ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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ホラー回です。


ending??.好感度MAXで高一から

 目が覚めると高校の始業式の朝だった。

 

「……え、なにこれ」

 

 ハンガーにかかった制服は新品同様。

 入学以降に買った小物や服がない。スマホの日付も一年前に戻ってる。ネットに繋いでみても同じ。タイムスリップしたと認識するには十分な証拠だ。

 でも、原因は全くわからない。

 いったい、いつからループものになったのか。

 

「……とりあえず支度しよう」

 

 私は思考を放棄して朝のルーチンに移行した。

 洗顔して、ウェアに着替えてからランニングをこなし、帰ってシャワーを浴び、洗濯機のスイッチを入れてから朝食の支度を始める。

 炊飯器のセットがしてあったのでお味噌汁にしよう。野菜が欲しいから玉ねぎとキャベツを使う。後はウインナーを炒めて、厚焼き玉子を作る。デザートにフルーツを切ってお漬物を出せば十分だ。

 

 と、朝食が出来上がりかけたところでチャイムが鳴る。

 誰だろう、こんな時間に。

 

「はーい」

 

 火を止めてから玄関のドアを開けると――。

 

「「おはよ」」

「……へ?」

「「何よその顔。来ちゃ駄目だった?」」

「ううん、いいけど……どうしたの、突然?」

 

 尋ねてきたのは親友二人。

 荻山葵と鳳祥。

 朝、二人が揃って訪ねてくるなんて一度でもあっただろうか。いや、ない。

 と、葵たちは顔を見合わせてため息をつく。

 

「始業式、一緒に行こうって言ったじゃない」

「忘れないでよ、そういう大事なこと」

「ご、ごめん」

 

 とりあえず二人には上がってもらう。

 ご飯まだらしいので、葵達の分もご飯とお味噌汁を用意する。まだ起きてこない母さんの分は後で作ればいい。

 炊飯器には明らかに二人の来訪を想定した量のご飯が入っていた。

 

「というか、なんで祥が七芝の制服着てるの?」

「……硯谷に行った方が良かったってこと?」

「え。あああ、ううん、ごめん、そうじゃなくて!」

 

 むっとしているように見えて、その実、涙目になる祥。

 え、そんなキャラじゃなかったよね? 硯谷に行って丸くなってからならともかく、この時点でこんな人懐っこいはず……。

 硯谷。

 祥。

 あの告白のことが頭をよぎる。ついじっと見つめていると、祥は首を傾げて微笑んだ。

 

「なに? どうしたの、翔子?」

「う、ううん、なんでもない。ちょっと寝ぼけてるのかも」

「ふうん。ならいいけど」

 

 祥は深く気にする様子もなく、私の作った朝食を味わう作業に戻った。

 そんな私と祥を葵が見つめて、何やら頬を膨らませる。

 

「なんで二人の世界作ってるのよ」

「なに変なこと言ってるの、葵」

 

 うん、なんか変だ。

 私は「ここ」が単なる一年前の世界ではないことを確信し始めていた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「おはよう。相変わらず仲いいな、お前ら」

「おはよう、昴」

 

 クラス分けの掲示板前で昴に会った。

 挨拶して隣に並ぶと、昴はすかさず一歩離れた。

 

「? どうしたの?」

「ああ、いや」

 

 尋ねても煮え切らない返事。

 昴らしくない。まるで私相手にどきどきしてるみたいだ。生身の女の子には基本欲情しないのが長谷川昴という生き物のはず。

 まさか昴まで変なのか。

 思っているうちに祥と葵が私の左右を取る……って、近い近い。さりげなく腕を取ったり、肩に手を置いて背伸びしてみたり、女の子同士とはいえスキンシップが過剰だ。

 葵さんは彼氏いるんだからそっちを気にしないと。って、まだこのタイミングだと付き合ってないか。いや、それにしたって、いつもなら軽い口喧嘩を始めるところだ。

 

 なんか怖い。

 とはいえ、振り払うわけにもいかない。表に集中するフリをして一歩前に出る――と、前にいた背の高い男子にぶつかった。

 

「あ、ごめんなさい」

「い、いや。こっちこそでかくて……って、鶴見?」

「え」

 

 ぶつかったのは香椎くんだった。

 

「香椎くん、だよね。橋田中の。会ったことあった?」

「い、いや、初対面だ。俺が個人的に知ってただけで。……鶴見こそ、俺の名前知ってたのか?」

「うん。有名だもん」

 

 頷くと、香椎くんは一見怖そうな顔に不器用な笑顔を浮かべた。

 

「そうか。鶴見が、俺のことを。ふふ、ははは」

 

 こわい。

 今度は一歩後ずさる私。そこに、背後から元気のいい声が聞こえた。

 

「やっほー、つるみん!」

「なんだよ、長谷川先生に祥まで一緒か! あたしらも誘えっての!」

 

 多恵とさつき。

 七芝の制服を着た二人が当たり前のように挨拶してくる。

 駄目だ、この世界はおかしい。

 私は正気度がガリガリ削られていくのを感じながら、遠い目でクラス分けを確認した。私と祥、香椎くんとさつき、葵と多恵が同じクラスだった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 そして、おかしな世界の洗礼はまだまだ終わらなかった。

 

 始業式が終わった後、私は「お腹が痛い」と嘘をつき、ちょっと遠い女子トイレに一人で入った。

 息を吐いて制服から取り出すのはスマホ。

 ラインやメールの履歴を見れば、少しは「この世界」のことがわかるだろうと思ったのだ。とりあえず連絡先を開いて――。

 

「え……!?」

 

 あるはずのない名前が幾つも並んでいる。

 香椎愛莉。永塚紗季。袴田ひなた。三沢真帆。湊智花。……竹中夏陽。

 

「なんで……?」

 

 呆然とする私。

 一応、ラインの履歴を見る限り、女バス組と夏陽くんは別口で知り合ったみたいだ。女の子たちとは何度か遊びに行ったりバスケを一緒にやった様子があり、夏陽くんからは「次いつ勝負する?」みたいな連絡ばかり来ている。

 五人とは仲良くなった誰かから紹介されたと考えればまあ、納得はできなくもないけど――いや、でもやっぱり「なんで?」と言いたい。

 

 フラグ管理どうなってるの、この世界の私……!?

 

 心の中で叫んだところで着信。祥あたりかと思ったら美星姐さんからだ。

 

『もしもし、翔子?』

「はい。お久しぶりです。どうしました?」

『にゃはは、久しぶりってこの前も会ったじゃん。例の件、今日この後とかどうかなって』

 

 例の件。

 時期と相手を考えると、

 

「ミスバスのコーチでしたっけ」

『そ。あの子たちもあんたに懐いてるしさ。どう?』

 

 ふむ。

 この後は部活説明会があるけど、別に必須じゃない。明日からの体験入部の方が重要だし、体験入部さえしないで入部届を出すことも可能だ。

 

「わかりました。慧心の初等部ですよね」

『うん。直接体育館に来てくれればいいから。あ、終わったらうちで感想聞きたいんだけど』

「そんなこと言って、ご飯目当てでしょう? スーパーに付き合ってくれるならいいですよ」

『にゃはは、バレたか。おっけー、商談成立。……愛してるぜ、翔子』

「っ」

 

 ぞくっとした。

 美星姐さんのことだから単なる冗談だろうけど、さっきまでの体験を考えると洒落になってない。なので「私も愛してますよ」と冗談めかして返すのは止めた。

 

「そういうのは七夕さんに言ってあげてください。それでは」

 

 教室に戻ると、元桐原女バスのレギュラー組が勢ぞろいしていた。

 事情を話せば、葵たちは揃って不満そうな顔になった。

 祥なんか「なら私も連れてきなさい」なんて言い出したくらいだ。さつきと多恵がそれに便乗しかけたところで葵が助け舟を出してくれなければ拗れていたかもしれない。

 

「美星ちゃんの頼みなら仕方ないか。こいつらの面倒は私が見るから行ってきなさい」

「ありがとう、葵」

「いいわよ。……その代わり、今度何かで埋め合わせしてよね」

 

 その言葉が妙に恐ろしく聞こえたが、私は「うん」と答えるしかなかった。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「やっほーるーみん! 会いたかったぜ!」

「おー、おねーちゃん。おひさしぶり」

「いらっしゃいませ、翔子さんっ。今日はよろしくお願いしますっ」

「来てくださってありがとうございます。本当に、嬉しいです」

「すみません、()()()()。お手数ですが、ご指導いただけると大変助かります」

 

 慧心のみんなは相変わらず天使だった。

 可愛くて優しくて頑張り屋な良い子たちだったけど……違和感がなさすぎた。なんと出会って半年以上、昴がコーチを任期満了した時点のみんなと遜色ないくらいの好意を向けてくれたのだ。

 紗季ちゃんに至っては初めて聞いた呼び方になってるし。

 

 聞けば、男バスとの試合はこの世界線でも組まれているらしい。

 とはいえまだ当日までは間がある。

 元の世界では昴が行くまでミニゲームばっかりであまり練習してなかったらしいけど、こっちのみんなは私の影響か、自分たちなりに少しずつ練習していた模様。

 昴から聞いたスモールフォワード作戦よりはもう少しまともな作戦が組めそう――ううん、愛莉ちゃんが「センター」を務めてくれることだって夢じゃなさそうだ。

 

 三時間ほどの練習に付き合ってみんなと別れ、その際に「また来る」と約束。

 仕事を終えた美星姐さんの車でスーパーに寄り、姐さんのアパートで夕飯を作った。ついでに部屋の掃除をして、日持ちするお惣菜を何品か冷蔵庫に入れておく。

 

「ご飯炊くだけならできますよね?」

「やるやる。翔子の作ってくれる料理は美味しいからね。おねーちゃんには負けるけど」

「この歳で七夕さんに勝てたらプロになれますよ……」

 

 一緒に早めの夕飯を食べて、午後七時くらいにはアパートを出た。

 

「もう帰るのかよ。一緒にパジャマトークしようぜ」

「しません。着替えもないですし」

 

 ドアを閉じる直前、「じゃあ今度用意しとこ」と聞こえたのは気のせいだろう、うん。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 で。

 

「今日こそはっきりさせるから」

「絶対逃がさないから覚悟しなさい」

 

 祥と葵って、強気に迫る時は結構似てるよね……。

 約一週間後。

 寝ても謎の世界線から脱出できなかった私は、慧心のコーチに行ったり、七芝女バスの体験入部に行ったりと忙しい日々を送っていた。

 体験入部で葵ともども「即戦力!」と言われたり、島崎先輩から休日に個人指導を申し込まれたりといった小さな騒動はあったものの、なんとかうまいことやれていると思っていたんだけど……どうやら、のらりくらいとかわしていたのが良くなかったか、親友二人が痺れを切らしてしまった。

 

 母さんの許しを得た上での半強制お泊まり会。

 会場が私の部屋なので、本気で逃げようがない。

 

「布団が一組しかないんだけど……」

「ベッドに二人寝ればいいでしょ」

「葵。正々堂々じゃんけんするわよ」

 

 駄目だ。どうしようもない。

 

「……もう。二人共変だよ」

 

 穏便に済ませるのを諦めた私は、この際、しっかりと話し合うことにした。

 ペットボトルのジュースと保温ポット、急須に湯呑み、こういう時のためのお菓子まで用意して、パジャマ姿の祥と葵と向かい合う。

 私としても今の状況はちょっと不満だったけど、葵たちもフラストレーションが溜まっていたようで、

 

「変なのはあんたでしょ。ここのところ私たちのこと避けてるみたい」

「どうして? ちゃんと答えを出すって言ってくれたのは嘘だったの?」

「へ……?」

 

 雲行きが怪しい。

 これ、些細な感情のすれ違いとかじゃなくて「痴話喧嘩」ってやつに聞こえるんですが……。

 

「あの、どの話……?」

「決まってるでしょ」

「私と荻山があんたに告白した話よ」

 

 はああああああっ!?

 なにそれ聞いてない。というか、普通に考えてありえない。祥の方はまだいいけど、なんで葵が私に告白してるの!?

 

「……昴は?」

「昴は大事な幼馴染だけど、それだけ。私には、あんたの方が大事なの。言ったでしょ……?」

 

 ミニ座卓を回り込むようにして葵が迫ってくる。

 逃げようとしたら、足に手を置かれる。

 

「もう一回言わなきゃ、駄目?」

「あ、え、あああ……」

「荻山。この子、本格的に記憶が混乱してる。もう一回言った方がいい。……二人で」

「そうね。二人で」

 

 祥まで私の腕を掴み、逃げられなくしたところで――両側から押し倒された。

 いい匂い。

 二人の潤んだ瞳が私を見下ろしている。

 

「好きよ、翔子」

「大好き。もう気持ちに嘘はつけない」

「選んで。両方振られてもいいから」

「選ばないなら、このまま、一線を越えさせるけど……?」

 

 本気だ。

 本気で二人とも、私に告白してきてる。

 軽い気持ちで答えていいはずがない。

 でも、断っていいの? この世界の私がどうするつもりだったのか知らないのに。

 ううん。

 

 ――そもそも、断る必要ってあるの?

 

 大好きな葵。

 大好きだと言ってくれたのに、突き放してしまった祥。

 二人は選べと言った。

 私がどっちかを選んでも、()()()()()()()()()、きっと笑顔で受け入れてくれる。

 あれ、何の問題もないんじゃ?

 

 正気度が失われてるのは百も承知だけど、幸せな夢の中にいられるならそれはそれでいいじゃないだろうか。

 

「翔子」

「翔子」

 

 ああ、もう。

 私はゆっくりと目を閉じて――考えるのを止めた。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

「うわあああああっ!?」

 

 がばっと起きる。

 スマホをがっと掴んで日時を確認。戻ってる。元の世界だ。

 良かった。

 本当に良かったとへたりこむ。あのままじゃ「かゆ、うま」でバッドエンドだ。百合ハーレムを築くことに抵抗のなくなった鶴見翔子さんが手当たり次第に身近な女性を落としていくアレな世界になってしまう。

 

 いや、ちょっと興味あるけど。

 

 ぶんぶん頭を振って煩悩を追い出すと、私は三人分の湯呑みと食べかけのお菓子を片付け、朝の準備を始めた。

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