ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
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【名前】鶴見翔子(つるみ しょうこ)
【大会への意気込み】
ここまで来たらできることないし、応援に全力を尽くすよ……!
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『ForM』主催のミニバス大会からしばし。
十人となった慧心女バスは来たる本格的な大会に参加すべく、日々練習に励んでいる。
――励んでいるんだけど。
上手くいっているかっていうと微妙なところもあったりなかったりする。
『つまり……どうして欲しいのかな?』
『お願いします。……抱きしめて』
体育倉庫の前に立った私は、中から聞こえてくる男女の声に苦笑した。
「鶴見さん?」
「あ、うん。早く助けてあげないとね」
どうしたのかと暗に尋ねてくる紗季ちゃんに微笑み、がちゃがちゃと鍵を開ける。
開かれた扉の向こうにいたのは昴と雅美ちゃん。当然、二人は服を乱し互いに抱き合って――いるわけがなく、年齢不相応に妖艶な笑みを浮かべた雅美ちゃんと、どうしたものかと佇む昴がいるだけだった。
「あー……っと、いいところで邪魔しちゃった?」
わざとバツが悪そうに言えば、正反対の返事が来る。
「そんなわけないだろ。悪いな、助かった」
「本当です。……もう少しだったのに」
大方、体育倉庫の前で上手く二人っきりになった雅美ちゃんが昴に悪戯を仕掛けたのだろう。この手の悪戯はよくある話だった。
プライドが高い雅美ちゃんが昴に好意を抱いているとは思えないので、多分、紗季ちゃんへの嫌がらせだろう。その狙いは多少成功したのか、出てくるなり紗季ちゃんから小言をもらっている。
その間に、私は昴に囁く。
「葵には内緒にしとくね」
「……頼む」
五・六年生が合流したことで、私も六年生の指導に参加するようになった。最近は香椎くんもたまに顔を出すので、つられて葵も来ることがある。
今日はいない日だったので助かったけど、あんなところを見られたら二人の仲に影響してしまうかもしれない。
彼女の葵が小学生に嫉妬するかというとあれだけど、雅美ちゃんは結構大人びてるし、葵も嫉妬深いところがあるから怖いところだ。
と。
「こわーい。助けてください、『翔子お姉さん』」
紗季ちゃんから逃げてきた雅美ちゃんがぎゅっと抱きついてくる。
親愛の情からでないのが丸わかりなのがアレだけど、柔らかさと温もりは悪くない。よしよしと頭を撫でてあげる。
「鶴見さん。雅美を甘やかしすぎです」
「そんなことないよ。雅美ちゃんはいい子だよね?」
「はい、もちろんです」
かかったとばかりに笑みを浮かべる雅美ちゃん。
うん、かかった。
「だよね。いい子だから、ライバルを怒らせて優越感に浸ろうなんて『子供みたいなこと』しないよね? 正々堂々、バスケで勝負して勝つんだよね?」
「う、裏切るんですか……!?」
愕然とした顔で睨まれた私は「なんのことかわからない」と首を振った。
ついでに強く抱きしめてあげると、雅美ちゃんは顔を赤くして離れていった。勝った。
にやりと笑って勝ち誇っていると、紗季ちゃんが半眼で呟いた。
「……私、鶴見さんの指導方針が良くわかりません」
「私、我が儘な子は叩いて伸ばす方針なの」
ちなみに、真面目で素直な子は徹底的に甘やかしちゃうタイプ。
六年生組は基本的にこっちだ。
「いいなあ、雅美ちゃん……」
「愛莉ちゃんも抱っこして欲しいの? いいよ、おいで」
「い、いいんですか……?」
雅美ちゃんを羨ましそうに見ていた愛莉ちゃんを手招きすると、すごく恥ずかしそうにしながらも身体を預けに来てくれた。
こういう素直なスキンシップができるのは同性の特権である。
もちろん、抱きしめる時にやましい気持ちはない。ないったらない。
☆ ☆ ☆
合同練習における問題児は椿ちゃん、柊ちゃん、雅美ちゃんの三人だ。
かげつちゃんはもともと六年生組と仲良しだし、ミミちゃんも二度(1on1も含めれば三度)負けを喫した智花ちゃんを師匠を呼んで慕い始めていて、真面目に練習に取り組んでいる。
問題児三人にしても、真帆ちゃんや紗季ちゃんに対抗意識を燃やしすぎる程度で、練習を崩壊させるような真似はしてきていない。
私の囁いた方便も多少は効いてるんだろうけど、つばひーに関しては、オフの日に出会ったライバルが原因みたい。なんでも硯谷の五年生で、二人がかりであしらわれたとか。どんなプレーヤーだったのかと聞けば「おねーさんより頭おかしかった」とのこと。
よくわからないうえ、少々認識を改めてもらいたいところはあったけど、まあ、前向きになれるのならどんな理由でも有難い。
そんな、ある日のこと。
☆ ☆ ☆
「すずらん祭りかあ」
「はい。父が翔子さんも是非にと。どうですか?」
五年生組+私で竹中家に集合をかけられ、そんな話をされた。
すずらん祭りとは、年に一度開かれている商店街のお祭りらしい。
アーケード――すずらん通りに面しているお店や近隣の店舗が屋台を出し、毎年多くのお客さんで賑わっている。私も母さんと何度か行ったような、行ってないような。
開催は次の日曜日。
紗季ちゃんの実家のお好み焼き屋さんと雅美ちゃんの実家のお寿司屋さんも出店し、紗季ちゃんのお家『なが塚』の方は昴と六年生組がお手伝いするらしい。
なんでも、今年だけアーケード改修の関係で日程がズレこみ、人手が足りないのだとか。
そのため、雅美ちゃんのお家『寿し藤』も五年生組に、という話。
椿ちゃんたちは乗り気。ミミちゃんやかげつちゃんもなので、私が参加すれば再び五年生vs六年生の構図が出来上がる。今回はバスケでの勝負ではないし、「どちらがよりお客さんに喜んでもらえるか」という目標はとてもいいことだけど、
「お寿司屋さんでしょ? 私なんかでお手伝いになるかな?」
もちろん、お好み焼きなら簡単だなんて言うつもりはないけど、生ものを扱うのはやっぱり難しい。普段からお手伝いしているであろう雅美ちゃんはともかく、後は経験者を雇わないと厳しい気がする。
「最低限の研修はしますし、私達以外の店員もいますからご心配なく」
「なるほど。それなら、喜んでお手伝いさせて」
人さらいに続いてお寿司屋さんの一日バイトとは、不思議な経験値が溜まっていく。いや、今回は無給なんだろうけど。それでも得難い経験になるだろう。
すると、雅美ちゃんは微笑んで、
「ありがとう。物分かりが良くて助かります」
言い方……!
日々の悪戯の分もあるし、少し意地悪してもいいかもしれない。
「……雅美ちゃんこそ、お姉ちゃんに構って欲しくて一生懸命なんだよねー」
「っ!」
きっ、と、目つきを鋭くする雅美ちゃん。
付け入る隙はないかというように視線を巡らせたあと、ふん、と鼻を鳴らして、
「ねえみんな、知ってる? この人、結構いいスタイルしてるのよ。……こことか」
「きゃっ」
「あは、可愛い声。いいわ。前々からやり返したいと思ってたのよ」
つんつんと突かれる私の胸。同性かつ子供だからってやりたい放題である。
「し、翔子さん。大丈夫ですか?」
「ショウコのむね、キョウミあります。触ってもいい、デスか?」
そう来たか。
今、私達がいるのは竹中家の双子の部屋。ご両親は不在で夏陽くんも出払っている。止めてくれる人が誰もいない状況だけど、逆に言うと他の人に見られる心配がない。
ふむ。
「うん、いいよ」
「えっ。い、いいんですか……?」
「うん。女の子同士だし」
硬直していた身体を弛緩させる私。
恥ずかしいのを我慢すれば別に問題はない。さんざん一緒に着替えとかしてたんだから今更だし。将来自分達が「どう」なるのか、興味があるのは当然だ。
まあ、私は知りたくなくて耳を塞いでいたけど。
「さすがおねーさん! ボクたちにできないことをヘイゼンとやってのける」
「そこにシビあこ、超シビあこ」
「い、いや、待って。本当にいいんですか? 触りますよ?」
「だから大丈夫だってば。なんなら脱ごうか?」
何故か尻込みし始めた雅美ちゃんを挑発するようににやりと笑い、自分から服に手をかける。
五人から好き勝手に触られるよりは主導権を握ってしまった方がいい、というのもある。
みんながごくりと唾を飲み込む中、私はトップスに手をかけて捲り上げ、
「ただいまー」
「あ。夏陽くん帰ってきたからここまでね」
なんというタイミング。
途中まで捲った服を私は元に戻して苦笑した。まあ、冷静に考えてみるとやっぱり恥ずかしいし、盛り上がってからこうなるよりは良かったかも……?
「って、そうはいくかー! ずるいよおねーさん!」
「それならにーたんにも参加してもらお! ねーねーにーたん、おねーさんがおっぱい見せてくれるって言うんだけど一緒に見ないー?」
『はあ!? なにやってんだよおねーさん、椿達に乗せられるにしても限度があるだろ!』
どたどた。
夏陽くんが階段を駆け上がってくる音。
「ちょ、ちょっと待っ……!?」
「そうはいかないよおねーさん!」
「ミミ、ゲッタン! そっち押さえて!」
「ウイ」
「え、ええと……ご、ごめんなさい翔子さんっ!」
「や、止めっ!? 男の子いるところでは駄目だってば!」
逃げようと思った途端、四人がかりで取り押さえられる。一人二人ならなんとかなるけど、四肢に一人ずつしがみつかれるとさすがにどうしようもない。
夏陽くんの足音はどんどん近づいてくる。
いや、ちょっとピンチなんですが……? 調子に乗って余裕ぶったのがいけなかったんでしょうか……?
「……何よコレ」
逆に冷静になったらしい雅美ちゃんの呟きがなんだか印象的だった。
――なお、一線は死守したのであしからず。
☆ ☆ ☆
数日後の土曜日。
私は椿ちゃんたちと一緒に『寿し藤』の店舗を訪れた。時刻はお昼の営業が終わって少し経った頃。着いて早々、従業員用の白衣を手渡されて着替え、しばし待っていると、準備を終えた親方――雅美ちゃんのお父さんと一緒に雅美ちゃんが戻ってきた。
「こんにちは。本日はご指導、よろしくお願いします」
「こちらこそ。夜の営業までには終わらせるつもりですので、集中してついてきてください」
「はい」
親方はいかにも職人といった佇まい。
『ForM』の大会の時に一度会ってるけど、仕事モードだからか一段も二段も真摯で、格好良く見える。それだけで気持ちが引き締まる思いだった。
夜の営業まで、ってことは三、四時間くらいか。
営業に支障をきたすわけにはいかないから延長はできない。言われた通り、集中してこなさないと。
「え、今から夕方まで……?」
「そうだよ。頑張ろう、みんな」
「う、うん」
そうして研修が始まった。
まず手を氷水に三分間つけて、から始まったと言えばきっと過酷さが伝わるだろう。
まあ、基本の衛生管理ではあるんだけど。前世の学祭で飲食やったり、和食の初歩の初歩くらいは触れている私はまだいいとして、椿ちゃんたちは覚えることいっぱいで本当に大変だったはず。
修行と呼んでもいいくらいだ。
でも、親方が教えてくれたのは、集約すれば単純なこと。
食べ物を大切にしましょう。
単純で、だからこそ難しいこと。
研修が終わった後、私と椿ちゃんたちは揃って親方に「ありがとうございました」と頭を下げた。教えてもらった心構えさえちゃんとできていれば、きっといいお手伝いができるだろう。
うん、来てよかった。
「では、鶴見さん。鶴見くんだけは残ってくれ」
「はい」
まあ、私はまだ終わりじゃないんだけど。
「し、死なないでねおねーさん」
「おねーさんが死んじゃったら愛莉さんが悲しむよ」
「あはは……大丈夫、気を引き締めてやるから」
せっかくだから仕事を見て行きなさい、と親方に言われて延長戦が決定したのだ。
お店の営業が始まってしまうので、私ができるのは端っこに座って親方のお仕事をじーっと見るくらいなんだけど、日本の職人にとって「見」の修行が重要なのは言わずもがな。
帰りは母さんに迎えに来てもらうことにして、喜んで見学させてもらうことにした。
多分、今日の夕飯はこのお店になるだろう。父さんに運転を頼めないか交渉する、と、母さんから気合の入ったラインが返ってきた。お寿司食べるのに日本酒が飲めないとか拷問と言い切るのがうちの母である。
さて、もうひと頑張りしてみよう。
私は気合いを入れて研修――修行の続きに臨んだのだった。
硯谷戦はダイジェストにするのが難しい上に原作とほぼ変わらないので、カットしようかと思っております。
また、作中でも触れていますが、つばひーは原作同様、硯谷との因縁を作っているものとしました。
慧心六年生:主に愛莉の経験値が原作より上昇
慧心五年生:広い攻め手を獲得した反面、スタミナに難
硯谷:未有のやる気と経験値が上昇、綾のやる気がやや増