ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
目が覚めたら身体が小さくなっていた。
「……いや、意味がわからない」
クローゼットの鏡で確かめた姿は小学校高学年くらいのもの。
ただし、髪は当時の私よりも大分長い。パジャマもピンク色だ。サイズが合ってるので、某名探偵みたいに急に縮んだわけではないだろう。
戸を閉めれば、取っ手にハンガーで吊るされた制服が目に入るんだけど、
「どう見ても慧心のだよね……」
お嬢様学校っていう感じの可愛いそれは見間違いようもない。
この時点でタイムスリップの線も消えた。
カレンダーを見れば、西暦も和暦も去年のものが記されている。
どういうことなのか。
四、五年前の年号ならまだわかるんだけど、こうなると、
「もう一回転生した……?」
それも、昨日までいた世界と似ているようで違う世界に。
そんな馬鹿なと言いたい。
でも、それ以外に思いつかない。
私は制服を持って部屋を出ると、母さんを見つけて尋ねた。
「お母さん。これ、私の制服?」
母さんは「何言ってるのこの子は?」みたいな顔をして答えた。
「そうよ。……なに、翔子。変な夢でも見たの?」
夢。
夢かあ。
だとしたら、いったいどれが夢なのやら。
☆ ☆ ☆
お母さん作の微妙に焦げた玉子焼きとウインナーで白いご飯を頬張って、家を出る。
初めて着る制服だけど、着方は問題なくわかった。
何気に小学校の制服は初めてだ。
スカートを毎日穿いて登校していたのだとすると、この私は女子であることに抵抗がなかったのだろう。偉い。当時の私なら間違いなく癇癪を起こしている。
生徒手帳によると、今の私は五年生だった。
時間割も確認済み。
今日は体育があるようだったので、体操着袋も忘れずに持った。
「翔子もしっかりしてきたわね」
なんて母さんに言われたけど、小学生はこれで三度目、女子小学生でさえ二度目なのだから当然だ。
「行ってきます」
登校径路は最寄りのバス停からバスを乗り継ぎらしい。
鞄に定期が入っていたし、慧心には幾度となく通っていたので、迷うこともない。
――問題は。
私以外のみんながどうなっているかだ。
最初の人生に慧心学園は存在しなかった。なら、ここが二度目の人生ベースなのは間違いないんだろうけど、昴と葵は中三なのか、それとも私と同じで小学生なのか。
とりあえず、スマホの電話帳に二人の名前はなかった。
そう、スマホ。
小学生にスマホとかブルジョワな、と言いたいところだけど、真帆ちゃんのところや智花ちゃんのところ程じゃないにせようちもお金持ちだ。年代がズレたせいで、小学生の私は既にスマホを所持するに至っているらしい。
と、話が逸れた。
昴達とは繋がりがないとすると、別方向の疑問。
一年前。
そして、今の私は五年生。
「……もしかするかなあ」
そして、慧心学園前でバスを降りてすぐ、私は予感の的中を知ることになった。
「おはよう、鶴見さん」
「――っ」
涼やかな声にびくっとする。
振り返れば、いかにも優等生といった雰囲気をした眼鏡の少女が一人。私の記憶より多少幼い感じはあるけど、間違いない。
「おはよう、長塚さん」
長塚――紗季ちゃん。
なんともいきなりの登場である。心の準備ができていなかったら声を上げて驚いていたかもしれない。
「宿題、ちゃんとやってきた?」
「う、うん。たぶん」
私が笑みを返せば、紗季ちゃんもまた微笑んで――そのまま並んで歩き出す。
どうやら挨拶だけして終わりではないらしい。
宿題がやってあるかどうかなんて今の私が知る由もないんだけど、そこは大丈夫だろう。多分。
そのまま他愛もない話を続けていると、背後から駆けてくる足音。
「おっはよー、サキ、翔子」
「噂をすれば、宿題やってなさそうなのが来た」
「シツレイだなー! ちゃんとやったし! 終わらせないとやんばるがうるさいんだもん!」
「あはは……おはよう、三沢さん」
金髪ツインテールの美少女。
真帆ちゃんは、私の挨拶を聞いてむっと頬を膨らませた。
「なにそのタニンギョーギな言い方! いつもみたいに真帆って呼んで!」
「あ、ごめん。真帆ちゃん」
「ん、よし! 許す!」
紗季ちゃんは「長塚さん」だけど、真帆ちゃんは「真帆」か。覚えた。
やっぱり紗季ちゃんと真帆ちゃんは仲がいいようで、挨拶を終えると早速口喧嘩を再開した。
久井奈さんに言われなくてもやりなさい、なんていう紗季ちゃんのお小言に真帆ちゃんが顔を顰めているのを見ていると、「ああ、いつも通りだ」となんだかほっとした。
適度に私も相槌を打ちつつ、校舎内へ。
上履きに履き替えて階段を上がる。そういえば教室まで行くのは初めてだけど、さすが慧心。校舎の中まで綺麗だ。
「さて、みーたん来るまで何しよっかなー」
「その前に宿題を見せなさい、真帆。ちゃんと全部やってあるんでしょうね? 手を抜いたら意味ないわよ?」
言いながら、二人は私と同じ教室に入る。
どうやら同じクラスらしい。
――と、いうことは。
私の予想通り、クラスには他のみんな、愛莉ちゃんに智花ちゃん、ひなたちゃん、そして夏陽くんもいた。
そして担任は美星姐さん。
これはまた、数奇なめぐりあわせもあったものである。
☆ ☆ ☆
美星姐さんから勉強を教わる、という奇妙な感覚にムズムズしているうちに半日が過ぎた。
久しぶりの給食(公立より明らかにお金がかかってる感じで美味しかった)を味わったら、体操着を持って体育館へ移動する。
午後の授業は体育。
私は、年甲斐もなくわくわくしていた。
美星姐さんから急遽、こんなお達しがあったからだ。
「午後の体育は予定を変更してバスケをやります」
「え、みーたん。この前まで跳び箱だったよね?」
「気が変わった。たまにはいーだろ」
クラスからはえー、という声も上がったものの、跳び箱よりはマシという声が大勢を占めた。
もちろん私としては凄く嬉しい。
――でも、この流れ、なんか覚えがあるような……?
うーん、と首を傾げつつ着替えをしていると、視界の端に見慣れた姿が映る。
更衣室の隅。
目立つのを嫌うかのように静かに着替えをしているのは、智花ちゃんと愛莉ちゃんだった。私が仲良くなった頃の彼女達からは信じられないけど、この頃はまだ「いつもの五人」が形成されていないようで、誰も違和感を持っていない様子。
転校生の智花ちゃんは最初、なかなかクラスに馴染めなかったらしい。
愛莉ちゃんは孤立してはいなかったはずだけど、身長でからかわれるのがトラウマになっていた。嫌そうに着替えをしているのはそのせいだろう。
放っておくのは、なんとなく気が引ける。
「じゃー、適当にグループ作ってボールいじってみてー」
準備運動からのごくごく簡単な説明(ドリブルとか、チェストパスとか)が終わると、あっさりとそう宣言される。チャンスかもしれない。
「香椎さん。湊さん。一緒にやらない?」
私は何気ない風を装って二人に声をかける。
いい感じに後方――できるだけ目だたない位置に揃っていてくれたので、話しかけるのも楽だった。
「う、うん」
「じゃあ……」
おずおずと頷く愛莉ちゃんに、どうでもよさそうな智花ちゃん。
ボールを一つ取ってから隅の方に移動すると、二人ともほっとしたような顔をする。うん、騒ぐつもりはないから安心して欲しい。
――ああ、この感じ、久しぶり。
いや、主観だと数日前にバスケしてるんだけど。
本当に転生だとすれば十年ちょっと、殆どバスケに触れずにいたわけで、その感覚が流れ込み始めているのかもしれない。
とりあえず、軽くボールを突いて感触を確かめてみる。
覚えている自分と身体のサイズが違いすぎて変な感じだけど、思ったよりは身体が動く。うん、と頷いて、私は愛莉ちゃんにパスを出した。
「行くよー、香椎さん」
「わ……っ」
ボールを胸の前で構えてから、一拍以上の間を置いて放つ。
全然力を入れてない、届けばいいというパスだったので、声をかけられてから構えた愛莉ちゃんにもちゃんと受け取ってもらえた。
「あ、と、取れた……えへへ」
「香椎さん、上手上手」
「あ、ありがとう。じゃあ、次は私かな……っ?」
「じゃあ、湊さんに出してあげて」
「うんっ」
愛莉ちゃんの出した見様見真似のたどたどしいパスを、智花ちゃんは当然、危なげなく受け取る。
「………」
彼女はボールを手にしたまましばらく何かを考えるようにして、それから私を見た。
チェストパスが飛んでくる。
「わ」
速い。
鋭いという程ではない。記憶の中と比較すれば練習時のそれより軽いけど、未経験者にはちょっと酷かもしれないパス。
さっきのアレだけで経験者ってバレた……?
さすが智花ちゃん。特に隠すつもりがなかったとはいえ、彼女と同世代のプレーヤーにされるのはすごく恐ろしい。
まあ、でも、
「香椎さん、もう一回行くよ」
これで少しは楽しんでくれるといいんだけど。
☆ ☆ ☆
「なんだと、もういっぺん言ってみろ!」
「だからー、あたしがナツヒに負けるわけないじゃん!」
パス回しが楽しかったせいだろうか。
私が気づいた時には二人の喧嘩はかなりヒートアップしていた。他でもない、真帆ちゃんと夏陽くんである。
傍にいる紗季ちゃんは困り顔だけど、周りにはそれぞれ女子と男子が数人いて険悪なムードを作っている。
「馬鹿か! 俺がお前に、バスケで負けるわけないだろうが!」
「やってみなくちゃわかんないじゃん!」
なるほど。
真帆ちゃんはなんでもすぐに吸収してしまう天才肌。そのくせ、バスケに出会うまでは打ち込めるものがなかったと聞いている。
バスケ一筋の夏陽くんに心無いことを(無邪気に)言って怒らせたってところだろう。
これはまた、大変なことに。
紗季ちゃんが静観しているように、外野が何か言って収まるようなものじゃない。今の私は年上でもなければ、特別親しいわけでもない、ただのクラスメートだ。
止められるとしたら担任の美星姐さんだけど……。
彼女は、どういうわけかじっと何かを待っていた。
「なら証明しろよ。お前が俺よりシュート上手いって」
「いーよ、勝負しよ!」
美星姐さんの目がギラりと輝いたのはこの時だった。
「面白そうじゃない。なら、男女対抗戦にしよう。その方が燃えるでしょ?」
「はあ!?」
「ん? どうしたの翔子? 何かある?」
「いや、そんなことしたら余計喧嘩になるんじゃ……」
後半、小声になりつつ言うと、姐さんはにやりと笑って私に囁いた。
「こういうのは満足するまでやらせた方がいいの」
先生がやるにはアグレッシブすぎる選択じゃないですか……?
ともあれ、姐さんの提案は男子女子に揃って受け入れられた。この年頃の子供って対立したがるものだもんね……。もうちょっと大きくなってくると恋愛が絡むので、男子と喧嘩したくないなんていう子も増えるんだけど。
美星姐さんはうんうんと頷き、今度は智花ちゃんに囁いている。
「本気、出していいよ」
思い出した。
これ、あれだ。真帆ちゃんと智花ちゃんが仲良くなった一件。美星姐さんから聞いた覚えがある。
なら、止めない方がいい……のかな。
私は大まかな方針を決めると、智花ちゃんに言った。
「湊さん、行こ」
「……え」
目を見開く智花ちゃんの手を引き、真帆ちゃんの方に歩いていく。
「真帆ちゃん。私達も出たいんだけど、いい?」
「もち、いーに決まってるじゃん!」
嬉しそうに頷く真帆ちゃんをよそに、紗季ちゃんと夏陽くんが揃って驚いた顔をしていたけど、この際、それは仕方がなかった。
☆ ☆ ☆
試合開始。
ジャンプボールは私が買って出た。向こうは唯一のバスケ部員である夏陽くん。身長では負けてるけど、こっちには長年のセンター経験がある。
「なに……!?」
「湊さん!」
狙い通りボールをタッチした私は、智花ちゃんに声をかける。
飛んできたボールをキャッチした智花ちゃんは、刹那、瞳に炎を宿した。
「っ!」
嵐が、吹き荒れた。
夏陽くんの対処が遅れたのが致命的。他の四人に智花ちゃんが止められるはずもなく、目にもとまらぬ速さで女子チームが先取。
歓声が起こり、夏陽くんが目を見開く。
男子の攻撃。こっちのメンバーも体育に強い子が集まっているものの、私と智花ちゃん以外は初心者。夏陽くんを中心に攻め込まれるも――ゴール下で私がパスカット。
「嘘だろ、湊もお前も、どうなってんだよ……!?」
うん、私がチートなのは認めるけど、智花ちゃんは素なんだよね。
私のパスから智花ちゃんが更に得点。
その後も、流れは変わらなかった。
「鶴見さん! ちょうだい!」
「うんっ!」
独壇場と言っていい。
湊智花という才能は圧倒的だった。本来なら、夏陽くんがもっと拮抗してくれたのかもしれないけど……私がちょっとサポートしてあげるだけで、あの子は誰にも止められない暴風と化した。
結果は女子の圧勝。
大喜びする女子達の中で、ひときわ歓声を上げたのは、真帆ちゃんだった。
「すごい! かっけー!」
自分が夏陽くんを叩きのめせなかったのも忘れ、私達に駆け寄ってくる彼女。
ああ、やっぱり良い子だな。
この惨状をどう言い訳したものかと考えながら、私は真帆ちゃんに笑顔を返した。
これ、一周回ってただの転生オリ主なのでは……? と書いてから気づきました。