ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「こんばんは、七夕さん。遅くなりました」
「いらっしゃい、翔子ちゃん。お風呂の用意できてるから入って入って」
十月八日、土曜日。
五年生とたっぷり練習してくたくたになった私は、その足で長谷川家へ向かった。時刻は夕方。着く頃には汗は引いていたものの、女の子としては臭いが気になるところ。七夕さんは快くバスルームを貸してくれた。
お風呂まで沸かしてくれていたのは予想外だったけど、お陰で身も心もさっぱりした。
持ってきていた洗濯済みの下着と私服に着替えてリビングに行く。
「おー、やっと上がったか。やっぱ女子って風呂長いよな」
席について寛いでいた昴に声をかけられる。
葵の方はというと、キッチンから大きなお皿を運んでくるところだった。
「ちょうどいいタイミングね。支度ができるところよ」
「わ。私、お呼ばれしておいて何もしてないよ」
「うふふ。葵ちゃんが手伝ってくれたから大丈夫。足りなかったらもう少し何か作るから、良ければその時に手伝ってくれる?」
「はい、喜んで」
まあ、テーブルの上にはところ狭しと料理が並んでいるので、全然物足りない感はないけど。いっぱい食べる年頃が三人、私もお腹空いちゃってるから、案外あっさり食べちゃうかもしれない。
「まだ作るのかよ。……っていうか葵まで慣れないことするから俺が暇だったんだけど」
「あはは。もうちょっと早く来れば良かったね」
「いや、練習が長引く気持ちはよく分かるし。……その様子だと、五年生も手強くなりそうだな」
「それはもちろん」
やるからには全力を尽くさせてもらう。
「はーい。それじゃあ、ケーキ持ってくるわね。翔子ちゃんも葵ちゃんも座って座って」
「はーい」
「ケーキ……。って、まさか母さん、
「えー」
「お誕生日会って言ったらアレやらないと駄目だよ」
「お前ら裏切るのか……?」
不服そうな昴にニヤニヤしながら、ハッピーバースデーの歌を歌った。
「「「すばるくん、お誕生日おめでとう!!」」」
「二人とも覚えてろよ……」
昴の顔は真っ赤だったけど、怒っているというよりは照れてる感じ。なんだかんだ言って七夕さんのこと大好きだし、そこに彼女が加わったとなれば無下にはできないのだ。
いいよね、こういう男の子。
仲良くなるなら、こういう可愛げのあるタイプの方がいい。須賀や諏訪みたいな俺様は勘弁だ。香椎くんも案外、女の子には弱いし、夏陽くんもそう。昴の周りにはそういうタイプが集まってくるのかもしれない。
「そういえば、美星姐さんはどうだった?」
「智花達が別に祝ってくれるって言ったら『じゃーそっちで顔出すわ』ってさ」
「なるほど」
葵に気を遣ってくれたのかな? 美星姐さん、そういうところしっかりしてるからなあ。
「うふふ。すばるくんに葵ちゃんに翔子ちゃんが揃ってると、みんなが小さい頃みたいね」
「昴の誕生日はだいたいみんなで集まってましたもんね」
美星姐さんがいたり、銀河さんがいたり、追加メンバーは色々だったけど、大体私達三人は揃っていた。
「腐れ縁だよなあ……」
「ふーん。葵との縁が腐ってると?」
「……昴?」
「そ、そんなこと言ってないだろ。……その、お前との仲は大切にしたいっていうか」
「そ、そう? ……えへへ」
葵が嬉しそうに頬を染めてだらしない顔をする。
昴から「わざとやっただろ?」という視線が飛んでくるのは素知らぬ顔で無視した。
まだまだ子供とはいえ私達も高校生。
誕生パーティは和やかに進んだ。途中、長谷川家特製オムレツが売れに売れたため追加を作ることになり、葵と私でオムレツ対決をした。
審査員の昴にはどっちがどっちか知らせずに食べてもらったところ、「こっちの方が断然うまい」と指されたのは私が作った方だった。
「さすが翔子だな。母さんの味にかなり近い」
「やった。って、バレバレだった?」
「ああ。まあ、こっちの焦げてる方は、なんか葵の味がするし」
「な、なによ私の味って」
言いながら葵はすごく嬉しそうだった。
試合に勝って勝負に負けた私は、なんか普通にバカップルしてる二人をニコニコと眺めながら、時々茶々を入れて昴の反応を引き出してみたり、昔の思い出話に参加したり、昴があんまりしないらしい七芝での生活について話したりした。
料理をあらかた平らげ、残すはケーキのみとなったところで、私はそれとなく七夕さんに言う。
「七夕さん。このサラダのドレッシング、美味しかったのでレシピ、教えていただけませんか?」
「うん、もちろんいいわよ。えーっと……」
にこにこと頷いた七夕さんは何かに気づいたように、ちらりと葵の方を見る。
「紙に書いた方がわかりやすいかな。葵ちゃんたちは、良かったらお部屋でゆっくりしてて」
「え、でも片付けとかあるだろ」
「いいからいいから。すばるくんが主役なんだし」
「昴は普段からそんなにお手伝いしないでしょ?」
「ぐ……。ま、まあ、その通りだが」
言い負かされた昴を見て、葵が顔を真っ赤にしながら言う。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてください」
「はいはーい。ケーキと紅茶、用意して持っていくから
さすがは七夕さん。
ぱっと見、何の裏も読み取れない日常会話。だというのに、恋人達への気遣いがふんだんに隠れている。アシストしておいてなんだけど、私、いらなかったかもしれない。
昴と葵が二階に消え、七夕さんがお茶とケーキを運んでいく。
その後、私と七夕さんは料理のお皿を洗ってから、食後のお茶を楽しむことになった。合間、七夕さんはドレッシングのレシピをさらさらと書いてくれる。
「本当に大きくなったのね」
独り言のような呟きに、私もぽつりと答える。
「そうですね。あの二人がついに恋人同士ですし」
「ええ。……でも、すばるくんたちだけじゃなくて、翔子ちゃんも」
「私は昔のままですよー」
私は転生者だ。
表面上のノリは肉体年齢に左右されているものの、根っこの部分が成熟している気はしない。
強いて言うなら、
「ううん。ちゃんと、翔子ちゃんは成長してる。優しくて格好いい、女の子に」
「……そう、でしょうか」
私は、なりたくて女になったわけじゃない。
「女になりたくない」が「女になるしかない」になって「私は女だ」に至っただけ。
――でも、みんなそうなのかな。
生まれる性別を選べる人なんていない。
なりたくて異性を目指せる人もそう多くない。悩んで苦しんで、それでも女に至った私は、結局のところ最初から女だったのかもしれない。
みんなと同じように。
女としての自分を成長させてきた。
「うん。だから、大丈夫。きっと翔子ちゃんも、運命の人と巡り合えるから」
「運命の人」
葵は、私の運命じゃなかった。
運命だったかもしれない祥を、私は我が儘のために振ってしまった。
そんな私に、まだ運命が残っているだろうか。
「大丈夫」
隣に座った七夕さんがそっと抱きしめてくれる。
柔らかくて、温かい。
小さい頃から知っている。変わらない温もり。私にとっての、もう一人のお母さん。
私は、七夕さんに身体を預けたまま、静かな涙を流した。
「ありがとうございます、七夕さん」
しばらくしてそう言うと、七夕さんは微笑んで身体を離した。
「たまにはお酒、飲んじゃおうかしら。……翔子ちゃんも飲む?」
「あ、はい。じゃあ……って! 私、未成年ですから!」
「うふふ、冗談よお」
お湯割りのブランデーを傾ける七夕さんと、私はそれから取り留めのない話をした。
肴はケーキと、ちょっとだけ残った料理。
途中で今日帰るのは諦めて泊っていくことにした。日曜日なので学校はない。一回、家に帰ってウェアの予備を取ってきたいけど、まあ、下着は替えたし、最悪練習に直行でもいいだろう。
ゆったりとした静かな時間。
BGM代わりにつけたテレビの音のお陰で、二階の音は何も聞こえなかった。
☆ ☆ ☆
月曜日のパーティは一転、小学生多数の賑やかなものになった。
会場となったのは三沢邸の一室。
最初は長谷川家の予定だったんだけど、昴の家は広いとはいえ一般家庭。慧心女バス六年生組五人+かげつちゃんにミミちゃん、更に私となると人数が多すぎる。私の家や智花ちゃんの家ならなんとかなるけど、そこで真帆ちゃんが「じゃーウチでやろ!」と言ってくれたのだ。
三沢家ならスペースとして申し分ない。それどころか過剰すぎるほどである。
私はせめてこれくらいは、と、お赤飯や煮物なんかを重箱に詰めて持ち込んだ。
ちなみに衣装は着物である。
智花ちゃんたちも各々ドレス等々、お洒落をするということだったので、必然的に私も自分なりのお洒落をすることになったのだ。うちには着物ならいっぱいあるけど、今の私に合うドレスはない。
いっそメンズ服にするという手もあったけど、また夏陽くんに怒られそうだからなしにした。
プレゼントはさつき&多恵と共同で「ロリもの漫画・ラノベの一巻お試しセット」。こどものじかんにうさぎドロップに十歳の保健体育にエトセトラ。いっそ清々しいほどのネタアイテムだったため、昴は困り顔になりつつ「まあ、読むけど」と受け取ってくれた。
聖さんに挨拶した後、せっかくなので料理をちょっとだけ手伝わせてもらったり、真帆ちゃん用の辛い料理を食べて火を吹く昴を見て笑ったり、楽しく過ごした。
みんなもそれぞれ高すぎず安すぎず、葵を立てつつ趣向をこらしたプレゼントを用意していた。
「こんなにたくさんの人に祝ってもらえるなんて、なんだか夢のようだよ」
と、昴はなかなかいいコメントを残し、
「ふむ。こんなにたくさんの小学生に、と?」
「ちげーよ!」
美星姐さんと息の合ったボケツッコミを披露していた。
そうして、楽しい時間は瞬く間に過ぎて……。
☆ ☆ ☆
「私までお世話になってしまって申し訳ありません」
「いえいえ。こちらこそ、娘達がいつもお世話になってしまって」
決戦当日。
郊外にある市営体育館までは、ひなたちゃん&かげつちゃんのご両親が車で送ってくださることになった。ひなたちゃんを含めた六年生チームは美星姐さんが送迎してくれているため、御厄介になるのは私と五年生チームのメンバーである。
「ひなちゃんがいつもお世話になってますっ」
ひなたちゃんのお母さんは、なんというか、ひなたちゃんをそのまま成長させたような「お姉さん」だった。女性に歳を聞くわけにはいかないけど、この見た目で二児の母とか反則としか思えないレベル。
他の子のお母さんもそうだけど、正直普通に守備範囲内……もとい、一人で街を歩いていたらナンパされそうな若々しさだ。
車が発進すると、私はつばひーたちを順番に見る。
「みんな、調子はどう?」
「問題ありません」
雅美ちゃんが一番に答えた後、口々に、
「元気に決まってるじゃん」
「昨日の練習が軽かったから動きたくてうずうずしてるし」
「はやくトモカと試合、したい」
「はい。私も元気いっぱいです」
「良かった」
本当にあっという間の一か月だった。
「みんな、本当によく頑張ったね。前の試合の時とは見違えたよ」
「当たり前じゃん」
「今のボク達なら真帆なんかこてんぱんだし」
うん、確かに元気いっぱいだ。
同行してくれている夏陽くんが苦笑して、
「張り切るのはいーけど、あいつらのこと甘く見るなよ」
「「はい、にーたん!」」
相変わらず夏陽くんには弱いなあ、つばひーたち。
会場に着いたのは私達が先だった。
「先にコートを確認しておく?」
「いえ、紗季達を待ち伏せしましょう」
「「それだ、ナイスましゃみ!」」
……待ち伏せ? なんのために?
首を捻ってしまうけど、まあ、みんながやる気満々だからいいか。一応、物理アタックは禁止だとだけ釘を刺しておく。
駐車場から体育館までの道でしばらく待てば、やってきました昴達。いつも通り和気あいあいとした雰囲気の彼らの前に、こちらの面子が敵対心剥き出しで立ち塞がる。
私と夏陽くんは隅っこの方で目立たないようにしてたけど……。
「今日ボク達が勝ったら、今度こそボク達が本当のバスケ部になる! 文句ないよね」
「いいわ、直接対決でそっちが勝ったらね。……ただし、私たちが勝ったら……しばらくの間はアシスタントとして、こっちの練習にも顔を出してもらおうかしら」
喧嘩を売ってあしらわれる子、ライバルとして適切な激励を交わし合う子、姉妹らしい仲の良さを発揮する子……様々なワンシーンの後、紗季ちゃんの遠回しな協調提案に雅美ちゃん、そしてつばひーたちが乗った。
もちろん、彼女達は気づいてなくて、勝つのは自分達だから奴隷にはならない、とか言ってたんだけど。
「「ほら行くよ、おねーさん!」」
「はいはい」
私は息を荒げるつばひーたちに苦笑を返し、昴たちに挨拶をしてから、五年生チームの一員としてその場を離れたのだった。