ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「でも、ボク達を勝たせるって何する気?」
「試合明日だよ? 今から練習するの?」
臨時の監督就任を許してもらったところで、具体的な作戦会議に移る。
椿ちゃんたちの疑問はもっとも。
夏陽くんもこれには賛成だったようで、訝しげに尋ねてくる。
「あの変態コーチみたいに変な作戦でも考えんのか?」
「ううん。私に昴みたいな魔法は使えないよ」
自分で選んだわけでもない五人を短期間で鍛えて男バスに勝利させた昴。
彼は指揮官として間違いなく天才だ。
――っていうか、そんな昴が半年とか鍛えたチームなんだよね。
しかもメンバーは男バスに勝った時と同じ。
単純に考えると、椿ちゃんたちも男バスに勝てるくらい強くなきゃいけないことになるんだけど……全国出場狙えるようなチーム相手にそれって幾ら何でも無茶じゃなかろうか。
せめて、研究と作戦立てるのに昴と同じだけの時間が欲しい。
「だから、できるのは本当に簡単なことだけ」
「前置きはいいですから、さっさと話してください」
雅美ちゃんが鬱陶しそうに言った。
残暑のせいで単純に暑いというのもあるかもしれない。
私は「ごめんね」と謝ると本題に入った。
「まずは確認から。みんなは、どうすれば試合に勝てると思う?」
椿ちゃんと柊ちゃん、雅美さんが顔を見合わせる。
かげつちゃんは首を傾げ、ミミちゃんは自明とばかりに微動だにしない。
「「「相手より点を取る」」」
「うん、そうだね」
重なった声に頷く。
ルール上、そうしないと勝てない以上はそれが真理だ。
「じゃあ、点を取るにはどうしたらいい?」
「決まってるよ、シュートすればいいんだよ!」
「いっぱいシュートを決めればいっぱい点が取れるんだよ!」
「当然ですね」
こうやって見ると割合仲良さそうに見える。
そんなに急造のチームじゃないのかな? とも思えるけど、夏陽くんの顔が苦い感じになってるあたり、単に我が強い子が集まった結果、意見が合ってるように見えてるだけっぽい。
私は視線をかげつちゃんに向けて次の質問を送った。
「もちろん、相手も同じことしてくるよね。それでも勝つには?」
「ええと……ディフェンス、でしょうか」
「うんっ、よくわかったね」
「あ……良かった」
笑顔を向けると、かげつちゃんはほっとしたように微笑みを浮かべてくれる。
「つまり、勝つにはシュートを決めるために相手のディフェンスを突破しないといけない。それから、相手の攻撃をディフェンスで止めないといけないの」
「えー、そんなの当たり前じゃん!」
「ボク達の技でマホ達をずばっとやっつけちゃえばいーんでしょ!」
本当に元気のいい子達だ。
やる気に溢れているのがこの子達の最大の武器かもしれない。
「椿ちゃん、柊ちゃん。今言った『ボク達』って誰のことかな?」
「え? それはボクと
「ボクと
かげつちゃんが「あっ」と声を上げた。
私は内心で「やっぱり」と思いながら「なるほど」と口に出した。
うん、なんとなくそうなのかなって気がしてた。
「雅美ちゃん達は一緒じゃない?」
雅美ちゃんが呼び方にぴくっと反応したけど、ひとまずスルー。
椿ちゃんと柊ちゃんはお互いに視線を交わして回答。
「だって他の子はマホと戦いたいわけじゃないし」
「チームなのに?」
「だって五人いないと試合できないし」
何を言われているのかわからない、という顔の二人。
ちなみに雅美さんも似たような顔をしている。倒したいのは真帆ちゃんじゃなくて紗季ちゃんだろうけど。
夏陽くんがため息をついて言った。
「まだわかんねーのかお前ら。お前らには足りてないもんがあんだよ。それは――」
「チームワーク」
涼やかな声が機先を制した。
淡々と言ったフランス人形――もとい、ミミちゃんに視線が集まる。
「と、いうことデスね?」
「うん」
さすが、本格的な経験者は話が早い。
「愛莉ちゃんたちは五人で戦ってる。椿ちゃんたちは二人で五人と戦える?」
尋ねると、二人は憮然とした顔になった。
「別に、ボク達はサキとかと喧嘩したいわけじゃないし」
「マホ以外どうでもいいし」
「真帆ちゃん以外が入れた点数はどうでもいいってこと? 真帆ちゃん以外にブロックされてシュートが入らなくても、それは数えないの?」
「そんなこと言ったってどうしようもないじゃん!」
「みんなで協力しあいなさいとか先生みたいなこと言わないでよ!」
遂に痺れを切らしたのか、椿ちゃんたちが声を荒げた。
雅美ちゃんもこれに頷く。
「私は紗季に勝てればそれで構いません。……紗季より多く点を取れば、それで勝ちでしょう?」
「じゃあ一対一でシュートだけで勝負した方がいいよ」
夏陽くんが「おい、おねーさん、それは」と慌てる。
うん、まあ、通っちゃうと試合が成り立たなくなるからアレなんだけど、優しく諭すだけだと私の精神的に限界があると言いますか……。
これに雅美ちゃんの顔まで険しくなった。
「別にそれでもいいですけど」
「じゃあそうする? 紗季ちゃんはシュートを練習してるんじゃなくて、仲間へのパスを含めた『バスケットボール』を練習してるんだけど――シュートで勝てば満足?」
「点を取ったら勝ちで何がいけないんです? さっきそう言ってましたよね?」
「点を取ったら勝ちだよ。相手より多く点を取った
一瞬、沈黙が下りた。
「……おねーさんの言う通りだ。自分で二点取るより、自分で一本も決めなくても仲間に四点取らせる方がいい。バスケってのはチームでやるスポーツだからな。勝ったチームが偉いんだよ」
「シュートを我慢してでも、みんなで点を分けろってことですか?」
雅美ちゃんが睨んでくる。
私はできるだけ不敵に笑って「そんなこと言ってないよ」と答えた。
「じゃあ、なんなんです?」
「だから、チームで多く点を取ればいいの。シュートして点が取れる状況ならそうすればいい。シュートしても点が取れないなら、パスした方が強いし上手い」
「………」
「他の子と
もちろん、仲が良いに越したことはないけど。
チームメイトの能力を正確に把握して得点チャンスを逃さずパスやコンビプレーができるなら、互いに利用しあう形だって立派なチームプレイ。
なまじ仲が良いせいで馴れ合いになるよりそっちの方がいい、というのも意見の一つとしては正しい。
だからって須賀みたいなワンマンは勘弁だけど。
「バスケの基本デスね」
ミミちゃんが呟く。
膝に手を当てて視線を低くしている(足が痺れてきた)私をじっと見つめ、小首を傾げる。
「ショウコもバスケ、上手いデスか?」
「どうだろう? 一応、智花ちゃんとはいい勝負してるよ」
「……いいでしょう」
少女の口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「ワタシ、アナタのシジに従う。でも、トモカは渡さない」
「ありがとう。……うん、もちろん。智花ちゃんはミミちゃんじゃないと止められないと思う」
頭を撫でたいのを堪えながら、私はミミちゃんに笑顔を返した。
フランスの少女は一目置かれているのか。
これによって他の子達の反応も変わった。何かを考えるように沈黙する三人、プラス成り行きを見守るかげつちゃん。かげつちゃんに関しては最初からわかってくれてたみたいなので、実質巻き込まれただけみたいなものだ。
最初に絞り出すように言ったのは雅美ちゃんだった。
「……どうすればいいですか?」
続いて、椿ちゃんと柊ちゃん。
「……勝てるなら、頑張ってみる」
「……教えて。ボク達、どうやったら勝てる?」
なんとかなった、かな?
内心ほっと息を吐き、私は答えた。
「私が決めたいのは二つだけ。基本的に誰が誰をマークするかと、自分がシュートできない時は『できそうな子』にパスすること。これだけ」
「それだけか。……ま、それが決められるだけでも全然違うけど」
そう。
これさえちゃんとできれば、少なくとも試合にならないってことはないだろう。
私は短く方針を伝えると解散を告げた。
それでも、五人はすぐにはその場を動こうとしなかった。
「言っとくけど、おねーさんのこと認めたわけじゃないからね!」
「にーたんと仲良いからって調子に乗らないでよね!」
「監督として尊敬して欲しかったら実力見せてください。今すぐ」
「ええー……」
ちょっとその後が大変だった。
☆ ☆ ☆
「またせたなっ!」
「今日がマホたち旧・女バスの命日だっ!」
果たして、試合の時がやってきた。
幸いにも五年生たちはみんなちゃんと来てくれて、思い思いな動きながらも整列してくれる。
当然、私は夏陽くんと一緒に五年生側として立った。
愛莉ちゃんたちが相手方にいるのがなんだかすごく変な感じ。なんというか、SLGの裏モードで敵方を操作してる時みたいだ。
とはいえ、みんな私にも笑顔を向けてくれるので、いがみ合う必要はない。
昴が「どうだ?」と目だけで聞いてくるので、同じく目だけで「やることはやったよ」と答える。
審判は私と昴、夏陽くんが共同で行うことに。
ウォームアップの後、短い作戦タイムが入る。といっても言うことは特にないけど。
「それじゃあ、頑張ってね」
これで終わり。
伝えるべきことは昨日伝えているし、我の強い子達だから言いすぎは逆効果だろう。
実際、椿ちゃんと柊ちゃん――つばひー姉妹は強い視線を私に向けて、
「言っとくけど、指示とかこれ以上は聞かないから」
「駄目だと思ったら好きにやるから」
「うん。その辺はお任せするね」
かげつちゃんがすみませんと謝ってくれたのが救いか。
なんにせよ、そんな感じで運命の試合が始まった。
開幕はジャンプボールから。
私がセンター役に指名したのはかげつちゃん。チームの中では一番背が高いし、目端もきくタイプだから適任だと思う。
とはいえ、愛莉ちゃん相手に競り勝つことはできなかった。
弾いたボールは紗季ちゃんへ。
各チームが散開し、一対一の状態に。
椿ちゃんが真帆ちゃん、柊ちゃんがひなたちゃん、雅美ちゃんが紗季ちゃん、かげつちゃんが愛莉ちゃん、そしてミミちゃんが智花ちゃん。
一番妥当と思われる布陣が見事に敷かれた。
司令塔の紗季ちゃんはじわりじわりとしたパスワークでゆっくりと攻め上がる。
最終的にボールが託されたのは真帆ちゃん。
まずはお手並み拝見といったところか。
「よーし、いくぞーつばひー!」
「つばひー言うな! あほの癖に!」
椿ちゃんは声を荒げつつもしっかりとしたディフェンスを見せる。
夏陽くんとの練習の成果が見て取れる、十分に基礎のできたもの。ドリブルをしようとして阻まれた真帆ちゃんは「おっ」という顔をして紗季ちゃんに戻す。
当然、今度は雅美ちゃんが紗季ちゃんを阻むも、ちょっとシュートを警戒しすぎたのか、素直にドリブルから突破して二点先取。
「くっそー! 取り返してやる! 行くよ柊!」
「がってん椿!」
つばひー姉妹はコンビでのオフェンスもお手の物だった。
双子ならではの息の合ったパスはキレも鋭く、すぱん! といい音を立てて相方の手に収まっていく。するするとディフェンスをすり抜けて攻めあがった二人はそのままシュートして二点をゲット。
「なんだ、結構イケるじゃんボク達!」
「おねーさんの助言とかいらなかったんじゃない?」
そう上手くいくかなあ……。
という、懸念が現実になったのはこの後だった。ボールをもらった愛莉ちゃんが前後のフェイントを使ってかげつちゃんをかわし、四点目。
もう一度、息の合ったパスワークで攻めようとしたつばひー姉妹がひなたちゃんに止められた。
一回見た動き、しかもパスの相手がわかっているならそれはそうなる。
今度は真帆ちゃんがシュートを決めて、五年生から見ると2-6に。
「ツバキ。ヒイラギ。ショウコの指示を思い出してください」
「うー、もう、わかったよ!」
「やっちゃえミミ!」
「ウィ、待ってました」
「ミミちゃん、やらせないよっ!」
ボールを受け取ったミミちゃんと対峙するのは当然、智花ちゃん。
二人の対決は息を呑むような緊迫感があった。
フェイントの応酬。技術とセンスのぶつかり合いはからくも智花ちゃんが制したものの、どっちが上回ってもおかしくない良いぶつかり合いだった。
これなら、椿ちゃんたちにも「双子だけで完結しない選択肢」が伝わったはず。
「やるな、翔子」
「私は殆どなんにもしてないよ。椿ちゃんたちがすごい子だっただけ」
昴の囁きに私は微笑んでそう答えた。
後はどれだけ攻めにバリエーションを持たせられるか。これが駄目なら次はアレ、と色々な攻めを試す気さえあれば、急造ながら才能あふれる五年生にも勝機はある。
ただ。
残念ながら、今回に関しては経験値の差が如何ともしがたいかな……。
私は審判の傍ら、みんなの動向を見守りながらそう思った。