ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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12th stage 翔子は小学生達のサブコーチをする(3)

「うめえ! 回らない店の寿司ってこんな美味いのか!?」

「このお好み焼きも絶品だよぉ! 香ばしさと醤油の風味が絶妙なハーモニーを――」

「ショージ、意味わかって言ってる? でも、本当に美味しい」

 

 午後になってから、葵とさつき、多恵も食べに来てくれた。

 おやつにするつもりだったと言いながら、ばくばく本格的に食べてるけど……大丈夫だろうか。特にさつきと多恵。太らないといいけど。

 

「あはは、客引きへのご協力、ありがとうございます」

 

 ただのお手伝いとはいえ褒められると嬉しいので、私は三人に笑ってお礼を言う。

 サクラを頼んだわけではないけど、率先して騒いでくれたお陰で周りにいるお客さんが注目してくれている。誰かが美味しそうに食べているのを見ると食べたくなるのが人情というものである。

 雅美ちゃんを見れば、苦手なタイプなのか遠巻きにしつつも、商品への賛辞については素直に嬉しそうにしている。『なが塚』のお好み焼きと一緒に褒められたのは、図らずもいい影響になってくれるかも。

 

「ねぇ、つるみん。ばんりーんは来てないのぉ?」

「あ、香椎くんは午前中に来てたよ。マスクして変装してたけど、愛莉ちゃんが一発で見破ってた」

「だろうな! あいつでかくて目立つからなー」

 

 うん、あの身長がまず人目を惹くので、スパイには向いてないだろう。

 

 葵たちはお好み焼きと五目デコいなりを食べ尽くすと、お土産まで買ってから去っていった。売り上げにもご協力、ありがとうございます。

 私とみんなは残りの時間、精一杯やり切ろうと決意を新たにし――。

 

『すずらん通り商店街感謝祭、今年も無事終了です!』

 

 開店当初こそ波乱があったものの、以降は大きな問題もなく、営業終了を迎えたのだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 後片付けの後は、『なが塚』にて二店舗合同の打ち上げが行われた。

 六年生組がみんなで考えたというあの芝海老のお好み焼きや、紗季ちゃんのお父さんによる職人技のお好み焼きに舌鼓を打っていると、『寿し藤』の親方――雅美ちゃんのお父さんが特製のお寿司まで届けに来てくれた。

 お仕事を終えた後の宴の場。

 六年生組に五年生組、コーチという立場の昴と私、そしてもちろん紗季ちゃんと雅美ちゃんのご両親も加えてわいわいと盛り上がった。

 

 相変わらずつばひーは真帆ちゃんを目の敵にしていたし、雅美ちゃんも紗季ちゃん相手だとツンツンしちゃってたけど、本格的な喧嘩が発生するようなことなく。

 多分、今更表立って仲良くするのが恥ずかしいんじゃないかと思う。バトル漫画の最終決戦で主人公を助ける元ライバルとか、そんな感じ。つばひーにしろ雅美ちゃんにしろ、他の六年生への態度は割と穏やかだから、その辺の線引きはちゃんとできているはずだ。

 

 宴もたけなわという頃、紗季ちゃんから子供たち全員、それから昴と私にプレゼントがあった。

 手編みのてぶくろ。

 六年生組と五年生組でデザインを使い分けており、お揃い感が嬉しい。全員同じデザインにしないあたりは紗季ちゃんらしい心遣いだろう。もちろん、私も昴も喜んで受け取り、紗季ちゃんにお礼を言った。

 雅美ちゃんも、悪態をつきつつ受け取っていた。

 

 うん。

 間違いなく、今日という日はみんなにとってプラスになった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 すずらん祭りの後日、五年生組は練習での態度を軟化させた。

 

「……あいつに仕返しがしたいとか、そういうのだけじゃない」

「あいつに、レナにリベンジできればいいって思ってたけど、それだけじゃ駄目だ」

「あいつを見ていて苛々したわ。自分だけは特別だ、偉いんだ、って。世の中、一人でなんでもできるわけじゃないんだって教えてやらなくちゃ」

「そのためには、バスケで勝つしかないと思いまシタ」

「みんなで、チームで戦って、あの人に知って欲しいんです。バスケの楽しさ、みんなでプレーする楽しさを」

 

 完全に仲間になるわけじゃないけど、大会までの期間、悪戯は封印する――そんな宣言。

 でも、十分。

 ううん、みんなが自分で考えて出してくれたんだから、百二十点の答えだ。

 

 奇しくも、県予選の組み合わせが発表されたのはそんな時のこと。

 美星姐さんが持ってきてくれた書類をはやる気持ちで昴と覗き込んだ私は、運命の悪戯に目をみはった。

 

 ――最初の相手は、硯谷女学園。

 

 初戦で当たるには、あまりにも強大な敵。

 マンガなら決勝戦で当たるところ。それまでに色んなチームと戦って経験を積んで、場合によっては新メンバーや新コーチを迎えたりなんかして、満を持して挑むんだろうけど。

 逆に言えば、ぐっとわかりやすくなった。

 

 硯谷は全国レベルのチーム。

 あの子たちに勝たないと全国に行けないのなら、いつ当たっても同じこと。むしろ因縁の相手との対戦だけに集中できる。

 

 それから私たちはより大会を意識した練習を開始した。

 基礎を向上させることはもちろん、メンバー間でのコンビネーションの向上や、相手チームの研究、情報収集まで。全ては打倒・硯谷女学園のために。

 葵や香椎くんも協力してくれるのでサポート体制はばっちり。

 女子のフォワードとして高いレベルにある葵が智花ちゃんやミミちゃん、真帆ちゃんに竹中姉妹にいい刺激を与え、私と香椎くんがタイプの違うセンターの技術を愛莉ちゃんやかげつちゃんに浸透させる。全ての指導や練習を管理し、調整するのは正コーチである昴。

 

 残り時間は少ない。

 でも、できるかぎりのことはやる。

 

 子供たちのやる気は十分。

 教えたことをみるみるうちに吸収していく彼女達を相手に、私たちもコーチとして日々奮闘し――そして、あっという間に大会前夜を迎えた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「愛莉ちゃん、寒くない?」

「大丈夫ですっ。おしるこの缶があったかいし、翔子さんが一緒にいてくれるから」

 

 最後の練習は軽めに済ませた。

 ギリギリまでみっちり、といきたいのは山々なんだけど、ここまで来たら本番に疲れを残さない方が重要。みんなには早めに帰ってゆっくり休んでもらうことにして、昴や私たちから激励の言葉なんかをかけさせてもらった。

 別に明日の大会で何もかもが決まるわけじゃない。

 昴のコーチも三月までは続くわけで、できるだけ湿っぽくならないように……と、明るい言葉をかけたんだけど、締めの昴の激励には、ついつい感極まってしまいそうになった。

 

 椿ちゃん、柊ちゃん、ミミちゃん、雅美ちゃん、かげつちゃん。

 智花ちゃん、真帆ちゃん、紗季ちゃん、ひなたちゃん、そして――愛莉ちゃん。

 

 五人と五人だった二つのチームは、十人でひとつのチームになった。

 慧心の体育館で解散した彼女達は、明日、決戦の舞台に集う。

 私たちコーチにできるのは、少しでもみんなのやる気を引き出すことと、悔いのない試合ができるように祈ることだけ。

 ……なんだけど、ちょっとだけ、我が儘を言わせてもらった。

 

 お話しないかと愛莉ちゃんを誘うと、彼女は嬉しそうに頷いてくれた。

 

 愛莉ちゃんのお家に近い公園のベンチに座って、午後の空を二人で眺める。

 冬の空気は冷たいけど、愛莉ちゃんが言った通り、二人でぴったりと肩を寄せ合っているとぽかぽかしたものを感じることができた。

 

「いよいよだね」

「はい」

「緊張してる?」

「はい。……えへへ、どきどきしてます」

 

 愛莉ちゃんは私の手を取って胸に導いてくれる。

 小学生とは思えない豊かさの奥に、早い鼓動が感じられる。

 どきどき、か。

 

「私も、綾ちゃんたちにまた会うのが楽しみ」

「そうですね。わたしは、何度もお手紙してるから、久しぶりな気がしないですけど」

 

 綾ちゃんとは私もたまにラインをしている。

 お互いライバル同士ということもあって、練習内容なんかはなかなか話せないけど――それでも楽しい。綾ちゃんも私たちと試合をするのを楽しみにしてくれているみたいだった。

 

「……今まで、色んなことがあったね」

「はい」

 

 こくんと頷いて、愛莉ちゃんがゆっくりと言う。

 

「わたし、翔子さんに会えて良かったです。長谷川さんにも、みんなにも」

「私も、愛莉ちゃんと会えて良かった」

 

 この出会いがなかったら、今の私はなかったと思う。

 もしも出会っていなかったら。

 ……うん、想像もできない。きっと昴も、愛莉ちゃんたちもそうなんじゃないだろうか。

 

 寒空の下、私たちの口数は少なかった。

 でも、それは気まずいからじゃなくて、互いの温かさを感じる時間が大切だったからだ。

 

 ――頑張ってね。

 

 そう、口にしようとして、私は思い直す。

 

「頑張ろうね、明日」

「……はいっ!」

 

 愛莉ちゃんは私の顔を覗き込んで、とびきりの笑顔を見せてくれた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 翌日、私は早起きして豪華なお弁当を拵え、試合会場へと臨んだ。

 試合前、麻奈佳先輩や祥とも視線を交わすことはできたけど、さすがに声をかけることはできなかった。『ForM』の大会の時とは段違いに人が多いせいもあるけど――大きな戦いの場だから。

 みんなの体調も万全。

 昴と共にベンチに控えた私は、みんなの試合を余すことなく見守った。

 

 試合は慧心の六年生組と硯谷のスタメンから始まった。

 

 ――掛け値なしにいい試合だった。

 

 エース・智花ちゃんのプレーは相変わらず私たちを魅了したし、元気いっぱいな真帆ちゃんは身に付けた技術も手伝って攻守において活躍、センターの愛莉ちゃんは普段の大人しさとは一転した凛々しい姿を見せ、ひなたちゃんのトリッキーなプレーが相手を撹乱、司令塔の紗季ちゃんが冷静な判断によって仲間達のいいところを引き出していく。

 つばひーのコンビプレーはより洗練されて鋭さを増し、智花ちゃんと切磋琢磨し続けているミミちゃんが「もう一人のエース」としての格を見せつけ、雅美ちゃんのロングシュートは主砲として相手チームに警戒を強い、かげつちゃんが大事なゴールをしっかりと守護した。

 

 でも、相手もさるもの。

 

 甘さを払しょくした未有ちゃんをはじめとするスタメンはもちろん、短期間で成長しメンバーに選ばれた綾ちゃん、向こうとしても悩んだ末の参戦だっただろう天才・怜那ちゃん。もちろん、目立ちにくい他の子達だってエースを支えるに足る総合力の高さを持っている。

 点を取り、取られ、エースとエースがぶつかり合い、才能を見せつける怜那ちゃんにこちらの策が炸裂し、覚醒した天才が真の力を発揮し――。

 

 合宿の時の試合をグレードアップさせたようなハイレベルな攻防が繰り広げられた。

 途中、真帆ちゃんの怪我(幸い、大事には至らなかった)による選手交代といったハプニングを挟みつつも、最後の最後まで白熱した試合が続いた。

 一つ、何かが違っていれば結果は変わっていたと思う。

 あそこでああしていれば、ああなっていればと口にすることは簡単だけど、みんなはみんな、持てる全ての力をもって戦った。

 もちろん、硯谷だって同じだった。

 双子に一矢報いられた怜那ちゃんが調子を崩した時、叱咤した未有ちゃん、スタンドプレーに固執する怜那ちゃんをチームプレーに導いた綾ちゃん、綾ちゃんを支えて二本の塔を打ち立てた硯谷の正センター・久美ちゃん。一人一人ができることを全部やっていた。

 

 だから、勝敗はギリギリのところで天秤が傾いた結果であり、同時に――軽い気持ちであれこれ言うことのできない神聖なものでもあるのだと思う。

 

 結果は。

 慧心女子ミニバスケットボール部は、県予選初戦にて、敗退した。

 

 けれど、事実上の決勝戦と言ってもいいくらい、素敵ないい試合だった。




12巻、13巻が続きの話、14巻が短編集、15巻が番外編のため、次の「13th stage」が実質、ストーリー上のラストとなるかと思います。
今しばらくお付き合い頂けましたら幸いです。
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