ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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オリキャラ(原作キャラ同士の子供)×オリ主という暴挙。


ending13.長谷川紫

「おはようございます、先生。これからよろしくお願いしますっ」

 

 午前九時過ぎ。

 一人暮らしをしているマンションにやってきた彼女は、少し見ない間に一段と可愛くなっていた。

 

 母親譲りのポニーテールに、父親似の優しい顔立ち。

 背も伸びて、百六十センチ弱くらいになっている。ここから伸びる子もいるけど、父親同様、もうちょっと背が欲しい病にかかってるのかも。

 体型の方は年相応以上。今度高一になるとは思えないスタイルだ。まあ、ここは父方母方どっちからも優秀な遺伝子がもらえるので、さもありなん。

 

 ――総合的に見ると、昴似でも葵似でもなく、七夕さん似な気がする。

 

 そんな彼女の名前は、長谷川(ゆかり)

 昴と葵の一人娘にして、両親譲りのバスケ馬鹿。そして、小学校の教員をしている私の昔の教え子でもある。

 

 私は苦笑気味に微笑むと、彼女を家の中に招く。

 

「もう先生じゃないよ。……どうぞ、狭い部屋だけど」

「はいっ」

 

 紫ちゃんはぺこりと一礼し、あらためて言った。

 

「では、失礼します。……翔子さんっ」

 

 三月。

 慧心中等部の卒業式が終わって数日後、私は数か月ぶりに紫ちゃんと再会した。

 

 彼女は、今日からここに住むことになっている。

 それは他ならぬ紫ちゃんの希望だった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 葵と昴が結婚したのは大学一年の時。

 昔ながらの言い方をするなら「できちゃった婚」というやつだ。二人の仲がいいのはみんなよく知ってたので、()()()()()()()()()()()()()()()というのがわかっていても「まあ、そういうこともあるよね」くらいの反応だった。

 お互いの両親でさえ「もうちょっと我慢できなかったのか」という怒り方で、つまりまあ、結婚自体は誰からも反対されなかった。

 

 生まれた子は女の子。

 名前は「紫」ちゃんと名付けられた。

 そのせいで「光源氏」とあだ名を付けられつつも、昴は妻と娘を溺愛し、大学卒業後はしっかり頑張って家族を養い続けている。

 紫ちゃんが初等部から慧心に通えていることが、何不自由ない暮らしの証拠だ。

 

 私も紫ちゃんのことは良く知ってる。

 自分では経験ないけど、小学校の教員をしているお陰で子育ての情報は色々入ってくる。それを提供したりして、葵からは随分感謝された。自分では経験ないけど。

 病院関係者や親族を除けば、私が彼女を抱っこした第一号だし、数か月から半年に一回は長谷川家に遊びに行ってるので会う機会も多かった。

 一緒に遊んだり、お菓子や玩具をプレゼントしたり、葵や昴の昔の話を披露したり、買い物に付き合ったり、遊園地に連れて行ってあげたこともある。両親が上手すぎるからとバスケの勝負を挑まれたことも。

 

 ……で、まあ、そのせいなんだろうか。

 

 私は紫ちゃんから妙に懐かれている。

 なんというか――そう、七芝高校への進学が決まった後「翔子さんのところから通学したい!」と言い出すくらいには好感度が高い。

 

 いや、ちょっと好感度高すぎじゃないかな……?

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「わあ、綺麗……!」

「一人暮らしだから物がないだけだよ」

 

 プラス、紫ちゃんが来ると聞いて一生懸命掃除したお陰だ。

 女子力のためにお洒落な部屋を保ってはいるんだけど、気心の知れた友人以外誰も来ないと思うとついつい手を抜いちゃうので、いい機会ではあった。

 お洒落なソファにお洒落なテーブル、食器棚には可愛いお皿やグラスが並び、さりげなく置かれた花瓶にはイミテーションの花なんか飾ってあったり。

 

「紫ちゃんの部屋はこっちね」

 

 空いていた部屋の一つを、当人および両親の希望に沿って整えてある。

 ベッドに勉強机、本棚にクローゼット。

 全体的なデザインは大学生が使っても違和感ない感じの大人びたものだ。

 それを見た紫ちゃんは歓声を上げる。

 

「ここ、私が使っていいんですか……!?」

「もちろん。お金は昴達から貰ってるから、遠慮しないでね。むしろ、使い慣れた家具じゃなくて本当に良いの?」

「はい、花嫁修業の一環なので」

「なるほど」

 

 頷く私。

 確かに恋愛、結婚ともなれば、慣れないベッドで寝る機会は沢山出てくる。そういう時の備えは必要かもしれない。

 それにしても、紫ちゃんの夢見るような表情は、

 

「好きな男の子、いるんだ?」

 

 紫ちゃんも大きくなったんだなあ。

 昴や銀河さんはもちろん、香椎くんや夏陽くんなど、格好いい男の子を何人も見てる彼女だ。恋する相手もさぞかし格好いいに――。

 

「いませんよ?」

「あれ?」

 

 首を傾げれば、紫ちゃんはくすっと笑って、

 

「将来のための備えです。それと……一緒にいれば悪い虫もつきませんし」

「え、なんて?」

「なんでもないですっ」

 

 にこっと笑う紫ちゃん。

 そう言うならなんでもないんだろう。難聴系主人公になった覚えはないし。

 私が一緒なら変な男には近づけないから、後半の言葉はそういう意味なんだろう。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

『紫ちゃんを預かって欲しい?』

『うん。あの子がどうしてもって言ってて。お願いできない?』

『私は構わないけど……』

 

 葵から話を聞いた時はちょっと驚いた。

 進学を機に親戚や知人に預けるっていうのはまあ、割とある話だけど、紫ちゃんの場合はあっても大学進学時かなって思ってた。

 何しろ、進学するのは七芝高校だ。

 葵・昴夫妻は長谷川家で二世帯同居中。あの家から七芝なら通うのは余裕だ。何しろ昴が三年間、実証しているんだから。

 でも、

 

『紫がね、大学に向けて、一人暮らしの練習しておきたいんだって』

『ああ、なるほど』

 

 その気持ちはわかる。

 母親である葵はもちろんだけど、まだまだ若々しい七夕さんが過不足なく、どころか過剰なくらいお世話してくれるからだ。

 物凄く快適だけど、あそこにいたら花嫁修業なんかする気にならない。嫁姑の仲が悪い家庭というのも想像できないだろう。やろうと思えば七夕さんが手取り足取り教えてくれるだろうけど、昴があの環境に慣れちゃってる上、七夕さんも孫を息子以上に溺愛しちゃってるから難しい。

 

『うちならそっちよりは近いし、家事の練習もできるね』

『でしょ?』

 

 今のマンションに住み始めたのは大学進学の時。

 ある程度、都会に出やすいようにと中途半端な場所を選んだお陰(?)で、七芝高校からはほど近い。まあその分、職場である慧心から微妙に遠いんだけど。

 教師って割と激務なので、帰りが遅くなることもある。自分でも料理を覚えないと私の帰りを飢えて待つか、結構な割合で出来合いのものを食べさせられることになる。

 いや、残業してからでも料理くらいできるけど、敢えて甘やかしすぎない方が紫ちゃんの目的には合いそうだ。

 

『でも、いいの? 私だよ?』

 

 独身で、家事全般得意で、子供好き。

 どうして結婚できないの? と言われることもしばしばある私だけど、その理由は今更言うまでもなく、性癖のせいである。

 その一点だけで他の利点を打ち消すくらいアレだろう。

 

『しょうがないでしょ。紫があんたのとこがいいって言い張るんだから』

『いや、余計駄目でしょ』

『いや、あんた、うちの娘に手を出す気?』

『そりゃ、それこそ娘くらい歳が違うけど……。自慢じゃないけど、その気になればいくらでも手を出せるよ?』

 

 入れて出す必要はないんだから、年齢は問題になりにくい。

 出会った頃のひなたちゃんくらい幼いと母性本能しか湧いてこないけど、紫ちゃんは今度高校生だし。

 やっぱりやめておいた方がいいと思うんだけど、

 

『……いいわよ、別に』

『葵、正気?』

『あの子が懐いてるの、あんただってわかってるでしょ? 下手に駄目って言ったら家出しかねない』

 

 うちに来たらすぐ葵に連絡するけど、そういう問題でもないんだろう。

 家出するほど本気だということと、一度そういう問題が起きてしまえば「親子の仲が拗れた」という事実が生まれてしまう。

 喧嘩した親と仲良しの他人。

 天秤にかけられる程度の間柄になってしまいかねない。

 

『それに、あんたなら紫を不幸にはしないから』

『もし、本当にそうなっても、長続きするかはわからないよ?』

『それはわかってるわよ。……それでも、いい思い出になるでしょ?』

『そう、かもね』

 

 いい思い出。

 完全に吹っ切れてたら、とっくに結婚できてたような気もするけど。

 

『……わかった。どういう形にしても、大事にするから』

『うん、お願い』

 

 こうして私は紫ちゃんを受け入れることにした。

 もちろん、葵の懸念なんてそうそう当たらないだろうとは思っていた。懐いてくれてるって言ったって、気前のいいお姉さん(おばさんじゃないと主張したい)としてだろうと。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「しょ、翔子さん。一緒にお風呂、入りませんか?」

 

 ……うん、駄目かも。

 十時過ぎに運ばれてきた紫ちゃんの荷物を一緒に整理して、簡単な料理でお昼を食べて、整理の続きをして、私の生活リズムを紫ちゃんに口頭で伝えたり、紫ちゃんが七芝での抱負を聞いたりしているうちに夕方になった。

 お風呂を沸かした私は「先に入っていいよ」と伝えたんだけど……。

 

 ほんのり頬を染めた紫ちゃんはちょっとわくわくしている。

 どうしたものか。

 女同士だし、歳も離れてるわけだから、交流のためのスキンシップと思えば別におかしくない。過剰反応する方がまずいとも言えるけど、本気なら釘を刺しておいた方がいい気もする。

 

 とりあえずジャブを打ってみようか。

 

「いいよ。じゃあ、紫ちゃんがどれくらい大人になったか、見せてもらっちゃおうかな」

 

 一緒にお風呂に入った経験は殆どない。

 長谷川家に遊びに行って銀河さんに酔い潰され、泊っていく代わりに紫ちゃんのお世話をした時に一回。家族ぐるみの旅行にくっついていった時に一回。

 旅行も年単位で昔なので、今はもう恥ずかしがってもおかしくないけど、

 

「……はい。私、もう高校生ですから」

「む」

 

 右ストレートで返された!

 そう言われれば、こっちが拒否するのもおかしな話なので、一緒に洗面所兼脱衣所へ入る。あんまり恥ずかしがっても仕方ないだろうと服を脱いでいると、紫ちゃんはゆっくり脱衣しながら私の身体をちらちら見てくる。

 

「あんまり他人様にお見せするようなものでもないんだけど」

 

 つい苦笑してしまう。

 私ももう三十四。全盛期は過ぎたと言ってよく、大事に磨き、育ててきた美と健康を少しでも長続きさせる段階に入っている。

 教え子からは先生綺麗とか言われるけど、お母さん達との歳の差がじわじわ縮まっているのを痛感する今日この頃だ。

 

「そんなことないですっ。その、お母さんより綺麗です」

「そんなこと言うとお母さんに怒られるよ」

 

 ついでに私からもデコピンか何かしたい気分。

 私より葵の方が綺麗に決まってるのに、紫ちゃんは見る目がないんじゃないか……なんて、大切な娘さんにデコピンなんてしないけど。

 

「私は、どうですか……?」

「うん。可愛い。すっかり女の子らしくなったね」

 

 完全に大人になりきっていない、独特の愛らしさ。

 女子高生にプレミアがあるのもわかる、なんて、おじさん臭いことを思ってしまう。

 

「あ、ありがとうございますっ。えへへ」

 

 可愛い。

 じゃなくて、平常心平常心。

 裸になって浴室に入ったら、もう一発ジャブをかましてみる。

 

「お嬢様。お背中お流ししましょうか?」

「そ、そんな、悪いですっ」

 

 お。効果あり。

 ここで引いてくれるなら、そういうのじゃないと踏んでいいと――。

 

「でも、お願いしても……いいですか?」

「……かしこまりました」

 

 駄目だ。

 こうなれば実力行使だと、手のひらで伸ばしたボディソープで全身を洗ってあげる。もちろん、柔肌を無駄にいじめたりはしないけど、スポンジも使わず手で洗われるとか恥ずかしいはずだ。

 実際、終わる頃には紫ちゃんは真っ赤な顔になっていた。

 

 よし、勝っ――。

 

「ありがとうございます。……じゃあ、私にもお背中流させてください」

「う、うん」

 

 葵、この子、どういう育て方したの?

 

 美容に対する意識はあまりなかったのか、紫ちゃんはたどたどしい手つきでボディソープを伸ばしてくれる。

 背中を向けた私は彼女の顔が見えなくなる。

 これが目的だったとしたら策士としか言いようがないけど、

 

「あの、翔子さん」

「なあに?」

「私、言いましたよね。好きな男の子はいないって」

「うん」

 

 声が響きやすい浴室での会話は独特の雰囲気がある。

 このお風呂を他の人が使うなんて、この間、祥と一晩飲み明かした時以来だろうか。

 紫ちゃんを預かる話をしたら「頑張りなさいよ」って笑って、ここに置きっぱなしだった下着とか歯ブラシとかを回収していった。

 

「あれ、嘘じゃありません。好きな()()()()いないんです」

「え、と」

 

 難聴系主人公になりたい。

 

「言ってる意味、わかりますか?」

 

 ナルコレプシーでもいいんだけど……駄目か。

 

「応援するよ」

「……しないでください」

 

 耳元で囁いた紫ちゃんの声は、どこかむっとしていた。

 

 ――同性婚の法律が施行されたのは、今から三年ほど前のことである。

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