ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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ending??.三度目は小学生(後編)

「じ、実は前からバスケ興味持ってて、こっそり練習してたんだ」

「マジで!? なんだよー水くさいなー、そういうのはあたしも誘ってよー」

 

 ちょろい。

 と、思わず言いたくなるくらい、真帆ちゃんは私の言い訳をあっさりと信じてくれた。

 

 ――まあ、他に言いようがないんだけど。

 

 記憶が戻る前の私がバスケに触れていたとは思えない。

 となると、空き時間にできる程度の経験――初心者よりはマシ程度の立ち位置だと認識してもらうしかない。相手が他でもない真帆ちゃんだ。短期間であんな動きができるようになるか、なんて、彼女にだけは言われたくない。

 あのフィジカルと吸収力がどれだけ羨ましいか、わかってない。

 

「じゃあじゃあ、そっちは!? えーっと、智花だっけ?」

「あ、ええ……と、その……」

 

 代わりに詰め寄られた智花ちゃんがしどろもどろに答えるのをよそに、私はそっと安堵の溜め息をついた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 と、思ったら。

 

「あの……鶴見、さん」

 

 放課後。

 美星姐さんが教室から出て行ってすぐ、私に声をかけてきた子がいた。

 所作から和の雰囲気を感じるショートヘアの美少女――智花ちゃんだ。

 私はにっこり笑って答える。

 

「どうしたの、湊さん?」

「……話があるんだけど、いい?」

「う、うん」

 

 なんだろう。

 三沢さんもだけどウザいから話しかけないで、とかそういうんじゃないとは思うけど……。

 

「ありがとう」

 

 言って、智花ちゃんは早速歩き出す。

 慌てて荷物を持ち、後を追うと――少し離れたところから真帆ちゃんの悲鳴が聞こえた。

 

「あー! 翔子に智花を取られた―!」

「うるさい馬鹿真帆。用事でもあったんでしょ」

 

 ありがとう紗季ちゃん。紗季ちゃんにはこれからも頭が上がらない気がする。

 

 廊下に出た智花ちゃんは人気のない方向に進んでいく。

 どこに行くのか尋ねると、彼女は急にぴたりと止まった。二人で話せるところに行きたかったけど、転校生なので特にアテがないらしい。

 

「じゃあ、中庭はどうかな?」

 

 走り回るほど広くはないので、騒がしさはあまりない。

 放課後になってすぐだからか、それとも利用者自体が少ないのか、中庭には殆ど人気がなかった。

 据え付けられたベンチの一つに並んで座って、一息つく。

 

「話って、何?」

「……うん」

 

 こくりと頷いた智花ちゃんが、深呼吸をする。

 言いにくいことなのか。

 バスケの最中は人が変わったようになるけど、普段は大人しい彼女がこうなるということは、

 

「バスケのこと、なんだけど」

「……うん」

「三沢さんに言ってたことって、嘘、だよね?」

 

 やっぱり、その話か。

 

「どうして、そう思うの?」

 

 卑怯な返答だけど、そう言わざるをえない。

 

「……上手かったから」

 

 智花ちゃんの回答は明快だった。

 あの智花ちゃんに褒められた。そう思うと胸がとくんと跳ねるけど、それはあらゆる意味で場違いな反応だ。

 

「ジャンプボールも、パスも、ディフェンスも、見様見真似でできるはずない。私と同じくらい、ううん、私よりも練習してないとできないと思う」

「……それは」

 

 逆の立場なら、私だってそう言うだろう。

 体育でやったプレイは、鍛えられていない五年生の私の身体で、高校生まで培った私の技術を再現した――とてもアンバランスなもの。

 再現度で言えば決して高くない。そもそも身長が足りないのでセンターとしては不十分。

 でも、だからこそ、あのプレイは特異に映っただろう。

 

「誤魔化しきれないよね」

「じゃあ……」

「うん、嘘。……でも、全部が全部嘘じゃないんだよ」

「どういうこと?」

 

 智花ちゃんの声が、表情が、少しだけ険しくなる。

 バスケにおいては嘘偽りを許容できない。そんな厳しさが現れる。

 私は眉を下げて笑う。

 

「信じられないような話になっちゃうんだけど」

「教えて」

「ん……」

 

 即答。

 これは、本当に誤魔化せない。

 

「誰にも言わないでね」

 

 私はそう前置きした上で、智花ちゃんに真実の一端を話した。

 

 ――思えば、三度目の人生にして初めてのことだけど。

 

 私には、私じゃない私の記憶があること。

 記憶は今朝目覚めたばかりで、だからついはしゃいでしまったこと。

 バスケのプレーは別の私が持っていた記憶。だから、見様見真似というのは嘘じゃないし、この身体がバスケ初心者なのも嘘じゃない。

 誰が信じるんだこんなの、という話だったけど、

 

「そんなこと……あるんだ」

「自分でも信じられないけどね」

 

 智花ちゃんは「嘘だ」とは言わなかった。

 ただ目を見開き、深く息を吐きだしただけ。

 いい子だと思う。

 

「誰にも言わないでくれる?」

 

 目を見て言うと、智花ちゃんは微笑んだ。

 

「うん、言わないよ。……言っても、誰も信じてくれないと思う」

「それはそうだね」

 

 思わず、私もくすっと笑ってしまった。

 こんなこと信じてくれるのは相当善良な人だけだ。思い当たる範囲で言うと、昴と、智花ちゃんたち五人と……あれ、いっぱいいる。

 

「……鶴見さんは、バスケしたい?」

「したいよ」

 

 慧心に女バスがないのが残念でならない。

 

「湊さんはバスケ、したくないの?」

「………」

 

 尋ねると、智花ちゃんは少し黙った。

 誤魔化せない。

 彼女もきっとそう思っただろう。私の嘘を看破した理由が理由だから、智花ちゃん自身も「見様見真似の未経験者です」とは言えない。

 迷うように視線を巡らせた後、彼女は言った。

 

「したいよ。……でも、したくない」

「どうして?」

 

 できるだけ威圧的にならないように尋ねると、智花ちゃんは弱々しく笑った。

 

「聞いてくれる? 私の、前の学校でのこと」

「もちろん」

 

 そして私は、今まで伝聞で、断片的にしか知らなかった話を――当人の口から聞くことになった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……湊さんは悪くないよ」

 

 話が終わった後、私はそう彼女に言った。

 

「そんなことっ」

 

 受け入れられないのだろう。

 辛いことを思い出してしまった智花ちゃんは、涙を流しながら首を振る。

 当たり前だ。

 孤立して。排斥されて。原因が自分にあると思うのは自然なこと。

 強さを他人に求め続けた末、周囲から叩かれて、己の弱さを露呈してしまった――そう考えれば、自分のことが許せないだろう。

 それでも。

 

「悪くないよ。湊さんは悪くない」

 

 もちろん、部の仲間達が悪いわけでもない。

 私はそう付け加える。

 

「え……?」

「バスケの楽しみ方は一つじゃない。みんなで一緒にやるのが楽しいっていう子もいれば、勝つために全力を尽くすのが楽しいって子もいる。どれも間違ってなんかいない」

 

 だから、

 

「みんな悪くない。そして、みんなが悪い」

「……どういう、こと?」

「バスケへの向き合い方は間違ってない。間違ってたのは、仲間との向き合い方なんだよ。ちゃんと話して、納得しあおうとしなかった。だから食い違って、喧嘩になっちゃった」

 

 智花ちゃんを仲間外れにした子達だって後味は悪かったはずだ。

 楽しくバスケがしたかったなら。

 誰かを悪者にして、除け者にして、心の底から楽しめるわけがない。

 

「でも……っ」

 

 嗚咽するように、智花ちゃんはそれだけを言った。

 

 うん。

 外野が何を言ったって、過ぎてしまったことはなくならない。智花ちゃんがけろっと忘れてバスケをまた始めたら、元の学校の子達は良く思わないかもしれない。

 それでも。

 

「やりたいならやっていいと思う。バスケ」

「っ」

「もし、昔の仲間に申し訳ないと思うなら――その上で謝ればいいんだよ。許してくれるかどうかは、わからないけど」

 

 向こうは大勢で、こっちは一人。

 同意見の人がいればいるほど、人は自分の意見を翻せなくなる。私達は間違ってないと言い張るかもしれない。

 

「それでも、自分の気持ちをちゃんと伝えることは、きっと無駄じゃないよ」

 

 そう、無駄なんかじゃない。

 断られるとわかっていて葵に告白したことだって、私は、後悔なんかしていない。

 

「私で良ければ付き合うよ、バスケ。……それとも、部活がないなら作っちゃう?」

「っ」

 

 智花ちゃんがきゅっと唇を噛んだ。

 見れば、彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。慌ててハンカチを取り出してみたけど、この状態だと焼け石に水かもしれない。

 

 ――やっちゃった。

 

 どうにも、この子には感情移入せずにはいられない。

 智花ちゃんにとってはただのクラスメートでも、私にとっては大切なお友達だ。

 だから、

 

「ごめんね。言いたいことばっかり言っちゃって」

「ううん。……ううんっ!」

 

 ふるふると首を振る智花ちゃん。

 彼女は潤んだ瞳で私の顔を見つめると、肩を震わせながら泣き声を上げる。

 

「………」

 

 私は、黙って彼女の身体を抱き寄せた。

 ぎゅっと抱きしめると、智花ちゃんは泣き疲れるまで、私の胸の中で泣き続けた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 バスケットボールがしたい、と宣言したら、母さんに驚かれた。

 

「お友達に誘われたの?」

 

 誘われたというか誘ったというか……。

 ともあれ、バスケをすること自体は反対されなかった。

 

「ただし、将棋の勉強もしなさい」

「えー」

「えー、じゃない。別に嫌いじゃないでしょ?」

 

 それはまあ、そうだけど。

 こっちの私は将棋、というか着物への忌避感がないから将棋にも割と触れてるらしい。これは智花ちゃんと同じくお稽古に時間取られるパターンだ。

 考えようによっては、前にできなかったことをやるチャンスなのかも。

 

 もちろん、バスケもするけど。

 

「おはよう、湊さん」

「あ……おはようっ、鶴見さん」

 

 次の日の朝。

 教室で挨拶すると、智花ちゃんはひまわりみたいな笑顔で応えてくれた。昨日の件でだいぶ打ち解けられたのかも。

 

 あの後、泣き止んだ智花ちゃんを家まで送った。

 門限には余裕があったし、一人で帰すのが心配だったからだ。いきなりだから嫌がられるかなとも思ったけど、バスの中で話をするうちに笑顔を見せてくれた。

 華道・日舞の家元の娘と、女流棋士の娘。

 ジャンルは違えど、着物とか、分かり合える部分があるのも良かった。

 

「湊さん、早いね」

「鶴見さんこそ」

 

 教室にはまだ殆ど人気がない。

 

「朝のジョギングしたらつい、ね」

「あ、実は私も……」

 

 なんと。

 昨日あんなことがあったものだから、身体を動かしたくなったらしい。

 バスケ、忘れられそうにないみたい。いいことだ。

 

「思ったより走れなくて、時間余っちゃった」

「私は興奮して早く起きすぎちゃった」

 

 顔を見合わせて笑いあっていると、教室の入り口から「あー!」と声。

 

「二人ともいる! ねーねー昨日の話の続きしよ!」

「み」

「三沢さん……」

 

 早いな。

 あれかな、私達を捕まえるために早起きしてきたのか。それは久井奈さんが喜んだに違いない。紗季ちゃんは迷惑そうだけど。

 どうしよう、といった風に視線を向けてくる智花ちゃんに私は微笑んで頷き――さっさと彼女を売り渡すことにした。

 

「三沢さん。昨日も言った通り、私は大した話はできないんだ。だから、聞くなら湊さんにお願い」

「おっけーわかった!」

「え、えええ……!?」

 

 どうして、という視線にぺろりと舌を出すと、恨みがましい目で見られる。

 いや、でも、真帆ちゃんに転生のこと話したら、妙な中二病に目覚めちゃいそうだし。「ムー」に投稿とか始められちゃうと困る。

 とはいえ、放っておくのも可哀想。

 紗季ちゃんが「しばらく止まらないわよこいつ」って顔してるし。

 

「っていうか、三沢さん。もしかしてバスケ興味あるの?」

「あるよ、あるある! 二人みたいにやったらあたしもナツヒをぎゃふんと言わせられそうじゃん!」

 

 ぎゃふんて。

 

「そっか。ならさ、せっかくだから部活にしちゃうのはどう?」

「え?」

「ふえ?」

「女子バスケットボール部、作っちゃえばいいんだよ。そしたらたくさんバスケできるよ」

 

 私の言葉を聞いた真帆ちゃんはしばし、瞬きをしながら硬直した。

 意味を理解するのに時間がかかってる感じ。

 と、思ったら、いきなり「ばっ!」と動き出して、言う。

 

「作ったら入ってくれる!?」

「もちろん、私は入るよ」

 

 言いながら、私は智花ちゃんを見る。

 大人しくて控え目なバスケ大好き少女は、一瞬、嬉しそうに口元を綻ばせて――すぐに何かに気づいたように表情を戻した。

 

「……無理だよ。部員、集めないといけないし」

 

 ふむ。

 嫌だ、とは言わないんだ。なるほど。

 

「三沢さん。部員が集まったら入ってくれるって」

「おっけー! 何人くらい集めればいいの? 百人くらい?」

 

 何と戦う気なんだろうか。

 

「最低人数は五人だったはずだよ」

 

 でも、それだと私が困る。

 五人で満足されてしまうと、私のせいで誰かがあぶれてしまうからだ。

 

「でも、六人欲しいかな。それなら三対三で対戦できるでしょ?」

「なるほど! あったまいいなー翔子!」

 

 笑顔になった真帆ちゃんは「じゃーまずはサキだな!」と、自分の席からこちらを窺っていた紗季ちゃんに突撃していく。

 元気だ。元気すぎるくらいに。

 

「つ、鶴見さん……」

「いいでしょ? 私だって、湊さんとバスケしたいし」

「……うう」

 

 智花ちゃんは困ったような顔で唸ると、もう一度呟いた。

 

「集まらないよ、六人も」

「大丈夫だよ」

 

 きっと集まる。

 私の知っている歴史で、五人が集まったみたいに。きっと。

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