現実を直視したくない時って、あるよね。
例えば、そう…腐れ縁なマダオに食料を食い尽くされた時。大して注意してなかった人間が、実は怪奇現象の塊だった時。天敵に好意を持たれてると発覚した時……いや、最後のはちょっと違うな…
まぁ、とにかくアレだ。俺は今まさに例によって認めがたい現実と直面しているわけなんだけど、今日は特に過酷な状況であると思う。過去の出来事の中でも三指に入るんじゃなかろうか…?
あぁ…胃に穴が空きそうだ………空いたところですぐに塞がるけど…
「リボルさん、顔色悪くない…?」
「大丈夫か?」
「あ~、お構いなく。今朝、寒かったのに掛布団がベッドから落ちててな…」
「そう…」
「うへぇ、今朝って結構冷え込んでたよな?……本当に大丈夫かよ…?」
「平気、へーき…」
確かに今朝は寒かった。だけど、今は別の理由でそれ以上に肝が冷えている…。
以前からよく遊んでたシリーズのネット版を最近始め、早速仲良くなった奴が出来た。ゲーム開始して三分で仲良くなったブレッドは割と気さくな奴で、半分初心者な俺と完全に初心者なカミカザリさんとパーティを組むことを快く承諾してくれた。それ以降もちょくちょく一緒に遊ぶことになり、遂にはオフ会を開こうと言う話をするまでの仲になったのである…。
犯罪組織のメンバーな俺だけど、息抜きくらいは普通にするもんだ。堅気相手に裏社会の事情やら何やらを持ってこず、何もかも忘れて過ごすのが俺のこだわりである。というわけで今回のオフ会に関しても、一切何も考えることなくやって来てしまったのだが…
―――まさか、一夏(ターゲット)の親友と楯無(天敵)の妹さんだったとは…
「あ、おい!!ド○ファンゴ来たぞ!!」
「ジン○ウガと戦ってるのに!?」
「くっそ、肥し玉!!」
「駄洒落!?」
あまりの事態に思考が半ばストップしてしまい、気付いたら当初の予定通りに近くのカフェテリアに入店しており、三人で仲良く持参した携帯ゲーム機で遊んでた。我に返った時には既に、いつもの狩猟笛を担いだマイキャラがペッコ先生の火打石にやられてるところだったよ…
「くらえ!!大タルG!!」
「えい」
「ちょ、待ッ!!カミカザリさん、まだ俺が居ぬあああああああ!?」
あ、ブレッドが爆死して力尽きた…じゃなくて……
正直な話、我に返った時点で適当に理由付けて帰ろうとか考えたよ。いつボロが出て自分の正体を明かすか分からないし、最近は半ば常連となりつつある五反田食堂には行きづらくなるし、シスコン生徒会長はどこで見てるか分からないし……やべぇ、また胃に痛みが…!?
でもな、帰れないんだよ。本当に心の底から帰りたいのに、帰れないんだよ……
「よっしゃ討伐完了!!」
「お疲れ様」
「お疲れさん、それじゃあ俺は……ぐおッ…!?」
―――立ち上がろうとした瞬間、まるで“何かに両肩を抑え付けられるような感覚”に襲われて無理やり座り直す形になった…
「ん…?」
「どうしたの?」
「い、いや何でもない…」
こうやって立とうとする度に不可視な力が働き、帰るどころか席を立つことすら出来ないんだ…。そして同時に俺は、何処からともなく飛んでくる冷たい視線を感じた。嫌な予感は滅茶苦茶したのだけど、それを辿って弾と簪の間を過ぎた向こう…要は二人の背後にある店のガラスに線を映した途端、冗談抜きで5秒間心臓が止まった。
思わず自分の肩越しを振り向くが、右を見ても左を見ても何も居ない。けれど、もう一度ガラスに目を向けるとやっぱり居た。ガラスに映る、“俺の両肩に、二人で両手を片方ずつ添えて”笑顔を浮かべながら立っている…
―――癒し系怪奇現象少女と、黒髪幽霊男児が…
「どうしたの?さっきより顔が青いけど…」
「大丈夫、俺は至って大丈夫。さ、次はティガ2頭でもやろうじゃないか…?」
「……うん…」
因みに何度か既に『俺、帰る』と言いだそうと試みたのだが、その都度に俺の肩がミシミシ音を立てるので結局諦めた。もしも簪を中途半端に悲しませて泣かせた場合、何が起こるか分かったもんじゃない…何より、楯無が黙ってるわけが無い……
やっぱり今日は、素直に最後まで2人に付き合うのが安全か…
「お待たせしました、ご注文の品で御座います」
「あ、どうも」
その時、さっき注文した飲み物がウエイトレスが持ってきた。コーラ、アイスコーヒー、メロンソーダが目の前に置かれていく。因みにコーラは俺でアイスコーヒーは弾、メロンソーダは簪である……そういやこの前、楯無との鬼ごっこで炭酸使ったな。ハッカ飴を入れて放水攻撃で…。
なんてしょうもない事を思い出そうとしたら、そのウエイトレスさんが何か喋り出した…
「あ、そのゲームってアレですよね!?モ○ハン!!」
「んぁ…?」
「え、そうですけど…」
「私も持ってるんですよ、そのゲーム!!」
やけにテンションを上げて喋りかけてくるウエイトレスさん。店の制服でもあるエプロンと帽子を着用し、やけに濃い黒髪を靡かせながら俺達の輪に入りこんで来る……どうやら、彼女もこのゲームが好きなようだ…
黒髪と言えば、マドカは今頃どうしているんだろう?確か仕事の都合でスコールの姉御に連れて行かれ、姉御の管轄であるアメリカで何か暗躍中とか言ってたような…
あぁ、もう…俺もたまには何処か遠くの国へ行きたい。天然シスコンな妖怪生徒会長の魔の手が届かない遠い場所に行きt……
「せいッ」
―――グキィッ!!
「うごぁ!?」
「すみませ~ん、足が滑りました~♪」
「え、ええぇぇぇ…?」
なんか一般人とは思えない威力で脛を蹴り抜かれたぁ!?しかも弾と簪は俺が蹴られたことに気付いていない……こいつ、パネェ…
「ていうか何で俺を蹴った…?」
「ところで御三方、もうすぐ私もシフトが終了して暇になるんですけど…」
「ねぇ、何で…?」
「良かったら私も混ぜて貰えませんか!?」
いきなりの参加表明…フランクな性格というべきか、KYと言うべきか悩み所である。当然のことながら突然のことにより弾と簪も戸惑っているらしく、全員黙ってしまう。そんな何とも気まずい空気になってしまい、黒髪のウエイトレスさんは笑みを引き攣らす羽目になった…。
ところが流れる沈黙の中、最初に口を開いたのは意外なことに…
「……良いよ、一緒にやろう…」
「え、本当に!?」
―――なんと、簪だった…
「……うん、このゲームは4人まで遊べるから。二人もそれで良い…?」
「俺は別に構わねぇよ?…むしろ美人さん、歓迎します!!」
「じゃ、じゃあ…異論無しで……」
「やった、ありがとう!!今すぐ準備してくるね!!」
言うや否やそのウエイトレスさんは、凄まじい速度で店の奥へと走って行った。荷物を取りに行くために厨房を走り抜けたのだろうか?少し間を置いて厨房の方からガシャンガシャンと物音が聴こえてくる…
その彼女の後ろ姿を見送った俺達3人は、思わず苦笑いを浮かべるしかなかった…
(それにしても、妙にテンションの高い人だったな…)
彼女が運んできたコーラを口に含みながら、ちょっと思い出してみる。どうも何か引っ掛かるのだ…
終始テンションがハイだったが、簪が一緒に遊ぶことを承諾した時は特に凄かった。ていうか、飲み物を持ってきた時と、俺を蹴り飛ばす時以外はずっと簪を見てた気がする。いや、正確に言うと俺と簪しか見てなかったような…
それ以前にあのウエイトレスさん、どこかで見た様な気がするのだ。だけど俺の知り合いに、同年代な黒髪の女性なんてマドカぐらいしか居ない。残る特徴は彼女の“赤い瞳”くらいしか無いのだが、赤い瞳の知り合いも目の前に座る簪と、今どこで何やってるか分からない楯無しか心当たりが…
(……待・て・よ…)
待て待て落ち着けぇ、流石にそれは無い。幾らなんでもそれは無い。どれだけアイツが馬鹿でも、流石にそんな馬鹿な真似して俺に…もしくは簪に近づく筈は無い。もしも本当にそうだったら、俺はあいつに対する印象を盛大にひっくり返すことになる……
「お待たせ~♪そこに座って良い?」
「どうぞ」
「どうも~♪」
意気揚々と戻ってきた黒髪赤目のウエイトレスさんは、簪と弾の間…俺の反対側に座るようにして席に着いた。そして簪と並んで座ったことにより、俺は自分の予想が正しいかったことを確信した…
(お前、本当は馬鹿だろ…)
思わず心の中でボヤいた俺だったが、表情に出ていたのだろうか…目の前に座る彼女はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべながら自分のゲーム機と“扇子”取り出し、俺にだけ見えるようにその扇子を広げた…
―――『五十歩百歩』
先日俺に好意を抱いてることが判明した天敵…更識楯無の開いた扇子には、そう書かれてた…
髪は染めました