ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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9th stage 翔子は小学生の誘拐に加担する(3)

 京都に着いた私達はまず宿へと向かった。

 昴や愛莉ちゃんたちは割とお高めのホテルらしいけど、もちろん私達は別のところ。とはいえ、あまり離れても不便なので、近くにある手頃なホテルに部屋を取った。

 二人で一部屋。

 その方が打ち合わせなどに便利だし、荷物も一か所に集約しておける。

 

「一息つけるのはこの部屋だけなんですね」

 

 荷物を下ろした私は軽く息を吐いた。

 ベッドが二つと冷蔵庫(中身は有料)、テレビなどひととおりの設備が揃っているだけのシンプルな部屋。

 逆に言えば休むには十分すぎるスペースがある。

 さっさと男装を解いてシャワーでも浴びたいところだけど、

 

「ええ。ですが、翔子。あまり時間がありません」

「そうですね」

 

 私は頷き、手荷物だけを持ち上げる。

 私達は観光で来たわけではないのだ。ホテルに着いてはー疲れた、というわけにはいかない。

 

「行きましょうか、(せい)さん」

「ああ。頼むぞ、(かける)

 

 ホテルを出て、慧心学園の宿泊先周辺をぐるりと歩く。

 前もってリサーチも行っているが、実際の感覚は行ってみないとわからないことも多い。

 だからこその下見なんだけど、あいにく、わかったのは「この辺は治安がいいなあ」ということだった。

 

 当たり前だけど、無理に誘拐なんてしたら滅茶苦茶目立つ。

 

 当日は学校関係者や他の生徒もうろつくだろうから、声掛け事案もまずい。

 強硬策ならホテル内の方が逆に虚をつきやすいかもしれない。

 もちろん、更にその裏をかくという選択肢もあるけど。

 

「日本に生まれて良かったって思います」

「そーか? アメリカとかイギリスとか超クールじゃね?」

 

 うわ、聖さん超似合わないこと言ってる。

 思わず目を逸らして笑いを堪えたら、サングラスをかけたままじろりと睨まれてしまった。

 

「今日行けんのは近場だけだな」

「そうですね」

 

 近いところを二、三ルート歩いて回った。

 寺社仏閣は早く閉まるところも多い。そういうところの下見は明日の早い時間に回し、今日のところは土産物屋や、主な観光スポットまでの道を確認しておく。

 やっぱりねらい目は人混みの中か。

 人通りの多いところなら他のメンバーとはぐれさせることも不可能じゃない。目を惹くもので釣って足を止めさせれば、それだけで危機的状況を演出できる。

 

 拝観料を払うような施設で誘拐すると入退場のゲートを通過しづらいし。

 眠り薬嗅がせて鞄に詰めるとかなら可能なんだろうけど、漫画みたいにあっさり長時間眠らせるのって難しいらしい。

 いやまあ、本当に誘拐しちゃうとまずいんだけど。

 

 こうやって『犯人』が『下見』していることも訓練のうち。

 スタッフの多くは既に現地に着いていて、彼らは彼らで下見をしているはずなのだ。

 不審人物を発見して事前に警戒できるかも一つのポイント。

 

「……さて。飯でも食いに行くか」

「奢ってくれるんですか?」

 

 この『飯』というのも、現地協力者との打ち合わせを兼ねている。

 なので実際経費で落ちるんだけど。

 

「ま、たまにはな」

「さすがです聖さん! 一生ついていきます!」

 

 調子に乗って声を上げた私に聖さんは笑みを作り、頭を小突いた。

 

「ばーか。俺にばっかくっついてないで女でも見つけやがれ」

 

 聖さんだって女じゃないですか、とは答えなかった。

 煮込まない本格派のすき焼きをご馳走になりつつ、無駄に隠語混じりの相談を個室で繰り広げた後、ようやくホテルで一息つくことができた。

 楽な女物に戻って(って思えるようになったことにあらためて驚愕)ベッドに寝そべった私を見て、ラフな私服の聖さんが微笑んだ。

 

「お疲れ様です、翔子。でも本番は明日からですよ」

「聖さんこそお疲れ様です。……はい、精一杯頑張ります」

 

 男二人が入った部屋から女が出てくるわけにはいかない、ということで、部屋に備え付けのシャワーを浴びて。

 軽いスケジュール確認をしてから、私達は眠りについたのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 京都入りから二日目。

 昴たちにとっては旅行初日となる朝、私達は変装を済ませてホテルを出た。

 昨日と打って変わって、今日の服装はメンズスーツ。

 サングラスは無しだが、帽子やヘアゴムで髪形は変えている。手にした黒のバッグにはノートPCや書類が詰まっている……と見せかけて、もしもの時の変装グッズでいっぱいだ。

 一応、社員旅行の下見、あるいは何らかの調査で来た社会人二人組という設定である。

 

 朝ご飯はつかないホテルなのでファストフード店で軽く済ませる。

 

 男装してハンバーガーをかじる聖さんというレアな絵が見られたのはちょっと役得だった。

 その後は金閣寺や八坂神社などを素早く巡っていく。慧心学園は朝集合のそこから新幹線で、到着するのは昼過ぎだから多少余裕はあるとはいえ、お守りを買いに並ぶ暇もない強行軍。

 何しろ、その後は二日目午後分の見学先を見て回り、更には宇治にまで足を延ばさなければいけなかったからだ。

二日分のスケジュールを約半日でこなし、明日は三日目に真帆ちゃんたちが行くKYOTO映画村や京都タワーを下見する。

 

 今のところ誰かに見咎められた気配はない。

 

 お昼は通りがかったお店で買い食いをしたりして済ませた。

 うん、ハードスケジュールだけど、確かに観光っぽいことも割とできてる。

 

「なんか誘拐犯っていうより悪の幹部って感じですね」

「俺達が実行犯ってのも問題あるからなあ」

 

 私と聖さんは犯人役だが、主な仕事は「下見」である。

 何故かといえば面が割れているからだ。当の真帆ちゃんとも親しいわけでまともに言葉を交わしたら正体がバレる可能性がある。二日目なんかはがっつり昴たちと合流する予定らしいから猶更だ。

 防衛役のスタッフの目を撹乱する意味でも黒幕に徹し、現地協力者さんたちを使って実行するのが主な計画。

 もちろん、不慮のトラブルで急遽出張る可能性もあるんだけど。

 

「……もう夕方か」

 

 宇治での用事が終わって京都に戻る頃には結構な時間になっていた。

 空を見上げて呟いた聖さんは私に囁く。

 

「ホテルに行くぞ」

「はい」

 

 私は頷き、懐からサングラスを取り出した。

 聖さんが言ったホテルとは自分達の宿泊先のことじゃない。もちろん淫らな意味合いでもない。真帆ちゃんたちが泊まっているホテルのこと。

 貸し切りになってからでないと空気感がわかりづらいと、敢えて下見を後回しにしていたのだ。

 と、そういえば昴たちも同じホテルらしい。

 サイレントモードで鞄の底に眠っているスマホにそんな報告が届いていた。

 まったくどんな偶然なのか。お陰で真帆ちゃんたちや美星姐さん、羽多野先生だけでなく昴と葵に見つかる可能性さえ考慮しないといけない。

 

 緊張しつつ、聖さんと共にホテルのロビーへ。

 何食わぬ顔をしてエレベーターホールへ向かえば、誰かに見咎められることもなかった。手荷物以外持ってきてないからチェックインがまだとは取られづらいし、この手のホテルなら商談で訪れる人もいるはず。意味ありげなサングラス以外はさほど怪しいわけでもない。

 意味ありげなサングラスが怪しいけど。

 

「イヤホンを」

「はい」

 

 他には誰も乗ってこなかったので、エレベーター内で小道具を装着。

 小型のイヤホン。ペアになっているマイクの方はスーツの袖に仕込んである。ここからは別行動になるのでこれが必要だ。

 女子の貸し切り階は七階と確認済み。

 ちなみに男子は六階。ランプが点灯することなくエレベーターはそこを通り過ぎた。セーフだ。

 聖さんが自分のバッグを差し出してくるので受け取る。

 

「ご武運を」

「荒事が発生しない方を祈ってくれ」

 

 苦笑した彼女は、一枚の紙だけを手に七階で降りていった。

 持っていった紙は誘拐ルート候補を記したもの。時間で消える特殊なインクを用いている。あまりにも意味ありげだけど、まあ、そのあたりは場を盛り上げるスパイスだ。

 私は八階で降りた。

 そのまま一階に戻っても構わないんだけど、降りた途端に下へのランプが点いたのを見ると戻らなくて正解だったかもしれない。私は自分の分のマップをちらりと確認しつつ八階を横断、誘拐後上に逃げるルートはないな、と結論づけた上で、反対側にあるエレベーターのボタンを押した。

 

 聖さんからの無線が入ったのはそんな時だった。

 

『緊急事態発生。只今逃走中』

「え。大丈夫なんですか?」

『問題ありません。相手は小学生の男の子一人ですので、引き剥がします』

「男子!? どうして七階に」

 

 思わず言ってしまった私だけど、聖さんも走りながらじゃ上手く話せないはず。

 

「外の非常階段ですか?」

『ヤー』

「わかりました。こっちは普通に正面から出ます。後で合流しましょう」

『ヤー』

 

 ドキドキしつつ、エレベーターで一階まで降りた。

 騒ぎになっている……なんてことはもちろんなく、上がったと思ったら逆から降りてきた私を不審がる人も別にいなかった。

 聖さんは大丈夫だろうか。

 非常階段を三階分降り、ホテルの中庭に飛び移るルートは事前に逃走経路として候補に挙がっていた。今はもう暗くなっているし、男の子が一人でそこまで追うとも思えないので、大丈夫だとは思うけど。

 

 ――そういえばこのホテル、なんでか中庭と地続き(柵はあるけど)に露天風呂があるんだよね。

 

 しかも女湯。

 植えられた木や植物のせいで覗くのは至難っぽいけど、何故上から見下ろせる位置に作ったのか。

 まあ、それはともかく。

 

『逃走成功。拠点で合流を』

「ヤー」

 

 私はほっと胸を撫でおろした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 聖さんを見咎めた男子は、なんと夏陽くんだったらしい。

 どうして彼が一人で女子階に。

 悪戯? 夜這い? いや、そういうタイプには見えなかったし……と考えて、一つの可能性に思い当たる。ひなたちゃんの下着、あれを返そうとしたのかもしれない。

 元となった合宿には彼もいたはずだし、昴と同じく事情を把握していたのかも。

 そうすると昴がいなかったのが引っかかるけど、これについては翌朝に届いていた葵からのラインで原因がわかった。

 

『……しちゃった///』

 

 はいはい惚気乙、的なことをオブラートに包んで返信しつつ。

 なるほど、昴は臨戦態勢にあったせいで夏陽くんの連絡に気づかなかったんだな、と納得した私だった。

 下着の返却を年下に任せて彼女といちゃいちゃ、と書くと凄いクズっぽいけど……まあ、今日一緒に返すって約束してたかどうかがわかんないし、そこはなんともいえない。

 ひなたちゃんの、せっかく来てるんだし私が返せればいいんだけど、顔出すわけにいかないしなあ。

 

 と、まあ、それは置いておくとして。

 

 問題は計画が夏陽くんに漏洩してしまったことだ。

 加えて、聖さんは例の紙を落としてしまったらしい。これが三沢家スタッフ相手なら「完敗です。お疲れ様でした」で終わるんだけど、状況的に夏陽くんが拾っているはず。

 紙には「三沢真帆」とは書いていないものの、真帆ちゃんのイニシャルと「誘拐ルート候補」の文字がある。

 なんだ悪戯か、で片付けるには、夏陽くんは真帆ちゃんちの財力を知りすぎている。

 

 本当に誘拐があるかも、と思うには十分だろう。

 最低でも誰かには相談するはず。

 夜のうちに防衛側とも連絡を取り、訓練の中断を伝達。状況を見守ったところ、翌朝の時点では少なくとも警察が動いたりはしていなかった。

 教師がやけに警戒しているとかもなし。真帆ちゃん自身からの緊急連絡もなし。となると美星姐さんあたりで情報が止まったか、誰かに伝えたけど一笑に付されたか、あるいは昴と葵に助けを求めた夏陽くんが未成年だけで対処しようとしているか。

 

 最後の可能性はないと思いつつ、一応、葵に電話をかけてみる。

 

『……あ。もしもし、翔子?』

 

 ちょっと恥ずかしそうな幼馴染の声。

 

「リア充爆発しろ」

『なっ……そ、そりゃあ私だってそう思わなくはないけど、でも私も恥ずかしかったんだからね!』

 

 うん、なんか大丈夫そうだ。

 特別慌ててる様子は微塵もない。ちょうどご飯の途中だったようだ。

 

「ごめんごめん。おめでとう、葵」

『ん……ありがと、翔子』

「具体的な感想を聞くのはまた今度にするとして、昴も大丈夫そう? 一夜明けて破局とかないよね?」

『うん。昴は、なんかその、凄く優しくしてくれて……って何言わせるのよ!』

 

 ごめんごめん、ともう一度謝ってから通話を切った。

 なんていうか、よくわからなかった。

 

「どうしましょうか、聖さん」

「そうですね……」

 

 防衛側のリーダーとも話しあった末、私達はいったん訓練の続行を決断。

 修学旅行二日目の朝を迎えたのだった。

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