイリーンとすばるんがあんなコテンパンなんて。なんかやり返す方法ないかなー」

「鶴見さんと荻山さんが勝ってるんだもの。圧倒的に格上じゃないと思うんだけど」

 

 真帆ちゃんがぼやくように言い、紗季ちゃんが同意する。

 すると、この場にいる唯一の男子である香椎くんが、おずおずと。

 

「あれだ。悔しかったらリベンジすればいいだろ」

「おー、りべんじ?」

「復讐するってこと、お兄ちゃん……?」

 

 妹に見上げられて「うっ」と言葉に詰まる香椎くん。

 可愛い、とか言ったら怒られるだろうか。

 

「もう一回挑戦する、ってことだと思うよ」

 

 智花ちゃんがすぐに誤解を解いてくれた。

 

「そっかー! 別にこっちから勝負しにいってもいいんだよね!」

「うん、そうだね。次はやっつけちゃえばいいと思う」

 

 相手が受けてくれるかはわからないけど。

 暴れ足りないといった須賀の様子からして、全くの脈なしでもないはず。

 なんにせよ、ひとまずは。

 

「昴が立ち直ってきてから、だけどね」

 

 まだ星の見えない空を私は見上げた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 翌朝、葵に電話してみた。

 無事に昴に会えたそうで、突き放した時とは逆に優しく慰めてあげたらしい。

 

『うう、どんな顔して昴に会えばいいんだろ』

 

 逆に葵の方が狼狽していた。

 どうやら、結構大胆なことをしたっぽい。

 

『もしかして……しちゃった?』

『し、してないわよそんなこと! でもその、す、昴の部屋で……あいつのことだ、抱きしめちゃったっていうか……っ!』

『ああ、文字通り抱きしめ合ったんだ』

 

 はいはいご馳走さま。

 でも、手をださなかった昴は偉いと思う。

 女の子を逃げ道には使わなかった。

 ちゃんと前向きに立ち直ることを諦めなかった。

 

『昴、私の胸で泣いてた』

『そっか』

 

 きっと感触は覚えてないんだろうなあ、勿体ない。

 

『男だって泣きたいときはあるよね』

『あるよ。いっぱいある。だから、女の子が泣かせてあげるんだよ』

『翔子、なんか実感籠もってる』

 

 そりゃあ、まだ男の子歴の方が長いので。

 

『受け売りみたいなものだよ。……でも、それなら』

『うん。大丈夫だと思う』

 

 葵の予想通り、翌日、慧心の体育館に昴はちゃんと現れた。

 すっきりした顔をして。

 みんなに昨日の態度を謝った上で、リベンジを挑みたいと言ってくれる。

 既にそのつもりになっていた私達はもちろん笑顔で了承した。

 

 ――さあ、反撃開始だ。

 

 あ。

 それはそれとして、香椎くんに外へ呼び出されて一発殴られたっぽい。

 これも男の子同士のけじめだから、まあ、仕方ない。

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