ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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14th stage 翔子と文化祭(前編)

「ね、翔子。文化祭中って暇?」

 

 二学期のある日。

 年に一度の大イベント、七芝高校の文化祭に向けて、だんだんと具体的な話が動き始めていたそんな頃――葵からお昼ご飯に誘われた私は、そんな質問を受けた。

 これは、まさかデートの誘い?

 なんて、間違っても思わないけど、なんだろう。

 

 んー、と、声と表情で「難しい」と示して答える。

 

「暇、ってほどではないんだよね。うちの出し物の手伝いがあるから」

「あ、そっか」

 

 だいだいどこもそうだろうけど、うちの学校も各クラス一つずつの展示が義務付けられている。

 例外は昴が所属する体育クラスで、彼らだけは展示が免除。普段から忙しいっていうのと、基本的に部活に入ってるのでそっちの出し物を手伝うことになるからだろう。

 私と葵は普通クラスなのでクラスの手伝いがある。

 

「そっちは何やるんだっけ?」

「将棋カフェ」

「……それはまた、渋いというかなんというか」

 

 一人一個以上案を出せと言われて、何の気なしに言ってみたら通ってしまったのだ。

 主な内容は飲み物、茶菓子の提供と詰め将棋の展示、後は対局ブースの設置。

 ペットボトルの緑茶や紅茶、柿の種なんかをまとめ買いして、適当に詰め将棋のお題を用意したら、当日二、三人ずつのローテーションを組むだけというお手軽なやつだ。

 人気はないだろうけど、TCGやスマホゲームなんかと違って「知的で高尚な遊び」みたいなイメージあるので、先生方から難色を示されづらいのが利点だろう。

 

「いちおう私、女流棋士の娘でしょ? だから責任者にされてて。忙しいのは前日までだけど、暇とも言えないというか」

 

 何かあったら呼ばれることうけあいである。

 まあ、そうそう問題も起きないと思うんだけど。もっと強い人いないのみたいなクレームとか、気まぐれに若い棋士が遊びに来る可能性とかもなくはない。

 

「なるほどね。……もしできたら、こっちの手伝いをお願いできないかと思ったんだけど」

「葵のところは……メイド喫茶だっけ?」

「うん」

「私、何か手伝うようなことある?」

「調理担当のサブをお願いできないかなって。ちょっとシフト的に不安で」

 

 なんでも、ただのメイド喫茶じゃありがちすぎるということで、フードメニューにも凝ることにしたらしい。

 主な監督・指導は調理部所属の男の子がしてくれるけど、彼にもお休みを与えないといけない。そのために誰かサブが欲しい。

 とはいえ、女子はメイド服を着ての接客があるので、できれば人数を減らしたくない。

 料理に覚えのある男子が何人もいるわけないので、他クラスから確保できれば一番いい、ということらしい。

 

 なるほど、そういうことなら……。

 

 私は当日の自分の動きを想像しながら頷く。

 

「うん、いいよ。お手伝いさせて」

「いいの? 本当に? 無理してない?」

「大丈夫大丈夫」

 

 基本、自分のクラスにずっといる必要はない。うちのところも葵のところも教室を使うので距離的に離れていないので、たまに行ったり来たりするのを了承してもらえれば問題はない。

 

「ただ、一つだけ条件があるんだけど」

「条件?」

「うん。葵のクラス、っていうよりは葵へのお願い」

 

 じっと葵を見つめて言う。

 幼馴染としてもここが分水嶺だろう。彼女は真剣な顔になってこくりと頷く。

 

「ん、私にできることならなんでも言って」

「本当? なら――」

 

 私はぎらりと目を輝かせて要求した。

 

「ミスコンに出てくれる?」

「え」

 

 葵が、硬直した。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 それから、しばらくの時が流れて。

 

「私も合意の上だったから――」

「さすがにこの歳だと子供の可能性なんて――」

 

 公衆の面前で何言ってるんだろう、この二人。

 同好会の終了後、フードコートでドリンク片手に神妙な顔で相談する幼馴染二人を見て、私はツッコミを入れようかどうしようか真剣に悩んだ。

 議題は、わかっている。

 

 ――愛莉ちゃんたちを七芝の文化祭に招待した件だ。

 

 別にそれ自体はいいことだし、みんなも喜んでくれてるんだけど、問題は昴、というかバスケ部と女子小学生という取り合わせの悪さ。

 部長が小学生と駆け落ち寸前になって一年間の休部、という件はまだまだ爪痕を残しており、昴が愛莉ちゃんたちを侍らせるのは色々マズイ。

 葵という彼女がいるのでまだマシだけど、それはそれで浮気かと疑われかねない。

 

 私か葵、香椎くんの知り合いということにする手はあるものの、これは私達の誰かが一緒でないと言い訳として機能しない。

 私達の中で一番暇なのが昴で、彼が主な案内役になるため、ちょっと、いや、かなり心もとない。

 

 と、事情を知ってればわかるんだけど。

 

 夏に付き合いだした初々しいラブラブカップルが「合意の上」だの「子供の可能性」だの真剣な顔で話してるってるって、ねえ?

 香椎くん、さつき、多恵の三人なんかドン引きして隣のテーブルに移動しちゃってるし。

 

 うん。ここは一つ――私も乗っておくべきか。

 

「私もごめん。他人事じゃなかったのに、軽い気持ちでオーケーしちゃって。……昴と葵だけだったら、もっと話はスムーズだったのに」

「今更何言ってるのよ。翔子と一緒にやるのは私達だって納得したことだし、楽しかったんだから」

「そうだ。謝らなきゃいけないとしたら俺の方だ」

「昴。葵……」

 

 神妙な顔で二人を見つめる私。

 なんだか、三人の間に更なる友情が芽生えたような気がした時――。

 

「おい長谷川。どういうことか説明しろ」

「っ。な、何怒ってるんだ万里」

 

 香椎くんが昴の胸倉を掴んで持ち上げた……!

 

「おい翔子。まさか、ガチなのか?」

「つるみん。さすがに3Pで同時にできちゃうのはまずいよお……!」

 

 慌てて寄ってきたさつきと多恵が私に耳打ちしてくる。

 あー、うん。

 みんなも薄々わかってるだろうと思ったけど、ちょっとやりすぎたみたい。

 

「ごめんなさい、香椎くん。想像してるような話じゃ全然ないから」

 

 私が言うと、香椎くんは瞬きをして首を傾げた。

 

「そう……なのか? 鶴見まで真剣だったからてっきり」

「本当にごめんなさい。悪ノリなんです」

 

 平謝りして誤解を解き、許してもらった。

 

 

 

 

 

 その後、みんなも交えて意見を出し合ったものの、決定的な案は出ず。

 まあ、いざとなったら開き直るという手もあるし、もうちょっと考えてみようということで解散になった。

 愛莉ちゃんたちに我慢してもらうというのはナシだし、何かいい方法があればいいんだけど。

 

 ……変装とか?

 

 いや、変装って言っても難しいか。変に着ぐるみとか着たら怪しいし、長谷川昴であることだけ隠せればいいかというと微妙だ。

 女子小学生を連れていても全く怪しくない変装というと、思いつかない。

 と。

 唸りながら帰宅した直後、スマホが鳴った。葵からだ。

 

「もしもし、葵? 何か忘れ物?」

『ううん、そういうのじゃなくて。……ちょっと、さっきの件で思いついた手段があって』

「え、なになに?」

『えっとね……』

 

 葵が告げた案は、私の頭に浮かんでいた変装に近い――でも、決定的に突き抜けた、ブレイクスルーとでもいうべきものだった。

 なるほど、それなら。

 

「上手くいけば、上手くいくね」

『……よし。やってみよっか。幸い昴も乗り気だし』

 

 昴が乗り気?

 それって、詳細を教えずに「俺にできることなら協力する」って言われただけじゃなくて……?

 まあ、他の案があるわけじゃないし、試してみる分にはいいと思うけど。

 

『それでね、久井奈さんとの繋ぎをお願いしたいの。あんたからお願いした方がオッケーしてくれそう』

「葵でも大丈夫だと思うけど……わかった。このあと電話してみる」

『お願いね』

 

 通話を切った後、私は聖さんにコール。

 事情を説明すると、聖さんは二つ返事で了承してくれた。心なしか声がわくわくしていた気がするのは気のせいだろうか。

 あの様子なら、ばっちり対応してくれるだろう。

 

「それにしても……」

 

 ()()()()かあ。

 校内を女子高生が歩いていても何の不思議はない。

 女子なら女子小学生を連れていても責められることはない。完璧だ。

 

 ――女装させられる昴の精神的ダメージを考えなければ。

 

 転生して女子になった身としては、異性を装わされるプレッシャーはよく承知している。

 

「ご愁傷様、昴」

 

 彼女が主導してるってあたり、ひどい話だと思う。

 これを機に、二人が変なプレイとかに目覚めないことを願うばかりだ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「……恨むぞ翔子」

「え、私のせいなの……!?」

 

 文化祭当日の朝。

 私が対面した時には、昴はもうドレスアップとメイクアップを済ませていた。

 

 ――衣装は、高校の文化祭にしてはやけに本格的なメイド服。

 

 こういうの好きな子がいるのかもしれない。

 シックな黒のワンピースに、フリフリの白エプロンの組み合わせは「わかってる」とデザイナーを称賛したくなるくらい素晴らしい。

 残念なのはスカートが膝丈なことだけど、足首まであると動きにくいし、白のハイソックスを履いた足が見える方が思春期の男子には受けがいいかもしれない。

 実際、同じものを着た葵は、彼氏である昴が憎いくらいに可愛い。

 

 昴も、驚くくらいに完璧だ。

 

 もともと七夕さん似の美形で、七夕さんによる栄養管理を受けていて、かつ、アスリートとして十分な運動と睡眠を取っている彼。

 筋肉が外見に出にくい体質も相まって、メイクを施してロングのウィッグを被った姿は見惚れてしまいそうなレベル。

 メイド服のワンピースがゆったりめのデザインだから体型を誤魔化せるのも大きい。胸とお尻に詰め物を入れてバランスを調節すれば、惚れる男子が出てもおかしくないレベルの美少女である。

 

 そんな美少女――葵による源氏名「長良川かえで」ちゃんは恨みがましい目で私を睨んでくる。

 

「葵に言われたんだよ。私だってミスコン出るんだからあんたも覚悟決めなさい、って」

「……あー」

 

 それはまあ、なんというか。

 さすがに言いがかりだとは思うものの、彼氏に確認を取らず葵を誘ったのも事実。あまり強く抗議はできない。

 

 昴は今日一日、かえでちゃんとして学園祭を乗り切る。

 外部参加として葵のところのメイド喫茶を手伝うことになっており、これで身元を詮索される心配も少ないし、葵と親しく話していても怪しまれない。

 

「まあ、これはこれでいい経験だよ」

 

 仕方ないので話を逸らす。

 

「こんな経験どこで役に立つんだよ……?」

「女の子の気持ちを知っておくのは悪いことじゃないよ? もし目覚めちゃって、そっちの道に進むことになっても、それはそれで幸せだろうし」

「進まねえよ。っていうかなんで実感籠もってるんだよ……!?」

 

 私は女装どころか女になってるからね……。

 

「覚悟を決めなよ、昴。みんなそれぞれ忙しいってことでお相子にしよ?」

「………」

 

 はあ、と、昴は深いため息をついて頷いた。

 

「まあな。お前も、見るからに大変そうだし」

「あはは、まあね」

 

 にこりと笑い、その場でくるりと回ってみせる。

 

「すばるん様とあおいっち様のメイド服も素晴らしいですが、翔子の着物姿も素敵です」

「ありがとうございます、聖さん」

 

 昴のメイク・着付けを主に担当したのは私服姿の聖さん。

 彼女の言う通り、今日の私は着物だ。なにせ出し物が将棋カフェなので、和服着てる女子がいた方が話題になるだろうという理由。まあ、さすがに足元はぺたんこの靴だけど。

 基本、文化祭中はこのままの予定だ。

 メイド喫茶の調理を手伝う時はこの上からエプロン――ではなく割烹着を羽織る。一応、私の分のメイド服も用意してもらってるんだけど、一々着替える暇はないと思う。ちょっと残念なので、家で家事をする時とかに着てもいいかもしれない。

 

 メイド喫茶で一人だけ和服は目立つだろうが、そこはそれ、将棋カフェの宣伝になるという寸法である。

 

「翔子はミスコン出ねーの?」

「つるみん、その格好ならいい線いくと思うんだけどぉ」

「出ない出ない」

 

 昴を捕獲して七芝まで連れてきた陰の功労者――さつきと多恵に手をひらひらと振る。

 

「投票するなら葵にしてあげて。葵にミス七芝を取らせるのが私の野望なんだから」

「おい葵、こういう時の翔子は滅茶苦茶面倒臭いぞ」

「わかってるわよ。わかってるけど、しょうがないじゃない。別に、ミスコン自体は変なものじゃないんだし」

 

 それはもちろん、そうだ。

 出てもらうからには恥をかかせるつもりなんかない。葵がミスコンに出ることによるシフト的な圧迫は私が補うし、出場前のメイクは責任持って担当させてもらう。

 彼氏持ちなのは(一部男子からの昴への怨嗟と共に)知られているので、葵が有名になっても告白してくる輩とかはいないだろう。

 

「葵。アスリート部門の方のミスコンも出ていいんだよ?」

「出ないわよ!」

 

 そりゃそうか。残念。

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