ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
「「須賀(くん)と付き合い始めたぁっ!?」
「うん。なんか勢いでそういうことに」
あはは、と照れ笑いしつつアイスティーをかき回していると、向かいに仲良く座った昴と葵は胡乱げな表情で私を見てきた。
「翔子。何か嫌なことでもあったのか?」
「弱み握られてるならなんとかするよ? これでも高校女子バスケ界にはそこそこネットワークが──」
「だ、大丈夫だってば。健全なお付き合いってことで合意したし」
「「健全? 須賀(くん)が!?」」
うわあ、まったく信用がない。
いや、そりゃそうだけど。私達が知ってる須賀くんって傍若無人、唯我独尊、チームメンバーは全員俺の引き立て役、みたいな人だし。
「でも考えてみてよ。一般人相手の須賀くんってちゃんと礼儀正しかったでしょ?」
「……まあ、それはそうだが」
「でもねえ……。っていうか翔子、どうやったらそんな話になるのよ?」
「ん。まあ、大した話じゃないんだけど」
私はついこの間のことを思い出しつつ、二人に話して聞かせた。
☆ ☆ ☆
それは一本の電話から始まった。
自室でレシピ本を眺めていた私は、スマホに表示された名前を見て顔をしかめた。
「え、須賀? やだなあ」
またよくわからない難癖付けてくるんだろうなあ、と思いつつ、数秒間ディスプレイを眺めた私は、着信が切れる気配がないのを感じてため息をついた。
しょうがない、出よう。
「はい、もしもし?」
『つ、鶴見か?』
「そうだけど」
果たして、スピーカーから聞こえてきたのは高圧的な俺様ボイスではなく、どこか緊張したような少年の声だった。
印象が違うので戸惑うけど、うん、須賀の声には違いない。
「どうしたの、あらたまって? 何か昴に用事とか──」
『ち、違う。今回はお前に用事だ』
「じゃあ、また私に『俺の女になれ』とか?」
まあ、いくらなんでもそこまで執着しないか。
須賀もなんだかんだバスケプレーヤー。バスケで受けた屈辱はバスケで返そうとする。昴に(実質)負けた腹いせに幼馴染を彼女にして好き放題しようとかはちょっとイメージと違う。
そういうエロ漫画みたいなことしたいなら葵をターゲットにした方がずっといいしね。
と、思ったら。
『そうだ』
「へ」
『い、いや待て。違う』
どっちなのかと半眼になる私。
『鶴見。近いうちに飯でも食わないか?』
「ご飯? まあ、奢りなら」
『わかった』
「え、即答?」
断り文句のつもりだったんだけど、あの須賀が私なんかにそこまでしてくれるとは。
「あの、須賀? ほんとにどうしたの? 悪いものでも食べた?」
『違う。ただ、俺はお前と話がしたいだけだ』
「話」
『ああ。……鶴見。俺と、付き合ってくれないか?』
この期に及んでもなお、私の感想は「なんの冗談?」だった。
でもまあ、せっかく奢ってくれるらしいし……ということで、私は須賀と会うことにした。
平日はだいたいマネージャーとして部活に出てるけど、夜なら時間が空く。母さんが仕事でご飯を食べてくる日を見計らって待ち合わせをした。
場所はとあるファミレス。
近所には無いチェーン店なので、桐原中のメンバーと食べる時は候補に上がらない。この機会に気になっていたメニューを試してみようとちょっとわくわくする。
「よ、よう」
「こんばんは」
須賀は先に着いていた。
向こうも部活帰りなのか制服姿。ただ、向かいに座った限りでは汗の匂いは感じない。シャワーを浴びてから来たっぽい。
注文して食べてればいいのに、わざわざコーヒーなんかを飲んでいて、私が席につくとメニューを差しだしてくれる。
率直に言うと不気味だ。
まあいいや、メニューはだいたい決めてきたけど一応確認して──む、期間限定メニューも美味しそう。奢りだし両方、って言えればいいんだけど、あいにく私の胃袋は底なしじゃない。
運動するので人並みよりは食べられるけど、大食いというレベルには程遠い。
悩みに悩んで、元から目をつけていた包み焼きハンバーグのセット(ライス、サラダ、ドリンクバー付き)とデザート二品をオーダー。ライスはお代わり自由なのが嬉しい。
須賀も運動部らしくがっつり系のメニューをオーダーして、一息。
うん、なんか緊張してるなこいつ。
長身ワイルド系の、性格を加味しなければイケメン。
今はバスケ中のような威圧感も放っていないので普通に話せそうだ。
「それで、電話で言ってた件なんだけど」
「い、いきなりか!?」
ドリンクバーを取ってきてからおもむろに切り出すとあたふたと慌てる須賀。
「や、何かの間違いかと思って……。あ、あれ、本気なの?」
「ほ、本気じゃなかったらこんなとこ呼び出すかよ……」
「うーん……。本気ならもう少し気の利いたレストランの方が良いと思うけど」
「お前がここで食いたいって言ったんだろ!?」
そうでした。
「ああ……すまん。つい大声出した」
「さっきくらいのツッコミなら慣れてるよ。それより、えっと、じゃあ……」
「お、おう。付き合ってくれ、鶴見」
「なんで……?」
意外すぎて即、問い返してしまう私。
すると、須賀はこの世の終わりのような顔をしてがっくり肩を落とした。
「やっぱ駄目か……」
「え、いやいや! そうじゃなくて! なんで私なのかな、って。他にいくらでも可愛い子見つけられるでしょ、須賀なら」
「可愛い子って、例えば?」
「え? いや、須賀の知り合いには詳しくないけど──従姉妹の子とそのお友達とか可愛かったじゃない」
「はっ。あんなのまだまだガキだろ」
鼻で笑われた。
従姉妹だからか、割と容赦ない。高校生と中学生ならまあ、そこまでアレな年齢差でもないと思うんだけど……。比較対象にしたのが誰と誰のことかは明言しないけど。
須賀は顔を真っ赤にして、目を逸らしながらぽつりと言う。
「お前よりいい女なんてそうそういねーよ」
「なっ……」
不意打ちすぎる。
いくら私が特殊性癖の朴念仁とはいえ、さすがにここまでストレートを投げられたら刺さるものがある。
こっちまで恥ずかしくなってきて顔が赤くなる。
と、そこに届く料理。ナイスタイミング(?)。
お互いそそくさと食事を始めながら奇妙な間を取って、
「まさか須賀から告白されるとは思わなかったよ……」
「……仕方ねーだろ」
フォークを止めて呟く須賀。
「あれから試しに彼女作ってみたりもしたけど、お前の顔が頭から離れなかったんだよ」
「っ。……だ、だからって、こんなラブコメみたいな告白の仕方」
「こっちから『付き合ってくれ』って頼むのにデカイ顔して命令なんかできるかよ」
あ、なるほど。
須賀の中では力関係みたいなのが割と重要なのか。あの時は賭けの対象だったから「俺の女になれよ」とか言えたけど、好きな子に自分から告白して付き合ってもらうなら、ちゃんと礼儀正しく、好感度を上げる努力ができる奴なのだ。
告白した方が負けの恋愛頭脳戦的な?
なんていうか、面倒臭いというか、変なところで律儀だ。
「変なの」
「わ、悪いかよ」
「ううん。昴相手にツンツンしてる須賀よりはずっと話しやすい」
ちょっとだけ「格好いいんじゃない、こいつ?」とか思ってしまう。
あ、このハンバーグ美味しい。隠し味はなんだろ。
「で?」
「ん?」
「へ、返事は、いつくれるんだ?」
「う」
返事。返事かあ。
どうしようか、と、私はつい悩んでしまう。
──普通に考えたら即ノーだ。
だって私、男子にほとんど興味ないし。
昴とか香椎くん、あとギリギリ上原。成長した夏陽くんとかなら付き合えると思うけど……ってこれ、要するに親しくなってからじゃないとデートとかできないってことか。
そう考えると、須賀は全く知らない相手じゃない。彼もバスケプレーヤーだから話は合うし、私は彼の対戦相手にならないから攻撃性が向くこともほぼない。
あれ、別に問題ない……?
「鶴見?」
「ごめん、待って。今断る理由を探してるから」
「わざわざ探すなよそんなもの……」
「だって探さないと結論がOKになっちゃうんだよ」
「あ?」
「ん?」
何言ってんだこいつ、みたいな目で見られたので、何言ってんだこいつ、という目で見返した。
「断るんだろ?」
「理由がないのに断れないじゃない」
「生理的に無理とかでいいだろ」
「いや、だから別に、付き合うのは嫌じゃないんだってば」
「な」
須賀が真っ赤になった。
再び沈黙。
かちゃかちゃと食器が立てる音だけが響いて、
「鶴見。もう一度言う。俺と付き合ってくれ」
「……えっと、キスとかそういうのは段階踏んでからってことで良ければ、お願いします」
「い、いいに決まってんだろ!」
がたんと立ち上がった須賀──須賀くんが「よっしゃー!」と声を上げ、周りにいたお客さん達が「なんかよくわからないけどおめでとう」と拍手してくれるのを、私は真っ赤になりながら見つめた。
ああもう、嬉しいのはわかるけど恥ずかしい……。
☆ ☆ ☆
「ちょっと羨ましい」
「え、葵と昴だってラブラブじゃない。告白も結構良い感じだったんでしょ?」
「そうだけど、昴って頭でっかちっていうか、奥手じゃない。もっとこう、いい意味で肉食系に来て欲しい時もあるっていうか」
「おい、ちょっと待て。なんだこれ。拷問か。公開処刑か」
葵の惚気が炸裂すると、隣にいた昴がなんとも言えない表情で呟く。
まあ、昴達のところって色々特殊だからなあ……。もともと幼馴染だから、お互い歩み寄るまでもなく心地いい距離間が出来上がっちゃってるし、そういう雰囲気にならなくても一緒にいられるからこそ、どこでどこまで踏み込んでいいのかわからなくなる。
逆に言うと別れる心配もほとんど無いんだから、いいことだと思うけど。
「それで、その後はどうなの? 須賀くんと」
「うん。お互い忙しくて直接会うのは難しいから、電話したり、グループチャットしてる。あれで可愛い絵文字とか使ったりするんだよ、須賀くん」
「え、何それ見たい」
途端に身を乗り出してくる葵。
さすがにプライバシーがあるので見せられないけど、本当、須賀くんはあれで結構マメだ。毎日何かしらメッセージを送ってきてくれるし、声が聞きたくなったとか言って電話してきたりもする。
それでいて、過度にベタベタするわけでもなく、適度なところで自然にやり取りが途切れるので──案外、波長は合っているのかも。
「はー、あの須賀がなあ……」
「昴、次会った時にそのネタでからかおう、とか思っちゃ駄目だよ?」
「ははは、しないって。……よっぽどのことが無い限りは」
若干やるつもりがあるっぽかった。
「ま、うまく行ってるならいいんじゃないか。滅茶苦茶びっくりしたけど」
「うん。恋っていいものだしね。滅茶苦茶びっくりしたけど」
「ごめんなさい」
直接会って話さないとこれは大騒ぎになるな、と思ってこういう場を設けたわけです。その懸念は正直正しかったと思う。
「じゃあ、これからはデートとかするんだ?」
「そうだね。一緒に買い物したりとか、お茶したりとか? それくらいなら友達同士でも普通にやるし、あんまり気にしなくても平気かな」
「「いや、男女ではあんまりしないんじゃ……」」
あー、昴とよく出かけてたからその辺の感覚が麻痺してるのかも。
でも手とか繋がなかったら割と普通じゃない? そんなことないのかな?
「ふふふ、翔子。結婚式には呼びなさいよ」
「いや、さすがに気が早すぎるってば。二週間後くらいに『別れた』ってなってるかもしれないし」
「微妙にリアルな数字出すなよ!」
「やー、でもありえるわよね。須賀くん、翔子が好きで告白したわけでしょ? 手を出していいんだ、ってなったままお預けされて我慢できなくって、初デートで無理やりキスとか」
うん、そんなだったら即別れる。
我ながら面倒くさい女だと思うけど、そんなのを好きになった須賀くんにも責任がある。私もある程度は合わせようとは思いつつ、ある程度は我慢してもらわないと──と。
ぽこん、と、グループチャットの新着通知。
これは、
「あ、奈那ちゃんだ」
「お?」
「ん?」
「ほら、須賀くんの従姉妹の中学生。覚えてない?」
「いや、それは覚えてるけど……」
なんだろうと思ったら、道で可愛い猫を見かけたからって写真を送ってきてくれていた。
すぐに「可愛い!」ってスタンプで返すとドヤ顔が返ってくる。
「なんか須賀くん経由でお付き合いのことが伝わったらしくて、『お姉ちゃんって呼んでいい?』とか言われちゃって。一人っ子だからそういうの楽しいなーって、葵? 昴?」
「……なんか俺、翔子が奈那さんの方と付き合いだしても驚かない自信がある」
「私も……」
失礼な。
そんなことはそうそう……たぶん、まあその、うん。ないんじゃないかな……?