ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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「extra stage」の途中からの分岐です。


ending07.幼馴染トライアングル

 葵に告白して、振られた後。

 

 ()は一晩中泣きはらした後、そのまま眠りについた。

 目を覚ましたのは次の日の夕方。

 放り出された鞄の中から響く、スマホの着信音が目覚ましだった。

 

 コンディションは最悪。

 瞼が腫れて酷い状態なのが見なくてもわかるし、お腹はぺこぺこ。

 夜更かししたから肌の状態だって良くないだろう

 

 それでも気分だけはそこそこ晴れていて。

 這うように移動してスマホを取り出し、画面を見た。

 

「……え?」

 

 ディスプレイには『荻山葵』の名前。

 一晩かけて割り切ったはずの恋心が疼く。

 

 ――どうして昨日の今日で、私に電話してくるの?

 

 いい話のはずがない。

 でも、ここで逃げたら、きっとずるずる逃げてしまう。

 私は覚悟を決めると通話ボタンを押した。

 

「……もしもし、葵?」

『……翔子』

 

 正直、私の声は酷かった。

 水分が足りていなくて喉がからからなのだ。

 葵にもそれは伝わったらしく、電話の向こうで息を呑んでいた。

 

 それでも、申し訳なさそうに用件を言ってくる。

 

『ごめん。……あのね、今から会えないかな?』

 

 私は。

 そのお願いに、どういう気持ちを抱けばいいのかわからなかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 葵が指定してきたのは、どういうわけか長谷川家だった。

 詳しい用件は聞けていない。

 でも、込み入った話なのは確実だ。

 

 私は彼女に「わかった」と答えた。

 通話を切ってベッドから起き上がる。

 

「翔子、晩御飯は――」

「ごめん、ちょっと出てくる」

 

 案の定、髪はぼさぼさ目は真っ赤、酷い状態。

 ()()()()()()()という母さんに謝ってから、最速でシャワーと洗顔と水分補給を済ませ、白い上下の下着と、露出はないけど可愛い服を選んで身に着ける。

 メイクしている時間はない。

 せめて目薬とリップクリームだけ使ってから、足早に家を出ようとして。

 

「送るわ」

「え、母さん。お酒飲んでないの?」

「翔子が作ってくれないなら、外食かコンビニにしようと思って」

 

 胸を張って酷いことを言われたけど。

 私は枯れた涙が出てくる前に目を擦った。

 

「ありがとう、母さん」

「……その調子なら、大丈夫そうね」

 

 嫌なことを忘れるくらい将棋漬けにしようかと思った。

 長谷川家に向けて車を飛ばしながら怖いことを言う母さんに、私は真顔で「やめて」と言った。

 家の前で私だけ降ろしてもらう。

 

「帰る時は電話しなさい」

「母さん。無理なことは言わなくていいから」

 

 コンビニ弁当と一緒にチューハイ買うに決まってる。

 

「……返す言葉がないわ」

 

 気を付けて、という言葉を残して車は走り去っていった。

 

「……さて」

 

 長谷川家のチャイムを鳴らす。

 程なくして玄関から出てきたのは七夕さんだった。

 

「いらっしゃい、翔子ちゃん」

「こんばんは、七夕さん」

 

 七夕さんは私の顔を見て一瞬、表情を曇らせた後、すぐに笑顔を作った。

 私も多くは語らずに微笑んで、尋ねる。

 

「葵、来てますか?」

「うん。すばるくんと一緒にリビングにいるわ。上がって」

「ありがとうございます」

 

 靴を脱いで中に入ると、料理のいい匂いが鼻をくすぐった。

 ぐう、とお腹がいい音を立てる。

 

「良かった、お腹空いてるのね? 今ちょうどね、ビーフシチューが煮込み終わったところなの。食べて行って」

「ありがとうございます。実は朝から何も食べてなくて……」

 

 身体が塩分と水分とカロリーを欲している。シチューなんてまさに私が今欲しいものだ。

 気分が上向くのを感じながらリビングに入って――。

 

 妙な沈黙に満たされた空間に足を止めた。

 

「……何があったの?」

 

 向かい合って座る、昴と葵。

 なんだかぎこちなくて、気まずそうで、でも喧嘩したって感じでもなくて、結構長い付き合いのはずの私でさえ覚えがない雰囲気。

 なんていうか、どうしようコレ、と二人ともが思っているような。

 

「「翔子」」

 

 何故か、ほっとしたように息を吐く二人。

 いや、本当に何があったの?

 

「とりあえず、座って座って。今ご飯持ってくるから」

「あ、はい」

 

 七夕さんが割といつも通りなのが余計にわからない。

 込み入った話じゃないのかな……?

 疑問を感じながら席につく。葵の隣――は、七夕さんの定位置だったので、それを言い訳に昴の隣へ。すると男の方の幼馴染が喜色を浮かべ、女の幼馴染が表情を曇らせる。

 

「……昴と大事な話、してたんじゃないの?」

 

 埒が明かないと見て切り出せば、葵がこくんと頷いた。

 言いづらそうにしながら、

 

「昴に、告白した」

「そっか」

 

 きゅう、と、胸が締め付けられる。

 

「昴は、なんて答えたの?」

 

 断る理由が思いつかない。

 でも、二人めでたくゴールインしましたっていう話なら、私はいらない。

 

「悪いけど、気持ちには応えられないって言った」

「……なんで?」

 

 真っすぐに気持ちを伝えれば絶対大丈夫だと思ってた。

 昴と一番長く一緒にいた葵が振られるわけないって。

 でも、

 

「他に好きなやつがいるからだ」

 

 昴は真摯な声で答えた。

 気持ちが伝わらなかったわけじゃないと一発でわかる。

 

「誰? ……智花ちゃん、とか?」

 

 昴が眉を顰めた。

 

「どうして智花が出てくるんだよ」

「え、と。じゃあ、愛莉ちゃんとか――真帆ちゃん、とか?」

「違う」

 

 真っすぐな目が、()()見ている。

 

「俺が好きなのはお前だ、翔子」

「……は?」

 

 私は目を丸くした。

 七夕さんがビーフシチューを運んできてくれたのは、ちょうどその時。

 話がどういう風にこじれたのか、明確に理解したタイミングでのことだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……美味しい」

 

 野菜や肉の旨味が溶けだした複雑な味わい。

 濃厚なそれを口に流し込んで、パンをひとかけ口に放り込めば、それだけで至福がやってくる。

 シチューは完成された料理だ。

 肉も野菜も水分も取れる。じゃがいもなんかを入れれば炭水化物だって補えるわけで、塩分なんかに気を付ければ女の子にとっても強い味方だ。

 ううむ、やっぱり七夕さんの味に追いつくにはまだまだ修行が、

 

「おい翔子、現実逃避するな。お前だけが頼りなんだ」

「うるさいな。馬鹿じゃないの昴」

「いきなり罵倒から入るのかよ……」

 

 状況を理解した私はやさぐれていた。

 ちょっとくらい現実逃避しなければやってられない。

 七夕さんは「あらあら」といった様子で見守ってくれているけど……。

 

 私は、はあ、と息を吐いて言う。

 

「昴。悪いけど私も、昴の気持ちには応えられない」

「……どうしてだ?」

 

 半ば予想していたような声音に、概ね伝わっていることを知る。

 

「私、失恋したばっかりなんだよ。……振られちゃったけど、ほいほい他の相手に乗り換えるとかできない」

「振られたのに、か」

「振られたからって、その子のことが嫌いになるわけじゃないんだよ」

 

 苦笑して葵を見る。

 彼女は涙を浮かべていた。色々な感情が溢れすぎていっぱいっぱいなんだろう。

 私はもう泣きに泣いてきたから大丈夫だけど。

 

 ――三角関係、かあ。

 

 普通、完璧な三角関係は成立しない。

 三人という前提からして男女比が偏るからだ。ただし、一人同性愛者が交じれば話は別。

 前世では、拗れた恋愛アニメのレズ少女に「こいつが元凶だろ」とか思ったりしてたんだけど、まさか自分が元凶と化すとは……。

 

「昴だって葵のこと嫌いじゃないでしょ?」

「そりゃあもちろん、そうだけど」

「なら、葵と付き合う方が絶対いいよ」

 

 私は微笑んで言う。

 

「だって私、レズだし」

「………」

「………」

 

 言っちゃった。

 さすがに昴達も絶句してる。本人の口から聞くとさすがに違うのかな。

 しばらくして、昴が押し殺した声で、

 

「俺のこと、嫌いか?」

「嫌いじゃないよ。……男の子と付き合わなきゃいけないなら昴がいいな、なんて思ったことはある。でも、私は、一番好きな人に幸せになって欲しいから」

 

 私の恋のために葵が不幸になるなんて許せるわけがない。

 

「……あんたはっ、どうしてそうやって……!」

 

 葵が口元に手を当て、嗚咽を漏らしている。

 七夕さんが背中を抱いて落ち着かせようとしてくれている。

 

「私はもう吹っ切れてるからだよ。……元々、私と葵が付き合うなんて自然なことじゃないんだし」

 

 言うと、今度は昴の視線が険しくなった。

 

「お前な。そうやって自分だけ我慢するの止めろよ」

「昴。……昴は私のどこが好きなの?」

「誰よりも一生懸命なところ。純粋で傷つきやすいところ。なのに、人のために自分が我慢しちまう不器用なところだよ」

 

 だったら、私が我慢するのを止めないでよ。

 いったん諦めた私に夢を見させないで。

 

「私の恋は叶わないんだよ……っ!」

 

 絞り出した言葉に昴が絶句して――。

 

「なら、三人でお付き合いしたらどうかしら?」

 

 この状況では、いっそ「のほほん」としているようにさえ聞こえる声で。

 七夕さんが言って首を傾げた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……どうしてこうなった」

「知らないわよ……」

「でも、私としては願ってもないんだよね……」

 

 十数分後。

 私と葵、昴は揃って遠い目をして、デザートのプリンを食べていた。

 

 七夕さんの衝撃的な提案の後。

 三人で揃って「いやいやいや」と否定してはみたものの、「嫌?」と聞かれれば「別に嫌じゃないですけど」と、三人が三人とも答えた。

 いやいや荻山さん、あなたは嫌だって言ってくださいよ、と思ったんだけど。

 

『……別に私、翔子のこと嫌いなわけじゃないんだよ? 昴に恋してなかったら、多分、オーケーしてたと思うし』

 

 殺傷能力が高すぎる言葉に私がノックアウト。

 昴はさっき私が言った「男の子とどうしても以下略」でノックアウト済みで、最後に葵も、

 

『俺だって葵のことは嫌いじゃない。……翔子の次だけど、ちゃんと好きだ』

 

 誠実なのか馬鹿なのかわからない告白で陥落した。

 で、そうなると誰にも反論の余地がないわけで。

 

「昴達がいいなら、私はそうしたい」

「翔子」

「あんた、それでいいの?」

 

 いいも何も、

 

「私にとっては敗者復活戦みたいなものだし」

 

 それに、

 

「多分、三角関係って長くは続かないよ。絶対、どこかが崩れて両想いになる」

 

 一番崩れる可能性が高いのは私と二人のラインだ。

 だって、自然じゃないんだから。

 

「だからね。……もし三人で付き合うなら、私は我慢しないよ? 昴も葵も私から離れられないように誘惑して、積極的にアプローチする」

 

 幸い、努力は得意な方だ。

 女子力なら葵にだって負けない自信はある。

 

「……それが嫌なら、二人で付き合って」

 

 多分、その方がいいんだろうな、と思いながら言うと。

 

 ――昴と葵が同時にため息をついた。

 

 え、何、そのため息ってどっちの意味?

 

「なあ葵、俺はやっぱりこいつを放っておけないんだが」

「……そうね。若干不本意だけど、私達が捕まえておかないと怖いわ」

「そんな人を少女漫画のヒロインみたいに」

「「似たようなもんだろ(でしょ)」」

「ええ……」

 

 昨日まで男の自意識残ってたんですけど、私。

 というか、二人とも本当にそれでいいのだろうか。なんか私だけ得してる気がするんだけど。

 

 七夕さんがにこにこ笑って。

 

「一件落着ね。やっぱり、すばるくん達は三人仲良くないと」

 

 つよい。かてない。

 意中の男性を見事射止めた挙句、今なおラブラブを続けている女性は格が違った。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 そんなわけで。

 

「翔子と付き合うことになった」

「葵が付き合ってくれるって」

「昴の彼女になったわ」

 

 私達は上原やさつき、多恵といった面々に交際報告をした。

 案の定、反応はアレだったけど。

 

「……何言ってんだお前ら。いや、今更かと言うべきか」

「いや、うん。長谷川家センセー、両手に花だな!」

「良かったねえつるみん、葵ちん。お幸せにねぇ」

 

 割と普通に祝福してもらえたのが意外ではあった。

 というか、私達の関係が傍からどう見られていたのかが怖いような、その通りになったから何も言えないような……。

 まあ、でも。

 三人で、という変則的な交際がこれで結構楽しかったりする。

 私が昴と仲良くしてると葵が嫉妬してくれるし。昴と葵、二人分のお弁当を毎日作るのとか今から楽しみで、早く二学期が来ないかなと思ったりも。

 デートも三人でなら気楽というか、好きな人とのドキドキが幼馴染とのリラックスした関係でいい塩梅に落ち着くというか。

 

 エッチなことはまだしてないけど、まあそっちは問題ないと思う。

 私と葵じゃ元々子供は作れないわけで、昴の子供を産むのはやぶさかじゃないし、葵も一緒に産んでどっちも可愛がればいいんじゃないかな、とか。

 いや、結婚どうするのかとか、そもそもそこまで続けられるのかっていう問題があるけど。

 そこは宣言通り、私は全力で二人の気を引く所存だ。

 

 そうして。

 

 さつき達に報告した後は、智花ちゃん達にも伝えたんだけど。

 

「おー? お兄ちゃんたち、三人でおつきあい?」

「すげー! すばるんたちってオトナすぎない!?」

「チャンスよトモ、愛莉! ついでに入れてもらいなさい!」

「ふええ!? そ、そんなことできないよう……!」

「う、うん……。でも、もしできたら、翔子さんと葵さんと長谷川さんと……えへへ」

 

 予想外。

 逞しい小学生達の攻撃に、一対一という恋愛のセオリーを使えなくなった私達は大苦戦を強いられるのであった。

 

 めでたしめでたし……?

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