ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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エンディングというか羽多野先生ルート。
原作温泉短編がけっこうボリュームあるので一話に収まりませんでした。


ending11.羽多野冬子(前編)

「翔子ちゃん。私の両親に会って欲しいの」

「えっ」

 

 十二月後半。

 愛莉ちゃんたちとの練習を終え、着替えを済ませた私に奇襲(さりげなく後ろから肩をホールド)したのは、慧心初等部の養護教諭こと羽多野冬子先生だった。

 二人っきりでお泊まり会をしたりして、「冬子先生」と呼ぶ程度には仲良くなった彼女だけど、保健室以外のところで会うのは珍しい。

 子供たちにやったらびっくりしますからね、身長が合わないからできないわ、そうですけどそうじゃなくて……みたいな会話を繰り広げた後、何かあったのかと尋ねてみると、冬子先生が口にしたのはなんとも意外なお願いだった。

 

「えっと、それって交際の報告みたいな……?」

 

 この手の冗談が通じる人なので、笑ってそう言ってみると、

 

「くすくす。ええ、その通りよ」

「へ」

「えっ……!?」

「な、なんだってー!」

 

 更衣室を出たばかりのところだったので、愛莉ちゃんたちも一緒にいる。

 子供たちの前でそういう冗談を続けるとは、と固まる私だったけど、それ以上に驚いた子が何人か。

 本当か〇〇、って続きそうな声を上げた真帆ちゃんは「面白いことを見つけた」という顔だったけど、もう一人、愛莉ちゃんの方はこの世の終わりみたいな顔になっている。いや、そこまで大袈裟にしなくても。

 私は冬子先生から身を離しつつ、苦笑する。

 

「ほら、みんな驚いてますから、本当のことを言ってください」

「いいえ、本気なの。本気で両親に会って欲しいの」

「……はい?」

 

 あくまでネタのつもりだった私は、マジなやつらしい冬子先生の申し出に、今度こそ完全にフリーズした。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「良くやった翔子。そのまま既成事実を作って来い。いや、いっそ戻ってくるな」

「美星姐さん、それ見送りとして問題ありますから」

 

 駅まで見送りに来てくれた美星姐さんは、なんだか本気で嬉しそうだった。

 

「……これでも、ちょっと身の危険を感じてるんですよ?」

「別にお前ならご褒美だろ」

「いや、そっちじゃなくて」

 

 それはまあ、冬子先生とお付き合いすること自体は確かにご褒美なんだけど。冬子先生()()が問題と言いますか。

 一番の当事者である先生は私の傍に立ってくすくす笑っている。

 冬子先生はいつもの白衣ではなくお洒落な外出着。でもって私の方はというと、なんと着物を纏っている。

 この格好の方が何かと都合がいい、ということだ。遠出するのはさすがに疲れそうだけど、そこまで遠方ではないというので了承した。

 その分、荷物の多くは冬子先生に持ってもらっている。

 

 美星姐さんはけらけら笑って、

 

「まーお前らならなんとかなるだろ。女バスの方は昴に任せて、しっかり女将修行してこい」

「いや、それはさすがにどうなんでしょう……?」

 

 挨拶は、まったくもってしまらないままに終わった。

 愛車に乗って帰っていく美星姐さんを見送ると、私は小さく息を吐いて冬子先生を振り返る。

 

「それじゃあ、行きましょうか。冬子せんせ……いえ、冬子さん」

「ええ。行きましょう、翔子ちゃん」

 

 私たちは連れ立って駅舎へと歩いていく。

 向かうは県内某所、冬子さんの実家である()()()()だ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 とある温泉旅館の一人娘。

 そんな、冬子さんの家庭の事情を聞くのは今回が初めてだった。

 

 当然、一人娘となれば旅館の後を継ぐのが本来なんだけど、冬子さんにはやりたいことがあった。

 それは、もちろん養護教諭。

 動機が不純なのはアレだけど実務能力は極めて優秀だし、今まで問題になっていない以上、子供たちとはきっちり一線を引いている。

 

 ただ、親御さんの方も痺れを切らしたのか、無理やりお見合いをセッティングされてしまった。

 

 ――実家でのお見合い。

 

 家、および故郷が総出で来る中、孤立無援では抵抗しきれない。

 そこで冬子さんは考えた。

 何か、断るだけの理由を作って、それを両親に認めさせれば、お見合い、更には旅館を継ぐ話を無かったことにできるのではないか。

 

 そこで、私に白羽の矢が立った。

 

 お付き合いしている人がいる。

 お見合いを断るには十分な理由だ。そいつと別れて見合いしろ、とは、さすがになかなか言いづらい。

 

 本当は、相手は昴でも良かったらしい。

 ただ、彼は葵と交際しているため、お芝居に協力してもらうのは気が引ける。

 ならいっそ同性愛者だと言ってしまえば両親も本気で諦めるだろう。美星姐さんに頼んで了承してくれるはずがないので、私以外いない、と、そういう話だ。

 

 もちろん、私にも断る権利はあったんだけど。

 断る理由がそこまであるかといえば、そうでもなくて。

 

『えっと、あくまでお芝居なんですよね?』

『そうよ。……まあ、私としてはお芝居でなくても構わないけれど』

 

 冬子さんは美人な女性だ。

 冬子さんはロリコン兼ショタコンで、私はレズ。性癖は違うけど、重なっている部分もある。成人男性と成人女性どっちがいいかといえば後者なのは事実らしい。

 私としても、本気でお付き合いができるなら否はない。

 前に迫られた時は急すぎたし、冬子さんの本気を信じ切れなかったから困ったけど……自分から退路を断ってきた彼女を前に拒否できるほど、私は大人じゃなかった。

 

「でも、着物はやりすぎなんじゃないでしょうか……」

 

 駅弁を買って特急に乗り込んだ私たち。

 電車に揺られながら呟くと、隣に座った冬子さんはくすくすと笑う。

 

「温泉旅館だもの。その格好の方が絶対、気に入ってもらえるわ」

「それは、確かに」

 

 昔ながらの旅館ほど和の心を残しているものだ。

 温泉旅館といえばやっぱり和服。働いている人からしたら猶更だろう。一般女子に比べたら作法を身につけている私なので、せっかくの武器を使わない手はない。

 今時珍しい良いお嬢さんだ、と思われれば、多少は話もしやすくなる。

 

「……でも、いきなりご挨拶って胃が痛いです」

「巻き込んでしまってごめんないね」

 

 と、冬子さんはそこで笑みを止めて。

 

「もし、両親に納得してもらえたら――その後の責任を取る覚悟はあるわ」

「冬子さん」

「もちろん、翔子ちゃんさえ良ければ、だけど」

 

 私たちは互いに顔を向け合い、見つめ合う。

 冬子さんがすぐ近くにいる。

 こんな関係を、これからもずっと、続けていける?

 

「精一杯頑張ります。ご両親との話し合いが上手くいくように」

 

 冬子さんにとっては実のご両親だ。

 できるなら、喧嘩別れみたいな形じゃなくて――きちんと納得して欲しい。

 

「ありがとう、翔子ちゃん」

 

 冬子さんは私に、さっきまでとは違う優しい微笑みを向けてくれた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 駅弁を食べたり、雑談をしたり、『小学校・小学生ワード限定しりとり』で時間を潰したり(最後のは当然、冬子さん発案だ)しているうちに目的の駅に着いた。

 時刻はお昼過ぎ。

 ホームへ降りると、いかにも地方の駅といった感じの静かな、趣のある佇まいを見ることができた。

 フェンス越しに外の景色を見渡してみても、自然の匂いを残した古い町並みが広がっている。さすがに木造の建物は少ないけれど、ビルなんかは見えない。観光地でありつつも、ガチガチに商売っ気を出してる感じでもない、といったところか。

 

「迎えが来ているはずだから、行きましょう」

「はい」

 

 駅舎を出ると、すぐ近くに一台のバスが停まっていた。

 『旅館・羽多野』。

 なるほど、苗字がそのまま旅館の名前らしい。バスからは白髪を短く刈った男性が降りてきて、冬子さんと挨拶を交わす。

 旧知の仲らしい。本当に旅館のお嬢様なんだな、と、今更ながらに実感。

 

「遠藤さん。こちらが鶴見翔子さん。私の恋人よ」

「初めまして、鶴見翔子と申します。今回は突然、ご挨拶に伺うことになり、申し訳ございません」

 

 遠藤さんと呼ばれた男性は私を見て目を丸くした。

 

「これはご丁寧に。……話には聞いていましたが、いやはや、本当にこんなお嬢さんが。しかも着物でいらっしゃるとは思いませんだ」

 

 してやったり。

 そんな表情で、冬子さんが一瞬笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「せっかくの見合いを断ったかと思えば、若い女を連れて帰ってくるとは。冬子、どういう了見だ」

 

 こわい。

 冬子さんのお父さんは、身長こそ私より低いくらいだったけど、和服を纏った恰幅のいい身体には十分過ぎる威厳があった。

 流石は旅館の大旦那様という感じだ。

 

「ご挨拶ね。娘が選んだ恋人に向かって、そんな口の利き方をするなんて。この旅館も質が落ちたんじゃない?」

 

 冬子さんの方も負けてはいない。

 娘だけあって慣れているのか、平然とした態度で言い返している。

 ああ、なるほど、顔を合わせる度にこんな感じなんだろうなあ、というのが伝わってくる。

 

「あなたも冬子も、それくらいにしてください。彼女が困っているでしょう」

 

 仲裁してくれた女将――冬子さんのお母さんは姿勢正しく、所作の整った、いかにも旅館の女といった感じの人だった。

 夫と娘が口を閉じたところで、彼女は私ににっこり微笑みかけてくれる。

 

「お初にお目にかかります。鶴見翔子と申します」

 

 頃合いだと感じた私は名乗りから始め、短い自己紹介を済ませる。

 お母様(と便宜上呼ぶことにする)は穏やかに聞いてくれ、お父様の方も仏頂面ながら最後まできちんと聞いてくれた。

 私が女なのがいい方に作用したのかもしれない。

 ここで下手に男の子が来ていたら、お父様も罵声を浴びせて叩きだしに来ていたかも。

 

 話し終えると、お父様は軽く息を吐いた。

 

「……鶴見、ね」

「? はい、そうですが……?」

「母親は女流棋士と言ったな。なら、鶴見瑞穂女流棋士の娘さんか」

「母を、ご存じなのですか?」

 

 確かに、自己紹介の中で伝えたけど。

 まさか苗字だけでフルネームが出てくるとは思わなかった。

 

「ああ。一度、うちで対局をしたことがある。その時に挨拶をしたから覚えている」

「……そうでしたか」

 

 妙な縁があったものだ。

 お父様と同様に息を吐きたい気分になりつつ、私は頷いた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 棋士と温泉旅館は割と縁が多い。

 広い畳の部屋があって宿泊も可能なため、対局にちょうどいいのだ。タイトル戦なんかになると名だたる名旅館が使われることも珍しくない。

 女流棋士の娘と温泉旅館の経営者。

 

 僅かに場が和んだような気がしたところで、挨拶の場は解散となった。

 

『一応、営業中だから』

 

 本格的な話は後で、ということになったのだ。

 ならばと、私はお手伝いを申し出た。今日の予約は私たち以外おらず、飛び込みのお客さんがいなければ大した仕事はないらしいが、それでも通常業務はあるはずだからだ。

 無理しなくてもいい、という冬子さんの声に笑顔で答え、仲居さん用の着物に着替えた。

 

 とはいえ、素人に大した仕事ができるわけもない。

 

 廊下の雑巾がけをして、年配の方ばかりで難儀しているという薪割をお手伝いして、あれをこっちをそれをあっちへと荷物の移動を担った。

 いやはや、殆ど力仕事だ。

 薪割り以外は普通に仲居さんの仕事なんだから、旅館の授業員がいかに大変かわかるというもの。バスケで鍛えてなかったら半日でへばっていただろう。

 

 いや、私も気合を入れすぎたせいで割とへとへとだけど。

 

 お仕事の後は露天風呂でさっぱりさせてもらってから夕食になる。

 せっかくだからと、お父様にお母様、冬子さん、揃って食べることになった。久しぶりの家族勢ぞろいだけど、冬子さんは面倒臭そうな顔。

 それはそうだろう。この流れで揃って食事なんて、込み入った話をするに決まってる。

 

 私はお客様用の浴衣、冬子さんはさっぱりした私服で、それぞれ適度に緊張しながら席についた。

 背筋をぴんと伸ばして視線を料理に向けて、

 

「わあ……!」

 

 私は緊張も忘れ、素直な歓声を上げた。

 いわゆる会席料理。手間の関係だろう、一品ずつの提供ではなくずらりと並べられているけれど、これはこれで目を楽しませる効果があって良いと思う。

 いちいち上げ下げされると落ち着かないし、温泉旅館ではこの方がお客さんにゆっくりしてもらえる。

 

 揚げ物なんかはできたてなのか、温かいのが見るだけでわかる。

 飾り包丁や添え物にも工夫が凝らされていて楽しいし、それ以上に勉強になる。

 

「和食がお好きなのかしら?」

「はい。食べるのも、作る方も好んでおります」

「まあ」

 

 お母様が興味深そうに微笑む。

 かしこまった話し方はしなくていいというので、以降はもう少し崩させてもらうことに。

 

「お料理もお好きなのね?」

「はい。父も母も忙しいので、我が家の食事は殆ど私が担当しています。母が和食好きなので、作る機会も多いんです」

「なるほど。十六歳だったかしら。若いのに感心だわ」

「いえ。人並み程度ですので、自慢できるようなものでは」

 

 そんな風にして、序盤の会話は続けられた。

 もっぱら話すのは私とお母様だったけど、合間を見てお父様が口を挟んでくる。

 

「君は、旅館の仕事に興味があるのか?」

「お父さん。私は養護教諭を辞めるつもりはないわ。彼女はそういうつもりで連れてきたんじゃないから」

「黙っていろ。俺は彼女に聞いているんだ」

 

 冬子さんはむっとしつつ、私に視線を送ってくる。

 適当に受け流せということだろう。

 でも、嘘を答えるのもなんとなく気が引けた。

 

「正直に言えば、あります」

「翔子ちゃん……!?」

「仲居さんのお仕事も、厨房も、やりがいのあるお仕事だと思います。……もちろん、単なる興味の段階ですが」

 

 教師にメイドさん、スポーツのインストラクター、料理人。

 これまでに興味を持ってきた職業と同じ程度には、面白そうだと感じている。

 

「ふむ。……棋士の道を目指す気はないのか?」

「残念ながら、私に将棋の才能はないので。着物を着られるお仕事なので、憧れはあるんですが」

「ほう」

 

 お父様の表情が緩み、何かを思案するような形に変わる。

 

 うん。

 言ってることは私の気持ちそのままなんだけど、少々言い方的に売り込みすぎかもしれない。

 その証拠に、冬子さんの表情は困ったものになっている。

 

 そんな中、お父様は口を開いて。

 

「よしわかった。鶴見翔子さん。高校を卒業したらうちに働きに来なさい。仲居か厨房かは適性を見てからになるが、ある程度希望は聞こう」

「お父さん!?」

 

 悲鳴を上げる冬子さん。

 思った以上の好感触に、私もぽかんと口を開けてしまった。

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