ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮) 作:緑茶わいん
水曜日。
慧心女バス、二回目の活動もやっぱり3on3のミニゲーム。とはいえ私も気は抜けない。
経験者が二人しかいない以上、私は必ず智花と当たる。
私がサブコーチを始めた頃の彼女と比べると、まだまだ発展途上。それでも負けん気の強さは人一倍だし、高速のドライブからは目が離せない。
今の身体だと高さの差が殆どないから、止め方も攻め方も工夫がいる。
引き出しの量を使ってなんとかしてるけど、早くこの身体を鍛えてフィジカルの差を埋めないと、あっという間に勝てなくなりそうだ。
そんな中、嬉しかったのは真帆ちゃん達に試行錯誤が見られたこと。
だいたいの場合、真帆ちゃんと紗季が別のチームになることもあって、負けず嫌いな二人は率先して「勝つ方法」を考え始めたのだ。
私と智花が互角だとすると、他のメンバーによる2対2が勝敗を分ける。
パスをうまく通すために声を出すとか、位置取りを工夫してみるとか、駄目もとで私や智花を止めに行ってみるとか、拙いながらも自分で考えて実践している。
ひなたちゃん達に無茶させるようなら止めないといけないけど、今のところそういう方向性はなく。
私と智花は相談された時だけ答えるようにして、なるべくリーダーの指示に従うようにしている。
うん、やっぱり試合も大事だ。
バスケをしていて一番楽しいのは試合をしている時。
楽しさを掴んだら試合中の作戦だけじゃなく、試合以外の努力にも目が向いてくるはず。基礎練習をして自分を鍛え、試合をして成果を実感する。
このサイクルができるのはそう遠い話じゃないかもしれない。
「じゃじゃーん! 見て見て、これ!」
そして、その日の練習後。
着替えを終えた私達に真帆ちゃんが見せてきたのは、スマホの画面。
表示されていたのは、
「SNS?」
「そ! こーかんにっき! おとーさんに頼んで作ってもらったの!」
私は「それ」に見覚えがあった。
みんなが日々のコミュニケーションやグループ内の連絡用に使っていたツール。葵も昴も参加してなかったけど、ありがたいことに私は使わせてもらう機会があった。
いわば、子供たちの秘密の場所。
「これならうちにいてもお話できるの! どうどう、すごくない?」
「あんたはまたそういう我が儘言って……」
紗季ちゃんは呆れ顔になるものの、愛莉ちゃんやひなたちゃんは目を輝かせる。
「すごい。わたしも、参加していいの?」
「おー。ひなもおはなししたい」
「もっちろん! ショーコも、もっかんも一緒にやろ!」
「も、もっかんって私のこと……?」
突然のあだ名に面食らった様子の智花だったけど、ちょっと楽しそうなのがわかった。
そして、もちろん私も。
――ラインでいいじゃん、とか野暮なことは言わない。
真帆ちゃんから設定変更を聞いて(風雅さんがマニュアルを人数分印刷してくれてた)、ログインできる状態にしてから解散になった。
家に着き、着替えを終えてから開けば、もう書き込みがされていた。
『まほまほ惨状!
『いいじゃんこれ!よっし、あしたみんなにおしえよ!
『はやくみんなかきこもーよー!
『落ち着け。まだ家に着いてない子もいるでしょ。
『サキはかきこんでんじゃん! そんなこといってたのしみだったんでしょ!
『ち、違うわよ。
最初は紗季ちゃんか。
お陰で他のみんなも書き込みやすくなったのか、そこから人が増えていってる。
『えへへ、お邪魔するねっ。……えっと、これでいいんだよね?
『あ、書けたっ。良かったぁ。
『ひなも来ました。よろしくお願いいたしまする。
『お呼びいただきありがとうございます。不束者ですがよろしくお願いいたします。
『湊さん、そんなに硬くならなくてもいいわよ。部員しか見てないんだし。アホを見習いなさい。っていうか、面倒だから智花って呼んでいい? 私も紗季でいいから。
『う、うん。もちろん。……ありがとう、紗季。
『もー、サキはいちいちうるさいなー! もっかんもアイリーンもヒナもいっぱいおはなししよ!
あ、これ、ほっとくとタイミング逃すやつだ。
『(/・ω・)/イヨウ
『翔子……だよね? 可愛い。
『ほんとだ、可愛いねっ。どうやってるのかな?
『おー、これなに?
『なにこれすげー! 変なの!
『顔文字ってやつね。昔インターネットで流行ったって聞いたわ。
真帆ちゃんと紗季の言葉が胸に刺さった私は以後、顔文字を封印した。
☆ ☆ ☆
金曜日。
三度目の練習時には、ミニゲームを四回やっても時間が少し余るようになっていた。着替えや片付けがスムーズにできるようになったお陰だ。
真帆ちゃん達が息を切らせて床に座り込む中、私は転がったボールを持ち上げた。
「智花」
チェストパスで渡したボールは、軽快な音と共に智花の手に収まる。
「やる?」
「……うんっ」
少女の瞳が燃え上がる。
1on1。
ハーフコートでと取り決めをして、私は智花と向かい合った。刹那の後に始まったのは、パスの余地がないために息つく暇さえない激しいやりとり。
ううん、智花の動きもより一層激しい。
手加減していたというよりは、この段になってギアが上がった。やっぱりこの子、根っから真剣勝負が大好きなのだ。
――誘って良かった。
ここ三回の練習、智花は控えめながら笑顔を見せていた。
私と練習方針を相談する時も真剣だったし、この活動が嫌だというわけではないだろう。でも、チームメイトから距離を置かれるほどの情熱も消えたわけじゃない。
どこかで満足させてあげる必要があった。
私で間に合ってるかどうかはわからないけど、私は可能な限り智花に食らいつく。自分の攻め番では、彼女が知らないであろう技を駆使して翻弄する。
ますます引き出しを酷使して。
息を切らせて勝負を終えれば、真帆ちゃんが歓声を上げた。
「二人ともすげー! ねえねえ、あたしにもそういうの教えて!」
「……ええと」
落ち着いたらしく、素の表情に戻った智花が私を見てくる。
私は頷いて真帆ちゃんに微笑んだ。
「もちろんいいよ。でも、見た目より難しいんだよ。必殺技だから」
「必殺技なんだ!?」
ますます目を輝かせる真帆ちゃん。
「うん。だから、まずは基本技から覚えてもらわないとかな。必殺技ってそういうものでしょ?」
「確かに」
真帆ちゃんが頷いたところで、紗季ちゃんが歩み寄ってくる。
「基礎練ってことね。いいんじゃない。作戦を考えるだけじゃ差がつかないって思い始めてたところだったし」
「あはは。秘密特訓とかするつもりだった?」
「真帆が思いつく前に、ね」
言ってウインクする紗季ちゃん。
さすが、抜け目ない。
ここまで話が弾めば、愛莉ちゃんとひなたちゃんが話に加わるのは当然で、
「二人はどう? ちょっとずつ、パスとかドリブルの練習をしてみてもいい?」
「うんっ。わたし、まだまだ上手くできないから」
「おー。れんしゅうしたい」
「良かった。それじゃあ、来週からはちょっと練習したら試合、みたいな感じにしてみるね」
みんなから「おー!」と声が上がった。
着替えの後、
「そうそう。一つお誘いがあるんだけど」
紗季ちゃんがおもむろにそう言いだした。
「おー。おさそい?」
「なにかな?」
「大した話じゃないわ。うちのお店がある通りをすずらん通りっていうんだけどね、そこの商店街でお祭りをやるの」
「あー、そういやそろそろだっけ」
幼なじみの真帆ちゃんは行ったことがあるのだろう。
話を聞くとすぐに「ああ、あれか」という顔になった。
「お祭り……浴衣とか、着て行った方がいいのかな?」
「や、そういうかしこまった奴じゃないの。山車も出ないし。屋台を食べ歩きするイベントって感じ」
「へえ、美味しそう」
と、反応しつつ、私の頭には前世(?)の記憶が浮かんでいる。
すずらん祭り。
やったの冬じゃなかったっけ? と一瞬思ったけど、そういえば例年は秋に行われてるんだっけ。じゃあ今頃が本当の開催時期なんだ。
「いつやるの?」
「来週の日曜日。ふふ、その様子だと真帆にライバル登場かしら」
「お? ショーコも大食い大会出る?」
「あ、そんなのあるんだ」
「子供の部があるの。中学生からは大人の部だから、私達にもチャンスがあるかも」
前回は働きっぱなしだったから知らなかった。
大食いかあ。
栄養バランスとか考えたら絶対NGなんだけど、たまにはそういうのもいいかも。
「うん、じゃあ出てみようかな」
「おっしゃー! 燃えてきた、ぜってーまけねー!」
「あはは……。私、そんなにいっぱいは食べられないと思うからお手柔らかに」
むしろ、大食いといえば智花じゃないだろうか。
すずらん祭りの打ち上げの時もいっぱい食べてたし、昴も「智花は良く食べて健康的で大変結構」みたいなことを言ってた。その後、真っ赤な顔した智花に怒られてたけど。
ちらりと見れば、当の少女は何やら神妙な表情で黙っている。
恥ずかしいのかな?
「智花。真帆ちゃんには勝てそうにないから、一緒に出ない?」
「え、わ、私?」
言われた智花は驚いた顔。
紗季がくすりと笑って、
「ふふ。どうせなら皆で出ましょうか。バスケ部結成記念に」
「おー。いっぱいたべられなくてもへいき?」
「だいじょぶだいじょぶ、いっしょにでよ!」
「えへへ、恥ずかしいけど……みんなと一緒だったら大丈夫かなっ」
おお、ナイスアシスト。
「ね、智花も」
「う、うん」
智花も恥ずかしそうながら、こくりと頷いてくれた。
――そっか。こういうのも大事だよね。
部活やってるだけだと、どうしても関係が停滞してしまう。
慧心女バスの仲の良さは、こうやってみんなで色んなところに行って、色んなことをしてきたからこそなんだ。部の活動の中だけであれこれ考える必要はない。
私は「先」を知っている分、どうしてもそこに辿り着きたくなっちゃうけど。
焦る必要なんかない。
みんなとの「今」を大切にしていくべきなんだ。
「ありがとう、紗季」
「? 別にお礼言われるようなことでもないでしょ。うちのお店の売り上げも伸びるかもしれないし」
「あはは、そうだね。色々食べてみたいなあ。確か、お寿司屋さんもあったよね?」
「ええ。あそこ――寿し藤のお寿司もおススメよ。もちろん、うちの次にだけど」
歳の差を感じたみんなとも、こうしていると普通に話せる。
同じ目線になっただけでこんなに違うものなんだ。
「みんなと遊びたいな。バスケ関係なくても」
「あ、わたしもっ。お洋服見に行ったりとか……えへへ」
「ひなもひなもー」
「私も、お稽古が無い日だったら……」
「いーじゃん! ゲームならあたしいっぱい持ってるし、やんばるにもショーカイしたい!」
「はあ、また久井奈さんにご迷惑がかかりそうだけど……ま、楽しそうだから、遊びに行くのは反対しないわ」
小学生、かつ女の子となると話はなかなか尽きないもので、私達は気づけば結構長話をしてしまった。
☆ ☆ ☆
夢を見た。
私(・)が普通に女の子として過ごしてきた約十一年の、断片的な記憶だ。
違和感と同時に懐かしさのある不思議な夢。
目が覚めると内容の殆どは消えてしまった。……ううん、消えてしまったように思えるだけで、私の中に当たり前のものとして染みこんでいる。
だんだん、『私』が『今の私』に馴染んでいる。
高校二年生まで生きた「鶴見翔子」はやがて消えてしまうのだろうか。
最初の自分がやがて女に馴染んだように。
いや、きっと記憶は残る。
前世のことを覚えているままで、きっと私は自然に、今の私になっていく。
それは当たり前のことで。
でも、少し怖い気がして、私は自分との繋がりを探した。
――去年の中学バスケの大会。
桐原中のホームページの過去のお知らせを漁れば簡単に発見できた。
男子は地区大会決勝敗退
女子は、
「……初戦敗退?」
どうして。
決勝まで行ったはずなのに。
「……私がいなかったから?」
個人情報保護か、メンバーのリストはない。
私一人の不在でそこまで変わるというのは自惚れすぎかもしれないけど、私はここでもあらためて実感した。
この世界は前回の世界とは違う。
前回とは似ているようで違う歴史を辿っている世界。
果たして私は、コーチと生徒として長谷川昴と会えるのだろうか。
私達はどこに行くんだろう。
どこまで行けるんだろう。
そんなことを、考えずにはいられなかった。