ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子とプール

 スクール水着とは機能美の体現である。

 

 肌を過不足なく覆うこと。授業用に地味な色合いであること。ある程度の伸縮性を持ち成長に耐えられることなどなど。

 性能だけで見れば競泳水着の方が上だが、コスパや着用時間を加味すれば最適解の一つだろう。

 

 ――だから、これはあくまで水泳のための装備。

 

 下着じゃないから恥ずかしくないの精神。

 一体型だから生地の面積も広い。他の女子も同じ格好をしているわけだし、男子なんて海パン一丁だ。それを考えれば恥ずかしがる必要なんて、

 うん、無理。恥ずかしい。

 

 クラスメートと共にプールサイドへ並んだ俺は顔から火が出そうだった。

 うちの小学校は公立で、プールは同然のように屋外型。風が肌を撫でる感触が都度、今の格好を自覚させてくれる。

 かといって腕で隠すのも挙動不審だ。

 もう何年もやっているんだから慣れればいいのだが、夏場だけの授業というのが毎度、新鮮な気持ちにさせてくれる。しかも今年は胸が大きくなり始めているわけで。

 

「おい、ショウゴ。お前なんで女子のところに並んでるんだよ」

「こっち来いよ。男なんだろ」

 

 今はそれどころじゃないのに、そういう時に限って男子がはやし立ててくる。

 いやまあ、行けるもんなら行きたいんだけど。

 

「先生に怒られるだろ」

 

 俺はちょっと卑怯な逃げ方をする。

 しかし、残念ながら納得してもらうことはできなかった。

 

「怒られなかったらこっち来たいのかよ」

「鶴見さん、行きたいなら行ってくれば?」

 

 お調子者の男子の声に、女子から援護が入る。

 見れば、クラス内でも飛びぬけた美人の子がつんと澄ました顔であさっての方向を見ていた。名前は(おおとり)(さち)。柿園と人気を二分するリーダー格であり、俺が最も苦手としている相手だ。

 彼女が着るとスクール水着ですら様になる。

 俺は反射的に口を開きかけ、すぐに閉じた。何か言っても「なんのこと?」と惚けられるのがオチだろう。

 

「はい静かに」

 

 幸い、先生が号令をかけてくれたので、話はそこでおしまいになった。

 ぽんと肩を叩いてくる柿園に感謝を込めて頷く。

 大丈夫。別にこの程度、いつものことだ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 水着は恥ずかしいが、プールの冷たさは心地いい。

 水に浸かった途端、全体から歓声が上がるのも無理ないことだ。今日は日差しが強いので、絶好のプール日和。ここぞとばかりにはしゃぐクラスメート達に混ざり、俺もしばし水の感触を楽しんだ。

 

 その年、最初のプール授業は水に慣れるところから始まる。

 しばらく自由に遊ばせて感覚を取り戻したら、去年までのおさらい。水に顔をつけて一定時間待つといったものから各種泳ぎ方の練習へ。

 六年生ともなると全く泳げない生徒は殆どいない。

 スピードやフォームに差こそあれ、とりあえず泳ぐだけならなんとかなる。男女二コースずつ計四コースに分かれて順次、クロールや平泳ぎを何度かこなす。苦手な生徒はビート版を使いながらゆっくりとだ。

 

 そんな中、目立っていたのは柿園と諏訪。

 

「柿園さん、凄い凄い!」

「さつきはこういうの得意だよね。こういうのだけは」

「ほっとけ」

 

 称賛に混じるからかいの声に笑顔で答える柿園。

 危なげないフォームのクロールで25メートルを泳ぎ切った彼女は前髪から水滴を垂らしながら、自然体で立っている。

 俺同様、成長途上にある身体は若干エロい。

 ませた男子が見たら性的な自覚を速めてしまいそうである。

 

 まあ、男子の注目はむしろ、諏訪の泳ぎに黄色い声を上げる鳳に行っているが。

 

「諏訪くん、格好いい!」

 

 諏訪はイケメンで、勉強は微妙だが運動神経は良い。

 体育となれば常に中心に位置し、運動会ではエースを張る。典型的なモテる小学生男子であり、憧れている女子は多い。

 特に鳳の入れ込みようは相当なものだ。

 毎日どこかの休み時間で諏訪の気を引こうと話しかけているし、アプローチの前には髪や服の乱れがないか入念にチェックしている。わかりやすいことこの上ない。諏訪は気づいているのかいないのか、一貫してごく普通の対応しかしていないが。

 

 ほんのりと頬を染めてはしゃぐ鳳の姿は、俺から見ても可愛い。

 もちろん、だからといって惚れるとかはない。あまり眺めて変な誤解をされても困るので視線を外せば、代わりに諏訪の方と目が合った。

 

「……ふん」

 

 俺の身体を上から下まで眺めた後、鼻を鳴らして顔を背ける少年。

 一体何だというのか。

 

「翔子、次お前の番じゃね?」

「っと」

 

 近寄ってきた柿園に声をかけられ、俺は意識を引き戻した。

 

「格好いいとこ見せろよ」

「努力はするけど」

 

 適当に答えつつ、スタート位置に立つ。

 呼吸を整える。心臓が少し高鳴っていた。柿園にはああ言ったものの、実を言うと俺も少し自分のタイムを楽しみにしていた。

 前世の頃や五年生までと比べ、俺は運動が好きになった。

 言うまでもないバスケのお陰だが、さんざん走ったり跳ねたりした経験は果たして、水泳にどの程度、影響して来るのか。

 

 ――先生の笛と同時に飛び込む。

 

 冷たい水が全身に纏わりつく。

 飛び込みによる推進力を失わないうちにバタ足を開始し、クロールへ移行。水中かつ運動中ということで苦しくなる呼吸を息継ぎによって補い、一心不乱に身体を動かした。

 

 ――なんだ、これ。

 

 気持ちよかった。

 身体が軽い。去年の感覚とは大違いだった。腕や足が思ったように動き、水を次々にかき分けていく。肺活量が上がったのか呼吸の苦しさが思ったほどではなく、お陰で無理のなく息継ぎができる。

 楽しい。

 心からそう思った。

 途中からは無心。ただ泳ぐことに夢中になり、気づいた時には泳ぎ切っていた。

 

「なんだよ、やっぱり結構泳げるじゃんか」

「あれ、鶴見さんってこんなに運動得意だったっけ?」

「でも、最近体育でも調子良くない?」

 

 水から上がると、柿園や何人かの女子の声が聞こえた。

 どうやら、俺の泳ぎはなかなか良かったらしい。体感で思い返してみると、柿園や諏訪には及ばないが見栄えはするレベルといったところか。俺としては期待以上だ。ちょっとバスケ始めただけでクラスで一番になれたら、ちょっと都合良すぎて逆に怖い。

 それに、泳ぐのは楽しいけど、あくまで授業や遊びでの話。

 思った以上に泳げたと理解して最初に思ったのは「もっとバスケ頑張ろう」だった。やっぱり継続してやるならバスケだ。

 いや、昴と葵が水泳に転向したら俺もそっち行くけど。

 

 と、プールサイドを歩くうちに誰かの視線。

 振り返るとそこにはまたしても鳳がいたが、彼女はとっくに目を逸らしており、真意も真偽も確認できなかった。

 

 

 

 

 

 二コマ連続授業の二コマ目が半分近く終わった頃。

 先生が俺達に言い渡したのは「後は好きなように泳ぎの練習をしなさい」というものだった。

 練習用にはここまで使っていた四コースがそのまま開放され、残ったコースは水遊び用に使っていいと言われる。

 泳ぐのが苦手な者なんかは嬉々として水遊びに流れていく。

 さて柿園は、と、

 

「さー休むかー」

「おい」

 

 先生が少し離れたところで観戦モードに移行した途端、日陰に移動して座り込んでいた。

 思わず抗議すると胡乱気にこっちを見てくる。

 

「何だよ。あちしは貴重な休憩時間をだな」

「授業中だっての」

「いや、泳ぎなんてそこそこできればいいだろ。真面目に練習し続けるとか疲れる」

 

 この天才肌が!

 基本の運動神経がいいんだから、もっと打ち込んでもいいと思うのだが。

 柿園にとってはダルいという感情が優先するらしく、梃子でも動きそうにはない。俺は息を吐いて説得を諦めるとプールの方へ戻った。幸い、柿園に追従したのは特に不真面目な一、二名だけだった。残りは何かしらの形で水に浸かろうとしている。

 俺ももちろん、空いた練習用コースに直行。

 プール授業はそう何回もない。雨が降れば中止だし、練習できるときに練習しておきたい。……という建前で、実際はもっと泳ぎたいだけだが。

 

 うきうきしながら飛び込もうとすると、隣のコースに誰かが立った。

 

「………」

 

 鳳だった。

 長い髪をスイムキャップにしまった彼女は、ちらり、と俺に視線を向けた後で正面に向き直る。

 勝負だと言われた気がした。

 俺は頷きを返すでもなくそれを了承し、軽くタイミングを合わせながらプールに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 水から上がった時、ちょうど鳳がプールの端に手をついていた。

 

「……えっと」

 

 お疲れ様とでも言った方がいいのか。

 迷っているうちに彼女は上がってきて、こっちに目もくれずに歩いていってしまう。

 

 ――気のせいだったのかな?

 

 向こうは別に勝負する気もなかったのかもしれない。

 お洒落大好きで肌荒れとか気にするタイプっぽいし、男子みたいなノリも好きじゃないだろう。考えすぎだったと納得して歩き出す。

 そうしてスタート側に戻ると、

 

「男女。勝負しようぜ」

 

 今度はお前か、諏訪。不敵な顔が鬱陶しい。

 

「カズ、勝てよ!」

「ショウゴなんかに負けんな!」

 

 もっと鬱陶しいのは周りの男子達だが。

 

「わかった、勝負だな」

 

 俺は頷いて構える。

 鳳と違って男子のノリは嫌いじゃない。叶うならそっち側に混ざりたかったくらいだ。だから、真っ向勝負には心が躍る。

 多少、唇が歪むくらいで顔には出さないが。

 

 隣に立った少年と同時にスタート。

 

 身体は十分に火照っているため、最初からギアは全開。

 スタミナを使いつくすつもりで力を籠め、腕と足を力強く動かす。

 何度も泳いだせいで疲労はあるものの、最初に泳いだ時よりも確実に早い。それでも、泳ぎながら見た諏訪は俺よりも前にいた。

 やっぱり速い!

 どうせなら負けたくない。もっと速くと自分を鼓舞する。

 だが、互いの差は縮まることなく、そのままゴールまで辿り着いた。

 

「よっし! よくやったカズ!」

「ざまーみろショウゴ!」

 

 喜ぶ男子。一方、女子は悔しそうだった。

 

「鶴見さんでも駄目かあ」

「さつきなら勝てるんじゃない? やってみなよ」

「めんどいからパス」

 

 柿園の声を聞き流しながら、俺はプールから上がる。

 諏訪がすぐ傍に立っていてこっちを見ていた。

 

「……何?」

「お前、一番得意なことは何だよ」

「は?」

 

 なんだ急に。

 

「バスケだけど」

「バスケ?」

 

 意外そうに眉が細められる。

 

「ふーん。なら、バスケで勝負しようぜ」

「……なんで?」

「このままじゃ勝った気がしねーから」

 

 よくわからん。

 

「まあ、いいけど」

「決まりだな」

 

 諏訪は満足そうに頷くと「メンバーいるのかよ?」と聞いてきた。

 そんなこと言われても困るが。

 

「ん……。3on3ならなんとかなると思う」

「三人だな」

 

 なら一学期の終業式の後に、と一方的に言い渡される。

 早速男子の輪に戻って仲間を誘い始めた諏訪をよそに、俺は呆然と立ち尽くす。

 

 そんな俺を、鳳が冷ややかな目で見ていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「翔子。メンバーのあてはあんの?」

「あるような、ないような」

 

 プールの後の給食の時間、柿園に問われて曖昧に答える。

 あの時、咄嗟に3on3と答えたのは昴と葵の顔が浮かんだからだ。けれど、よく考えると他校の生徒に頼るのはドン引きかもしれない。

 昴達なら「バスケができる」と言えば飛んでくるだろうけど。

 他のメンバーとなると途端に苦しくなる。何しろ俺は友達が少ないのだ。

 

「あちしなら心配ねーよ?」

「ん?」

 

 俺の返答を聞いた柿園が笑みを浮かべていた。

 

「協力してくれるのか?」

「当たり前だろ。そんな楽しそうなこと放っておけないっての」

「いや、てっきり面倒って言われるかと」

「お前はあちしを何だと思ってるのか」

 

 正統な評価じゃないかなあ……。

 

「でも、手伝ってくれるなら凄く助かる。ありがとう、柿園」

 

 食事の手を止めて頭を下げる。

 すると、柿園は何故か硬直する。「素直かよ!」とか、そんな感じの呟きが聞こえた。

 はあ、とため息をついて、

 

「もう一人、あちしに心当たりがなくもないけど」

「というと、例の友達とか?」

「正解」

 

 どこか悪戯っぽい笑顔。

 

「あちしのノリについてこれる逸材だぜ」

「変なのが増えるってことか」

「言いやがったなこの!」

 

 肘を突かれたのでお返ししたら更にやり返される。

 給食そっちのけで身体が絡み合った挙句、先生に怒られ、二人で笑い合った。

 

 その日から、俺はより真剣にバスケに取り組み始めた。

 やはり明確な目標があると違う。昴達に事情を話すと「参加したかった」と嘆かれたものの、俺が謝れば笑って許してくれた。

 やることは変わらないのだから勿論、特訓に付き合ってくれるという。

 俺が上手くなればなるだけ、同じように上手くなる昴達に「ぐぬぬ」と呻きながら特訓を続けて、あっという間に一学期の残りを消化。

 

 気づけば夏休み――そして、一学期の終業式が間近に迫ってきていた。

 七夕さんからプレゼントされたスニーカーは適度に履きならして絶好調。

 

 これならきっと、いい試合ができそうだ。

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