ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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7th stage 翔子は昴と小学生の試練に立ち会う(5)

 昴が指定したチームは以下の通りだった。

 

 ・チームA:竹中夏陽、諏訪一宏、鶴見翔子

 ・チームB:長谷川昴、荻山葵、香椎万里

 

 昴側のチームは器用なフォワード(葵)とセンター(香椎くん)、智花ちゃんと愛莉ちゃんを意識した構成。

 私側のチームは剥き出しの戦意が須賀っぽい夏陽くんと数合わせのフォワード諏訪、センターの私。余りものにしては奈那ちゃんと眞弓ちゃんに近いと思うけど、我ながらフォーメーションとかチームワークとは程遠いプレーになってしまった。

 

「甘いぜ鶴見……!」

「う、しまった」

「おい何やってんだてめえ。ただデカいだけか。身長は飾りか」

「うるさいだまれ」

 

 香椎くんのパワードリブルに突っ切られ、得点されれば罵倒が飛んできて、思わず言い返す。

 

「ほら、諏訪君も慎重に構えすぎじゃない……っ?」

「なっ!?」

「あれ、諏訪。女の子にも勝てないの? 須賀からエースの座は奪えたの?」

「調子乗ってんじゃねえぶん殴るぞ」

 

 葵に突破されたあいつを笑えば、本気で殴ってきそうなレベルの怒気が来る。

 諏訪が、っていうよりはお互いに喧嘩腰が止まらない。

 

 ――本質的に相性が悪いんだと思う。

 

 形だけ仲良くしようと思っても、憎まれ口一つ叩かれただけで堪忍袋の緒が切れてしまう。

 っていうかこれだけ暴力的なんだったら、須賀の代わりは諏訪で良かったんじゃないだろうか。

 まあともあれ。

 あんまり連携が取れてなくて好き勝手やってる、っていう意味でも須賀チームを再現できてしまっていたような気がする。

 

 その甲斐あってか(?)、対須賀戦において昴が妙に不調だったという事実も発覚。

 本調子の昴ならもうちょっと戦えていたはずだとわかった。

 

 後は、対抗策と切り札。

 

「諏訪。あいつのジャブステップ、見切れたか?」

「……いや。先輩達も含めて誰も破れてねえ」

 

 昴の問いに諏訪が悔しそうに首を振った。

 間近で見ていてもそれなら攻略はなかなかに難しそうだ。

 逆に見慣れてるから見えないって可能性もあるけど。

 その辺は昴もビデオを繰り返し見てるらしいから、そっちに期待。

 

「あと翔子」

「うん?」

「ジャンプシュート得意だろ。スクープショットってできるか?」

「スクープ? 打てなくはないけど、特別に練習したことはないかな」

 

 私がそう答えると、昴は「そっか」と残念そうに頷いた。

 何かコツとかあったら教えて欲しかったらしい。そういえば、さっきも夏陽くん相手に打ってたっけ。なんでも、必殺技にできればと練習しているのだとか。

 ちなみにスクープっていうのは遠めの距離から放つレイアップのこと。

 状況的に苦し紛れ感があって、へなちょこシュートなんて呼ばれたりもするけど、実際決まってるところを見るとすごく格好いい。

 ただまあ、決めるのが難しい。

 レイアップは近くで打つからこそ片手でも決まる。それを遠間から打つとなると相当シビアな感覚が必要だ。単に遠くからシュート決めたいなら両手で打てばいいわけだし。

 その分、警戒されづらいし、乱戦になりかけたところから「ひょい」っと得点できるのが利点。

 

「やっぱり数こなすことじゃない? ブロックをかわすためのシュートだから色んな状況で打たなきゃいけないし。手首で微調整できるようにならないと」

「だよなあ……お前なら新しい技覚えるヒントがあるかと思ったんだが」

「私のは新しい技じゃなくて、誰かが覚えてる技だよ」

 

 いわばラーニング。

 それも見ただけでほいほい使えるわけじゃない。真似してみて「なにこれやってみると超難しい」ってなりながら反復練習して身に着けているのだ。

 しかも、そこまでしても本家には遠く及ばないわけだし。

 

「あんたジャンプシュート得意でしょ? あたしのフェイダウェイとかどんな感じで打ってるのよ」

「感覚だから言葉にするのは難しいよ。……強いていうなら風の精でもになってる感じ?」

「なんだそりゃ」

 

 さっぱりわからん、と昴が投げた。

 うん、今の説明じゃ私でもわからないと思う。

 

「長谷川。こいつに聞いたって無駄だ。お前がなんとかしろ」

「む。そこまで言うなら私もスクープ覚えようかな。昴が打てるようになってから」

「お前俺の技まで盗む気かよ……」

 

 もちろん、使えるものはなんでも使う。

 手札は多ければ多いほどいいんだし。

 そう言うと、昴は「手札か……」と何やら考えていたようだった。

 

 練習と作戦会議が終わると、諏訪はさっさと帰っていった。

 彼も須賀のワンマンぶりはイラっとしているようで、自分が鼻っ柱を折るヒントになるかもしれないと参加したらしい。

 まあ、そうでもないと来ないと思うけど。

 去り際に「お前とはもう会わない」と言われた。うん、私も会いたくない。口喧嘩をするにも男時代の残滓をかき集めてるような感覚があって、なんだかざわざわするのだ。

 

 諏訪がいなくなってほっと息を吐くと、香椎くんが「災難だったな」って苦笑いしてくれた。

 須賀といい諏訪といい、もう少し香椎くんを見習ってほしい。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 智花ちゃんの不調は、昴とのチームプレー経験不足が原因だったらしい。

 昴と一緒にお風呂に入ったり(水着着用)、一緒の部屋で寝た(布団は別)ことで不調はなくなり、かなりのキラーパスでも通るようになった。

 あと、昴の方の不調は智花ちゃんが改善してくれたそうだ。

 本人曰く、自分の使い方を再認識したとのこと。心機一転した昴の動きは見違えるようで、これなら須賀にも通用するかもと思えた。

 でも、智花ちゃんは大丈夫だろうか。

 聞いた限り昴に「イリーガルユースオブハンズ」はなかったみたいだし、二人の歳の差なら逆にセーフだとは思うけど。下手に想いを募らせてしまうと辛くなるかもしれない。

 それとも、想い続ける覚悟を決めたのかな……?

 

 香椎くんのお陰で愛莉ちゃんの特訓も順調。

 自分よりも大きな男子が相手でも物怖じせずにプレーできるようになってきたので、後はこの感覚を忘れなければきっと大丈夫。

 

 須賀攻略の糸口も無事見つかった模様。

 聞いてみたところ、個人戦で使えるものではなかった。ただし、チームプレーでマークマンの人数を増やせるのなら、昴が見つけた「須賀の癖」は凄く役立つ。

 

 後は須賀に話をつけるだけだ。

 

 私は昴の部屋にお邪魔すると、彼の見ている前で須賀の番号をコールした。

 電話はすぐに繋がった。

 

『誰だ?』

 

 不機嫌そうな声。

 

「私、鶴見翔子。今、電話大丈夫?」

『ああ。……くく。まさか本当に連絡が来るとは思わなかったぜ。俺の女になる気になったか?』

「あはは、ごめんね。そういう用件じゃないの」

 

 うん、須賀相手だと諏訪よりはマシに話せる。

 私は昴に電話を代わる。

 

「俺だ。須賀、お前に再戦を申し込みたい」

『……ちっ、長谷川かよ。再戦だぁ? この短期間で何か変わったとでもいうのか?』

「変わったか変わってないかは見てもらえばわかる。それとも、怖いか?」

 

 昴の挑発はクリティカルだった。

 

『……いいだろう。奈那と調整してメールを入れる。けどな、貴重な時間を割いて勝負してやるんだ。こっちからも条件を付けるぜ』

「無理を言ってるのはこっちだ。大抵のことなら飲む覚悟はある」

『そうかよ。……なら、せいぜい期待して待ってな』

 

 メールは数日後に送られてきた。

 

 夏の終わり、八月三十日。

 前回と同じ3on3で、再戦の条件として――負けた時に次の条件を呑むように言われた。

 

 ・昴が奈那ちゃんの奴隷になること

 ・私が須賀と付き合うこと

 

 昴達と一緒に条件を確認した私は思わず唸った。

 

「……須賀君って女の趣味悪かったんだね」

 

 そこまで私に固執しなくても。

 よっぽど気に入ったのか、それとも昴への嫌がらせなのかな……?

 首を傾げていると昴と葵がツッコミを入れてきた。

 

「いやいや、お前。いいのかこの条件!」

「須賀君と付き合うんだよ? あんた、あの男って……その、余裕で守備範囲外でしょ?」

 

 うん、男っていう時点でできれば遠慮願いたい。

 でも。

 

「付き合うだけならね。結婚するわけじゃないし。合わなかったら別れてもいいはずでしょ?」

 

 須賀だってそこまで無茶は言わないだろう。

 一回くらい男女の関係にならないと納得してくれないかもだけど……そこは犬にでも噛まれたと思って諦める。

 

「むしろ昴はいいの? 奴隷だよ? しかもあの奈那ちゃんの」

 

 尋ねると、昴は男の子の顔で答えた。

 

「ああ。負けなければいいだけだ」

「格好いい。……なら、私だってそうだよ」

 

 私は微笑んだ。

 

「許せない条件だって思うなら、負けないで」

「……そのための条件か。わかった」

 

 昴は頷いた。

 

「安心してくれ。俺は負けない。俺自身のためにも、みんなのためにも――今度こそ、必ず勝ってみせる」

「うん、その意気」

 

 それでこそ、私のバスケの師匠だ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 再戦は、嘘みたいにスムーズに進んだ。

 私達が総出で行ってきた対策が、特訓が、次々に実を結んだ形。

 

 昴からの鋭いパスを、智花ちゃんが逃さず受け取る。

 ダブルチームで須賀の自由を奪い攻撃を防ぐ。

 高校生の小学生の身長差を活かして視覚の隙を作り、ファウルを狙う。

 押し引きの技術を覚えた愛莉ちゃんが眞弓ちゃんを翻弄し、逆に迷いを誘う。

 

 極めつけは、昴と智花ちゃんによるジャブステップ攻略。

 

 須賀が抱えていた「パスを考慮している間は凄みが薄れる」という癖を利用し、個人突破が来る()()()智花ちゃんをマークにつけるという離れ業が炸裂したのだ。

 どうやったらそんなチームワークが可能なのか。

 お互いの信頼と相性がよほど良くないとできないはず。葵が嫉妬でちょっと変な顔をしていた。でも、そのくらい凄かったのだ。

 

「須賀。……ここからは、1on1ってことでどうだ?」

 

 前回の流れを逆にした形で昴が提案し、須賀が受ける。

 一対一では智花ちゃんには頼れない。

 ジャブステップ攻略が運頼みとすると、昴の攻撃が一回でも失敗すれば終わりと考えていい。

 

 負ければ奴隷のプレッシャーの中。

 昴は初球でスクープショットを決め、須賀のディフェンスプランにノイズを加えると、次からの攻撃は何ら奇をてらったところのない「フェイントからの突破」を選んだ。

 これが連続で成功する。

 須賀のディフェンスをするりとかわす昴は全くの自然体。彼が編み出した自分の使い方とは、須賀の戦意剥き出しのスタイルとは逆の、いわば静のバスケ。

 火と水に例えてもいいかもしれない。

 

「私の『風の精』もちょっとは役に立ったのかな?」

「や、それはない」

「それはないな」

「るーみん、なんか変なこと言ったの?」

 

 さんざんな言われようだった。

 

「負けたなんて思ってねーぞ長谷川。……完全にはな」

 

 結局、須賀は昴を止められなかった。

 須賀を止められない昴。昴を止められない須賀。彼らはライバルとして対等になったといっていい。

 次は五対五で決着をつけよう。

 ちゃんとした公式戦の場で。

 そう言葉を交わし――昴と須賀は別れた。奈那ちゃんたちはべそをかきながら須賀の後を追っていった。どのみち夏休みも終わりだけど、もう道場破りのような真似はしないだろう。

 

 ……私も、ほっとした。

 

 最悪、覚悟はしてたけど、須賀の彼女になんてなりたくなかった。

 昴が勝ってくれて本当によかった。

 と、香椎くんが遠慮がちに背中を叩いてくれる。

 

「ほら。行こうぜ、鶴見」

「あ、うん」

 

 微笑んで頷き、私も、みんなにもみくちゃにされている昴に駆け寄った。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 昴達の決闘の後は交流試合をした。

 相変わらず昴に対抗意識を燃やす竹中君がいたりしたけど、こっちの試合は終始和やかに進んだ。

 そして、ファミレスに場所を移して感想戦に入った頃。

 私と昴、葵のもとに同時にメールが入ってきた。

 

「……あっ」

「おっ」

「あはっ」

 

 それは、麻奈佳先輩からのメール。

 足の手術が無事成功した旨と、私達との対戦を願う旨。

 

 私達。

 慧心女バスと硯谷のことであり、コーチ対コーチのことであり、選手対選手のことでもある。

 私達は喜びと共にこれからへの思いを新たにする。

 

 お試し期間として定めた夏休みが終わる。

 女バスに入ったまま先輩達に不義理を続けるのもこれ以上は心苦しい。

 私自身、今後の身の振り方を確定させる時期にさしかかっていた。




次はエンディング(万里編)です。
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