ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
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【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)
【ポジション】
センター
【小学5年生の頃の自分】
性自認と実際の性の違いでピリピリしていた
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「おー、久しぶりだな翔子ちゃん! 見ない間にすっかり美人さんになっちまって。恋か?」
「お久しぶりです、銀河さん。……あはは、あいにく恋人には恵まれないんです」
久しぶりに会ったった彼は以前と全く変わっていなかった。
長谷川銀河。
昴のお父さんであり、七夕さんの旦那さん。昴とは全然似ていない長身かつガタイのいい地質学の准教授。高校時代は『空飛ぶ冷凍マグロ』の異名で知られ、七芝高校を全国出場に導いた伝説のエース。
私も何度か会ったことがある。
物凄く気さくな彼は、会いに来た私を歓迎してくれた。
「これ、つまらないものですが」
挨拶を済ませた私は手土産を差し出す。
くだけた普段着で食卓に座った昴がそれを見て苦笑した。
「そんな気、使わなくてもいいのに。親父だし」
「そうだぞ翔子ちゃん、そういうのは大人になってからで十分っと……珍しいものが出てきたな!」
「
消えものなら受け取ってもらえるだろう、という目論見は成功。
銀河さんはほくほく顔で贈り物を見ると七夕さんに声をかける。
「こんなもの持ってこられたら飲まずにはいられねーな。……なゆなゆ、頼む」
「はいはい。ふふ、翔子ちゃん。ありがとうね」
「とんでもありません。皆さんで召し上がってください」
「ってゆーかもう飲んでるじゃねーか親父……」
うん、まあ。
銀河さんの席の前にはビールの瓶とグラスが置かれており、中身は既に減っている。
夕食前の晩酌っていう時間に来ちゃったから、そりゃそうだ。
平日の早い時間はお仕事で家にいないかもって話だったから、こうして夜になってからお邪魔した。
「葵とはもう会いました?」
「いんや、残念ながらまだ。息子の彼女の顔、こっちにいる間に一目見ておきたいんだけどなー」
「葵のことならよく知ってるだろうが」
「甘いなすばるくん。お前の幼馴染としての葵ちゃんとは既に会っているが、お前の彼女になった葵ちゃんとはまだ会ってねーのだよ」
「変わんねーよ! いきなり両親に紹介とか結婚挨拶か! あとすばるくん言うな!」
「もうそこまで進んでんのか! なゆなゆ、お赤飯を……!」
「違うわ!」
何この漫才。
私は途中からお腹抱えて笑ってました。ああもうお腹痛い。
「葵も心の準備をしてるんじゃないでしょうか。そのうち会いに来てくれると思います」
「そうだな。なかなか会えなかったら昴にセッティングしてもらおう」
「まあ、いいけどな……。もともと知らない仲じゃないんだし」
ぶつぶつ言いつつ昴も了承。
ご両親への挨拶が既に済んでるようなもので、なんならいつ結婚してもOK……って、考えてみるとすごく恵まれた環境だよね。
幼馴染の強みというのをあらためて実感する。
ラノベやアニメにおける幼馴染の負け率? 知らない子ですね。
「そうかー。昴のハートを射止めたのは葵ちゃんの方だったか。大丈夫だ翔子ちゃん。その女子力ならいつでも良い相手が見つかるから」
「はい、ありがとうございます」
「射止めるも何も翔子とはそういうんじゃないって……」
葵とも「そういうんじゃない」と思っていた男が何か言っております。
「うふふ。昴くんがみんなと仲良しで嬉しい。ね、翔子ちゃんも晩御飯、食べて行くでしょう?」
「え。いえそんな、悪いです」
「いいのいいの。せっかく銀河くんがいて賑やかなんだし、一緒に食べましょう?」
「あ……あはは、ありがとうございます。実はちょっとだけ、そういうつもりもありました」
正直に白状しつつ、七夕さんの料理を手伝いに行く私。
何度か料理を習いに来るうちに置かせてもらうようになった私用のエプロンを身に着け、並んでキッチンに立つ。これ、葵がやるべき立ち位置な気もするけど。
一緒にと誘った彼女には「翔子に助けてもらうのは違う気がするから」と断られてしまった。
自分から退路を断つとは、葵も本気らしい。
「っていうか翔子、お前親父に会うのと飯のためだけに来たのか?」
「あ、忘れるところだった。ううん、もう一つ。昴に渡したいものがあって」
「俺に?」
「うん」
私は料理が一段落した後、持ってきた小さな袋を昴に渡した。
「これは?」
「智花ちゃんの誕生日プレゼント。昴から智花ちゃんに渡してくれる?」
智花ちゃん、今週の土曜日がお誕生日らしいのだ。
で、昴はお誕生日会に呼ばれている。
本当は私も招待してくれようとしたんだけど、遠慮させてもらうことにした。年上が多いと子供だけで楽しめないだろうし、葵は招待しないつもりみたいだったから。
仲良くしたくないわけじゃないけど、好きな人を取られた悔しさもある。
複雑な乙女心に感心したわけじゃないけど、女バスの正コーチ一人だけを呼ぶなら言い訳は十分に立つだろう。
「なるほどな。じゃあ確かに受け取った。ちなみに何にしたんだ?」
「組紐と、オリジナルの刻印入りの将棋の駒」
小学生のお誕生日会とはいえ、あの真帆ちゃんがいるわけで。
さりげなく聞き取りをした結果、そこそこのお値段のプレゼントが含まれそうだったため、色々悩んで二つセットにした。
組紐なら腕に着けても鞄に着けても、最悪照明のスイッチ紐を延長してもいいし(LEDが来たらお役御免だけど)。
駒の方も小さいものだから飾る場所には困らない。
机の隅っこにでもしまい込んでもらえればそれで十分である。
「お前らしいようなそうでないような……。刻印ってのは?」
「『六連星』っていうのだよ」
ちなみに二枚組。
なんならオリジナルルールとか言って実際のプレイに使えなくもないし、予備に取っておいてもいいし、誰かに渡してペアにするなんて使い方もできなくはない。
「六連星か。踏み台の人は関係ないよな?」
「うん。智花ちゃんたち五人と、コーチの六人で一つのチーム……っていう意味」
答えると、昴が感心したように目を瞠った。
「……さすがだな。でもお前、それなら自分入れて七連星にしとけよ」
「あはは、それでも良かったんだけどね」
それだと
☆ ☆ ☆
「……最近ね、ご無沙汰なの。彼ったらどうしちゃったのかしら」
「え、ええと」
憂いを含んだ表情で息を吐く美人養護教諭さんを前に、私は戸惑いに襲われていた。
週三で訪れるようになった慧心学園初等部。
私もコートに立つ機会が増えてきて、だからか小さな擦り傷を作ってしまった。常備している絆創膏がちょうど切れていたので、分けてもらえないか保険室を訪ねてみたのだが。
初等部の先生は縁なし眼鏡にショートヘアの知的美人さんで。
何故か私が声をかけるなり「鶴見翔子ちゃん……かしら?」と名前を言い当ててきた。
どうやら昴や智花ちゃんたちとも親しくしているらしく、その縁で私のことも多少聞いていたらしい。
「絆創膏ならもちろんどうぞ。……ついでに、少しお話ししていかない?」
「はい。それは喜んで」
と、快く答えて向かいに座ったんだけど、それが間違いだったのか。
「彼って、昴のことですよね?」
「ええ。わかるの。急に淡白になってしまったのが。目が、気持ちが、年頃の女体に向けられているのが」
「昴……」
なんてことだ。
まさか、葵と付き合う前に、こんな美人さんと身体の関係だったなんて!
――って、んなわけないよね。
私は小首を傾げて、彼女――羽多野冬子先生に尋ねた。
「淡白って、誰に対してですか?」
「決まってるわ」
羽多野先生はくすりと笑って答えた。
「エンジェルちゃんたち……女子バスケットボール部のみんなに対してよ」
「ああ、だと思いました」
良かった、と、ちょっとだけほっとしつつ頷く。
「それはそうですよ。女子高生……葵と付き合い始めたんですから」
「ロリちゃん達の魅力を忘れてしまっても仕方ない、と?」
何故かプレッシャーを感じた。
羽多野先生からだ。
一見すると何も変わっていないのに、内から湧きだすオーラがやばい。何か譲れないものを犯されそうになったような、そんな印象。
私は慎重に言葉を選んだ。
「そうは言いませんが、特定の相手ができたなら操を立てるべきでしょう?」
「……なるほど、そうね。あなたの言う通りだわ」
良かった、分かってもらえた。
でも、なんだろう。
話の流れをそのまま解釈すると、羽多野先生は子供たちのことが性的な意味で好きってことに――。
あ。
先生の手が私の手に重ねられた。
持ち上げられてぎゅっと握られる。
「私の言いたいことを暗に理解した上で否定しないなんて……。翔子ちゃん、あなたには素質があるわ。ああ、昴くんの他にこんな逸材がいたなんて。バスケットボールのコーチはみんなロリコンなのかしら」
「それはひどい誤解です……っ!」
「くす。そうよね。昴くんとあなたがたまたま、私の眼鏡に適う『同好の士』だっただけよね」
「そっちも否定したかったんですが……」
羽多野先生の瞳が私を覗き込んでくる。
放課後。
保健室前の廊下は静かだった。でも、外で遊ぶ子供の声は聞こえてくるし、部活に興じている子も沢山いるはず。こんなきわどい話をするにはアレな環境のはずなのに。
目を逸らせない。
嘘偽りを許さないとばかりに先生の目は澄んでいた。
「女バスのみんなの中だと誰が好み?」
「へ?」
「誰が好み?」
「いえ、みんなそれぞれに可愛いと――」
「翔子ちゃん」
「ひっ」
駄目だ。なんかよくわからないけど見抜かれてる。
建前はいいから本音を言えと暗に訴えられている。
「愛莉ちゃんと智花ちゃんが甲乙つけがたいと……」
「同士よ!」
「なんでですか!」
羽多野先生の笑顔がめちゃくちゃ生き生きしている。
「あの年頃の子を見て好みが生まれるのがロリコンの証拠よ。つまり私と同じ人種」
言いきっちゃんだけど、この養護教諭さん……。
「隠す必要はないわ。私は仲間だもの。ああ、最高……! 昴くんとの連帯感も素敵だったけど、趣味の合う女の子とならいくらでも話せるに違いない! ロリコンの神よ、感謝します……!」
「駄目だこの人!」
「くすくす。さあ翔子ちゃん、胸の内を全部曝け出して。私と一緒に幸せな世界に上っていきましょう?」
「あうう……」
本当にそういうの止めてほしい。
握られた手に柔らかい感触が伝わってくるし、近くにいるからいい匂いがする。
こんなことされたらドキドキしてしまう。
だって、
「私はロリコンじゃなくてレズなんです!」
一瞬、しん、と保健室内が静まり返った。
羽多野先生が笑顔のまま硬直している。
口をぽっかりと開けた彼女は、どうにかフリーズから立ち直ると私に尋ねてくる。
「
「
私の手を包んでいた手がぱっと離れた。
羽多野先生は消沈したように項垂れると、そのまま動かなくなる。
――私が悪いわけじゃないと思うけど。
なんとなく罪悪感を覚えながら私は立ち上がった。
あんな告白をしてしまった以上、近くにいない方がいいだろう。いかにロリコン、特殊性癖の持ち主といえど、別種の性癖と分かり合えるとは限らない。
これからはなるべく保健室には来ないようにしよう。
思って、背を向けようとしたところで。
羽多野先生が不意に顔を上げて。
「まあ、問題ないわね。翔子ちゃん、今度うちでお泊まりしない?」
「私の話聞いてました……?」
この人の将来が心配になってしまった私だった(逮捕的な意味で)。
しれっと生き返った羽多野先生によれば「でも小さい子に欲情するんでしょう?」とのこと。ひどい認識のされ方である。別に欲情まではしない。単に可愛いなって思うだけだ。それはまあ、強いて想像してしまえば興奮はできるけど。
と、正直に口にしたら「同士よ」と抱きしめられた。だから違うって言ってるのに!
「安心して。私もどちらかといえばレズ寄りだから。エンジェルちゃんたちと永遠に暮らすことはできないけれど、女同士は一緒に暮らせるでしょう? 翔子ちゃんさえ問題なくて、このままお互いのことを知っていければ、私があなたを養ってあげる未来だってあるかもしれないわよ? 養子でも取って一緒に可愛がって育てましょう?」
あれ? 何の問題もないんじゃないかな……?
なんだかここにいるとこのまま「はい」って頷いてしまいそうなので、用事を思い出したことにして逃げを打った。
お泊まりの話は流れでオッケーしちゃったけど。
さすがに共同生活うんぬんは冗談だろうし、養護教諭の方とお話する機会なんてそうそうないから興味深い話が聞けるかもしれない。
――最悪でも、向こうからは襲って来ないだろうし。
そんな失礼なことを考えつつ、私は昴たちのところに戻ったのだった。