ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「というわけで、葵には勝負下着を準備してもらいました」
「おし、でかした翔子!」
「さすがだよおつるみん! そこに痺れる憧れる!」
ファーストフード店でお茶しながら戦果報告すると、さつきと多恵はたいそう喜んでくれた。
「それでそれで、どんなの買ったの?」
「白地に淡いブルーの上下セットだよ。程よいレースが可愛いやつ」
「むむ、なんていうか……普通だな! もっとこう、フリフリの黒いやつとかの方がよくね? いかにも勝負します! って感じのやつ」
シェイクを啜りながらさつきが唸った。
うん、そういう「いかにも」な奴も性欲をそそるのは確かなんだけど。
「初めてのエッチで彼女がそんなの穿いてたら引くよ」
「そういうもんか?」
「だと思うよ。男の子はね、自分が手をつけるまで女の子には清楚でいて欲しいんじゃないかな」
「つるみんのこういう話って説得力あるよねえ……」
多恵がポテトをつまみながらしみじみと頷く。
――まあ、元男子だからなあ。
前も葵に言ったけど、昴には特に清楚系の方が有効だと思う。
美星姐さんとか、幼馴染時代の葵自身とかのせいで攻め攻めなのは拒否反応が起きるはず。七夕さんで美人に慣れている彼にはちょっと大人っぽい、それでいて可愛いやつで攻めるべきだ。
まあ、もしかしたら女児用パンツが一番反応する可能性もあるかもだけど……もしそうだったら美星姐さんに成敗してもらうしかない。
「それで、私から葵にプレゼントしたんだけど……二人も三分の一ずつ出してくれない?」
「もちろんいいよぉ。でも、葵ちんが着けるとこ見たかったかもぉ」
「だな! それさえあれば気持ちよく出せるんだけどな」
意味ありげに言ってチラチラしてくる二人。
見抜かれている。
私はスマホを取り出すと葵とのライン画面を開き、テーブルの上を滑らせた。映っているのは鏡の前で自撮りした下着姿の葵。
『ゾノとショージに見せたら言いなさいよ! すぐ消すから!』
という文言と共に「厳守!」というスタンプも送られてきている。
私が葵を唆して――もとい、説得して送ってもらったものだ。
「つるみん、お主も悪よのう」
「いえいえ、ミ商事さまほどではございません」
「なあ翔子。これ保存して送ってくれ」
「それは駄目。私まで問題児扱いされたらお裾分けもできなくなるでしょ」
「「それは困る」」
真顔でハモる二人。
「……前から思ってたけど、さつきと多恵ってレズなの?」
「いんや。可愛い女の子が好きなだけだが」
「どっちかっていうとバイかなぁ」
いや、そんなあっさり。
それだけ私のことを信頼してくれてるんだろうけども。
「……ね。それって、私のせい?」
ちょっと怖くなって、そんなことを尋ねてしまう。
小さい頃から馬鹿やってきた私達。
当然、一緒に遊ぶことも多かったわけで、いつの間にか性癖が移ってしまっていたんだとしたら申し訳が――。
「てい」
「とう」
「あいたっ!? な、なにするの二人とも」
「ばーか。自分の性癖くらい自分で管理してるっての」
「弊社達は楽しくやってるから気にしなくていいんだよぉ」
「本当?」
「「本当本当」」
こくこく頷いてくれる。
そっか、なら、良かった。
「……さつきも多恵も大事な友達だから。私のせいで彼氏できないんだったらやだなって」
「え、あちしら付き合ってるって言ってなかったっけ?」
「ゾノのせいじゃない? 弊社、ゾノから話してって言ったと思うんだけどぉ」
え、あれ、そうだったんだ……?
「知らなかった……。おめでとう二人とも。末永くお幸せにね。デートの時は気にせず二人だけで遊んでね」
「秒で信じるなよ!? 嘘だよ!」
「あ、なんだ嘘か」
「つるみん本気で信じてるしぃ。お詫びにおっぱい揉ませて」
「お詫びが逆じゃないかな? まあ、私ので良ければ好きにしてくれていいけど」
ほっとしたような残念なような、不思議な気持ちで笑って答える。
「翔子ので良ければ」
「好きなだけ……?」
「ん?」
軽い気持ちで口にしたことが、なんか凄い反応を呼んでる?
「翔子。これからお前んち行っていい? 深い意味はないけど」
「その前に薬局寄っていいかなあ。深い意味はないんだけどぉ」
「ちょっと二人とも、それはどこまでが冗談……?」
八割くらい本気だった。こわい。
☆ ☆ ☆
『というわけで、ひなたちゃんのパンツをどうしたらいいと思う?』
「まだ返してなかったんだ……」
昴と葵が福引で当てた京都旅行ペアチケット。
お互いの両親に相談したところ、あっさり「行ってこい」と許可がでたらしい。まあ、恋人同士だし、親同士もとっくに顔見知り。高校生の国内旅行なら危険もあんまりない。
七芝は二期制のため、十月頭に短い秋休みがある。
二人はそこを利用して二泊三日の京都旅行に行くことになった。
――なったんだけど。
なんと、全く同じタイミングで、慧心学園の修学旅行があるらしい。
行き先は京都。
どんな偶然だと言いたいけど、事実そうなってるんだから仕方ない。
問題はそこじゃなくて、同タイミングで旅行とくれば、過去に昴の手へと収まった負の遺産を処理すべきじゃないかということだ。
そう、ひなたちゃんの下着。
なんで数か月も放っておいたのかと言いたいけど、返すタイミングが無かったらしい。
「硯谷か海の時にこっそり返せば良かったんじゃ?」
『あ』
「……それか、初等部の合宿所に落ちてたって言って美星姐さんから返してもらうとか」
『あ』
「……昴?」
めちゃくちゃ抜かりまくってるんですが、長谷川さん。
『い、いやミホ姉からは駄目だ。俺が殺される』
「あー、まあ、確かに」
ならいっそ放置してくれば……って、今更言っても仕方ないか。
「でも昴。今回は宿泊場所別なんでしょ? こっそり返すのも難しいんじゃないかな」
『だよなあ……』
修学旅行ということは六年生全員が一緒だ。
幸い慧心女バスの面々だけで一つの班になってるらしいけど、こういう時の部屋って男女で一階ずつ貸し切るのが定番だ。
同じ学校の男子が女子階に潜り込むのだって至難だというのに、高校生男子がこっそり潜入とか死にに行くつもりなのかと言いたい。
バレたら休止期間延長どころか退学さえありうる。
「……葵に女湯へ置いてきてもらうとかなら、ギリギリ?」
『お前は俺に死ねというのか』
言い方次第だと思うけど、確かに昴たちの場合は裏目に出そうだ。
「でも昴。こっそり荷物に入れようと思ったら部屋番号特定しないとだよ? しかも、いない時に忍び込むには鍵をどうにかしないといけないし」
どこのスパイ映画だって話である。
『それじゃあ詰んでるじゃないか』
「もう、だから詰んでるんだってば……」
結局、まともなアイデアは出なかった。
私が一緒に行けるなら協力できるけど、さすがに恋人同士の旅行にくっついていくわけにもいかない。
自分でどうにかすると言う昴に、私はくれぐれも問題は起こさないように、起こすくらいなら返さない方がマシ、と言い含めることしかできなかった。
☆ ☆ ☆
「うふふ。すばるんさまとあおいっちさまの旅行が重なったのは本当に驚きましたね」
「はい。こんな偶然もあるんですね……びっくりしました」
私と久井奈さんのお茶会が実現したのは、九月も下旬になってからのことだった。
三沢邸別館にある使用人部屋の一室。
さほど広くないと言いつつ並のアパートくらいの広さがある。お屋敷の中なので壁や床材などは当然立派なものが使われており、凄く贅沢な感じだ。
なんとなく久井奈さんの匂いがする室内は綺麗に片付いていてさっぱりした印象があった。
今日は一日オフだという私服姿の久井奈さんが二人分の紅茶を用意してくれて、どうぞ、とソーサーを添えて供してくれる。
私が手土産に買ってきたケーキも一緒に。
なんだかそれだけで幸せな気分になる。
「でも、この時期にお休みなんですね。てっきり、真帆ちゃんが旅行中がお休みなのかと思いました」
「いえ、実は修学旅行中も大事なお仕事があるんです」
ケーキを一口食べたところで何気なく言えば、久井奈さんはそう言って苦笑した。
――有給どころか代休すら溜まってそう。
真帆ちゃんが家にいない間さえ休めないとは。
三沢家というか、メイドさんという職業自体が割とブラックだ。まあ、もともとは週休二日なんて考えが無かった頃の職業だろうしなあ……。
「お部屋の掃除とか、ですか?」
「いいえ」
上品に首を振った久井奈さんは顎に指を当てて考える仕草。
何気ない仕草でさえ絵になるから凄い。
なんとなく見つめていると、ちらりと私を見た彼女と目が合う。
「そうですね、るーみんさまにならお教えしてもいいでしょう」
「と、いうと……」
「実は、我々使用人による非常訓練が行われるんです」
三沢家は言わずと知れたお金持ちである。
一人娘である真帆ちゃんは純真無垢な美少女。ご両親にとっては目に入れても痛くない存在であり、当然、誘拐の可能性もかなり高い。
また、友達や使用人が一緒の日常生活に比べると旅先は非常に危険だ。
そこで、真帆ちゃんが旅先で誘拐されるという想定のもとで大掛かりな訓練を実施するのだという。
同じようなことは年に数回行っていて、その陣頭指揮は真帆ちゃん付きのメイドである久井奈さんが取るのが恒例なのだとか。
「……久井奈さんって、実はかなり偉い立場なんですね」
「偉いといいますか、真帆さまをお守りする上で責任は重大ですね」
当然のように言って微笑む彼女。
家事万能、車の運転もお手の物なメイドさんが護衛までするなんて――久井奈さん、数年くらい自衛隊にいたって言われても驚かない自信がある。
「じゃあ、久井奈さんたちも京都なんですね」
「ええ。るーみんさまだけ除け者にするわけではないのですが……」
言って、残念そうに目を伏せてくれる。
社交辞令だとしても嬉しい。
こうしてお茶会に招いてくれたのもそうだし、こうしていると普通の友達みたいだ。
――あ。久井奈さんにひなたちゃんの下着の件、お願いするのはどうだろうか。
ちょっと考えてみて駄目だと結論を出す。
昴から下着を回収するのに事情の説明が必要だけど、もし昴から真帆ちゃんに話が漏れたら台無しだ。
こういう護衛任務は護衛対象に悟らせないことこそ本分のはず。
「むしろ、お仕事で京都なんてご苦労様です」
「ありがとうございます。でも、少しくらいは観光の時間も取れるのですよ。私は防衛側ではなく誘拐側の役になりますので、四六時中気を張っている必要はありませんし」
「あ、誘拐犯の役もあるんですね」
「もちろんです。真帆さまのことを最も把握している私が犯人役になることで、敵の目線を掴むこと、他の者達の危機意識を引き上げることが目的になります」
真帆ちゃんが泊まるホテルや利用する主な施設にも話を通した上でマップを入手、実際の犯行径路をシミュレートしたりもするらしい。
なんというか、本格的すぎる訓練だった。
さすが三沢家、やることなすことスケールが違う。
「ただ、そうですね……。訓練中は男装しますのでちょっと窮屈かもしれません」
「変装的な意味合いですか?」
「それもありますし、実際の犯人はおそらく男性でしょう? 当家の男性使用人は料理人や庭師など移動しない者が多いというのもあって、私が男装しているのです」
「そうなんですね。久井奈さんならきっと格好いい男性になると思います」
「るーみんさまにそう言われると少し照れてしまいますね」
くすりと笑う久井奈さん。
「あはは。男装なら私も負けないかもしれません。こう見えて昔は男の子に憧れてましたし」
「身長もありますから、今でもきっとお似合いでしょうね」
私も微笑んで、二人で見つめ合う。
穏やかで気持ちのいい時間だった。
定期的にこんな時間があればいいのに、なんて思っちゃうけど、久井奈さんはもちろん、私もなんだかんだ忙しいのでなかなか難しいだろう。
と、久井奈さんが不意に「そうです」と目を輝かせる。
悪戯っぽく唇が歪んでいるところを見ると、たまに出てくるSっ気モードっぽい。
「学校は秋休みなのですよね。でしたら、るーみんさまも参加なさいますか?」
「え? 参加、って……訓練にですか?」
「はい。犯人役をペアにしたいと思っていたのですが、適任がなかなか思い当たらず。るーみんさまでしたら、背が高くて運動をしていらっしゃるので適任かと」
えっと、冗談かな?
そう思って久井奈さんの様子を窺うと、彼女はただ楽しそうににこにこしていた。
あ、本気っぽい。
「私なんかでいいんでしょうか……?」
「もちろんです。ただ、事前に面接くらいは受けて頂くことになりますけれど」
「あ、まあ、それくらいなら」
ちょっとしたバイト代も出せると思う、と言われてぐらっと心が揺らいだ。
ここで「やってみようかな」と思ってしまったことを後に私はちょっと後悔するのだけれど、今この時の私はそのことをまだ知らないのだった。