ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「オムライスと焼きそば、ポテトフライ入ります」
「了解。鶴見さん、焼きそばとポテトいける?」
「うん、任せて」
教室の一部をカーテンで区切っただけの調理スペースは、意外などほど本格的な空気に包まれていた。ガスコンロやホットプレートなどの簡易設備にも関わらず、それを使いこなして見事な仕事を見せる「料理部のスーパールーキー」によるものだ。
葵のクラスのメイド喫茶は男子が調理、女子が接客の分担制。
料理部の彼がリーダーとして男子を仕切り、オムライスなどの技術が要るものを引き受けている。他の男子は料理経験のない人が殆どなので、主に具材を切ったり道具を洗ったり、カレーを温めて盛りつけたりといった腕の出にくいところをサポートしていた。
まあ、男子が調理と言いつつ私がこっちにいるわけだけど。
私の仕事はリーダーの補佐。前日に腕を実演したところお眼鏡に適ったようで、「料理部に入らない?」と勧誘をもらった。
そういう彼の腕は正直、私より数段上なんだけど。
焼きそばとかポテトも美味しく作ろうとすると結構難しい。前者なんかは紗季ちゃんに尋ねれば小一時間くらい余裕で語ってくれるはず。
――でも楽しいなあ、これ。
一心不乱に料理し続けるっていうのも割と性に合っている。
すずらん祭りの時も楽しかったけど、あれは接客の割合が高かった。私はウェイトレスより料理する方が向いてるっぽい。
「鶴見さんが来てくれて良かったなあ」
「こっち男ばっかでつまんないもんな」
「あはは、ありがとう」
恋愛感情は別として、男子にそう言ってもらうのは悪い気がしない。
「荻山にも感謝しないとな。助っ人連れてきてくれてさ」
「胸もでかいしな」
「おい、バレたらどうすんだよ」
ちらりと様子を窺われるけど、
「大丈夫。言わないよ。……葵には」
「長谷川に言うのも止めてくれよ」
「どうしようかなあ」
「お願いします。何でもしますから」
そのフレーズは釣りに来てるのかな?
そんな餌には釣られないクマー。
「鶴見って結構話せるんだな。意外だ」
「雑談するのは嫌いじゃないよ。手が止まっちゃうのはアレだけど」
「はい」
「気を付けます。お母さん」
誰がお母さんか。
「あー、長谷川が羨ましい」
「あの荻山が彼女だもんなあ」
うん、私も羨ましい。
まあ、そんな昴は今、メイド姿で絶賛接客中。しかも葵の発案だって聞いたら何割の男子が羨望から同情に変わるだろうか。
私としては、女装した昴なら大歓迎なんだけど。
と、噂をすれば当の本人がカーテンをくぐって調理スペースに来た。
「すば……かえでちゃん。注文?」
「あ、はい。そうなんです」
いつもと違って敬語で答えが返ってくる。
背の高い黒髪ロングの敬語美少女。可愛い。いちゃいちゃしたい……じゃなくて。
何やらかえでちゃんは視線を巡らせて思案中の様子。
「お……私のお任せをオーダーされて。しかも五人前」
「五人前」
結構な大口だ。
しかもかえでちゃんが対応しているということは、
「みんな、来た?」
「はい」
バレない程度ににやりと笑う彼のじ……彼。
「よし。じゃあ、オムライスと、激辛&甘口ハーフカレーを一人前、サンドイッチとポテトフライを二人前お願いします」
「はーい。じゃあ、できたら呼ぶね」
メニューにお勧めだと書いているせいか、オムライスは大人気だ。
これ、私がいてもリーダーは休めないのでは。
ともあれ私は引き続きポテトフライを揚げ、その片手間にサンドイッチを作る。このサンドイッチも高い具材は使ってないものの、調理手順と調味料にちょっと一工夫されてる。
「あの子も可愛いよなあ」
「可愛いよねえ」
「なんで鶴見さんがナチュラルに交ざってるんだよ。……可愛いとは思うけど」
リーダー、あなたもか。
「こほん。鶴見さん。それ上がったらちょっと出てきたら? 知り合いなんでしょ?」
「いいの? じゃあ、お言葉に甘えようかな」
かえでちゃんを呼び、二人でお皿を持って接客スペースへ出る。
「あ、るーみんだ!」
いち早く声を上げたのは真帆ちゃん。
「翔子さん……綺麗ですっ」
「うん。本当に」
愛莉ちゃんと智花ちゃんの声が続くと、他のお客さんもこっちを向いて――おぉ、とどよめきが起こった。
「和装メイド……だと?」
「いや。メイド要素ないし。ただの新妻だろ」
「だがそれがいい」
「うむ」
なんか言いたい放題言われてる気が。
学園祭だからか、ちょっとおめかしした五人が揃って座っている姿はとっても可愛らしい。周りにメイドさんがいるせいもあってお嬢様みたいに見える(なお、一人はガチ)。
「お待たせしました。かえでちゃんのオススメメニューです」
「翔子……鶴見さん、悪ノリしないで欲しいんですけど」
「あはは、ごめんね」
みんなとちょっとだけお話して、料理の感想をもらったりする。
調理スタッフ一同自慢の料理の数々は、慧心学園初等部女子ミニバスケットボール部の面々にも好評だった。
ほっとしていると、真帆ちゃんからケチャップアートのオーダーが。
せっかくだからかえでちゃんにパスし、慣れない行為に苦心する様子を楽しませてもらった。
かえでちゃんがケチャップとマヨネーズの容器を間違えそうになったものの、前もって大きく「マヨネーズ」「ケチャップ」とラベルを貼っておいたお陰で事なきを得た。
オムライスにマヨネーズは合わなくもないけど、やっぱりケチャップの方が美味しいもんね。
☆ ☆ ☆
「……ふう。結構バタバタするなあ」
かえでちゃんと葵は愛莉ちゃんたちが退店すると同時に休憩をもらい、香椎くんと合流して校内を周りに行った。
自分のクラスの将棋カフェと行ったり来たりしている私はもうしばらくメイド喫茶を手伝い――二、三十分が経ったところでクラスメートからヘルプ依頼を受けた。
なんかマント着けたイケメンが来てるんだけど、しかも将棋上手いんだけどどうしよう、と。
「もう、なんでプロが来るかな……」
男性若手棋士の中では竜王に次ぐ有名どころ。慌てて戻ってご挨拶をすれば、小学生の妹さんを紹介してくれた。妹さんの方も小学生の将棋大会で優勝を争える実力の持ち主なので、私じゃ相手にならないくらいに強かった。
学園祭に来た理由は聞けなかったけど、将棋部がうちの出し物に注目してたし、そっちから情報が漏れたのかもしれない。あるいは母さんが無駄に言いふらしたか。別に目的があった可能性ももちろんあるので、真相は不明だ。
でも、彼の師匠が一緒じゃなくて良かった。
もし一緒だったら死んでた。恐れ多すぎて私の心臓が。
兄妹を丁重にお見送りした後、メイド喫茶の方に向かうと、ちょうど葵とかえでちゃんも戻ってきた。何があったのか、二人共メイド服が汚れている。
「どうしたの、それ?」
「ちょっと障害物競争をする羽目になっちゃって」
遠目をして言う顔。
それって、もしかしなくてもミスコンのアスリート部門だよね。
確か、障害物競走をして一位になった女子が選ばれる形式だったはず。ちなみに一位には、男子の一位――アスリート部門のミスター七芝を選ぶ権利が与えられる。
出ないって言ってたのに。
「誰が勝ったの?」
「……聞かないで」
尋ねると、葵は私から視線を逸らした。
本当に何があったのか、と。
「お、いた。ミス七芝」
「葵ー。彼氏への公開告白、可愛かったよー」
「っ」
びくっと身を跳ねさせて涙目になる葵。
その隣でかえでちゃんが苦笑いをして、説明してくれる。
「智花達が出るって言いだして……。お、長谷川君を指名するっていうので……」
「なるほど」
女子小学生からミスター七芝に指名される元男子バスケ部員。
間違いなくアウトなので阻止せざるを得ないだろう。
で、無事に葵が勝って昴を指名したと。
「なにそれ、見たかった……!」
あの恥ずかしがりの葵が、自分から「うちの彼氏が一番」って言うなんて。そんないいところを見逃すなんて残念過ぎる。
「あんたに見られてなくて良かったわよ、本当」
「誰か動画撮ってなかったか聞いてみよう」
「止めなさい!」
葵から本気で止められた。残念。
☆ ☆ ☆
メイド喫茶のお手伝いに復帰すると、リーダーが「食事休憩で三十分抜ける」と宣言した。
「自由時間それだけでいいの?」
「ああ。鶴見さんのお陰でちょくちょく手は休められてるし、最後まで行くよ」
やっぱりこうなったか。
リーダー、お疲れ様です。
「よし。それじゃあ、鶴見さん。後は任せてくれ」
「……ん。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
道具を片付け、割烹着を脱いだ私はお客さんに回ってカレーとオムライスを平らげた(一品の量が少なめになってるので、決して食べ過ぎではない)。
ミスコンにはまだ時間がある。
少しくらい校内を回って来ようと、ふらりと歩く。葵のクラスのメイド喫茶もそうだけど、結構凝った出し物が多くて感心してしまう。
香椎くんのクラスのお化け屋敷も盛況で、中に入るとフランケン姿の彼と会うことができた。
「うわ。香椎くん、すごく似合ってる!」
「ありがとう……で、いいのかこの場合?」
「もちろん、褒めてるよ」
昨今のフランケンは美少女だったりするけど、ごつい身体で頭からネジが飛び出してるようなオールドタイプもやっぱり良いと思う。
香椎くんも(メイクしたまま)笑みを浮かべた。
「着物着た女を脅かすフランケンってのも変だけどな」
「あはは。番町皿屋敷でもやれば格好つくかな? 一枚……二枚……って」
「こんな暗いとこで雰囲気作るなよ! 怖いだろ!」
「フランケンが怖がっちゃ駄目だよ」
ははは、と、二人で笑っていると、がしっ、と後ろから誰かに肩を掴まれた!
一瞬びくっとしたけど、掴んでいたのはこのクラスの女子だった。
「ね、鶴見さん」
「ちょっとお化けやっていかない?」
後日。
葵から「お化け屋敷に突如現れた着物のお化け」の噂をされた私は、事の顛末の一切を黙秘した。
☆ ☆ ☆
「葵。ミスコン行こ」
メイド喫茶に戻って誘うと、幼馴染は露骨に嫌そうな顔をした。
「……もう出た、ってことでまからない?」
「むう」
二つも出るのが恥ずかしいのはわかる。
私は見てないからって押し通すこともできるけど、昴のために頑張った彼女にそう言うのは可哀想だ。
「両方優勝しちゃったらやっかみもありそうだしね」
「さすがに優勝は無理だと思うけど、ね」
流れが不参加に向かったのを察し、葵はほっと息を吐く。
本気で嫌だったらしい。
既に思う存分恥ずかしい思いをしたんだろう。私は見てないけど。
「でも、今からキャンセルするのはミスコンのスタッフさんが可哀想じゃない」
「あー。代役を立てなきゃ駄目か」
事前告知をしちゃってるかもだけど、最悪、人数だけでも辻褄が合えば違う。
代役かあ。
葵が今から捕まえられそうな女子っていうと……。
――嫌な予感。
にっこりと、笑顔を浮かべてフェードアウトしようとした私は、幼馴染に腕を掴まれた。
「ね、翔子。代役が必要なんだけど」
「私、踏んだり蹴ったりじゃない!?」
バイトの報酬を図書カードで払われた挙句、その場で全部本に交換させられたような理不尽感。
「お願い。私の推薦ってことにしていいから」
「いや。私じゃ葵の代役は務まら……」
「久井奈さんのメイクも頼んであげるから」
「あ、それはちょっと興味ある……じゃなくて!」
しばらく抵抗してみたものの、葵のクラスの女子やらかえでちゃんやらにまで「いいじゃん、やりなよ」と言われてしまい、仕方なく出ることに。
久しぶりのオフをさつきや多恵と満喫したらしい聖さんに本格的なメイクを施してもらい、着物の乱れを手直しして、一応用意していた草履にはきかえて、
「あれ? なんで私、こんなに気合い入れてるの?」
「正気に戻らないの」
とんだ辱めである。
あの島崎先輩なども参加する中、私は衆人環視で自己紹介をする羽目になり――葵があることないこと紹介したせいもあって、二位になってしまった。
ちなみに一位は三年生の先輩。
島崎先輩はスーツ姿で「男装の麗人」っていう感じだったせいもあり、三位。女子からの票を集めたものの、肝心の男子から「でかすぎ」「格好良すぎて並んだら俺がかすむ」と票が集まらなかった模様。
「残念。もうちょっとで勝てたのにね」
「むう。……葵、来年は出てくれる?」
「いいわよ。……あんたも道連れなら」
二人一緒ならもう一回くらい出てもいいかなあ、と、ぼんやり思った。