ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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9th stage 翔子は小学生の誘拐に加担する(4)

 二日目からは犯人役と防衛側でも連絡を取り合うことになった。

 もちろん、依頼した現地協力者さんたちの情報は漏らさないけど、更に不測の事態が起こった時のため、夏陽くんや教師陣の動向をチェックする必要があるからだ。

 

「……くそ、やっちまったな」

 

 三日目の下見中、聖さんがぼやく。

 演技を忘れてないのはさすがだけど、ちょっと心配だ、

 

「大丈夫ですよ。真帆ちゃんにバレたわけじゃないですし」

「ああ。ありがとな、(かける)

 

 おずおずと声をかければ、にっこりと笑いかけてくれた。

 ああもう、そんな笑顔、イケメン以外にはできないんですってば……!

 

 周囲の女性から注目されているのを感じた私は聖さんの手を引いてその場を離れた。

 余計に「きゃー!」と声が上がった気がしたのは気のせいだと思いたい。

 

「翔。あれ、男同士で付き合ってると思われたぞ」

「聖さんが言わないでください……!」

 

 下見自体は午前中で終わった。

 聖さんがあちこち電話をかけ、明日の段取りを指示したり状況を確認したりする。

 

 結果、警察や教師は動いていない。

 

 夏陽くんも班員と一緒に修学旅行を楽しんでいる。

 代わりに、どうやら昴が警戒にあたっているようだった。

 葵の方はいたって平常運転。

 すごくしおらしくなったり、急に顔を真っ赤にしたり感情の振れ幅は激しいらしいけど、それは()()()が原因だろう。

 

 となると、ひなたちゃんの下着の件を夏陽くんに確認、誘拐の件を相談され、確証がないのでひとまず警戒を請け負った、というところだろうか。

 二日目は真帆ちゃんたちが班ごとの自由行動のため、がっつり一緒に回る予定なのだ。

 

「どうします、聖さん?」

「予定通りに実行します」

「大丈夫ですか?」

 

 昴ならきっちり真帆ちゃんを守り通すだろう。

 今日予定している「犯行」は黒七味を餌に真帆ちゃんを釣り出す等々の「それっぽい」もの。危機感を刺激された彼がヒートアップする恐れもある。

 

「ああ。……当主に相談したところ、ならばいっそ『彼』の能力を試す方向に持っていくそうだ」

 

 当主というと、風雅さんか。

 彼というのはもちろん昴のこと。

 

 ――昴が真帆ちゃんを守れるかどうか。

 

 三沢家の訓練から、昴のための試験へのシフトチェンジ。

 ちょっと、いやかなり意地の悪い話だ。

 後で怒られても文句は言えない。

 

「ただのコーチに仕掛けるには大掛かりですけど」

「雇い主の意向だ。それに、あの方にはそれだけの価値がある」

 

 確かに。

 ただのコーチとはいえ、週三で男子高校生と一緒にいるのだ。

 昴からの影響は間違いなくある。

 このまま関係が続けば、恋に発展する可能性だってゼロじゃない。

 

「わかりました。そういうことなら」

「すまん。それで、翔にはバスケ選手を二人集めてもらいたい。できれば男女で」

「バスケ選手? どうしてです?」

「明日、『余興』に使うのだそうだ。覚悟を見るにはもってこいだろう?」

 

 なるほど。

 となると、ある程度『試練』になるような相手を用意しないといけない。

 二人ということは葵とのペア想定。

 急すぎて高校生じゃ集まらないだろうから、ねらい目は大学生か。

 確かに、プレーヤーとの交渉なら私の方が話が早そうだ。

 

「じゃあ、先に詳細を詰めさせてください」

 

 時間や場所、出せる日当などを確認。

 大体定まったところで私は頷いた。

 近隣の大学からバスケサークルが有名なところをリストアップして、片っ端から電話をかければいいだろう。バスケしてお金がもらえると言えば二人くらいは余裕で集まる。

 ノートPCとスマホを駆使した方がよさそうだ。

 

「多分、少し時間がかかると思います。別行動しますか?」

「いや、俺もホテルに戻る。後は指揮だけで問題ないからな」

「了解です」

 

 お昼ご飯を適当に買い込んだ後、私達は午後の時間をホテルに籠もって過ごした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 案の定、昴は私達のプランを悉く邪魔しにかかってくれた。

 注意喚起という意味では十分に意味をなしているのでそれはいいんだけど、黒七味の一件の後、聖さんが『宣戦布告』をしたところ、昴がどこかに連絡を取るのが確認できた。

 美星姐さんならまあ、まだいいんだけど。

 警察沙汰になるのはちょっと面倒臭いし、あまりプレッシャーをかけるのも心苦しい。

 

 男女の大学生プレーヤーを確保した私は、夕方になって聖さんに提案した。

 

「ちょっと、昴に会ってきてもいいですか?」

「試験のことを話すつもりですか?」

 

 部屋の中なので聖さんはプライベートモードだ。

 私も私服のままこくりと頷いて、

 

「はっきりとは伝えませんけど、匂わせるくらいはいいんじゃないかと」

「……なるほど」

 

 聖さんは少し考えてから「いいでしょう」と言ってくれた。

 

「許可します。こちらとしては真剣味が確認できれば構いませんので」

「ありがとうございます」

 

 深く頭を下げてから、私は手荷物だけを持ってホテルを出た。

 スマホを取り出して昴の番号をコール。

 

『もしもし? 俺にかけてくるなんて珍しいな。どうした?』

「うん、ちょっと昴に話したいことがあって」

『へえ。お土産の希望とか?』

「ううん、お土産は大丈夫。私も今、京都にいるから」

『はあ!?』

 

 本当にびっくりしている声がして、ちょっと面白かった。

 

「それでね、ちょっと会えないかな? できればひなたちゃんのアレを持って」

『ちょ、お前……いや、わかった。どこで会う?』

 

 ホテル近くの喫茶店を指定。

 私が到着するのと昴が顔を出すのは殆ど同時だった。

 

「……本当に京都にいたのか」

「あはは、ちょっとバイトが入っちゃって」

「バイト?」

 

 私はほうじ茶ラテ、昴はホットコーヒーを注文し、ひとすすりしてから話に入る。

 あ、このラテ美味しい。

 

「うん。聖さん……久井奈さんも一緒なんだけどね。黒服着てうろうろしたりするの」

「な……っ!?」

 

 またも本気で驚く昴。

 彼は慌てて声を潜めると、私を睨むようにしながら尋ねてくる。

 

「それは、つまり……()()()()()()か?」

 

 私は微笑みを浮かべて曖昧に答える。

 

「どういうことかわからないけど、依頼人は三沢家だよ」

「……お前な」

 

 椅子に背を預けた昴が深いため息をついた。

 

「そういうことなら早く言ってくれ。……本当に誘拐かと思っただろ」

「本当の誘拐犯が動いてない保証もないけどね」

「確かに。……で? なんで今更教えてくれたんだ?」

「昴ならここで放り出したりしないから、かな」

「割と信用されてるんだな、俺」

「それはもちろん」

 

 事情を聞いた昴は苦笑して答えた。

 

「わかった。俺はとにかく、今日みたいに気を張ってればいいんだな?」

「うん。私に会ったことと昴の推測は葵にも話していいから。……そうすれば動きやすいでしょ?」

「助かる。でも、なんか今度埋め合わせしろよな!」

 

 ジト目で見られた私は苦笑で返し、

 

「迷惑料は『下着』の対処でどう?」

「……できるのか?」

 

 目を丸くして問い返される。

 それはまあ、昴と夏陽くんの二人がかりで半年近く進展がないわけだけど。

 

「私が『女湯の前に落ちてました』ってフロントにでも届ければ終わるよ?」

「……なん、だと?」

 

 男子がやったら変態と間違われそうだけど、女子ならそうそう疑われない。

 名前が書いてあるらしいので女子の先生に渡って、そこからひなたちゃんに返せるだろう。

 

「じゃ、じゃあ頼んでもいいんだな?」

「うん、任せて」

 

 こうして。

 小さな紙袋にはいった『それ』を受け取った私は、無事フロントに預けることに成功したのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 決戦の部隊はKYOTO映画村。

 そこで行われるヒーローショーを利用させてもらい、悪の手先二人(私が手配したバスケプレーヤー)vs昴と葵によるバスケ勝負を披露。

 智花ちゃんたちを楽しませつつ、風雅さんたちに真剣さをアピールといった具合である。

 まあ、私は裏方として、呼んだ二人の大学生に挨拶したり手順の説明をしたり、台本を渡してリハーサルに付き合ったり、場持たせでバスケの話をしたりと大忙しだったけど。

 ショーが始まってしまえば割と楽になった。

 

 内容としてはよくある、観客の一人が人質になって、ヒーローが「くっ!」とか言い始めるやつ。

 当然、人質は真帆ちゃんで。

 私は裏に連れていかれた彼女が暇をしないよう相手をする役である。

 

「あれ? るーみん、なんでここにいるの?」

「それはね真帆ちゃん、これがお芝居だからなんだよ」

「ほえ? お芝居?」

「そう、お芝居」

 

 ショーと見せかけて悪い人が本当に誘拐しちゃう、という設定だと説明。

 

「たまに悪い人もいるから、気をつけないと駄目だよ」

「うえー、るーみんがやんばるとかおかーさんみたいなこと言ってる!」

「真帆さま、それは聞き捨てなりませんね」

「え、やんばる!?」

「ははは、まほまほ。さっきの話は萌衣には内緒にしておくよ」

「おとーさんまで!」

 

 驚いていいのか喜んでいいのか忙しそうな真帆ちゃんに、私は舞台上を映した小型ディスプレイを勧める。

 

「一応人質だから、これで我慢してね」

「おー! 十分十分! すばるんとあおいっちかっけー!」

 

 真帆ちゃんは純粋に喜んでくれた。

 昴たちと悪役二人の変則試合は最初、劣勢で進んだ。大学生という格上相手に経験値の差で押し込まれた昴達だったけど、すぐに持ち前のコンビプレーで逆転する。

 上手く適度な試練になってくれたみたいだ。

 手配した私としても良い展開にほっとする。葵の対象もちょっと心配だったけど、さすがに一日開いてれば『アレ』の影響もなくなってるっぽい。

 むしろ愛情パワーで一段階キレが増しているような気さえした。

 

 ――胸にはちくっという痛み。

 

 顔を顰めると、聖さんがそっと肩に手を置いてくれる。

 笑みだけでお礼を言うと、私は小さな嫉妬を心から追い出した。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 昴と葵は見事勝利。

 裏の倉庫っぽいところで真帆ちゃんと対面を果たした。

 

「あんたね、来てたなら言いなさいよ」

「あはは、ごめんね」

 

 などと、私が葵と話している間に昴は風雅さんと正対。

 ハラハラドキドキさせられた苦情などを伝え、風雅さんからは騒がせたことへの謝罪を受けていた。

 関係各所への根回しはちゃんとしていたわけだけど、昴にだけは何も伝わっていなかったから仕方ないといえば仕方ない。

 でも、そんな毅然とした態度を風雅さんは気に入ったらしい。

 

「昴くんが独り身なら、まほまほの相手になって欲しいくらいだ」

 

 などと言いだして、むしろ葵を慌てさせたりした。

 

 何かお詫びを、と提案した風雅さんに昴はある「お願い」していたけど――それについては実現が明確になってからあらためて語ろうと思う。

 真帆ちゃんたちには聞こえないように話していたから、ぬか喜びさせちゃっても可愛そうだし。

 

 ともあれ。

 訓練も試験もこれで無事(?)終了。

 私達もお役御免ということで、昴たちが心おきなく観光に戻るのを見送ってから、後始末や後片付けに移るのだった。

 

「翔子ちゃんもご苦労様。大変だっただろう」

「いえ。本当に大変だったのは聖さんですし、私は、なんだかんだ楽しかったです」

 

 風雅さんとも短く言葉を交わす場面があった。

 彼は私の返答を聞いて爽やかに笑うと、告げた。

 

「そうか。……久井奈も君と一緒でいつも以上に張り切っていたみたいだ。萌衣からも『次の面接があれば、もっと厳しく審査しますので』と言われているよ」

「あ、あはは。肝に銘じます」

 

 それは、メイドの採用面接を受けてもいいってことかな……?

 今すぐには絶対無理だけど、視野に入れて日々を過ごすのもいいかもしれない。

 

『翔子さんっ。どうせなら一緒に帰りませんかっ?』

 

 という、愛莉ちゃんからのお誘いメールは丁重に辞退して。

 残った時間は自由にしていいというので、聖さんと二人で遅いお昼を食べ、お土産を買ったりしてから、帰りの新幹線に乗った。

 都合四日間のアルバイト代は結構な額になった。

 お土産なんかの代金を差し引いても十分に残ってくれたので、私としてはほくほくである。必要経費で買ったメンズの服ももらったし、とてもいい経験もできた。

 

 むしろ、つばひーたちへのお土産とお詫び、無理を言ってしまった香椎くんへお礼を伝え、打倒愛莉ちゃんたちに向けた指導に戻る方が大変だったかもしれない。

 それでも。

 少しずつ旅行気分が抜けて日常に戻り始めた頃、()()()()()()の告知が正式に行われたのだった。

 

 『ForM』主催ミニバスケットボール大会。

 選手交代なしの特別ルールで行われるそれは、真帆ちゃんたちのために昴が風雅さんにお願いし、実現することになったもの。

 慧心女バスが五人で出場でき、つばひーたちが勝ち上がればリベンジも可能で――都合さえつけば、因縁の()()()()()とも再戦できるかもしれない。

 

 新しい戦いの予感。

 小学生たちと同様、私もまた、それに胸を躍らせるのだった。

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