ロウきゅーぶ!のハイ勢がロウだった頃+オリ主の話(仮)   作:緑茶わいん

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翔子部長、すずらん祭りに行く

「それじゃ、母さん。行ってきます」

「はいはい。お土産よろしくね」

 

 ハンカチ、ティッシュ、お財布に家の鍵、邪魔にならない小さめの鞄にスニーカー。

 鞄の中にはお土産を運ぶ用の買い物袋が畳んで入ってるし、これで問題なし。

 

 母さんに声をかけて家を出た私は、最寄りの駅へ向かった。

 お祭りの会場が駅前広場なので、電車の方が近い。目的の駅で降りたら、先に帰りの分の切符を買ってから、会場の駅前広場――ではなく、逆側に出る。

 時刻は午前十時半といったところ。

 既にお祭りは開始しており、駅も会場も既に賑わっている。向こう側で落ち合おうとすると邪魔になるだろう、という判断だ。

 

「ショーコ、こっちこっち!」

 

 判断は正解だったようで、逆の出口はさほど混んでなかった。

 真帆ちゃんの元気な声に振り返ると、余所行きの服装に身を包んだ真帆ちゃんと――清楚なメイド服に身を包んだクール系の美女の姿が。

 

 予想していなかった人の登場にどきっとする。

 前回はいなかったのにどうして……って、そっか。五年生と六年生じゃ安心感が違うかもだし、前回は私や昴が一緒だった。

 駅前広場とはいえ人の多い場所だからと保護者代わりに聖さんがやってきたのだろう。

 平常心、平常心。

 今の私は初対面だからと自分に言い聞かせ、つい緩みそうになる頬を元に戻しながら駆け寄る。

 

「おはよう、真帆ちゃん。そっちの人は……?」

「やんばるだよ。うちのメイドさん」

「初めまして。真帆さまのお家で家政婦を務めております、久井奈聖と申します。本日は皆さまのお世話のためにご一緒させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」

「つ、鶴見翔子です。よろしくお願いします」

 

 乱暴にならないように礼を返しながらも、私は「やっぱり聖さん綺麗だなあ」とか思っていた。何気に名前呼び+様付けは初めてだったし。

 聖さんはそんな私ににっこりと笑いかけると――不意に視線を別方向に向けた。

 

「お、おはよう、翔子。真帆」

「おはよう、智花」

 

 恐る恐る、といった感じで智花が近づいてくる。

 彼女も真帆とは別方向でお嬢様っぽい装い。緊張している様子の彼女を手招きして合流してもらう。

 それから程なく、愛莉ちゃんとひなたちゃんが揃って到着。

 

「お待たせしましたっ。向こうの広場はすごい人だねっ」

「おー。おはようございます」

 

 聖さんとはみんなも初対面だったようで、それぞれに挨拶を交わす。

 これで残るは紗季だけ。

 

「なんだよー、サキが最後か。ちゃんとしろよなー」

「真帆さま。まだ集合時間前ですので……」

「こら真帆。聞こえたわよ」

 

 噂をすれば、紗季が駅舎の方から現れた。

 

「ごきげんよう、紗季さま」

「こんにちは、久井奈さん。……みんなもお待たせ。ギリギリまでお手伝いしてたら遅くなっちゃったわ」

「大丈夫、まだ時間前だよ」

 

 みんな揃ったところで駅の向こう側に移動する。

 

「大食い大会は何時からだっけ?」

「子供の部は午前十一時からの予定になっております。大人の部が午後一時からですね」

「あ、ありがとうございます、聖さ……久井奈さん」

「じゃあ、急いで受付しちゃわないと出られなくなっちゃうねっ」

 

 まずは受付を済ませる。

 このタイミングで何かお腹に入れるのは「勝つ気がないです」って言ってるようなものだし、我慢。開始時間まで三十分もないからそのまま待機だ。

 会場付近には参加者っぽい子達が結構いて、わいわいと賑わっている。

 

 ――大食いの課題はサンドイッチ、か。

 

 冷めても美味しく食べられるし、特別な具材もないから材料費も高くはない。

 野菜を挟むことでどさくさ紛れに栄養も取ってもらおうという運営側の意図が見え隠れする。トマトとかきゅうりとか、好き嫌いすると勝てないようになっているあたりもポイントが高い。

 

「頑張ろうね、智花」

「う、うん。でも私、そんなに食べられないから……」

 

 智花に声をかけると、彼女は控えめに微笑んでそう言う。

 やっぱり恥ずかしいんだと思う。

 無理に勝つ必要はないし、限界まで食べちゃうと買い食いできなくなるっていうデメリットもある。

 

「私も優勝は厳しいかな。でも、優勝の賞品も魅力的なんだよね」

「賞品……屋台の無料券?」

「うん」

 

 本日限り有効の屋台無料券十枚綴り。

 いっぱい食べないと貰えないのに、元を取るには更にいっぱい食べないといけない……という、なんともいやらしい賞品だ。

 とはいえ、現金換算したら三千円~五千円になる。

 

「本当はうちの母さんも来たがってたんだ。だから、せめてお土産買って行ってあげたいなって」

「あ……」

 

 母さんは何かに掲載されるコラムか何かをひーひー言いながら書いてる。

 何も買って帰らなかったらツナ缶か何かでヤケ酒を始めかねない。

 

「お土産。そっか、そうだよね……」

 

 頷いた智花の瞳が燃え上がる。

 バスケコートに立った時に近い、苛烈な闘志。

 顔を上げた彼女は私の手を握って、

 

「ありがとう、翔子。私、頑張ってみる」

「うん。一緒に頑張ろう」

 

 とはいえ、本気になった智花にはとても勝てないだろう。

 彼女と真帆ちゃんの食べっぷりは多分、別の領域だ。

 

 

  ☆   ☆   ☆

 

 

 大会に集まった子供は三十人ちょっとくらいだった。

 当たり前だけど男の子の方が多い。私達六人以外、女の子は数えるほど。

 男の子も全員が強敵かというとそうでもない。三、四年生くらいの子とか、細くてあんまり食べそうにない子も交じっているからだ。

 

「それでは、始めてください!」

 

 大食い会場内。

 長テーブルの上に置かれているのは、大皿にこんもり盛られた大量のサンドイッチ。一つ一つにプラスチックのピックが刺さっており、その数で食べた個数を数える仕組み。

 一テーブル六人くらいに分かれて座り、司会の人の合図と共に手を伸ばす。

 慧心女バスメンバーは全員別テーブル。

 といっても、予選はないから席分けに大きな意味はない。

 

「いただきます」

 

 一つ一つのサンドイッチは食パン八枚切りの四分の一サイズ。

 挟まっている具はトマトレタスとかレタスハムとかタマゴハムとかタマゴレタスとか何種類もあって、上から取っていくとランダムにならざるをえない。

 パサパサした食パンと相性がいいのは水分の多い野菜系のサンドだけど――。

 

 これ、思った以上にきつい。

 

 元気に食べ進められたのは最初の数個だけ。

 四個食べた時点で食パン二枚+αが胃に収まっているわけで、小学生には十分な量。運動するようになって食事量が増えてるとはいっても限度がある。

 水分補給のために水を飲むとその分、お腹に溜まるし。

 

「ふふっ」

「!?」

 

 向かいに座った男の子が不敵に笑った。

 割と細身で、そんなに食べそうには見えないんだけど、

 

「俺の胃袋は宇宙だ」

「なん……だと……?」

 

 続編待ってたのに来なかったドラマだ!

 って、それはどうでも良くて。

 問題は男の子の食べっぷり。まるで本当にブラックホールを抱えているかのような勢いで、両手にサンドイッチを持って食べては飲み込み、飲み込みは食べ、

 

「……げふっ」

 

 あ、力尽きた。

 机に突っ伏してはあはあ言い始める彼を横目に、私はマイペースに食べ進める。

 時間経過と共に脱落者はどんどん増えた。

 ギブアップした子はその時点でピックの数をカウントし、記録として残される。とはいえ、この時点で脱落したら入賞はできない。フードファイターの男の子は涙目で去っていった。

 

 ――制限時間は六十分。

 

 ゆっくりでも時間いっぱい食べてればそこそこいいとこまでいけるんじゃないかと――。

 

「おー。まほとともか、いっぱいたべてる」

「すごいねっ。わたし、七個が限界だったよ……」

 

 いつの間にか愛莉ちゃんとひなたちゃんが私の傍に立っていた。

 二人とも既に脱落したらしい。

 私はサンドイッチをリスみたいにもぐもぐしながら首を巡らせ――。

 

「うおお、負けねー!」

「……っ!」

 

 対照的な様子で食べる二人の少女を見た。

 燃え上がる真帆ちゃん、静かな闘志の智花。二人の勢いは会場内でも群を抜いている。手元のお皿に載ったピックは十ではとても済まず、トマトだろうとなんだろうと構わず口に運んでいる。

 見るからに大食い自慢――普段は食べ過ぎてお母さんを困らせています、といった感じの男の子達も、二人の食べっぷりにはぽかんとしている。

 

 うん、これは勝てない。

 

「私は完走を目標にするよ」

「うんっ。頑張って、鶴見さんっ」

「しょうこ、ふぁいと」

 

 応援してくれる二人ににこりと笑い返し、とにかく一定のリズムで食べ進める。

 その間も智花達のデッドヒートは止まらない。

 優勢は僅かに真帆ちゃん。ただ、真帆ちゃんが苦しそうにしているのに対し、智花は未だ淡々と食べ続けている。地力の差は見えてきた。でも、気力が勝敗を分けることもある。

 圧倒的なツートップを見て他の参加者は次々と脱落。

 私と二、三名だけが意地で残る中、ついに制限時間を迎えて――。

 

「そこまで! 食べるのを止めてください!」

 

 集計の済んでいなかった参加者のところへスタッフさんが来て、ピックを一つずつ数えてくれる。

 なお、他の子のピックを拝借して数を誤魔化そうとした不届き者は速やかに失格にされていた。残念だけどこれは仕方ない。

 気になる最終結果は――。

 

「なんと優勝、準優勝はどちらも女の子!」

 

 僅かピック一つ分の差で、優勝は真帆ちゃん。

 準優勝は智花で、二人には参加者、保護者、スタッフ、観客からの拍手と賞品が贈られた。真帆ちゃんには無料券十枚、智花にも無料券五枚。

 

「くっ……あと一歩及ばなかったわ」

「ううん、凄かったよ!」

「おー。ゆうしょうどくせん、おしかった」

 

 智花達のせいで目立たなかったものの、紗季は最終成績四位。

 ひなたちゃんの言う通り、もうちょっとで賞品総取りができるところだった。さすがにちょっと欲張りすぎだとは思うけど。

 

「ペース配分間違えちゃった……」

「お疲れ様、智花。格好良かったよ」

「や、やめてよう……。うう、恥ずかしい」

 

 はしたない姿を晒した上に勝てなかったと思っているのか、智花は顔を真っ赤にしていたけど……あれだけ食べた上に自分の足で帰ってきて、若干余裕がありますみたいな顔って逆に怖い。

 

「でも、賞品貰えたよ。みんなで使おうね」

「……いえ、ごめんなさい。お願いだから二時間くらい休ませて」

「同感」

「わたしも、デザートくらいなら食べられるけど……」

「ひなもおなかいっぱい」

「あれ……?」

 

 そこで首を傾げないでください、智花さん。

 と。

 ちなみに優勝した真帆ちゃんはというと、救護スペースとして用意されたテントの隅に寝かされていた。

 

「うー……お腹苦しい。動けねー」

「真帆さま、このことは萌衣さまに報告させていただきますので」

「えっ、ちょっ、お願いだからおかーさんには内緒に……っ、うぐっ!?」

 

 起き上がろうとして顔色を変え、再び横になる真帆ちゃん。

 これはひどい。

 

「真帆。お腹、中に何かいそうなくらい膨らんでるよ」

「えー、エイリアンとか入ってないってば……触ってみてよ、ほらほら」

 

 言われてみんなで触ってみると、見事な弾力を感じる。

 そりゃ、小学生があれだけサンドイッチを食べればお腹も(物理的に)膨らむよね……。

 

「真帆ちゃんがお休みしてる間、わたしたちも食休みだねっ」

「おー、おやすみ」

 

 それはいい案だけど……。

 

「や、ここに大人数でいたら邪魔でしょ」

「はい。みなさまはどうかお祭りを回ってきてくださいませ」

「えー! なにそれひどい!」

「真帆さま、自業自得です」

 

 うん、声だけでも騒げる元気があるなら大丈夫そうだ。

 

「ちぇー……じゃあじゃあ、あたしのチケットもみんなで分けよ! で、あたしの分で食べ物買ってきて!」

「まだ食べる気なの真帆……」

「まだ屋台見てもいないもん! えっとー、チョコバナナと、焼きそばと、りんご飴とー」

「待て。食べるならうちのお好み焼きが一番よ」

 

 紗季、真帆ちゃんへの心配はどこに行ったの……?

 そんなこんなで、私達はいったん五人で屋台を巡り、途中で真帆ちゃんと合流してまた遊びまわった。

 

「翔子は何か食べる?」

「うん。じゃがバターだけは外せないかな」

「え? 炭水化物……?」

「じゃがバターだけは外せないんだよ」

「そ、そっか」

 

 芋は野菜だからカロリーゼロ、と、自分でも信じてない呪文を唱えておく。

 気づくと結構な時間をお祭りで過ごしていて、みんな慌ててお土産を買って解散になった。真帆ちゃんと智花の手に入れた無料券のお陰で、母さんから貰った軍資金以上に色々買えた。お陰でその日の夕飯はお土産だけで済んでしまった。

 残念ながら雅美ちゃんには遭遇できなかったけど、『寿し藤』の助六を買って帰ったら「今度このお店にも行ってみましょう」って話になった。

 

 この分だと近いうちに会えそうな気がした日曜日の夜だった。

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