ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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11th stage 翔子は小学生と試合に臨む(4)

「もっかん!」

「待ちなさい真帆、その位置だと――」

「その通りよ紗季。残念だったわね」

「ごめんなさい、湊先輩」

 

 真帆ちゃんから飛んだパスを智花ちゃんが受け取るとほぼ同時。

 近くにいた雅美ちゃんとかげつちゃんが周囲を固め、ドライブコースとパスコースを同時に封じてしまう。

 

「っ」

 

 唇を噛んだ智花ちゃんはそれでも諦めずに視線を巡らせ、やむなく後方にパスを出した。仕切り直しには成功するも、彼女の顔には止められた悔しさが滲んでいる。悠々とディフェンス位置についている他の五年生を見て、後方に「パスさせられた」のだと気づいたのだ。

 

「あちゃー、ごめんもっかん。チューイブソクだった!」

「ううん、私の方こそ上手くはまっちゃって……」

「二人とも、切り替えていきましょう。でも、ダブルチームには気をつけましょう」

 

 順調に見えた六年生チームに見えない楔がまた一本。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「おー、あいりー」

「ありがとうひなたちゃん! これで……!」

 

 ひなたちゃんからのパスを受けた愛莉ちゃんが、がら空きの直線ルートをドリブルして――。

 

「駄目! 愛莉、横!」

「えっ……!?」

 

 閃いた銀の光に己の武器を奪われ(スティール)た。

 

「ごぶれい、デス」

 

 ルートが空いていたせいで、ほんの僅かに周囲への警戒が疎かになったのだ。そこへミミちゃんが電光石火の妨害に出た。

 高さに大きな差のある二人なので、視界に入りづらかったのもあるだろう。

 ちなみに、愛莉ちゃんにつくべきかげつちゃんは背丈を利用して智花ちゃんを一時的に封じていた。

 

 これで、楔がまた一本。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「ぐぬー! つばひーの片方め、ちょこまか動き回りおって!」

「へへー、真帆は責任持ってボクが止めるよ」

「と、見せかけて――」

「なぬ!?」

 

 あっちへこっちへ、と、ディフェンスの突破を模索していた真帆ちゃんが驚愕する。

 

「「スイッチ!」」

 

 側面からバックステップして近づいてきたもう一人の双子が一瞬で入れ替わり、何食わぬ顔で真帆ちゃんの前へ。驚きから身を硬くした真帆ちゃんはやむなく紗季ちゃんへとパスを戻した。

 

「どうだ! 柊の動きなんか見なくたってわかるんだ!」

「ボク達双子だもんねー、椿!」

 

 更に一本。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「鬱陶しすぎる……。いや、普通っちゃ普通なんだけど」

「あはは。変な実戦してたせいで、手札の数だけはやたら増えたからね、みんな」

「どう考えてもおねーさんの影響だろ、それ」

 

 夏陽くんが言う通り、ディフェンス強化の原因は試合形式の練習中、私とミミちゃんがやりたい放題にやったせいだ。

 どっちもシュートを決め続けたら点差がつかないのは当然の話。

 そんな状況でも点差を広げるための方策を椿ちゃんたちは自分で考え、徐々に実践するようになっていったのだ。つまりは相手の意表をついて攻撃を止める方法。

 彼女達が思いついたテクニックが既存の技術だった場合はより洗練された手法をその都度教えたし、乞われれば「こういう戦法もある」と披露した。

 

 何しろ年上とエースのコンビを止めるためだ。

 数の利を生かしたダブルマークは当然のこと、フェイントや不意打ちも織り交ぜ、更なる高等テクニックにまで手を出す始末。

 それでいて、極力時計を使わないという理念はきっちり守っている。

 

 そのうえ――。

 

「愛莉さんみたいな身長はないけど……っ!」

 

 ゴール前で愛莉ちゃんに阻まれたかげつちゃんがフェイダウェイシュートを放ち、

 

「あは。紗季、私がロングシュートだけの女だと思った?」

 

 雅美ちゃんがゴール下から綺麗なジャンプシュートを決め、

 

「みようみまね、デス」

 

 ミミちゃんがスクープショットで場を翻弄し、

 

「にーらめっこ」

「しましょ!」

 

 つばひーが、互いに「マークマンに視線を合わせたまま」ノールックでパスを決める。

 

「なんつー強引な撹乱だ……!」

 

 豊富な引き出しを元手に相手への選択肢を際限なく増やしていくのは、間違いなく私譲り。

 期間が少なかったので一つ一つの精度はまだまだだけど、だからこそ「これ以上はもうないだろう」と油断させることもできる。

 点差は二点から四点、そして六点へと徐々に広がった。

 

 いける。

 

 六年生に勝っているという実感から、五年生はそんな思いを抱いたようだった。過酷な特訓の成果が目に見えて現れたことで、つばひー達は勢いに乗っていく。

 

「……勝てるか?」

「どう、かな」

 

 対する六年生は――何もしなかった。

 

 ううん、「何もしない」というと語弊があるかもしれない。不必要に慌てたり、奇策を使ったりせず、ただ自分達の力を信じて一つ一つできることをこなしていった。

 一つ新しい戦法を見せるたび、それを計算に加えてプレーをブラッシュアップしていく。それはさながら、戦いの中で進化していくかのようだった。

 

 前半が終わり、後半の時計が半分を切った頃。

 六年生の頑張りが形となって現れる。六点もあった点差が縮まりだしたのだ。こちらの手札があらかた切られたことの証明であり、地力の差が顕著になった結果だ。

 何よりネックになったのは、やっぱり体力。

 激しい実戦を繰り返したことで持久力はそこそこついていたものの、ちゃんと基礎トレをした場合との差は出てしまう。特に速攻は休む暇がない分、体力を消耗しやすいのだ。

 だからこそ、撹乱して点と余裕を奪いたかったんだけど……さすがに愛莉ちゃんたちは一筋縄ではいかなかった。

 

 つばひーたちも最後まで頑張った。

 せっかくのリードを維持しようと必死で食らいついたけど、時を追うごとにプレーの精度は落ちていった。点差はやがてゼロになり、マイナスになって。

 

 試合終了した時、六年生チームとは四点の差があった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……負けちゃったね」

 

 試合後の五年生はさすがに落ち込んでいた。

 椿ちゃん、柊ちゃん、雅美ちゃんは黙って立ちつくし、ミミちゃんもしょんぼりと肩を落としている。かげつちゃんだけはひなたちゃんたちと健闘をたたえあっているけど、やっぱりどこか悔しそう。

 あれだけ頑張ったのに負けちゃったんだから、当然だ。

 六年生、愛莉ちゃんたちが嬉しそうにしているから余計に堪えるかもしれない。もちろん、みんなは悪くないんだけど。

 

「ごめんね。私が不甲斐なかったから――」

「くだらない謝罪はやめてください」

 

 私の言葉は雅美ちゃんによって遮られた。

 そのやりとりが呼び水になったように、椿ちゃんと柊ちゃんが口を開く。

 

「どうすんのおねーさん、ボク達負けちゃったよ」

「真帆達の手下なんて絶対やだよ」

「うん、ごめんなさい。でも」

 

 みんなには奴隷にするつもりなんてないと思う、と言う前に、

 

「おねーさんが京都なんか行くからだよ!」

「お誕生日会とか行って遊んでるからだよ!」

「………」

 

 鋭い言葉が胸に刺さった。

 私は何も言えなかった。二人の――ううん、みんなの悔しさはよく分かるからだ。

 代わりに口を開いたのは夏陽くんだ。

 

「止めろお前ら。……本当にそんなことのせいで負けたと思ってるのか?」

「だ、だってにーたん」

「あとちょっとだったんだよ! あとちょっとで勝てたのに……!」

「四点差だろうが二点差だろうが負けは負けなんだよ。お前らはあいつらに及ばなかった。おねーさんを責める前に、今の試合で少しもミスしなかったか考えたらどうだ?」

「………」

「………」

 

 ありがとう、夏陽くん。

 おかげでちょっと気持ちが落ち着いたよ。

 

「椿ちゃん、柊ちゃん、雅美ちゃん。ミミちゃんもかげつちゃんも。勝たせてあげられなくてごめんなさい」

 

 私はまず、あらためてみんなに謝った。

 

「いい試合だったよ。あとちょっとだったと思う。何かが少し違ってたら結果は変わってたかもしれない。……だから、どうかな? もっとバスケ、続けてみない?」

「「で、でも!」」

「紗季達の手下になる約束です。……続けるなら、ちゃんと従わないと」

 

 やめれば従わなくていい、か。

 六年生が出した条件は「アシスタントとして一緒に練習する」だから、まあ、理屈としてはギリギリ通るかもしれない。

 ミミちゃんとかげつちゃんは何も言わない。二人は合同練習に異はないだろう。ただ、仲間のことを思うと言いだしづらい。

 

「もー、あたしたち手下なんて言ってないじゃん。一緒に練習するだけだって」

「雅美、もう少し柔軟に考えられない?」

 

 真帆ちゃんや紗季ちゃんも優しく言ってくれたけど、これはちょっとだけ、逆効果だった。

 

「う、うるさいうるさいうるさい!」

「真帆のバーカ! バーカバーカ!」

「……ふん」

 

 顔を背けて離れていってしまう三人。

 これは、ちょっと時間が必要かな。夏陽くんと顔を見合わせて頷き合う。

 

「ごめんね、昴。みんなも。あの子たちをもうちょっと落ち着かせてみるから、そうしたらもう一回話せるかな?」

「ああ。……そっちは頼むな、翔子。竹中も」

「あんたに言われなくたってわかってるよ。俺はあいつらの兄貴だからな」

 

 そうして、私達は感想戦もそこそこに椿ちゃんたちの後を追った。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 決勝戦はお昼ご飯の後で行われる。

 敗者復活戦はないので暇は暇なんだけど、表彰式もあるので帰るわけにもいかない……ということで、五年生チームもお昼になった。

 私も多めに作ってきたし、それぞれのお家がお弁当を持たせてくれたので、レジャーシートの上には豪華な食事が並んだ。六年生たちとは別々だけど、袴田家のお父さんや藤井家・竹中家のご両親が来てくれているので、決して寂しいことはない。

 

「……うん、良い味だ。鶴見翔子さん、でしたね。本格的に料理の道に進む気はないのですか?」

「えっと……考えたことがありませんでした。料理は好きなんですが、最近までバスケが一番だったので」

「そうですか。寿司に限らず、和食の道に興味があれば相談してください。きっと力になれると思います」

「あ、ありがとうございます!」

 

 なんだかすごい申し出を受けてしまったりしながら、みんなと一緒に憩いのひとときを過ごす。

 椿ちゃんたちも口数は少ないものの、仲間たちと一緒に大人しくご馳走に舌鼓を打っている。そんな彼女達に、夏陽くんが機を見計らって尋ねた。

 

「で? どーすんだよ?」

「「……にーたん」」

「にーたん、じゃねえって。最終的にはお前らが決めることだろ。……バスケ続けるのか、止めるのか」

「それは」

「そうだけど」

 

 もごもごと口ごもってしまう二人。

 真帆ちゃんと仲良くするくらいなら止める、とはっきり言いださないあたり未練はありそうだ。リベンジの機会を捨てたくないのと、やっぱりバスケが好きなんだと思う。

 

 ちらりと雅美ちゃんの方を見ると、こちらの方が落ち着いた表情をしていた。さすが我がチームのポイントガード。冷静で頭がいい。理屈を飲み込むだけの度量もある。

 

「小さい頃は紗季ちゃんとも仲が良かったんですけどね」

「お、お母さん。止めてよ」

 

 困ったような顔で言う姿が可愛らしい。いつもの気を張った感じじゃなくて年相応の顔だ。

 これは、もう一押しかな……?

 

「敵情視察って有効だと思うんだ」

「って、またそれ?」

「おねーさん、また遊びに行くつもり?」

「ううん、そうじゃなくて」

 

 私は苦笑して二人に言う。

 

「真帆ちゃんたちは『正式にチームに入れ』とは言わなかったでしょ? これってチャンスじゃないかな?」

「どういうことですか?」

「今回の試合、私は愛莉ちゃんたちの手の内をある程度知ってたけど、実際戦うのはみんなでしょ? だったら、みんなが直接知ってた方がいいと思わない?」

「せんにゅーそーさ、デスか?」

「うん、そんな感じ」

 

 ちょっと違うけど。

 

「一緒に練習すればいいんだから、そこから相手の技を盗んじゃうのはどうかな? 慧心の体育館が使えれば練習場所にも困らないし、試合を申し込むのも楽になるでしょ?」

「「試合?」」

「まさか、大会で負けたからってもう諦めたりしないよね?」

 

 ちょっとだけ挑発的に言うと、椿ちゃんたちがぐっと言葉を詰まらせた。

 

「私は姉様たちとの練習、大歓迎ですけど……」

 

 タイミングよくかげつちゃんが言ってくれる。

 こうなると、椿ちゃんたちは他の仲間にも視線を走らせてしまう。

 ミミちゃんが相変わらずのポーカーフェイスで呟く。

 

「ワタシも、べつにかまいません」

「敵情視察ね。いいじゃない。理由としては十分だわ」

 

 これ以上意地を張っても仕方ない、とばかりにミミちゃんと雅美ちゃん。

 

「………」

「………」

 

 残るは意地っ張りな双子だけだけど、ご両親はもう先がわかっているのかニコニコしていた。

 

「あーもう、わかった!」

「やればいいんでしょ、やれば!」

「良かった」

 

 うん、わかってくれて本当に良かった。

 笑顔を浮かべて二人の頭を撫でると、「子ども扱いしないで!」と怒られてしまった。残念。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 大会で優勝したのは六年生、愛莉ちゃんたちだった。

 スタメンではないとはいえ硯谷の五年生チームも強敵だったけど、点数で見れば快勝。つばひーたちも決して弱かったわけではないことがあらためてわかった。

 同時に、綾ちゃんを含めた硯谷の子たちが来年、手強い相手になるだろうことも。その頃には愛莉ちゃんたちは中学生だけど――。

 

 優勝賞品は風雅さんデザインの格好いいジャージ。

 この大会のために作ったものらしいので超レアである。マニアなら高値で買いそうだ。

 

 また、風雅さんは賞品とは別にプレゼントまで用意してくれていた。慧心学園の校章が入ったユニフォーム。それも、愛莉ちゃんたち六年生の分だけでなく、つばひーたち五年生の分まで。

 

 表彰式等々の後は立食パーティーに。

 つばひーたちの感情が収まったこともあって終始和やかに進んでいったんだけど、雲行きがあさっての方向に進みだしたのは終盤になってから。

 ユニフォームの試着と言って別室に消えた愛莉ちゃんたちが、何故かスクール水着姿で戻ってきたのだ。

 なんでもビールかけ大会(ただしノンアルコール)らしいんだけど、

 

「さすがにアウトです聖さん!」

「? ここにいらっしゃるのは知人ばかりですし、水着ですので濡れても」

「駄目です! せめて何か羽織ってください!」

 

 ピンと来ない様子の聖さんにはラッシュガードを着てもらった。

 本当は愛莉ちゃんにも着せたいところだったけど、一人だけ仲間外れにするのもアレだし、小学生相手だと気を使いすぎな気もするし……ということで断念。香椎くんが感涙してるのが気になったけど、彼は度を越えたシスコンななのでまあ、大丈夫だろう。

 ちなみに葵は苦笑、昴は動揺した様子を見せては葵に脇腹を抓られていた。

 

「翔子の要望を飲んだのですから、こちらの要望も飲んでください」

 

 と、聖さんから私の分のスクール水着を渡され、ビールかけに参加することに。どうせなら本物を飲みたいんだけど……そういうわけにはいかないよね。

 で、やってみるとビールかけも楽しくて。小さい子が多いこともあってわいわいきゃあきゃあと騒いだ。

 

 なお。

 なぜか紛れ込んでいた本物を浴びた智花ちゃんが酔っ払ったり、ビールかけのイベントを聞いていなかった萌衣さんから雷が落ちたりといった一幕もあったけど、それは別のお話ということにしておきたい。

 特に、

 

「昴ふぁん、なんで私じゃ駄目らんれすか~~~っ!?」

 

 酔っ払った智花ちゃんの言動については脳から厳重に消去しなければならないだろう。

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