ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
誕生日会の後、智花ちゃんからはお礼のメールが届いた。
後日、私が贈った駒は紐を通す金具がつけられバスケットボール用のバッグのチャームとなっていた。かなり渋いチョイスだったけど、智花ちゃんには良く似合っている。
真帆ちゃんも「かっけー!」と目を輝かせ、自分も欲しいと言ってくれた。
ふふ、文字を変えればみんなにプレゼントできるという目論見は成功したみたい。実はもう四人の分も発注してあるのだ。愛莉ちゃんは「私の誕生日会には来てくださいねっ」とまで言ってくれたし、無駄にならなさそうで安心だ。
昴は普通の贈り物の他に、智花ちゃんへ『二つ名』をプレゼントしたらしい。
急に異能バトルものでも始まったのかと思ったけど、実は他のみんなにも二つ名があるらしい。名付け親は羽多野先生。なんかちょっとだけ納得してしまった。
というか、アニメや漫画にも造詣が深いって――あの人、どれだけ業が深いのか。
ともあれ。
『
そして。
火曜日の同好会を挟んで迎えた水曜日。
着替えを終えていざ練習、といったところで、まさかの横槍が入ったのだった。
『たぁのもおおおおおおおおッ!』
な、何事……?
驚いて振り返ると、そこには体操着姿の五人の女の子。
彼女らの姿を見た智花ちゃんたちが思い思いにその名前を呼ぶ。どうやら知り合いらしい。全員が全員、というわけではなかったみたいだけど。
幸い、戦隊ヒーローのごとくポーズを決めた当人たちが自己紹介をしてくれた。
夏陽くんの妹、双子の竹中椿ちゃんと竹中柊ちゃん。
智花ちゃんと面識があるっぽい、お人形さんみたいなフランス人のミミ・バルゲリーちゃん。
紗季ちゃんのお家と同じ商店街のお寿司屋さんの娘、藤井雅美ちゃん。
ひなたちゃんの妹の袴田かげつちゃん。
以上五名。ちなみに全員五年生らしい。
なんとまあ、因縁や関係性のある子が揃ったものだと感心していると、後ろから夏陽くんが現れた。
「あ、夏陽くん」
「ああ、翔子おねーさん。よっす」
「「にーたん!? あの人とどういう関係!?」」
「なんでもねーよ。ただのバスケ仲間」
挨拶を交わしたら、何故か椿ちゃんと柊ちゃんが声を上げたけど。
夏陽くんはあんまり構うつもりがないようで、面倒そうに用件を告げてきた。
曰く。
椿ちゃんたち五人は智花ちゃんたちと別のミニバスケットボール部を作り、既存の女バスに勝負を挑みたい。自分達が勝ったら練習場所と時間を渡せ、ということらしい。
まあ、智花ちゃんたちも夏陽くんたちと似たようなことをしているので、その辺からのアイデアなんだろうけど。
――顧問同士の話し合いで決めた前の試合とは状況が違う。
どうしようか、と昴を見ると、彼は苦笑して智花ちゃんたちへ視線を送った。
なるほど、子供たちに決めてもらおうと。
「みんな、どうしようか?」
「ん、勝負? いいよん、してあげよーよ!」
そして、昴が問いかけると、真帆ちゃんを筆頭にいともあっさり承諾された。
そんなにあっさり? と思ったけど、考えてみれば当然。みんなからしたら後輩や妹にあたるわけで、ガチガチにいがみ合ってる関係は殆どない。公式戦に出られなくて試合に飢えてる時だし、いい経験にもなる。
とはいえ今から試合は急すぎる。
せめて次回の練習日――金曜日にしてくれと昴がお願いし、臨時のコーチ役らしい夏陽くんがこれを了承。五年生組プラス夏陽くんたちは帰っていった。
「なんか……すごく突然だったね」
「そうだな。だけど、面白いじゃないか」
「うん、確かに」
関係者ばかりのチーム同士での対決。
漫画でもないとこんなことそうそう起こりえない。
愛莉ちゃんたちも意気揚々と練習を始めた。いきなり試合が入ったといっても気負っている様子は全くない。彼女たちがこれまで積み重ねてきた経験が自信になっているのだ。
負けないと。
男らしいプライド的なものとは違う、純粋に競技を愛しているからこそ競い合いたいと思う気持ち。
それはとても尊いものだ。
「でも、そうするとむしろ……あの子たちが心配だね」
「ああ、そうだな」
練習の合間に短く言葉を交わす。
「全くの素人じゃないだろうけど、本格的な経験者はミミちゃんだけだろ」
「ちょっと心もとないよね」
「せめて、ちゃんとしたコーチがいてくれればいいんだけど」
昴によると、ミミちゃんと智花ちゃんは一対一で対戦しているらしい。
可愛らしい見かけに似合わぬフォワードで、ポーカーフェイスから繰り出されるジャブステップはまさに初見殺しだったとか。五年生にしてあの智花ちゃんと五点差、十分に試合として成り立たせていたというから驚異的、まさに漫画の主人公かライバルかといった設定の盛りようだ。
竹中姉妹も夏陽くんの妹さんなら、ある程度のスキルは持っているだろう。でも多分、クラブチームに入ってるとかそういうわけじゃないと思う。短い会話でもわかったブラコン具合からして、お兄さんにくっついてシュートやドリブルしてた感じじゃないだろうか。
かげつちゃんは、どうだろう。ひなたちゃんとはタイプが違ってアスリート向きなスタイルではあった。いや、そういえば、海の合宿でひなたちゃんとマラソン対決したんだっけ?
で、雅美さん。自己紹介で「スナイパー」を名乗ってたけど――ロングシュートが得意なんだろうか。
うん、急造のチームっぽいのに素質のある子達が揃ってる。
わざわざ別のチームを作ってくるあたり負けん気の強さも相当だ。かげつちゃんは終始申し訳なさそうだったので、なんか巻き込まれた感あったけど。
素質は十分。
ミミちゃんも一線級。でも、みんなに勝てるかというと……。
「バスケの試合は個人戦じゃないからね。チームとしての練度でいえば」
「雲泥の差があるだろうな、可哀想なことに」
話の続きは練習が終わってから、みんなと一緒にすることになった。
昴以外はシャワーを浴びてさっぱりしてからだ。
どうやら美星姐さんが暗躍していたらしく、夏休み中にシャワールームが作られていたのだ。年齢制限はないみたいなので私もありがたく使わせてもらった。
男子用のシャワーもあるんだけど、昴は「小学校で裸になるのはなんか背徳的だから」と遠慮していた。そんなこと言って、そのうち我慢できなくなるんじゃない?
「ねえみんな。五年生の子達との試合なんだけど、このままだと不公平だと思うんだ」
「不公平というと、条件が、ということでしょうか?」
「うん。こっちは俺がいるし、翔子も手伝ってくれてる。でも向こうにはコーチも監督もいないよね?」
「そうですね……。竹中くんはいますけど……」
「竹中君も私達と同じ選手だから、昴さんみたいなご指導はできないと思う」
「そう。だから、ちょっと敵に塩を送ってみない?」
ちょっと不遜に聞こえるけど、これは試合を盛り上げるための措置だ。
部内の練習試合とかだと戦力が均等になるようメンバーを調整したりとかよくある話だし、これはそういうのの変形としての提案。
昴が具体的に何を思いついたのかはまだ聞いてないけど、
「なるほどなー。うん、いーよ。簡単に勝っちゃってもつまんないし」
「おー。おにーちゃん、お塩送るの?」
「あはは。塩じゃなくて、人手を送ろうと思ってる。……臨時の監督を」
なるほど、ヒトデを送るのか。
じゃなくて、昴さん、なんで私を見るんでしょうか。
「え、私?」
「嫌か?」
「ううん、嫌じゃないけど……」
言葉を濁しながら考えてみる。
高校生コーチの不在がネックという話なら、誰か高校生を送り込むのが確かに妥当。
向こうも女子のチームだから、できれば女子がいいかもしれない。
暇な私は適任だ。
「ちなみに、葵っていう手は?」
「それでもいいんだけどな……。こっちが俺とお前、向こうが葵一人だと結局、不公平感が出るだろ。それにその、な?」
「な、って」
「いやな。なんていうか、葵と対決するのは楽しそうなんだけど、お互いに秘密ができると二人の時の話題に困るんだよな……」
「あー」
ご馳走様です。
理解すると共に苦笑する私。智花ちゃんはこっそり頬を膨らませている。
まあ確かに、あの子たちって負けたらリベンジ挑みたがりそうだし。
そうなったらずるずるコーチすることになって、子供たちの話をする時にタブーが多くなりそうではある。
「ん、わかった。みんなもそれでいい?」
「るーみんがつばひーの監督するの? きょーてきだな!」
「翔子さんにわたしたちの成長、見て欲しいですっ」
みんなからも反対意見は出なかった。
あ、椿ちゃんと柊ちゃんはまとめて「つばひー」なのか。ということは他の子にもあだ名があるのかな? と聞いてみたら、ミミちゃんと雅美ちゃんはまだ名付けてないみたい。
かげつちゃんは「ゲッタン」とのこと。「get down?」って聞き返しそうになったのは秘密。
「じゃ、そうと決まれば早い方がいいよね」
「悪いな。ちょっと竹中に電話してみるから」
昴から夏陽くんに連絡を取ってもらい、連絡先受け渡しの許可を貰う。
で、昴から電話番号やもろもろを貰って私からかけ直した。
事情を説明すると、夏陽くんは自分が楽になると喜んでくれたものの、一方で懸念も示した。
『俺はいいけど、あいつらがなんて言うかはわかんねーよ。結構ガンコなところあるやつらだし』
「うん。そこはなんとか話してみるから、明日あたり時間もらえないかな?」
『わかった。時間と場所をまた連絡する』
二時間ほど経ってから電話があって、慧心学園近くにある夏陽くんの家で話すことになった。
声に疲れがあったので、結構説得に苦労したのかもしれない。
彼にはそっと、お疲れ様とありがとうを伝えておいた。
☆ ☆ ☆
「わざわざ呼び出して、なんの用?」
「おねーさん、マホたちのコーチでしょ?」
集まってくれた五人に自己紹介をするなり、椿ちゃんと柊ちゃんからの洗礼を浴びた。
おお、さすがに喧嘩腰。
愛莉ちゃんたちが素直すぎるんだよね、と、納得しつつ笑顔を作り直していると、
「お前らはここが自分ちだろうが!」
「「いたっ! 痛いよにーたん!」」
軽く小突かれて頭を抑える双子ちゃんたち。
うん、ここは学園からちょっと歩いたところにある夏陽くんの家。中に入ると手狭だし気を遣わせちゃうからと、手前のガレージに取り付けられたバスケットゴールの前に集まっていた。
と、今度は勝気そうなポニーテールの子――雅美ちゃんが進み出てくる。
「じゃあ、私ならいいですよね? ……何の用ですか? 敵情視察なら恥を知ってください」
「ううん、そういうのじゃないよ」
私はこれに首を振って答えた。
紗季ちゃんを目の敵にしてるっぽい感じだった彼女。そのせいかちょっと理屈っぽいところがあるみたい。
単に感情で攻められると弱いけど、こういう攻撃ならさらっと流せる。
「私ね、みんなに協力できないかと思って来たの」
「キョウリョク? トモカたちに勝つため?」
表情を変えないまま小首を傾げたのはミミちゃん。
慧心の制服がけっこうファンシーなせいもあって凄く可愛い。ひなたちゃん同様、誘拐が心配すぎる。
「そうだよ。智花ちゃんたち強いから」
「でも、どうしてわざわざ? 姉様たちと敵対するような真似……」
一番話しやすそうなのはかげつちゃんだ。
もともと敵愾心が無い上、性格も礼儀正しくて温厚な感じ。
愛莉ちゃんとお話してるところとかすごくほんわかしそうだ。
「私はね、智花ちゃんたちにライバルを作ってあげたいの」
「「ライバル?」」
「そう。強い敵と戦う方がみんなも結果的に強くなるでしょ? だから、敢えて敵に回るの」
「最終的には紗季達のため、ということですか?」
雅美ちゃんに睨まれるけど、あくまで笑顔をキープ。
「そうだよ。でも、だからこそ手は抜かない。智花ちゃんたちにも頑張ってもらわなくちゃいけないから、本気で勝てるようにお手伝いするつもり」
「……なら、別に私は構いませんけど」
「他のみんなはどうかな?」
「そんなのなくたってボク達はマホに勝つし。ねーひー」
「ねー、つば」
むむ、そう来るか。ならば。
「そう簡単に行くかなあ」
「ん?」
「え?」
「真帆ちゃんたちは強いよ。チームなら猶更。でも、チームで勝たないと本当に勝ったことにはならないよね」
「「むっ」」
固まる椿ちゃんたち。
もう一押しは夏陽くんがしてくれた。
「せっかくだから受けてみろよ。この人、ヘンな人だけど、悪いようにはしないだろうから」
「………」
五年生たちが顔を見合わせ、やがて私に向き直る。
彼女たちの表情からして、どうやら説得はうまくいったみたいだった。