ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「今回は本気だ。俺と付き合ってくれ、鶴見」
上原に告白されたのは、二年に進級して一か月が過ぎた頃だった。
生徒会に入ってから、ずっと頑張ってた。
女子からの人気も上がっている。告白なんかも受けてたはずだけど、聞けば、断ったらしい。
私のために。
言葉がどこまで本心かはわからない。
でも、彼の真剣な表情を見る限り、いつもの軽いノリではないのはわかった。
「はい。私で良ければ、喜んで」
だから私は、彼の彼女になった。
――そして、三か月後。
私は、相談があると言ってファミレスへ葵を呼び出した。
「最近、一成くんの気持ちが離れてる気がするの」
☆ ☆ ☆
「何でだよ。仲良かっただろお前ら」
「ああ。仲はいいよ。いいんだけどよ……」
ファーストフード店の二階席の隅で、親友――上原一成が溜め息を吐くのを、長谷川昴は胡乱気に見つめた。
「浮気はよくないぞ、一成」
「違えよ!」
「じゃあなんだ。翔子はお前にもったいないくらいの子だろ」
「それだよ」
「だからどれのことだ。はっきり言ってくれなきゃわからん」
既に半分以上平らげてしまったバーガーを見つめ、昴は首を傾げた。
話は長くなりそうだ。
食べるペースを間違えたか。いや、冷めると美味しくないのも事実。ここはさっさと食べきってポテトで場を繋ぎつつ、足りなくなったら「相談料」として一成にたかるのがベストか。
そんな、どうでもいいことを考えているのがバレたのか、一成はジト目になって言ってくる。
「……重いんだよ」
その声も、どこか重々しい。
なるほど。
昴は深く頷くと、深い溜め息を吐いた。
「特殊なプレイの話ならカラオケとかの方が良かっただろ。あと、女の子を重いとかお前最低だぞ」
「だから違えよ! わざとやってないかお前!?」
「そう言われてもな」
肩を竦める。
そもそも、こういう相談に自分は適任なのか。葵との交際が順調なため、恋愛の経験値もそれなりに積ませてもらっているが、鈍いのは変わっていない。
まあ、他に相談できそうな相手を思い浮かべてみたら散々な結果だったが。
一成と一定以上親しく、恋愛相談にきちんと乗ってくれそうな相手というと、当の鶴見翔子が筆頭だ。次点で葵だが、彼女はよほどのことがない限り翔子の味方をするだろう。
「で?」
話の先を促すと、一成はひとつ頷いて話し始めた。
「聞いてくれればわかる。なんていうかさ、あいつは重すぎるんだよ」
☆ ☆ ☆
「愛情が足りてない、ってことはないと思うよ」
「じゃあ、何がいけないのかな?」
私は心底から困っていた。
初めてできた彼氏。私に男の子が愛せるか心配だったけど、いざ付き合い始めてみると楽しくて嬉しくて、毎日が輝いて見えた。
なのに、
「翔子。一成とどんな付き合い方してるの?」
「どんなって、普通だよ?」
パフェをつつきつつ、私は思い返すように宙へ視線を巡らせる。
「一成くんのお弁当を作ったり、ラインで話したり、電話で話したり、デートしたり、一緒に勉強したり」
「……普通ね」
「でしょ?」
葵と昴だって似たような感じだろう。
「他に好きな子ができたんなら言ってくれればいいのに」
「そしたら別れるの?」
「最終的にはそうするしかないよ。気持ちが離れてるのに、無理に付き合ってもいいことないし」
もちろん、ちゃんと話してくれないと私も納得できないけど。
そんなにひどい彼女だったつもりはないから。
微笑んで言うと、葵は切なそうに私を見つめてくれる。こんな風に、この子と恋の話ができるなんて思ってもみなかったけど、いいなあ、こういうの。
でも。
「一成くんのお母さんには悪いことしちゃうなあ……」
「ん?」
「一成くんの好みに合わせた服、どうすればいいかな。売るのは悪い気がするけど、捨てちゃうのは勿体ないし……」
「んん?」
「専用のレシピ集も残念だなあ。時間かかったから捨てたくないけど、そういうの、昔の彼女が持ってるのってきっと嫌だよね?」
「ダウト」
突然、葵が私を制止した。
なんでだろう? 私、何か変なこと言ったかな?
「ねえ翔子。……ちょっと、一成のために努力したこと、一つずつ挙げてみて?」
「なんで?」
「いいから」
そんなの、普通だと思うんだけど。
「一成くんの好みの女の子をリサーチして、清楚系の服とか下着とか集めたでしょ?
身長差が目立たないように靴は平たいのしか履かないようにして、仕草とか喋り方を微調整して。もちろん食べ物の好みも研究して、好みの味付けをレシピに残してる。
いざとなったら一緒に東大目指せるように勉強もしてるし、あ、たまに生徒会のお手伝いもしてるよ。来年一緒にやろうって話になるかもしれないし。
でもそのくらい……ああ、お母さんにもご挨拶して、彼の昔のアルバムとかも見せてもらったっけ。いつでもお嫁に来なさいって歓迎され――」
「落ち着きなさい」
「へ?」
☆ ☆ ☆
「へえ。凄いな翔子。いい彼女だな、良かったな一成。いやー羨ましい」
「おい長谷川、お前まさかそれ本気で言って……言ってやがるなこの野郎。お前が翔子と付き合えばよかったんじゃねーか。いや、まさか荻山もそのタイプなのか?」
「いや、葵は恥ずかしがって色々できないタイプだ。だけどまあ、翔子みたいな子もいるだろ」
実の母親を思い浮かべつつ昴は言った。
母・七夕は今なお夫と熱愛中であり、今後、昴が大学進学か就職の際に一人暮らしでも始めようものなら、それはますます加速しかねない。
十六にもなって弟か妹ができるとか、割とありそうなレベルだ。
「あー、お前のお袋さんってそういやそうだったか……じゃあ、ひょっとして普通なのか? いや、そんなわけないだろ……?」
「疲れるって、あれか。翔子に干渉されすぎってことか」
「そうだよ」
その結論に至るのにどれだけ時間がかかったか。
とでもそう言いたげに一成が昴を睨んだ。
☆ ☆ ☆
気がつくと葵が真顔だった。
じっと見つめられた後、駄目だこの子本気だ、とでも言いたげに溜め息をつかれる。
「あーもう、普段はしっかりしてる癖に、自分のことになると正気を失うんだから。……いやまあ、私も人のこと言えないし、翔子がいなかったら今頃どうなってるかわかんないけど」
「あ、あの、葵?」
「いいから。自分の行動がどれくらい行き過ぎてるか、第三者の視点から考えてみなさい」
えーっと、私の一成くんへの行動を?
今更そんなことしても無……あれ、えっと、え、えーっと……あ、え、あー、うわあ。
第三者の視点から、と言われたので、なるべく冷静に――前世の頃の価値観、あるいは付き合う前の私の価値観を思い出してよくよく考えてみると、ときめいていた胸があっという間に静まって、顔が青ざめていく。
「あれ、もしかして私の愛……重すぎ?」
「そうよ」
気づいてしまえば「なんで気づかなかったのか」っていうレベル。
でも、私は本気で気づいてなかった。
「……恋は盲目、って本当なんだねえ」
「盲目っていうか猪突猛進って感じよね、あんたの場合」
「言えてるかも」
恋愛が楽しくなってからの私は猛牛みたいなものだったのだろう。
真正面しか見えてなくて、そこに突撃することしか考えてない。突進力も突破力もあるけど、端から見てどうか、なんてことは全く頭になかった。
「なんで、って、そんなの決まってるわよね」
「うん。幸せだったから」
一成くんと付き合って、私は、本当の意味での女の喜びを知った。
愛されること。
誰かに必要とされて、誰かのために一心不乱に尽くすことがあんなに幸せだなんて、そうなってみるまでは本当の意味でわかってなかった。
――もちろん、自立した女性を否定するわけじゃないんだけど。
私の場合は恋が必要な女だったってことだ。
男の自我がある状態から女の身体を得て、じわじわと女の子を知って、恋によって完全に染まった私が「そう」なのは当然かもしれない。
好きな人にはなんでもしてあげたい。
好きな人のためなら癖も、性格も、好みさえも変えていける。そうすることが幸せだという価値観があるのだということを、私は知ってしまった。
ただ、問題は、その奉仕が独りよがりになってしまっていた、ってこと。
「……迷惑だったよね」
「ん……まあ、心から迷惑だったってわけじゃないと思うよ、一成も」
葵は言いづらそうに言う。
「翔子はただ行き過ぎちゃっただけ。嬉しいけど、そう。ありがた迷惑、みたいな?」
「駄目なやつだね、それ」
私は自嘲気味に笑うしかなかった。
「直せる?」
「どうかな……。反省はするけど、多分、根っこの部分は変わらないと思う。気づいたら同じことになっちゃうかも」
「そっか」
にっこりと微笑んで、葵は頷いた。
「なら、相性の問題かもね。翔子には同じような愛情深いタイプか、もしくはあんまり深いこと考えない、ぼけーっとした奴の方が向いてるのかも」
「じゃあ、別れた方がいい?」
「それは、二人で決めることでしょ。後は一成がどうしたいか、それ次第よ」
☆ ☆ ☆
「俺がどうしたいか?」
「ああ。結局そこだろ。問題は」
昴は端的に要点を告げた。
ぐだぐだ言ってもしょうがない。別れるか別れないか、それがはっきりしないことにはどうしようもない。
「冷たくないか、長谷川」
「いや、だって翔子は悪くないだろ。ただ完璧すぎただけで」
「そりゃそうだけどよ」
不満そうにこぼす一成。
彼はしばし、ポテトを一本ずつ咀嚼し続けていたが、やがてぽつりと言った。
「……別れたくない。あいつには、俺の都合のいい時だけ世話を焼いて欲しい、ってのは我が儘か」
「我が儘だな」
「はっきりいいやがったな、てめえ」
「だってそうだろ。そんなこと、俺が葵に言ったら張り倒されるぞ」
恋人同士とは本来対等なものである。
翔子は典型的な尽くすタイプだが、だからといって彼女の存在が軽いわけではない。恋人同士だからて、本当に「もの」扱いすることは許されてはならない。
人にはそれぞれ意思があり、人格があるのだから。
「というか、お前はあいつに何かしてやったのか?」
「……飯代くらいはたまに奢ったが」
「そういうのじゃない。わかって言ってるだろ」
今度こそ、一成は沈黙した。
昴はポテトをつまみながらじっくりと待った。
バスケと違い、恋に明確な制限時間はない。
一成はなおも迷うような素振りを見せながら、顔を上げた。
「あいつと話してみる。もうちょっと穏便にならないかって」
「ああ。それがいいんじゃないか」
話し合いの結果どうなるのか。
翔子の方が不満をぶつけて決裂、なんて可能性もあるし、よりを戻す可能性だってある。
葵とだって手探り状態の昴には、一般論なんてわかるわけがない。
願わくば、二人が納得して結論を出せますように。
☆ ☆ ☆
「あ、ライン」
「一成から?」
「うん。会って話したい、って」
素っ気ないメッセージ。
それでも、見ただけで胸が弾んでしまうあたり、好きなんだなって思う。
「良かったね。ちゃんと、とことん話してきなさい」
「うん、そうする。……ありがとう、葵」
笑顔を向けると、葵は照れたように笑う。
「いいわよ。いつも話聞いてもらってばっかりだし。たまには逆もいいでしょ?」
「うん」
でも、今度何かお礼をしよう。
何がいいかな。
消えものの方が気軽に受け取ってもらえるだろうし、カロリー控えめのお菓子とかかな。
と、私が密かに考えていると、ふと、葵が思い出したように言った。
「なんにせよ、無理するのは止めなさい」
「ん?」
葵の目に浮かんでいるのは慈愛の色。
「一成と――男と付き合うって聞いて、正直ほっとしたけど、あんたはあんたでいいんだから。普通とか普通じゃないとか気にしなくていい。できないことはできないって言って、自分の幸せ探しなさい」
「……葵」
瞳に涙が浮かんでくる。
――ずるいよ、葵。
そんな優しいこと言われたら、また、葵のこと好きになっちゃいそう。
でも。
「うん。後悔しないように話をしてくる」
私は、私の恋を見つけたい。そう思った。