ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「やっほー、つるみん! 会いたかったよぉ!」
最寄り駅に集合するなり御庄寺に抱きつかれた。
柔かい。というか人が見てる。赤面しながら引き剥がすと、しまりのない笑顔を直視してしまった。
助けを求めて柿園を見れば、彼女は頭の後ろで手を組んで。
「元気そうで安心したぜ」
「……いや、そんなに元気でもない」
抱きつかれたまま息を吐く。
「さんざん走り回った挙句、女子高生にしこたま銃で撃たれて大変だった」
「何があったんだよ!?」
「JK!? JKのお姉さんたちが銃持ってたの!? 見たかったよぉ!」
御庄寺の感想は若干ズレている気がするが。
終業式から数日。突然、家の電話に連絡を受けて出てきた俺だが、では昨日まで何をしていたかというと――サバゲーをしたり、その疲れを癒したり、宿題をしたりしていた。
前に美星姐さんが言っていた件。
どうやら本気だったらしく、昴や葵ともどもいきなり連れていかれ、装備を貸し出されてゲームに参加させられた。
『子供にやらせることじゃないんじゃ』
『にゃはは、大丈夫だって。男の子だろ?』
男女比1:3なんですが。
葵と顔を見合わせた俺だが、これは無理だと悟って大人しく従った。
相手が良い人達だったのが幸いだが、約一名、殺気が凄い子が混じっていたのも気になったポイントである。確か、学校名はステラ女子とかいったか。女子高でサバゲーの部活とか世界は広い。
と、柿園が呆れ顔になって、
「くそ、心配して損したぜ」
「本当に悪い。だけど、まあ、この通り。割と元気だから」
肩を竦めて苦笑する。
嫌なことはあった。しかし、人は忘れるようにできている。一晩寝て起きると重苦しいものは目減りしていた。
良くも悪くも、だが。
お陰でこうやって遊びに出かけることができる。それは有難いことだ。
「………」
「………」
って、なんでそこで黙るのか。
「つるみん。その服はイメチェン?」
「……そんなに変かな?」
Tシャツにショートパンツ。
運動することになってもいいようにとブラをつけてはいるが、そんなに変な格好でもないはず。
首を傾げて見せると柿園が頷き、
「大丈夫、似合ってる。ちょっとしたイメチェン的な?」
「ま、そんなとこ」
それ以上の説明はいらないようだった。
御庄寺が笑って、
「それじゃあ出発だよぉ、夢の秋葉原に!」
「……え?」
今日の目的地を告げてくれた、のだが。
「さつき、多恵の頭が湧いてる」
「いつものことだろ! って翔子、お前今――」
「ほらほらゾノ、つるみんも行くよぉ!」
なんか、色々有耶無耶のうちに出発になった。
☆ ☆ ☆
オタクの聖地、秋葉原。
御庄寺なら池袋の方じゃないのかと思ったが、曰く「あっちはもっとディープだからぁ」とのこと。確かに俺や柿園にとってはアキバの方がマシだ。
というか、何気に前世含めても行くのは初めてである。
気になる軍資金については「お年玉があるから大丈夫だよぉ」とのこと。お前の心配をしてるわけじゃない、と二人してツッコミを入れた。まあ、俺は割と貯金があるので大丈夫だが。柿園は電車賃の時点で「小遣いが……」と泣いていた。
後で缶ジュースでもプレゼントしておこう。そのくらいなら受け取ってくれるだろうし。
「はぁはぁ、遂にやってきたよぉ……!」
テレビや漫画で見たことのある駅前に立って。
御庄寺は早速、鼻息を荒くしていた。
「もしかして、多恵も初めて?」
「さすがの弊社でもそうそう来られないよぉ。ゾノはこういうの、そこまで興味ないし」
「ふうん」
待て、オタク適性は俺>柿園という判定か。
……うん、悔しいが正解だな。
翔子になって以降は体育会系のはずだが、前世の知識だけでも十分だろう。
「どこから回る?」
「適当に端から歩いてきゃいいんじゃね?」
じゃあそれで。
というわけで、駅前からアキバの街を歩いていく。小六女子が来るにはディープな所だが、裏道に入ったりしなければ人目も多く危険はほぼない。
看板や広告にピンク色が多いのだけは注意しつつ。
適当な店(もちろん全年齢向けのところだ)に入って漫画やラノベを物色してみたり。さすがアキバ、品揃えはピカイチで、御庄寺だけでなく俺や柿園も目を輝かせた。気になったのを端から買ったらお金がいくらあっても足りなさそうである。
ここは節約すべき。
翔子になって以来、俺はお小遣いやお年玉を極力貯金している。女子向けのアイテムに興味がないのもあるが、本当に欲しいものが買えなくなる辛さを味わいたくないからだ。
――だから一冊だけ。
費用と「読むのにかかる時間」の比率をコスパとするなら、漫画よりラノベを買うべき。
となれば、いずれレーベルと絵師が変わって絶版になるこの作品か。いやでも、後書き芸でおなじみのこいつも短編集という意味で優秀な気が。待て、こっちにはとある未来の人気ラノベのグッズ付き限定版が! 丁寧にとっておけば後で高く売れるのでは!
「つるみん」
ぽん、と肩に置かれ、振り返れば御庄寺がいい笑顔をしていた。
気づくと俺の手には何冊もの本が。
「ようこそ」
「………」
俺は物凄く迷った末、最初の誓い通り一冊に絞った。
御庄寺からは罵られるかと思いきや「さすが、わかってる」という顔をされた。
「本番はここからだから、軍資金は残しておかないとねぇ」
「え、そこ?」
本は十分見たような。いや、次はゲームか? まさか自作PC?
と思ったら、御庄寺がうきうきと突撃したのはよりオタク向けのショップ。扱っているのはアンソロジー系のコミックやマイナーレーベルのラノベ、それから同人誌。
「さつき、逃げ」
「逃がさないよぉ」
ぬるん、と、伸びてきた腕が俺達をがしっと掴んだ。
「翔子。あちしたち、気づくのが遅かったみたいだぜ」
まあ、さすがに18禁コーナーには連れていかれなかったが。
漫画は漫画だから大丈夫、と引っ張られたBLコーナーはさすがに独特の雰囲気だった。
俺としては場違い感が甚だしい。
買い物に来ていた年上のお姉様方からは「将来有望」とばかりに見られるし、良くわかってない柿園は案外ダメージが少ないのか本を手に取って見ているし。
「つるみんも物色しよ?」
「いや、遠慮して……ん?」
そういえば、年代的にBLの主流はアレとかコレなのか。
ふと目についた本を見て立ち止まる。話としては聞いたことがあるけど、この辺が全盛期の頃は殆ど知らない。え、あいつとこいつの組み合わせ? それはまた斬新な。っていうか全年齢のBL作品って何するんだ? キス? 男同士で?
気になるような、気にならないような。
「つるみん、一冊くらいなら気の迷いで済ませられるよぉ」
「……か、買わない!」
結局、気の迷いは生まれた。
薄い癖に高い本は宝物として大事にしようと思う。具体的には、読まない時は奥の方にしまって見つからないように。
気づけば結構お腹が空いていたので、良さげな喫茶店に入る。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
メイド喫茶だけど。
可愛らしいメイドさんに出迎えられた俺はつい胸を高鳴らせてしまう。また、柿園は柿園で物珍しそうに店内を見回し、御庄寺は「ほわぁ……」と目を輝かせる。
「ねえゾノ、つるみん。写真撮影とか頼んじゃおっかあ」
「小学生女子のすることじゃなくね?」
「気にしたら負けだと思うよぉ」
まあ、生のメイドなんてこんな機会じゃないと見られないだろうけど。
さすがに写真撮影は止めにして軽食を頼んだ。
メイドさんも小学生女子の客が珍しいのか、楽しげにケチャップアートやパンケーキのトッピングを行ってくれた。更には「どんな作品が好きなの?」と会話まで始まる始末である。アキバでメイドさんをする女子だ、オタクでない方が珍しい。
――正直、楽しかった。
料理の味は普通、値段を考えるとかなり割高だけど。
通い詰める男の気持ちもわかってしまう。女子は女子で可愛いものが好きなら十分に楽しめるだろう。
接客を担当してくれたメイドさんにしても「可愛い服が着たい」が最初の動機だったそうだし。
「興味あったら将来、着てみてね」
「いや、さすがに恥ずかしいです……」
そんな機会はできるだけ避けたい、と切実に思った。
食事の後はちょっと歩いて神田明神にお参りした。
聖地巡礼を先取りしつつお守りを購入。ラノベや同人誌は躊躇するのにこういうのは買ってしまうあたり、俺も脇が甘いと思う。
「巫女さんもいいよねえ」
「バイト代は安いらしいな」
「夢も何もないな!」
馬鹿な話を肴に来た道を戻り、シメにゲームセンターへ入った。
格ゲーで一回ずつ対戦して俺が勝利。クレーンゲームでは柿園がぬいぐるみをゲットし、ホッケーでは御庄寺が何故か鬼のような強さを発揮した。
そうこうしているうちにいい時間に。
ゲーマーっぽい男が店内に増えだしたところで、御庄寺が最後に、と、とあるモノを指差した。
「あれをやって帰ろっかぁ」
「マジか」
つい言ってしまうほどの衝撃。
「あれは女子がキャーキャー言いながらやるものじゃ」
「あちし達も女子だけどな」
あっさり言って、柿園はそれ――プリクラの機械へと歩いていく。
まさかの裏切りである。
「さつきは抵抗ないのか?」
「まさか。あちしだって得意じゃないっての」
だけど、と彼女は続けて。
ゆっくり歩く御庄寺と、立ち止まったままの俺を笑顔で振り返った。
「お前らとならそういうのも悪くないだろ」
「……それは」
反則だろう。
何も言えなくなった俺は渋々、歩を進めると目隠しをくぐって中に入った。
言ってしまえば証明写真のデカイ奴みたいなもの。
三人で入ってもスペースのあるそこで身を寄せ合い、財布からそれぞれにコインを投入。程なく起動し、案内の画像と音声が表示された。
「ど、どうすれば」
「落ち着け翔子。書いてあるだろ」
「ここをこうするっぽいよぉ」
表示に従い、おぼつかない手つきで操作。
すると『三秒後に撮影します』といきなり表示されたから大慌て。
「はい、チーズだよお!」
「え、いきなり言われてもどうすれば」
「いいから笑っとけ!」
カシャ、という音の後、表示された写真の中で――俺は、ぎこちないながらも笑っていた。
思わず自分と見つめ合ってしまう。
鏡の中で毎日見る顔。これが自分になって十年以上。もはや慣れ親しんだ顔だが、こいつは最近、本当に生き生きしている。
ここまで楽をしすぎていたくらいだろう。
何故か泣きそうになるのを堪え、もう一度笑顔を作る。
と、柿園に言われた。
「翔子。その顔、そのままにしとけよ」
「え」
取り直しのカウントダウンが始まっていた。
「慌て損かよ!」
カシャ。
……憤慨した顔はさすがにどうかということで一枚目の方が採択され――出てきた写真シールの三分の一が俺の手に渡された。
初めての経験である。
記憶にある限り、女子達は筆箱やら鞄やらキーホルダーやら色々なものに貼っていたはず。自分の映った写真を私物に貼りまくるとか正気だろうか。
けど、まあ。
せっかく撮ったのだから貼ってもいいかな、と、思った。
☆ ☆ ☆
「なあ、翔子」
「……ん?」
「お前の靴やったの、多分、祥だろ」
帰りの電車内。
さすがに疲れてうとうとしていたところに、柿園の声。
少し間を置いてから返答した。
「多分」
向こうも言葉を選んだのか、ガタゴトという音の間を縫うようにして。
「いいのか?」
「本人が『やってない』って言ってるから」
証拠があれば別だが、そんなもの、そうそう見つかるはずもない。
聞き込みしようにも夏休みだし、俺の信用度的に協力してくれる生徒がどれだけいるかわからない。
犯人捜しをするのは不毛だ。
「……いいのか?」
「いいよ」
報復だのなんだのは諦める。
七夕さんのところには夏休み初日に行って頭を下げてきた。せっかく買ってもらった靴を台無しにした俺を、七夕さんは怒るどころか抱きしめてくれた。
涸れ果てたはずの涙が溢れてきて、わんわん泣いた結果、昴と葵にまでもらい泣きさせてしまった。
――また買ってあげる、という申し出は丁重に断った。
駄目になってから買ってもらえばいい、というのは間違いだ。
同じものを買ってもらったとしても、あの靴が戻ってくるわけじゃない。
一つきりだから、元通りにならないからこそ尊くて大事なのだ。
だから、新しいスニーカーは自分で買うことにした。
昴と葵にも買い物に付き合ってもらうことになっている。また財布から金が逃げるが、これは必要な出費だから問題ない。
そっか、と、柿園はぽつりと言って。
「ま、なんかあったら言えよ」
「うん」
俺は笑って答え、すやすや眠っている御庄寺の頭をそっと撫でた。
「ありがとう。二人とも、一日中付き合ってくれて」
「ばーか」
温かくも軽い返答が胸に染み渡った。