ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
コーチ役が四人って、船頭多すぎない……?
なんていう懸念もあったりしたものの、私達は二チームに分かれて練習を開始した。
――前回の反省点はいくつかある。
まずは昴自身の個人技。これはチームの問題ではないため後回しになった。智花ちゃん達の特訓が終わった後、高校生組で特訓なり相談なりに付き合えばいい。夏休みだから時間には余裕があるし。
そしてチームプレーが上手くいかなかったことと、インサイドの争い。
チームプレーに関しては主に昴と智花ちゃんの連携。
パスミスがわかりやすいけど、それはつまり息が合ってなかったってことだ。
なので、二人には葵と真帆ちゃん、紗季ちゃんについてもらって連携を磨いてもらう。葵ならば須賀……は難しいとしても奈那ちゃんを想定するには十分すぎるし、真帆ちゃんと紗季ちゃんは何やら気づいていることがあるっぽかった。
きっと、何かコツを掴むきっかけになるだろう。
そして、インサイドの方。
こっちは愛莉ちゃんに多くを求めすぎな部分もある。ただ、彼女ならきっとと思ってしまうのも事実。
私と香椎くんでできる限りのアドバイスをしつつ、ひなたちゃんに協力してもらって2on2の練習なんかも盛り込んでみた。
「あの、翔子さんは怖くなかったですか? その、あの子と対決した時……」
あるとき、愛莉ちゃんから質問をされた。
私は手を止めて少し考えてから答えた。
「怖くなかったわけじゃないよ。怪我とか、バスケする時はいつもちょっとだけ怖い」
「どうして、ですか?」
いつもと同じくらい怖かったというのは、裏返せば眞弓ちゃん自身は怖くなかったということ。
「うーん……慣れてるから、かな」
「そういうもんだからな。いちいち怖がってても仕方ない」
隣にいた香椎くんも肩を竦める。
身も蓋もないけど、言ってしまえばそういうことだ。
身体同士がぶつかり合うなんて誰でも怖い。でも、これはスポーツだ。ちゃんとルールがある。だからこそ相手を信じられるし、信じた結果、大丈夫だったっていう結果が安心を生む。
「慣れ……それじゃあ、わたしは」
どうしたら。
「慣れちゃえばいいんだよ」
「え?」
驚く愛莉ちゃん。
時間がないのにどうしたら、っていう話をしていたんだから当然だ。
でも。
「相手が誰でも怖いものは怖いよ。……でも、だったら、眞弓ちゃんを特別怖がらなくてもいいでしょ?」
「え? えっと……」
「あの子、きっと悪い子じゃないと思う。私は奈那ちゃんの方がひっぱたかれそうで怖いよ」
ちょっと冗談めかして言う。
「なるほどな」
香椎くんが笑った。がはは、って感じでちょっとやかましい。
彼はそこでちょっと声のトーンを落として、軽くしゃがんで。
「愛莉。俺とあのセンターの中学生、どっちが怖い?」
「え? その、えっと……」
「香椎くんの方が百倍怖い」
「おい、もうちょっと加減してくれよ鶴見……」
「ごめんなさい」
困った顔になっていた愛莉ちゃんが、私達の漫才を見てぷっと吹き出した。
可愛らしくくすくすと笑っている。
兄妹で似てるところもあるけど、こういう仕草は全然違うなあ、とほんわかした。
やがて笑いが収まった愛莉ちゃんは「うん」と首を縦に振った。
「お兄ちゃんの方がずっと怖い。……でも、お兄ちゃんはわたしをぶったりしないよね?」
「ああ。あの子だってそうだ。だって、バスケは殴り合うスポーツじゃないからな」
その通り。
どこぞの赤髪の不良がヘッドバットしたりガン飛ばしたりしてたのもあって誤解されがちだけど(なお、もちろん彼はバスケ普及に貢献した英雄でもある)、バスケはスポーツ。
不慮の事故じゃなければ怪我とかもそんなにない。
奈那ちゃんだって嫌味と高笑いだけで、男の子を足蹴にしたりとかそういうのじゃない。いや、諏訪とならどんなプレイしてても自由だけど。
「うし。じゃあ鶴見。俺とお前が交代で愛莉の相手をするってことでいいか?」
「うん。問題ないよ」
「わかりやすくていいな、腕が鳴るぜ」
「おー。うでがなるぜー」
お手伝いのひなたちゃんも元気いっぱいに腕を振り上げてくれる。
「お、おお。頼もしいな。……でも、蹴っ飛ばしちまいそうで怖いんだが」
「本当に蹴らないでね? 身長差があると見えづらいだろうけど」
私達のやりとりを少し離れたところで耳にした昴が「ふむ」という顔をしていたけれど、集中していた私はそれに気づかなかった。
☆ ☆ ☆
「どうだ、そっちは?」
「うん。順調だよ。愛莉ちゃん、やっぱりセンターに向いてると思う」
私達の技術をみるみるうちに吸収していっている。
洗練させていく必要はもちろんあるけど、新しいことを覚えるのは自信に繋がる。地道な反復練習より上手くなった感が出やすいから。
愛莉ちゃんの柔軟性も立派な資質だ。
香椎くんは男子というのもあって、がっつり硬いタイプのセンターが好きみたいだけど、愛莉ちゃんに向いているのはヨーロピアンスタイルだと思う。
そのあたり意見対立というか議論があったものの、それはそれで楽しかったり。
愛莉ちゃんにとっても「色んなスタイルがあっていいんだ」という実例になったんじゃないかと思う。
ぎこちなく手を繋いで帰っていった兄妹を見送ってから、昴と葵と三人で自転車を押して歩いた。
「昴達の方は?」
「んー……それがなあ。どうやら智花が不調みたいで」
「練習自体はできてるけど、真帆ちゃん達が持ってる『秘策』待ちって感じ」
なるほど、連携が上手くいってなかったのは智花ちゃんの不調が原因か。
何か秘策があるってことは体調とかじゃないのかな? 心理的な面とか? あ、いや、そっか。昴と葵が付き合いだしたせいもあるのかも。
彼女のいる男性(でも好き)との距離感を測りかねてるとか。
私と葵はあっさり仲直りできたけど、それは長年幼馴染やってきたお陰だし。
「むう……」
「どしたの、翔子? 難しい顔して」
「ううん、なんでも。それより、明日はみんな自主練なんだよね?」
「ああ。……概ね、そうなるな」
あ、これ、智花ちゃんの朝練はあるっぽい。
葵はわかってないみたいで「?」って首傾げてるけど。
「そっか。私も愛莉ちゃんと真帆ちゃんちに行く予定だし、概ねだね」
事実でうまいこと話題を逸らして誤魔化しておいた。
ちなみに三沢家での特訓は何故か張り切っている真帆ちゃんが言いだしたことで、愛莉ちゃんもそれならとお邪魔することにしたみたい。
疲れが身体に残らない程度なら頑張りは是非買いたいところなので、私も参加させてもらおうと思う。
「翔子も明々後日は大丈夫だよな?」
「うん。3on3を想定した練習だったよね。もちろん」
「よし。知ってる中だとお前が一番眞弓さんに近いからな。いや、良い意味で比較にならないけど」
「ふふっ。ありがとう、ちょっと嬉しいかも」
主に高校生組を集めての仮想特訓。
須賀役にはとある男子を用意しているらしいけど、誰だろう?
☆ ☆ ☆
「ちょっと早く着きすぎちゃったかな……?」
3on3の練習場所の候補は、昔からちょくちょく来ている例の公園。
競争率の激しい場所だから確保しておけるならちょうどいいけど……と思いながら辿り着くと、そこには先客がいた。
つんつんした頭をした男の子。
小六か中一くらいだろうか。どこかで見たことがある気もする彼は、てんてんと一人、ボールをついてはシュート練習を繰り返していた。
と。
私の視線に気づいた彼が振り返った。
怪訝そうな顔で首を傾げる。
「えーっと……もしかしておねーさん、あの変態コーチの知り合いか?」
「変態? もしかして長谷川昴のことだったりする……のかな?」
尋ねると、少年はため息と共に頷いた。
「やっぱりな」
「ごめんなさい、その『やっぱり』って『変態』にかかっちゃってるよね?」
「違うのか?」
「うん。昴にやましい気持ちはないから。はたから見たらセクハラだとしても、ロリコンじゃないからね?」
「本当かよ。っていうか、おねーさんも疑ってるじゃん」
う。痛いところを。
私が笑顔のままで固まると、少年は「ま、いーや」とボールを持ち上げた。
「俺は竹中夏陽。ウェア着てるってことはあいつに呼ばれて来たんだろ? 人が集まるまで勝負しよーぜ。おねーさんの腕前見てやるよ」
あ、なんとなくわかった。
真帆ちゃんと喧嘩して合宿させられた男バスのキャプテンだ、この子。
なるほど、元気のいい真帆ちゃんと絡ませたら大変だろう。
「私は鶴見翔子。……じゃあ、お相手お願いしちゃおうかな」
私は微笑んで、竹中くんの提案に乗ることにした。
その後何度か身体を重ね合わせた(誤解を招く婉曲表現)ところ、
「もう一回だ! このままじゃ納得いかねえ!」
「まあまあ竹中君、あんまり疲れちゃうと本末転倒だし」
「夏陽でいいよ。それよりおねーさん手抜いただろ!? 後悔させてやるからもう一回だ!」
「あ、あはは……ごめんね、夏陽くん。さすがに小学生の子に本気出せないかなって」
「ざけんな! あいつは俺の宿敵なんだからな!」
なんだかヒートアップさせてしまったようで。
竹中くん改め夏陽くんはもう一回もう一回と必死にせがんでくる。しまった、負けず嫌い相手には下策だったか。
でも、そうやって一生懸命なところはなんだか可愛い。
年下の男の子とはあんまり接点がなかったけど、やっぱり男の子相手でも母性本能がくすぐられるみたいだ。話を有耶無耶にできないかなー、なんて思いつつ頭を撫でてあげると、顔を真っ赤にして「子ども扱いすんな!」って怒られた。
「……何やってんだお前ら」
「あ、おはよう昴。葵も」
「出たな変態コーチ! もう一人女の人連れやがるし、お前、さてはエロ魔人だな!?」
「お前の中ではどうなってるんだ、俺の存在……」
呆れ顔で嘆息する昴。
夏陽くんの方は敵視してるけど、昴の方は男として仲良くしたい感じかな。
意外といい関係かも。
「ううん。昴はエロ魔人じゃないよ。私が迫っても彼女一筋って全然構ってくれないんだから……ってあ痛っ」
「面倒な時に話をややこしくしないの」
葵に軽く叩かれてしまった。
さつきや多恵が来れない分、少しは混ぜっ返しておこうかと思ったのに。
わいわいやっていると香椎くんが到着。
トレーニングウェアを身に着けた巨体は迫力満点。彼が今日は愛莉ちゃん役らしいので、私としては負けないよう搦め手含めて準備しておかなければならない。
「よう。えーっと……男三人か? 今日は肩身が狭くなさそうだな」
夏陽くんは初対面のメンバーが多いので、順に挨拶を交わす。
「それで、昴。後一人はさつきか多恵? それとも上原?」
「いんや。フォワードの助っ人を呼んだ」
「フォワード?」
智花ちゃんとか?
でも、あの子は日舞と茶道のお稽古で忙しいはずだし……と、いよいよ首を傾げてしまう。
幸い、疑問の答えはすぐに出たのだが。
「せっかくの夏休みに呼び出しやがって。どういうつもりだ長谷川」
背後からの声に私は振り返る。
なかなかの長身に見覚えのある仏頂面。
私は反射的に笑顔を浮かべていた。
「どちら様でしょうか?」
「ご挨拶だなてめえ。……俺に勝てない癖にまだバスケやってたのか」
「諏訪君こそ。私に勝ったのにまだバスケ続けてるんですか?」
諏訪一宏。
私にとっては因縁のある男が、今日最後のメンバーらしい。
「というか、恋人の手綱くらいちゃんと握っておいてください。迷惑です」
「あー。奈那とやったらしいな。さんざんお前の悪口聞かされた」
顔をしかめた諏訪は私の目をじっと見てくる。
謝ってくれるのかな?
「格下を叩き潰すとかアホか。この雑魚専」
「……ふふ。諏訪君こそ、女の子にそんな言い方ばかりしていたら彼女に逃げられちゃいますよ?」
「奈那の方が俺に惚れてんだよ。っていうかお前が女の子ってタマか」
なんか前より相性悪くなってる気がする。
こいつの顔を見た途端、溜まっていた鬱憤が出てくるわ出てくるわ。そもそもこいつのことは祥の件もあって気に食わないのだ。あのことを知らない人もいるから口には出せないけど。
今の私でも女の子とは呼べないと来たか。
だったらもっと磨きをかけて、意地でもいつか認めさせてやる。
「あー。二人ともその辺にしといてくれ。これからチームメイトになるんだから」
「「こいつとチームメイトとか正気(か)?」
同時に言った私達を見て、夏陽くんがぼやいた。
「おい、あんた。絶対人選間違ってるぞ」
正直私もそう思った。