ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
再び他作品ネタなので本編には関係ありません。
二つ名が普通に登場するあたり、ロウきゅーぶとベン・トーの親和性も悪くないと思うのですが。
「花椒、花椒……」
晩御飯は麻婆豆腐なのに、不覚にも大事な調味料を切らしていた。
母さん達にも予告していたので別の料理に変えるわけにもいかない。麻婆豆腐が麻婆茄子になるならともかく、肉豆腐とか揚げ出し豆腐になったら胃袋が反乱を起こすだろう。
さっさと買って帰らないとと思いつつ、私はスーパーマーケットの自動ドアをくぐった。
買うのは花椒だけなのでカゴは取らず、調味料コーナーへ直行する。
と、そこに偶然、見知った顔があった。
「紗季ちゃん?」
「……鶴見さん」
パンツスタイルの私服を着た紗季ちゃんが私の声に振り返った。
一瞬、妙に鋭い視線に射貫かれたものの、相手が私だとわかると紗季ちゃんはすぐ態度を軟化させてくれた。
「お買い物ですか?」
「うん、花椒を買いに。紗季ちゃんは?」
「はい。私はちょっと、お弁当を」
お弁当?
夕飯にスーパーのお弁当なんて珍しい。
「お店、何かあったの?」
「ああ、いえ。単に父と母が手を離せないだけです。私が手伝うほどじゃないけど忙しい日なんかはたまに買いに来るんです」
「あ、なるほど」
お店が忙しいのなら賄いのお好み焼きが晩御飯、というわけにもいかないだろうし、何よりあんまりお好み焼きばっかりでも飽きちゃうだろう。
そこでコンビニ弁当じゃなくてスーパーのお弁当というあたりがしっかりしてる。
あれ、でも。
「そろそろ夕食時だから早く行った方がいいんじゃ? ……あ、ひょっとして半額狙い?」
「まあ、そんなところです」
紗季ちゃんは苦笑して答えた。
まじですか。半額弁当なら安く上がるだろうけど、そこまでするとは。
と。
スタッフルームから店員さんが出てくる気配。途端、紗季ちゃんの表情が嘘のように鋭くなった。そう、まるで戦いに赴く戦士のように。
紗季ちゃんは私から顔を背けると、一点に視線を固定する。
「……すみません。用がありますので話はこれで」
そして、お弁当にシールを貼り終えたスタッフさんがスタッフルームに戻ると同時。
ドン!
衝撃が、走った。
瞬きをする間に世界が――ううん、スーパー内の様子が一変している。あちこちに潜んでいたらしきお客さん、いや、戦士達が拳を振るい、相手を打ち倒し、
その中には小さな紗季ちゃんの姿もあった。
戦士たちの多くは男性で、大学生や大人の姿もある。小学生の女の子には危険すぎるように思えたけど――紗季ちゃんの拳、蹴りは的確に相手を弾き飛ばしていく。
まるで、実力以上の何かに後押しされているようだった。
なにこれ、異能バトルもの?
でも、やってることが半額弁当争奪戦なんだけど……?
「やるな……! さすがは《
聞こえてきたのは紗季ちゃんの二つ名。
あれって小学校で流行ってて、羽多野先生がつけたもののはずだけど……別の意味があるのか。
私が考えている間にも戦いは進んで。
素手、あるいは買い物カゴで襲い掛かる敵達を紗季ちゃんはいなし、かわし、あるいは打ち倒して、お弁当コーナーに僅かな空白地帯を作り出した。
そして悠々と半額弁当に歩み寄り、取った。
取った後は不思議と誰にも攻撃されない。
飲料コーナーでお茶のペットボトルを手に取り、紗季ちゃんはレジへ向かっていく。
ちょっと、気になる。
私は花椒を探して手に取ると、早足でレジに移動した。
☆ ☆ ☆
「……狼?」
「はい。私達、半額弁当争奪戦に参加する者はそう呼ばれています」
近くにある公園のベンチにて。
私は紗季ちゃんからさっきの出来事について説明を受けていた。
狼。
半額弁当を取り合う者達の多くは別に貧乏ではない。戦いの上で勝ち取る喜びと、それによって得られる極上の味を求めて戦っているらしい。
彼らには幾つかのルールがある。
例えば、半額シールが貼られてスタッフがいなくなってからがスタートになるとか、その日の夕餉にする分以上は取ってはいけないとか、半額弁当を手にした者は狙ってはいけないとか。
集約すると『礼儀を持ちて誇りを懸けよ』というもの。
説明しながら、紗季ちゃんはスーパー電子レンジで温めてきたお弁当を開ける。
彼女が手に入れたお弁当は奇しくも『麻婆豆腐丼』――私が作ろうとしている料理を、ご飯にかけたものだった。
税抜き430円が半額で215円。驚くほどお手軽なお値段である。
にもかかわらず、開けた瞬間から食欲をそそるいい匂いが香ってくる。
「いただきます」
きちんとそう口にしてから、プラスチック製のスプーンを手にする紗季ちゃん。
麻婆豆腐とご飯をいっぺんにすくい、ぱくっと口の中に入れる。
「~~~っ♪」
ぱっ、と、彼女の顔に至福の色が浮かんだ。
美味しいのだと一目でわかる。ぐう、とお腹が鳴った。花椒も買ったし、今夜は絶対、麻婆豆腐を作ってやる。もちろん白いご飯と一緒に食べよう。
と、紗季ちゃんがくすりと笑って私を見た。
「一口どうですか?」
「いいの?」
「ええ、どうぞ」
ひとすくいした麻婆豆腐丼を有難く、あーんさせてもらう。
そうして口に入れた瞬間、私は目を見開いた。
「……美味しい!」
「良かった。鶴見さんにもわかるんですね」
嬉しそうに言う紗季ちゃん。
「この麻婆豆腐には『勝利の一味』が入っているんです。もちろん、お店の方も心を込めて作ってくださっていますが……勝利が、更に上回る美味しさを与えてくれるんです」
「勝利の一味……」
確かに、味見させてもらったお弁当には、作り手の工夫以上の「何か」があった。
紗季ちゃんが戦いの末にこれを手に入れるところを見ていたせいだろうか。
――男の人や大人を押しのけて。
勝ち取ることに意義がある、ということなのだろう。
「でも、危ないんじゃ」
「そうですね」
そこは否定せず、紗季ちゃんもこくんと頷く。
「ですが、私達には『腹の虫の加護』がついています。多少の痛みは吹き飛びますし――半額弁当の美味しさには代えられません」
食べたいという思いが、あの戦場では力を与えてくれるらしい。
火事場の底力のようなものだ。
食い意地が張っている方が勝つ……というと身も蓋もないけど、体格や腕力に優れているだけじゃあの場では勝てないらしい。
紗季ちゃんの活躍を見た今となっては信じるしかない。
――狼、か。
ちょっと格好いい、なんて思ってしまうのは男の子時代の感性の名残か。
「私にもできるかな」
呟くように言うと、紗季ちゃんは驚いたように目を丸くした後で微笑んだ。
「ええ。……最初から上手くいくとは限りませんが、鶴見さんにもきっと」
「そっか」
やってみようかな、狼。
紗季ちゃんは更に細かいルールを私に教えてくれた。
食事が終わったところで別れ、私はゆっくりと家路につく。
胸は不思議なドキドキに包まれていて――お腹を空かせた母さんが待っていることを思いだしたのは、鍵を開けて家に入った後のことだった。
その日作った麻婆豆腐は我ながらよくできたと思うんだけど……どういうわけか、紗季ちゃんから一口貰ったあのお弁当の味には敵わないような気がした。
☆ ☆ ☆
数日後の土曜日、夕方。
私は地元からバスに乗り、少し離れたとある街を訪れた。
乗ったバス停自体もほぼ使ったことがなく、用がないため行くこともなかった――烏田という街。
『狼の世界を体験したいなら、その街のスーパーマーケットに行くといいと思います』
という、紗季ちゃんの助言に従ったものだ。
なんでも狼発祥の地であり、今でも一番、半額弁当争奪戦が盛んな地域だという。
いきなり激戦区って、TCGを始めようとする初心者に構築済みデッキを渡して秋葉のカードショップに殴り込ませるような暴挙だけど、何か意味があるのかもしれないし。
えっと、特にお薦めだって言われたのは……通称『ジジ様の店』と『アブラ神の店』の二店舗だったっけ。
近くには烏田高校や丸富大学、およびその付属がある。
烏田は結構レベルが高く、丸富は学費がお高めなので私達の進学先としては選ばれなかった。上原は烏田に行っても良かった気はするけど。
私が選んだのは『ジジ様の店』の方だった。
「……っ!?」
店内に入った途端、私は強烈なプレッシャーを感じた。
「誰だ?」
「見ない顔だな。新顔か?」
「他の地区の狼かもしれん」
プレッシャーは一瞬で止んだ。
店内を歩いていくと、どこからかそんな声が聞こえた気がした。気のせい? それとも……。
紗季ちゃんの教えでは、店に入ったらまずお弁当を確認するのが鉄則らしい。
私はお弁当コーナーを探し、近寄る。三つのお弁当が残っていた。『若鶏の唐揚げ弁当』『特製のり弁当』、そして――『サバの味噌煮弁当』。
「……美味しそう」
ぐう、とお腹が鳴った。
お昼ご飯を控えめにしておくといいというのも教えだった。なるほど、お弁当を前にして身体がそれを求め始めたのがわかる。まあ、空腹で力が出るのかは謎だけど。
値段シールは30%オフ。十分お得だ。つい指を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。
刹那、恐ろしい殺気が私を射貫いた。
「いけない」
半額になる前のお弁当を確保するような真似は『豚』と呼ばれて蔑視されるらしい。
豚として貪る弁当の味には『勝利の一味』は入っていないという。
なら、待つしかない。
お弁当コーナーを離れ、
しかし、良い位置は既に誰かしらが立っていて、そこに並ぶのは気が引けた。仕方なく少し離れたコーナーで物色する振りをする。
と、私の隣に誰かが立った。
黒っぽい制服を着た高校生の女の子。ヘアスタイルが犬か狼を思わせる。
「もしかして、初心者さん?」
この子も狼なのか、と理解した。
「はい。初めてなんです」
「ふうん。でも、ルールは知ってるみたいだね。……さっきはちょっと危なかったけど」
「……『弱きは叩く』」
「『豚は潰す』。そう、わかってるなら大丈夫。ただ、手加減はできないけど」
くすっと笑う彼女。
「烏田高校の生徒が多いんですか?」
「そうだね。他にも何人かいるよ。特に《氷結の魔女》と《変態》には注意かな」
「へ、変態?」
どういう意味だと尋ねようと思った時、スタッフルームの扉が開いた。
――空気が張り詰める。
入り口で感じた以上のプレッシャー。
似たようなものはバスケの試合や大会の時に感じたことがある。戦いに臨む者の気迫。それを周囲の狼達が発しているのだ。
「……始まるよ」
あれがきっと『ジジ様』なのだろう、店員さんがシールを貼っていく。
一つだけ。
見れば一つはいつの間にか消えている。話している間に買われたらしい。でも、もう一つは? あ、別のシールが貼られる。
「月桂冠」
半額神――シールを貼るスタッフが最高と認めたお弁当にのみ貼られるシール。
貼られたのは『サバの味噌煮弁当』だ。
月桂冠が出た場合、基本的に激しい争奪戦になると紗季ちゃんは言っていた。つまり、それを制さなければあのお弁当は食べられない。
お腹が空いている。食べたい。頭がそのことでいっぱいになる。
気づいた時には、ばたん、という音が響いていた。
ドン!
衝撃が響き、あの子(仮称ウルフヘア)の背中が見えた。出遅れた! 相変わらずスタートダッシュのタイミングが恐ろしくシビアだ!
慌てて足を向ければ、既に戦線が構築されつつあるのがわかった。
一番前で争っているのはウルフヘアの子と――やっぱり烏田高校の制服を着た、しっかりした身体つきの男の子。二人の拳が二度、三度と打ち合っている。
「邪魔しないでよ、《変態》!」
「それはこっちの台詞だ!」
あれが《変態》。一見普通の子だけど、まさか脱ぐとか……?
思いつつ戦線に近づく。
怖いな、これ。バスケでも乱戦っぽいのはあるけど、あれは殴り合わないし……と、
「初心者だろうが……悪いな。容赦はせん」
声。
横合いから接近して来る影を辛くも察知し、振り返りざまに受け止める。
重い! 怒ってる時の葵の拳よりきつい!
「……ほう」
感嘆したのは攻撃してきた相手、坊主頭の狼。
彼は一発に拘泥せず拳を引くと、更に連撃を放ってくる。避け、払い、なんとかもらわないようにするけど、その一つ一つがやっぱり重い。これが腹の虫の加護か。
私も多少はパワーアップできてるっぽいけど、バスケ経験がなかったらたぶんもうノックアウトされてる。
「やるな、ルーキー」
坊主はちらりと前線に目をやってから攻撃を継続してきた。
ウルフヘアが《変態》とやりあってるからか。倒しやすい私を狙って数を減らすつもりらしい。
でも、せっかくなら負けたくない。
守るだけじゃ勝てない。こっちからも攻撃しないと。坊主は今のところ連撃主体。なら、それ以上のスピードで攻めるか……ううん、ここは一撃必殺!
相手の攻撃をいなし、かわし、比較的間が空いたと思われるところでつま先を跳ね上げる。
うわっ! 思った以上に勢いがついて、私はぐるっと一回転してしまう。ちょっと待った、格ゲーじゃないんだからありえないと思うんだけど。
幸い坊主も驚いて後退してくれて、
「白だと!?」
って、そこ!?
しまった、なんで私はスカート履いてきたんだ。動く度にひらひらしてる上、蹴りなんか使ったら下着が丸見えだ。いやまあ、お陰で隙が出来たんだけど、
「隙あり!」
「ぐわっ!?」
あ、坊主が横合いから来た顎髭の男子高校生に吹っ飛ばされた。煩悩に気を取られてるから……。
顎髭はちらりと私を見て、笑みを浮かべながら前線に移動していく。
「初心者にしちゃやるじゃねえか。でも、《痴女》とか呼ばれないように気をつけろよ」
「ち、痴女!?」
ひどい二つ名すぎる。
どうやら狼として有名になると二つ名がつくらしいんだけど……うん、痴女で有名になるのは勘弁して欲しい。《変態》の二の舞は勘弁だ。
「ええい、しつこいぞ!」
件の《変態》の声。
ひときわ大きな衝撃が響いたかと思うと、なんと彼は
ウルフヘアに空中攻撃を仕掛けようとする《変態》。そこに顎髭が、転がったままの坊主の身体を投げ飛ばした。二人は衝突して床に落ちる。ひどい。
「よっしゃ今だ!」
「させるか!」
途端、周りで小競り合いをしていた狼達が前線に殺到。
どうやら《変態》は二つ名持ちだけあって一目置かれているらしい。ダメージを受けた今がチャンスだと思われたのだろう。
えっと、じゃあ私も……。
思った矢先、視界の端をなんか小さめのものが通り過ぎて行こうとする。パスカットの要領で反射的に手を伸ばす。「へっ!?」。声。服の端か何かを掴んだ。引き寄せる。女の子だ。眼鏡をかけて、烏田高校の制服を着ている。
目を丸くした彼女と目が合う。
すごいスピードだった。意識の間隙を突かれた感があったし。向こうが私のことを度外視してたっぽいからなんか止められたけど。
……倒しちゃおうか。ううん。
私は彼女を軽く放り投げ、上向きの掌底を決める。
「ヴォェ!?」
「そこまで力込めてないですよね……!?」
ともあれ、浮いた。
床を蹴り、浮いた彼女の身体を足場にして二段ジャンプする。行ける。《変態》の真似だけど、やってやれないことはない。ジャンプ力にはもともと自信がある。それが腹の虫の加護で強化されていれば!
跳躍。
くるんと宙で一回転して、天井に足をつける。再び推進力を得ると共に方向転換。私が狙うのは空中攻撃ではなく――。
ふわり、と、スカートを靡かせながら弁当の間近に着地するよう跳んで、
「上だ! 白だ!」
坊主の声。
「ば、馬鹿な! 白だ! 自らジャンプして見せてくれるだと……女神か!?」
「アンダーウェア履き忘れたんです!」
ああもう、女子を平気で殴る癖にエロは禁止なの……!?
などと、余計なことを考えたのがいけなかったのか。
「悪いけど、貰うよ!」
「あっ……!」
ウルフヘアと肩がぶつかる。手がお弁当に伸びようとしてる。サバの方だ。
《変態》や坊主、顎髭も私の下着のショックから立ち直ろうとしている(どんなショックだ)。大勢を立て直している時間はない。身体全体で押すようにして妨害しつつ、私も必死に手を伸ばす。
押し合いへし合い。
私とウルフヘアの身体が絡み合い、もつれあう。お互い相手が邪魔で取れない。もうちょっと、もうちょっとなのに……!
あ、さっきと同じ影……!?
「ええと、ごめんなさい」
さっき私が踏み台にした子がサバを取った! 落胆が腹の虫の力を鈍らせる。
ぐい、っと。
接近してきた《変態》に首の後ろを掴まれ、後ろに吹き飛ばされる。坊主と顎髭がウルフヘアの肩を掴んで止めて――。
私は、ウルフヘアが全員ぼっこぼこの乱戦に巻き込まれるのを、スーパーの床に尻もちをついたまま見守ったのだった。
あ、もう一個の『特製のり弁当』は変態が取りました。
☆ ☆ ☆
「全くもう、スカートの下に下着だけは迂闊すぎるよ」
「あはは……返す言葉もないです」
私はベンチの隣に座ったウルフヘアに苦笑を返した。
戦いの後、彼女から夕餉に誘われたのだ。夕餉といっても半額弁当じゃなくて、カップ麺とお惣菜だけど。私はどん兵衛のきつねうどんとおにぎり(鮭)、ウルフヘアはどん兵衛かき揚げうどんにちくわ天を追加という暴挙である。
スーパーでお湯を入れてきたのでそろそろ食べ頃。
私達はお互いを見た後、声を揃えて「いただきます」を言った。
割り箸を割って、容器の中にさし入れる。
ちゅるる、と麺を啜ると、ちゃんとした食感のある麺が絡んだ汁と共に口に入ってくる。カップ麺とは思えないクオリティだ。普段は食べないけど、こういうのもいいなって思う。前世では色んなカップ麺を気分で選ぶのが当たり前だったっけ。
うう、思い出したらカップヌードルとかも食べたくなってきた。
「ね、ところで本当に今日初めて? 危なく月桂冠取られるところだったけど」
「うん。間違いなく初めてだよ。動けたのは、ちょっと前までバスケやってたからじゃないかな」
「え、バスケットボールってそんなに万能なスポーツだったの……?」
ウルフヘアも明るい子だったせいか、話は弾んだ。
どうやらお互い一年生だったみたいで、私も気づけば敬語じゃなくて普通に話せるようになっていた。服を買いに行くときに相談に乗って欲しいなんて言われて、連絡先も交換した。
ご飯を食べ終わったら、自然に別れる流れに。
私も早くバスに乗らないと補導されかねない。
「またね」
「うん。いつでも連絡して」
手を振るウルフヘアにそう返すと、彼女は首を振った。
「そうじゃなくて、またスーパーで会おうよ」
「あ……うんっ!」
私は笑顔で頷いた。
そうだ。負けっぱなしじゃ終われない。もう一回、それで駄目なら二度でも三度でも挑戦して、半額弁当を自分で手に入れたい。
それで、一回味わったら多分――もう一回って思うはずだ。
バス停に向かって歩きながら、私は呟く。
「狼、悪くないかも」
バスに乗った私は、とりあえず先達に更なる教えを乞うため、スマホでラインを起動し、紗季ちゃんへのメッセージを作成するのだった。
※どうでもいい余談
狼としての紗季……上着に仕込んだ保冷剤を自在に操るテクニカルタイプ
狼としての翔子……空中戦を得意とし、《痴女》《露出狂》などの二つ名をつけられそうになるも、最終的には《舞姫》辺りで落ち着くイメージ