ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「もう無理! 休ませて!」
我慢できなくなって声を上げた時には、腰がガクガクしていた。
全く、二人とも意地悪すぎる。
駄目って言ってるのに「もう一回」って何度も何度もせがんできて、しかも激しいのが大好き、中に入れないと気が済まないときてるから始末に悪い。
――いや、うん、もちろんバスケの話なんだけど。
ふらふらとコートから抜け出した私は、荷物置き場にした一角に息も絶え絶えに座り込んだ。
全身に汗をかき、息を荒くしながらも元気いっぱいの葵と昴は、いち早くギブアップした私を「しょうがないなあ」という風に見る。
「なんだ、もう脱落か」
「だらしないなあ。女バス辞めてからなまってるんじゃない?」
「二人の性能が上がりすぎなんだよ……」
なんで一年間も部活してないのに、大幅にスペック上がってるのか。
特に葵。
二年からマネージャーに専念するか迷いました、っていう話が「嘘でしょ?」としか思えないほどパワフルかつアグレッシブだ。
二人共戦闘民族すぎて、もうちょっと一般人を労わって欲しい。
「仕方ない。じゃあ一対一だな葵」
「そう言いながら嬉しそうだけど? 負けてから後悔しないことね」
……仲いいなあ。
葵と昴はじゃれ合うように言葉を交わし、持てるテクニックを駆使して相手を屈服させようと挑み始めた。
なんか、さっきまでより動きが良く見えるのは気のせいか。
交わる恋人達を微笑ましく見守りながら、私は呟く。
「あっという間の一年だったなあ」
三月の末。
もう何日かすると私たちは進級して二年生になる。
思い返してみると、本当にあっという間の一年だった。
待ちに待った全国大会。
愛莉ちゃんたち慧心女バスは地区予選一回戦にて硯谷女学園に敗退した。
一方、硯谷は地区予選で優勝。
二回戦以降は怜那ちゃんを使わず、それでも決勝の相手に大差をつけて勝利。
悔しくなかったと言えば嘘になるだろう。
私だって、みんなの頑張りと無慈悲な結果にこみ上げるものはあった。みんなだってそうだったと思う。でも、やりきった故の晴れやかな笑顔もそこにはあった。
あの戦いが、みんなの雄姿がもたらしたものは幾つもあった。
一つは、さつきと多恵がバスケへの復帰を決めたこと。
慧心vs硯谷を見て思うところがあったらしい。
深いところでは決まっているはずなのに、ギリギリまで悩んだり弱音を吐いて、それでも、一度逃げ出した東高女バスの門を再び叩いた。
入部を許可する代わりに言い渡された試練はなかなかに厳しいようで、日々、ラインで愚痴が飛んでくる。
その割に楽しそうじゃない? と、見るたびに思う。
もう一つは、怜那ちゃんの変化。
彼女は後日、雅美ちゃんのお家に謝りに来てくれたらしい。デコがない以外、あの日のすずらん祭りと同じ五目いなりを完食して帰っていったそうだ。
全国大会で解禁された彼女のプレーは更に磨きがかかり、仲間との協調を覚えたことで一段も二段も厄介になった。
映像で見たその暴れっぷりはもはや「何このチートキャラ」としか言いようがなかった。
そして、硯谷はなんと、全国でそのまま優勝した。
あの子たちそこまで強かったんだというか、慧心との戦いで更にレベルアップしたのが窺えて恐ろしいというか、ライバルが勝ってくれて誇らしいというか、感想は一言では言い表せない。
ただ、
今回の大会において硯谷と一番いい勝負をしたのは、間違いなく慧心だった。
――事実上の決勝戦。
なんて言ってもいいんじゃないかと、個人的には思っている。
七芝高校では、上原が生徒会副会長に就任した。
所信表明演説で「男子バスケットボール部の復活」を掲げた彼は、昴や香椎くんのために尽力してくれている。普段は飄々としているのにこういうところは絶対に外さない。そういうところは格好いいと思う。
あれで、もうちょっと真面目に女の子に告白できれば、違うと思うんだけど。
男バスといえば、部にコーチが来るらしい。
なんと若い高校生……ではなく、お爺ちゃん。昴や銀河さんいわく「そんな可愛いもんじゃない」そうだけど、いったいどんな人なのか、怖いような楽しみなような。
私は復活する男バスにマネージャーとして参加することにしている。
葵も一緒だ。
ただし、葵の方は女バス――選手と兼任。女バスの練習がある時はそっちに参加してもらって、主に備品の買い出しとか整備なんかを担当してもらうことになる。
マネージャーは私がいるから無理にやらなくてもいいんだけど、そこは譲れないらしい。
『翔子なら安心だけど、でも、昴のサポートは私がしたい』
そのくせ、選手としても昴に負けられないっていうんだから、葵も相当な意地っ張りだ。
なら、荻山葵のことは私が精一杯サポートする。
昴には手が出せない方向から葵の負担を減らしてあげることが、きっと私の役割なんだと思う。
「なに黄昏てんの」
「つめたっ」
頬に当てられた缶の冷たさで思考が引き戻される。
いつの間にか葵たちの勝負も一段落したようで、二人がドリンク片手に戻ってきていた。
「この時期に冷たいのって」
「だって身体熱いんだもん。翔子のは、はい、こっち」
あったかいお茶を渡してくれる。
ありがたい。お金は後で払うことにして、私は缶のプルタブを起こした。
一口二口飲んで息を吐いていると、昴が、それから葵も私の方を見てくる。
「? なに?」
「いや。やっぱり女バスに入ればいいのに、と思って」
「もう言わないでおこうとは思ってるんだけど、つい、ね」
「ああ」
苦笑して頷く。
「いいんだよ。選手としてはもう十分、楽しんだから」
葵の女バス入部の裏には七芝の正センター、島崎先輩の働きがあった。
事あるごとに勧誘を続けていたらしく、そのことも葵が決心する一因になったはずだ。
そして、先輩から勧誘されたのは葵だけじゃない。
『桐原の名コンビの復活を私は見たい』
なんて、甘い誘惑が私にも来た。
でも、断った。
あまりにもきっぱり断ったので、島崎先輩はそれ以来何も言ってこない。代わりに「私と付き合わないか」とか言ってくるけど、それはまあ、いいとして。
私はちょっと、やりたいことが多すぎる。
料理の勉強ももっとしたいし、裁縫とかも覚えたいし、あらためて将棋に向き合ってみてもいいかなとも思うし、日舞にもちょっと興味がある。バスケだけに専念してしまうと時間が足りなさすぎる。
昴がはあ、と息を吐いて。
「よくわからん奴だよなー、お前」
「そう?」
割とわかりやすいつもりでいるんだけど。
「ああ。妙に割り切りがいいうえ、変に頑固だろ。そういうところは会った時から変わってないよな」
「変わってない、なんて久しぶりに言われたかも」
昂たちと出会った頃。
前世の記憶を引きずって、男でいたいと嘆いていた私。それでいてだんだんと、女でいるしかないのだと諦めかけていた私。
前向きになれたのは、昴たちのお陰だ。
「懐かしいね」
目を細めると、葵が首を傾げた。
「私はてっきり、思い出話のために集まったんだと思ったけど」
「そういう意図もなくはなかったけどね」
今回の集まりは、珍しく私の発案だった。
――小さい頃よく行っていた公園。
私たちが出会った場所を指定して、三人でバスケをしないかと誘った。
今しかできないと思ったからだ。
これからは三人とも、交わっているようで微妙に別の生活を過ごすことになるから。
昴はつい先日、慧心女バスのコーチを任期満了した。
後任は美星姐さん。猛特訓の末にバスケを覚えた彼女が、これからは名実共に顧問として部を引っ張っていくことになる。
ちょっと他人事なのは、三学期から参加率を減らしていたからだ。
だんだん出席の頻度を落とし、最後の一週間はまるまる昴に任せていた。私はあくまでサブ、お手伝いであって、節目の時は昴とみんなで迎えて欲しかったからだ。
なんて。
「昴。コーチとして格好良く絞められた?」
「な。なんだよそれ。俺がヘマすると思ってたのか?」
「あはは。そういうわけじゃないけど」
笑って答えると、昴も笑顔を浮かべる。
「みんな前を向いてる。お前も、また会いに行ってやれよ」
「もちろん」
私は比較的、暇だし。
美星姐さんからも言われているのだ。
『別に、たまには顔だしてもいーんだぞ。中等部の方は厳しいかもしんないけど』
愛莉ちゃんたち六年生は中等部に移るけど、つばひーたち五年生は初等部に残る。
五年生組――新六年生組のコーチだった私にはまだ、あそこに顔を出す大義名分が残っている。なので、いつでも遊びに行けるからこそ、昴にいいところを譲ったのだ。
みんなの連絡先は知ってるし。
たまにはお休みの日に一緒にお出かけできたらな、とも思っている。
なので、私としてはまだまだ寂しくなんてない。
次の一年もあっという間だろうなあ、と思っていると、昴と葵がまたもじーっと見つめてくる。
「ん?」
「いや。あんた、どっか行ったりしないわよね?」
首を傾げると、葵が変なことを言う。
「転校の予定はないし、死ぬ予定もないけど?」
「ならいいんだが。たまに仙人みたいな顔するからな、お前」
「どんな顔、それ」
前世含めても人生に疲れるほど生きてないのに。
「まだ彼氏も作ってないのに死ねません」
頬を膨らませて言う。
と、葵が目を見開いて、
「彼氏?」
「……う、見栄張りました。彼女です。彼女が欲しいです」
「彼女……って、翔子、そっちの趣味だったのか?」
「「今更!?」」
まさか気づいてなかったとは、昴、恐るべし。
香椎くんでも察してくれてるんじゃないかと思うけど……今度聞いてみよう。
「まあ。色々節目の時期だから感傷的になってるんだよ」
「ああ。まあ、そうだよな」
昴がどこか遠くを見る。
智花ちゃんのことを考えているのかもしれない。
少し前、あの子から相談を受けた。
『昴さんと距離を置こうと思うんです』
葵と昴が付き合い始めてからも、智花ちゃんは昴の家に通っていた。
子供が気にすることじゃない、というのが大義名分だったわけだけど――中学入学を期に、葵への礼儀を示すことにしたのだという。
それは翻って、『女』になるという意思表示でもある。
きっと昴は気づかないだろうけど、智花ちゃんは子供でいることを止める決意をしたのだ。
もう、昴にもその話は伝わっているはず。
美星姐さんに送り迎えしてもらうわけにはいかなくなる、とでも言えば納得しないわけにはいかず、昴は一種の寂しさを抱いているはずだ。
会おうと思えばいつでも会える。
会えるけど、葵との交際を続けていくのであれば、二人の距離はきっと徐々に離れていくはずだ。
みんな、だんだん大人になっていく。
私も、格好いい大人になりたい。
美星姐さんみたいな。聖さんみたいな。愛莉ちゃんたちのご両親みたいな。
「私はどこにもいかないよ」
少なくとも今のところは。
将来的な話をしたら、まあ、急に留学したくなったりするかもしれないし。海外にホームステイして金髪美少女と仲良くなる、なんて展開がないとは言い切れないけど。
「昴と葵の結婚式でスピーチしないといけないし」
「け、けけけ……結婚って! なに言ってんのよいきなり!?」
「そ、そうだぞ。そんなのまだ先の話だろ」
「えー。どっちの友人代表で式に出るか楽しみにしてるのに」
多分、葵の方だけど。
昴の友人代表は上原でも香椎くんでもいいしね。でも、葵と一番親しいのは私でありたい。
「だから、二人の幼馴染でいさせてくれる?」
私の問いかけに、二人は一瞬硬直した。
硬直してから、何言ってんだこいつ? という顔になって、両側から私の頬を引っ張ってきた。
「何言ってんだ」
「もし、あんたが嫌だって言ったってどうにもならないわよ、今更」
「そっか。それは、良かった」
それなら、私はこれからも頑張れる。
「じゃあ、これからもよろしくね。昴、葵」
「ああ、こちらこそ」
「あんたには色々迷惑かけそうだけど、よろしく頼むわ」
すぐ傍に座って。
自販機で買ったドリンクを片手に、私たちは笑いあった。
昔のまま、とはいかないけど。
叶うなら、ずっとずっと遠い未来まで歩んでいきたい。
選手としては活動しなくても、私がバスケを大好きなのは変わらない。
だからきっと、これからも、バスケが私たちを繋いでいってくれる。
ひとりでは手が届かないところまで。
今話にて完結に変更させて頂こうと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ここからはまだ書いていないエンディング等々を順次投稿してまいります。