ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「みんな、お疲れさま。本当に凄かったよ」
涙ぐみながら歩く椿ちゃんたちに追いつき、声をかけた。
試合の結果は六年生組、正規女バスの勝利。
接戦とは言い難い、でも良い試合だった。
愛莉ちゃんたちは試合の後「一緒に練習しないか」と申し出てくれたけど、椿ちゃんたちはこれを断った。
夏陽くんと一緒に一足先に出て行った彼女たちが気になった私は、みんなに一声かけた後で追いかけたのだった。
初等部の敷地の一角。
立ち止まった五年生のみんなが振り返る。
「でも、負けちゃったじゃん!」
「どこが凄かったのか言ってみてよ!」
言い返してくる双子に私は答えた。
椿ちゃんと柊ちゃんのコンビプレーは予想以上、一線級の腕前だった。
ミミちゃんのスピード、技術、引き出しの多さはエースの名に相応しかった。
雅美ちゃんのロングシュートはチームの得点源の一つになりうる立派な武器だった。
かげつちゃんには身長と年齢で勝る愛莉ちゃんに立ち向かえる勇気と素直さがあった。
細かいところを言えばもっとたくさん出てくる。
急造のチームだったのは間違いない。
でも、五年生チームもまた、六年生たちに負けないくらいの才能揃いだということを実感した。
「……私達は、あなたの言った通りにしたつもりです。違いますか?」
「みんな、本当に頑張ってたよ」
年上の経験者相手に一歩も引かなかった。
「でも、私が教えてあげられたのは『勝つ方法』じゃなかった。あれは、あくまでも『バスケをする方法』」
試合になるかならないかというラインの話。
実際、つばひー姉妹がコンビプレーに拘っていた時はあっさり止められてしまったのだから、無いよりはあった方が良い結果になっているはず。
最低限、チームとしての試合は成り立っていた。
双子の連携は、片割れ以外にもパスが出る可能性を生み出すことで複雑さを増した。
総合的に見たら智花ちゃんに一歩出遅れたミミちゃんだけど、ライバルを抜いて得点する場面だってしっかりあった。彼女にボールを託すことは一本の柱を作ることになる。
雅美ちゃんのロングシュートは角度を選ばない。どこからでも打てるとなれば相手に警戒を強いていける。
かげつちゃんの基礎的なポテンシャルの高さと優しい性格は、このチームに不足気味な協調性を補う役を担ってくれる。
「みんながちゃんと練習して、チームとしても上手くなっていけば――勝つことだって夢じゃない」
これは嘘でも誇張でもない。
愛莉ちゃんたちだって結成半年くらいの若いチームなのだ。まだまだ成長段階にあることは間違いない。
練習と戦略、それから時の運の具合によっては勝目は十分ある。
「もちろん、やる気があればだけど」
試合が終わった途端、もう一回とねだっていた彼女たちには愚問だろうか。
微笑んだ私に返ってきたのは予想通りの反応。
「……やる。やるよ。やってやる。次は勝つんだもん」
「おねーさん、コーチしてくれるんでしょ?」
「紗季に勝つにはまだまだ練習が足りませんでした。……経験者なら、教えてください」
「ワタシはショウコにも勝ちたいです」
「姉様たちとの試合、楽しかったです。次は、もっといい試合がしたいです」
私は頷く。
「うん。私もただの高校生だけど、みんなよりバスケ歴は長いから。できる限りのことはさせてもらうつもり。……これから、あらためてよろしくね」
こうして、五年生チームの存続が決定。
そして、私、鶴見翔子の臨時コーチから正規コーチへの繰り上げ就任も同時に決定したのだった。
これからますます忙しくなりそう。
五年生のコーチと同好会で、部活を辞めても平日の予定がきっちり埋まるとか、まさに嬉しい悲鳴としか言いようがなかった。
☆ ☆ ☆
「まったく、あいつらずりーよな」
「? あいつら、って?」
わいわい騒いだ後、椿ちゃんたちは「今日のところは」と思い思いに帰っていった。
近いからと竹中兄妹を家まで送っていった私は、椿ちゃんたちが家の中に入った後で夏陽くんの呟きを聞いたのだった。
「椿達だよ。……おねーさんが暇なら俺が相手して欲しいくらいだっての」
「あはは。私なんかでお相手になるかな?」
「なるかな? じゃねえよ! 手加減されたのまだ忘れてないからな!」
「う、それはごめんなさい」
素直に謝ると、夏陽くんは「はあ」と息を吐いた。
「俺も暇ってわけじゃねーけど、週三は個人練だからさ。……どっかのアホ達のせいで」
椿ちゃんたちも言ってたけど、その「アホ」は真帆ちゃんのことなんだろうか。
ちょっと良くない種類のあだ名だと思うけど、椿ちゃんたちや夏陽くんが言う分にはギリギリじゃれ合いの範疇、なのかな。
他の子が言いだすようなら注意した方がいいかもしれない。
「でも、それもいい刺激になってるんじゃない?」
「……さあな、どーだろ」
ちょっと照れくさそうにぷいっと顔を背けた。
「夏陽くんって、結構可愛いよね」
「はあ、何言ってんだおねーさん!? ……ま、まさかあんた、あの変態コーチと一緒でロリコンなのか!?」
男の子の場合はショタコンっていうんだけど……って、そういう問題ではなく。
「そういうのじゃないから安心して。なんていうか、母性本能みたいなやつ」
「ボセーホンノーねえ。……女ってよくわかんねーよな。親戚のおばさんとかもよく言ってくるけど、俺が可愛いわけないだろ。男だぞ俺」
「あはは。そうだね、男の子にはわかんないかも」
夏陽くんもTSすればわかるかもしれないけど。
そしたら主人公真帆ちゃんを目の敵にするライバルキャラかな。ライバルにありがちなお嬢様属性を真帆ちゃんが持ってっちゃってるから、早々に対決終わらせて仲間になって、紗季ちゃんと併せて三人娘になっちゃいそうだけど。
その場合、智花ちゃんは第二章のライバルキャラとして登場だろうか。
「時間があれば夏陽くんともバスケできるよ。……お互いの練習日がかみ合わないから、なかなか難しそうだけど」
「それな。ま、そればっかりはしょうがないよな。椿と柊の面倒見てくれるだけで助かるよ」
「そんなこと言って、暇な時は見に来てくれるんでしょ?」
「な!? すすす、するかよそんなこと!」
真っ赤になって否定する夏陽くん。
図星なのが丸わかり。
だから可愛いんだけど、言ったらまた怒られそうだから言わないでおいた。
☆ ☆ ☆
『じゃあ、かげつちゃんたちもバスケ、続けてくれるんですね。良かった』
電話の向こうで愛莉ちゃんがほっと息を吐く。
時刻は八時過ぎ。
ご飯もお風呂も終わって、早い子ならそろそろ寝る準備という時間帯だ。
私もパジャマに着替えてベッドの上。
ぬいぐるみを抱いてスマホを耳にあてた姿勢に違和感がないあたり、すっかり女の子になったなっていう感じ。
「ごめんね。一緒に練習できれば一番いいんだけど」
『そんなこと……。やっぱり、すぐには難しいと思います』
一度凝り固まった気持ちを変える難しさは愛莉ちゃんにもよくわかるのだろう。
柔らかな声でそう言ってくれる。
『でも……』
続いた声は少し気落ちしていた。
『翔子さんに会えなくなるのは寂しいです』
ちょっと、どきっとする。
胸が締め付けられるような嬉しさを紛らわすように明るい声で答えた。
「大丈夫だよ。コーチは昴がちゃんとやってくれるから――」
『ううん。わたしは、翔子さんとも会いたいんですっ』
「愛莉ちゃん……」
『翔子さんは、わたしの、憧れのお姉さんなんです。だから……』
感極まってしまったのか、愛莉ちゃんが鼻声になっている。
泣かなくてもいいのに。
なんて、女の子だって素直な気持ちを吐きだすのは結構勇気がいるのだ。
「ごめんね、ありがとう。私も愛莉ちゃんのこと大好きだよ」
『……翔子さんっ』
香椎くんに聞いたら殺されちゃうだろうか。
女の子同士ならセーフだと思いたい。
「大丈夫」
『え……?』
「練習では会えなくなっちゃうけど、こうやって電話もできるし。……お休みの日、予定が合えば一緒にどこかに行ったりもしよう? 買い物でも、映画でも」
『いいん、ですかっ?』
「もちろん。私にとっても愛莉ちゃんは大切なお友達だから」
少しの間の後、スピーカーの向こうから「はい」と返事があった。
『ありがとうございます。……それに、きっと、またバスケットボールも一緒にできますよね。五年生の子たちと仲良くなれれば、きっと』
「うん、もちろん。何度も試合をしてれば、きっと気持ちも変わると思う」
敵同士でいることだけが切磋琢磨の形じゃないって、分かる時が来る。
共通の敵でも現れてくれれば話が早いんだけど。
そう上手くはいかないだろうし、一歩ずつ確実に、距離を縮めていけたらと思う。
私とも、愛莉ちゃんたちとも。
☆ ☆ ☆
『どうしよう翔子』
翌日の夕方。
葵から電話があったと思ったら、出るなり「どうしよう」と来た。
声に切迫感がある。
あの葵が「本当にどうしていいかわからない」という感じ。それでいて悲しそうな雰囲気はないから、身内の不幸とかではないと見たけど。
「何か、あった?」
『うん。えっとね……』
少しでも落ち着いてもらおうと静かに尋ねると、葵はぽつぽつと話してくれる。
今日は昴とデートだったらしい。
駅前に買い物に行っただけなんだけど! って誤魔化してたけど、まあデートだよねそれ……。しかも、お互いの服を見繕いに行ったっていうんだから。
無事に服は買えたらしく、本題はここから。
買い物の際、福引のチケットを貰った。どうやら街のイベントとして行っていたものらしい。
二人分で計三枚。
三枚で一回しか引けないので、分けられるものが当たったら山分けという約束で葵が引いた。
そうしたら。
『当たっちゃった』
「あはは、特賞でも当たった?」
話が深刻になりそうになかったので、冗談めかして尋ねる私。
ぶっちゃけた話、そんなわけないと思っていた。
こういうのって当たらないのが普通で、うちの商店街はそうじゃないと思うけど、あくどいところなら特賞や一等は最初から入ってなかったり、後半から投入したりする。
なので、
『うん』
「え?」
『特賞。秋の京都旅行ペアチケット。当たっちゃった』
「はあ……っ!?」
思わず立ち上がってしまう私だった。
一回で特賞。
しかも秋の京都旅行とか、いったいどれだけ強運なんですか葵さん。
軽く息を吐いて落ち着く私。
いいなあ、京都旅行かあ。
ペアってことは誰と行くんだろう、と呑気に考えて、話の肝に辿り着く。
あ。
「分けられるものは山分け、だっけ」
『……うん』
「昴と葵でチケット一枚ずつ。ペアチケットを」
『……うん』
ペアチケットなので一枚では使えない。
分けられるけど、一緒でないと使えないチケット。
しょうがないからゴミ箱へポイ、なわけがない。
「おめでとう葵。初めての旅行が京都とか最高じゃない」
『さささ最高じゃないわよ!? どうすればいいわけ!? いきなり旅行とか心の準備が!』
「でも、恋人同士なんだからそんなに思いつめなくても」
『だから困るんじゃない! ううう、何着ていけば……?』
行く気満々じゃないですか……。
「京都だし、着付けできれば着物もいいけど。慣れてないなら長時間は避けた方がいいかな」
『そ、そうよね……。ねえ翔子、服買いに行かない?』
今日行ってきたのでは……?
と思ったけど、今日行ったのは手頃な値段の古着屋さんだったらしい。
気取らない旅行なら古着もいいかもだけど、「勝負」となったらアレか。
「うん、いつでも付き合うよ。でも」
『でも?』
「むしろ服より下着を選んだ方がいいんじゃない? ほら、この前、真帆ちゃんと行ったお店なんかいいんじゃないかな。私も二回着けてみたけど凄いよ。肌触りもフィット感も違うし、何より可愛――」
『し、下着とかっ!? な、何を想定してるのよあんたっ!』
「え、だって二人っきりで旅行だよ? 初めてにはぴったりだと思うけど」
さつきと多恵が知ったら喜び勇んでひっかきまわしてくれるはずだ。
だからこそ私に知らせてくれたんだろうけど。
だったら、真面目に葵のことを思って焚きつけるのが私の使命。
『で、できるわけないでしょそんなの……っ。は、恥ずかしくて!』
「そうなの? でも、いつまでも昴と進展ないなんて、そんなに仲良くないのかな? って思う子もいるんじゃいかな?」
『っ。あ、あんた何言って……!?』
「誰とは言わないんだけどね。昴のこと好きな子も他にいるし。ほら、葵のこと好きって言う子もいるでしょ? 誰とは言わないけど」
私とか。
「そういう子が実力行使に出ないとも限らないし。……もちろん、葵がちゃんと考えた上で『まだ早い』って判断してるなら別だけど」
『う、ううう……っ。あんた、だんだん性格悪くなってない?』
「大人になるって悲しいよね……」
もっともらしく嘆いてみせると、葵は半ば以上は勢いだろうという感じで答えた。
『わ、分かったわよ! か、買えばいいんでしょ……下着』
勝った。
私は謎の達成感に微笑んだのだった。